中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

ナポレオンと凱旋門(世界史レッスン第58回)

2007年04月10日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」に連載中の「世界史レッスン」第58回目の今日は、「ナポレオン<百日天下>に右往左往の彫刻家」を書きました⇒http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/04/post_e958.html#more
 ナポレオンの全身像を受注しながら、政変のためけっきょくルイ18世像を作らざるを得なかった彫刻家コルトーについてのエピソードです。

 ナポレオンもまた、自分で建設を命じたエトワール凱旋門の完成を見ずに死んでしまい、1840年になってようやく、16頭の馬に引かせた棺の中の遺体として、門をくぐることになったのだった。

 ところでこのエトワール凱旋門だが(パリに行ってここを訪れない人はまずいないだろう)、コルトーはこの門の表側、左柱にナポレオンを彫刻した。右柱はというと、フランソワ・リュードの「ラ・マルセイエーズ」で、こちらの方が有名である。一群の兵士たちが行進する上を、翼をひろげた勝利の女神が鼓舞している、という浮き彫り彫刻だ。

 ここで誰もが真っ先に目をとめるのは、兵士たちの中央にいるふたりーー顎ヒゲをはやした逞しい中年男性(鎧をまとっている)と、初々しい12歳くらいの少年(兜と靴以外は丸裸!)。ヒゲは少年の肩を抱き、「さあ、俺と戦場へ行こうじゃないか」と促しているのだろうし、少年は憧れに満ちた眼差しで彼を見上げ、「はいっ!」と返事をしているのだろう。

 どうしてこの子は裸なのかな。これじゃ戦えまい。でも西洋人はヌードが好きだしなあ、アレゴリーで抽象をむりやり人間の裸体に変えてしまうし・・・などと日本人は感性の違いに辟易するだけなのだけれど、どうやらこれをスキャンダラスと感じる西洋人もいるみたい。

 『天使の手の中で』などで知られるフランスの作家ドミニク・フェルナンデス(彼は以前からカミングアウトしている)が、ヒゲと少年の関係を明らかにユピテルとガニュメデス、ミケランジェロとカヴァリエリだというのだ(日本でいえば、信長と森蘭丸かな)。なるほど、そう言われればそう見えないこともない、というより、そうとしか見えなくなってしまう。世界各国の観光客はどう感じているのかしらん?

☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪

怖い絵
怖い絵
posted with amazlet on 07.07.14
中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」

☆角川文庫拙訳「マリー・アントワネット」(画像をクリックするとアマゾンへ飛びます)
☆☆この本の中にも若き日のナポレオンが登場し、フランス革命の混乱を覚めた目で見据えていた。確かにルイ16世が彼を雇用していたら、事態はいくらか変化した可能性も・・・
☆☆☆明治大学広報での紹介はこちら⇒ http://www.meiji.ac.jp/koho/meidaikouhou/20070401/0704_8_book_nakano.html

マリー・アントワネット 上 (1) マリー・アントワネット 下 (3)

◆マリー・アントワネット(上)(下)
 シュテファン・ツヴァイク
 中野京子=訳
 定価 上下各590円(税込620円)
 角川文庫より1月17日発売
 ISBN(上)978-4-04-208207-1 (下)978-4-04-208708-8






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4 コメント

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ソ連の話で (レーヌス)
2007-04-10 17:56:37
誰か権力者の像を作ったけど、あとで政局が変化したので首だけすげ替えて使ったときいたことがあります。もっと近いところでは、イタリアでのサミットの時、直前にトミーマーケットに代わったけど、街頭の看板かなにかの絵はハタさんのままにしてあったこともありました。アバウトな・・・
 
 鎧の男と裸の少年では、怪しい想像をするのも無理ないでしょう。あちらの絵で、カブトかぶってマント羽織ってるのに服は着てない、って図がありがちですが、なんとも滑稽なシロモノだと思います。
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Unknown (レーヌスさんへ(kyoko))
2007-04-10 18:14:20
 政治権力者の名前をつけるとそうなりがちですよね。ペテルブルクがレニングラードのように。
 兜とマントの他は何も身につけず歩いていたら、変態として逮捕されちゃいますよね。「いや、彫像のモデルをしているんだ!」なんて言い訳したりして。ふふふ。
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裸体と衣装 (haruurara)
2007-04-11 09:25:17
裸体と天候は関係あるでしょう。未開民が裸体なのは、文明の遅れというより暑いからでしょう。やはり暑いギリシアの競技会は、裸体でした(女性は参加できない)ーギリシャで、同性愛が盛んだったのはそのせか?)。絵画では、神話での裸体は許されるのに、生身の裸体の描写は禁じられていました。
(マネ以前)同性愛は分かりません。友情とどう違うのか?同性の肉体を愛するのは、異性の代理なのか?(監獄、戦場、坊主などはそうでしょう)脳に同性を愛する遺伝子が組み込まれた人もいるそうです。衣装は言語、文化ですね。
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Unknown (haruuraraさんへ(kyoko))
2007-04-12 09:57:33
プラトンは同性愛を推奨していたのに、晩年,撤回したとも、いや、それは解釈を間違えただけだとの説もありますよね。
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