はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

ハンノキとテハヌー

2006年06月29日 | ほん
 テハヌーは丘の上でハンノキを待っていた。
 「ハンノキ、あたしたちは何をしたらいいの?」
 「この世界をなおすんだよ。」ハンノキは笑いながら言った。心はようやくすっかり軽くなっていた。「石垣をこわすんだ。」
 「みんな手伝ってくれるかしら?」

 『ゲド戦記Ⅴ アースシーの風』の1シーン。
 ラストを飾る第5巻のヒーローはハンノキだ。彼には特別なちからはない。ただ「修繕する」という小さなちからをもっているだけ。魔法使いや竜女や王や王女に囲まれていちばん地味な男だ。その男は亡くなった妻の夢で眠れず、不眠を訴える。そんな役回り。
 しかし彼こそが何百年も誤ったままになっている「世界」を修繕するヒーローだ。そこに作者ル・グィンの思考の成熟を感じる。
 第1巻はゲドの成長の記。第2巻でゲドは平和をもたらすための「腕輪」をみつける。第3巻ではその平和をつくるための実行者としての「王」を育てる。そして「魔法の力」をすべて使い果たし、ゲドは引退する。
 世の中に革命を起こすときにはたいてい「血」がながれる。しかしそれでは平和のために立った「王」の意味がない。まったく血をながすことなく何百年ぶりの大革命をはじめた男、それがハンノキなのである。この「アースシーの風」をしっかり読むとそれがわかる。
 ハンノキは「ゲドの分身」として作者は考えているのではないか。それは第1巻の初めにゲドの出身地としてハンノキ村と書いてあることから推察されるのである。
 それを手伝うテハヌーはゲドとテナーの血のつながらない娘である。こどものときの名をテルーという。映画版の「テルーの歌」のテルーだ。
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