熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

立花隆・須田慎太郎著「エーゲ 永遠海路の海」

2011年09月02日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   神保町の古書店で、この「エーゲ 永遠海路の海」と言う本を見つけて、喫茶店に入って、若い人たちに混じり込んで読んだ。
   立花氏の思索紀行の延長線上の本で、エーゲ海の周りの歴史的な文化文明、宗教を巻き込んだスケールの大きな、かなり格調の高い本だが、非常に面白い。

   私が、この本で、なる程と思ったのは、
   「記録された歴史などというものは、記録されなかった現実の総体に比べたら、宇宙の総体と比較した針先ほどに微小なものだろう。宇宙の大部分が虚無の中に飲み込まれてあるように、歴史の大部分もまた虚無の中に呑みこまれてある。」と言う部分である。
   4大文明の発祥地には、私自身、中国の一部を歩いた以外は、乗継で空港に立ち寄った以外は行っていないので、もっと、感慨は深いと思うのだが、この本の舞台となっているギリシャやトルコの遺跡に立っても、この立花氏の思いは、実感として湧く。

   私の手元に、沢山ある旅の写真のなかで、何故か、もう20年近くも前に国際会議で出かけて、休日を利用してバスツアーに参加した時の一連のギリシャの写真がある。
   ギリシャへ最初に出かけたのは、これよりもう少し前の、ブラジルに住んでいた時だったので、暑さ寒さと言うか、季節感覚の勘が狂っていて、確か3月だったと思うのだが、夏服で出かけて、あまりの寒さにびっくりして、コートやセーターなどを買って、家族ともども冬支度に変えた記憶がある。
   私が世界史に興味を持った切っ掛けは、パルテノン神殿をは始めとした色々なギリシャ文明関連の写真を見た時で、とにかく、パルテノンの丘に立ちたいと言う思いをずっと抱き続けていた。
   結局実現したのは、2度目のヨーロッパ旅行の時で、二日続けて訪れて、この口絵写真の様に遠くから遠望したりあっちこっちからパルテノンを眺めていたのだが、やはり、一番印象的だったのは、泊まっていたヒルトン・ホテルの自分たちの部屋から眺める、刻々と変って行くパルテノンの素晴らしい景色であった。

   ところで、私が、立花説の、我々が知っている歴史などは、真実の歴史から見れば、針先ほどの微小なものではないのかと言う思いを実感したのは、デルフィで何時間も神殿の廃墟に佇んで時間を過ごした時であった。
   古代ギリシアにおいてデルフィは世界の中心だと考えられていたようで、ギリシア最古の神託所アポロンの神殿の神託があり、ギリシア神話にもシェイクスピア劇にも登場しており、当時のヨーロッパの人々の運命を左右する程重要な役割を果たしていた。
   この本でも、第2章のアポロンとディオニュソスと言うところで取り上げられていて、ソクラテスが自分に対する予言に触発されて、「無知の知」の上にすべてを築き上げて行く哲学を始めたと言う話をしている。
   今では完全に廃墟となっていて、当時の遺跡が散在しているだけなのだが、下部の遺跡の中に「アテナ聖域のトロス」と言う綺麗な3本柱の列柱が立っていてトップに飾りの残っている円形の建物の跡があって、そこからは、下の方に広がる野山が見えて素晴らしい空間を楽しめるのだが、幸い、真っ青な空の下で私一人だけで、長い時間を歴史の重みを感じながら過ごすことが出来たのである。
   
   もう一つ、懐かしいギリシャの思い出で、悠久の歴史を考えながら感激したのは、スーニオンの夕闇間近の数十分である。
   この時は、パルテノンでたっぷり時間を過ごして、スーニオンの夕日を見たくて、時間を見計らって、タクシーを拾って、スーニオンに走ったのである。
   少し時間が遅れて、夕日が地平線に沈んだのは、途中の海岸線を走っている時だったが、スーニオンに着いた時には、まだ、夜のとばりが降りる前で、真っ赤な残照が残っていて、スーニオン神殿の柱がまだ色付いていた。
   やはり、人などいなくて私一人で、神殿の列柱の間に立ってエーゲ海の暮れ行く穏やかな海を眺めていた。
   
   コリントスやミケーネ、エピダウロスと言うのは近いので、ツアーで簡単に行けるのだが、デルフィやスーニオンは、少し遠くて、個別のツアーに加わるのだろうが、スペインやイタリアなどでもそうだが、タクシーが比較的安くて重宝するので、私は、結構長距離でも利用した。
   英語が通じなくても、言葉の心配など結構案ずるより産むが易しなのである。
   深夜のタクシーに乗ったのだが、ハンガリーのブダペストで、借りた民家の住所が分からず行き先を見失って窮地に立つなど、いくらでも世界中のあっちこっちで死ぬ思いをして来たが、案外、どうにかなるのである。

   話がおかしな方に行ってしまったが、この本は、宗教談義から哲学の話、聖なる神と性なる神のエロチックな話、ネクロポリスの死や黙示録に話や終末後の世界の話など、立花先生の話であるから、実に含蓄のある程度の高い面白い話で充満しているのだが、須田慎太郎氏の実に素晴らしいカラー写真がふんだんに添付されていて、読んで鑑賞すると言う贅沢な楽しみを味わわせてくれる。
   私も旅の写真を写すのだが、須田カメラマンの写真が、立花氏の知を更に増幅して豊かにしていて素晴らしい本である。
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