熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

大前研一著「民の見えざる手」

2011年08月29日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   日本経済は、既に、成熟老年期に入ってしまって、これまでのやり方では、経済成長などあり得ないのに、官民はもとより、国民全体も、右肩上がりの経済成長期の世界に生きている。
   少子高齢化が加速し、労働人口が毎年40万人ずつ減少しており、国内市場の縮小と海外移転によって、経済規模も雇用も税収も減る一方にであるにも拘わらずである。
   しからば、座して死を待つのみかと言うとそれは違うと言って、大前研一氏は、デフレ不況時代の新・国富論と銘打って、ニッポンを活性化するヒントを開陳しているのがこの本「民の見えざる手」である。

   バーナンキを信じてはならない、オバマ政権の「オバマノミクス」などは愚の骨頂で、「景気循環」など意味を持たなくなった今、経済学は、もう未来を語れないと勇ましい論陣を張るなど、大前節炸裂の面白い本だが、示唆に富んだ提案が多くて面白い。
   経済社会を無茶苦茶にした「官の見える手」から脱却して、「民の見えざる手」の活力を解き放つのが成長発展の要諦と言う訳だが、第4章の(規制撤廃が生む鉱脈)「真の埋蔵金=潜在需要はここにある」に、そのブレイクスルー策を語っていて迫力がある。

   無限のアイディアを生むためには、「戦略的自由度」を活用することで、まず、発想するためには「目的は何か?」と問うことによって、現実的に見て戦略を立案すべき方向の数を叩き出して、それを個々に分析追求して本質的な答えや解決策を見つけ出すのだと言う。
   しからば、この戦略的自由度と言う手法を国の政策作りに応用すればどうなるか。
   その目的は、「経済のパイを大きくして国民生活を豊かにすること」、すなわち、「すべてのグッドライフ(充足感や充実感のある人生)のため」だと言う。
   したがって、菅首相の「最少不幸社会」などは、このグッドライフからほど遠くて、世界のどこの国でも民主主義の政治目標は、「最大多数の最大幸福」であるから、お粗末限りないと言うことらしい。
   日本の場合には、戦後ずっと最低限度の生活を保障することが政治のアジェンダになっていたのだが、これではダメで、いまこそ、「国民のグッドライフ」をアジェンダにせよと説く。

   この目的を実現するためには、絶対避けるべき「境界条件」が三つあって、それは、増税しない、税金を財源にしない、外国頼みはしない、」と言うことだと言う。
   埋蔵金掘り出しの発想は、中国の都市開発だとして、日本にもまだ存在する「未開発の富を生む土地」が山の様にあるとして、埋蔵金の源泉を三つ提言している。
   その1は、大都市の「市街化調整区域」の拡大で、乱開発を避けるための表向きの規制を外して、大都市周辺の非常にポテンシャルの高い死蔵の土地を解放しろと言うのである。
   農水省や自治体など利権の官僚たちが、利権を握って離さないのだが、開発許可が都市計画に基づかずに、陳情で決まったり官僚のさじ加減で決まるなどと言うことは文明国では有り得ないのである。

   源泉その2は、湾岸100万都市構想で、昔は京浜工業地帯で日本を背負った屋台骨だったが、今では、殆ど空洞化だから、木更津から金沢八景までの東京湾ウォーターフロントに、住宅地、商業地、学校、公園などを一体的に整備して100万都市を誕生させると言う案である。

   源泉その3は、「容積率」を大幅緩和せよと言うのである。
   官僚が恣意的に運用している権限の最たるものが建築基準法で、容積率には、何の根拠もない。
   いくら規制があっても、大企業や大手マスコミなどが関与すると特区と称して1000%が一挙に1600%に引き上げると言う官僚の節操のなさを中之島のA新聞建て替え工事を例にして述べながら、ゴムの紐の様に伸び縮みするこんな規制を止めて、学術的、物理的に可能な限り高層化、高機能化、高密化出来るようにすべきだと言う。

   富を生む土地の開発には、官僚の抵抗を排し、なお乱開発にブレーキをかけながら進めるためには、政治の強力なリーダーシップが必須であろう。
   地方自治体が何をするにも国の認可が必要だと言うことで、これが癌になっているようであり、地方自治体の均衡ある発展のためには、その大きな障害となっている中央集権を止めて、開発の主体は地方に移すべきだと、道州制の提言者である大前氏は言う。
   今回の大震災の復興にも、特区の開設や地方への権限の大幅移譲が言われているが、進展があまりにも遅い。
   細川元首相が熊本知事の時に、国道のバス停を20メートル動かすために、何度も上京して建設省と交渉したと言う話を大前氏は紹介している。これまで、何度か、ブラジルの連邦政府役人の腐敗や堕落振りについて語って来たのだが、正直なところ、この方が、はるかに罪が軽いのではないかと後悔している。
   国家官僚機構が上手く機能して、Japan as No.1にした官僚の功績は大きいのだが、しかし、今や、時代遅れとなり、瀕死状態の日本の再生復興の足枷と成ってしまっているとするなら、実に悲しいことである。

   ところで、私は、大前氏のこの埋蔵金掘り起こし説には賛成だが、能率効率を考えての都市再開発での新ケインズ主義だと思うが、これ以上更なる東京集積や、今回の大震災で露呈されたウォーターフロントの開発については、もう少しじっくりと考えなければならなのではないかと思っている。
   昔、東京の建物は、平均2階建だと聞いた記憶がある。今では、5階や6階になっているのであろうが、ドバイや中国の高層ビルを考えれば、容積率は、もっと上げても良いと思っている。
   ただし、建築許可は、欧米の様に都市景観全体を考慮しての環境美観を考慮したものでなければならないと思っている。あまりにも、日本の建物には整合性がなくて、都市の美観を損ねていると思うからである。

   蛇足だが、当然、開発資金は、PFI、民間資金の活用であり、企業の厚い内部留保の活用と同時に、民間の眠っている金融資金を最大限に巻き込むことであるから、所謂、無意味なばらまきの公共投資ではない。
   ガルブレイスが、亡くなる少し前に、日本への提言として、この金融資金を少しでも動かせれば、日本が蘇ると言っていたのだが、国債よりも信用力が高い、そして、もっと高い安定した金利を保証できる投資対象として組成できれば理想であると思っているのだがどうであろうか。
   タンス預金よりは良いので、大半墓場に持って行かざるを得ないと言う眠っている老人の金が動く筈である。
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