中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

消えた老婦人

2012年07月17日 | 映画
 パリ万博について調べていたら、ちょっと面白いことが。

 まずはヒチコックの「バルカン超特急」。彼がイギリスで撮った最高傑作と評価の高い映画です。列車の中で突然、老婦人が消え、周りは皆、「そんな人は最初から乗っていなかった」と証言、ヒロインが謎を追う、というミステリ(最近のジョディ・フォスターの映画がこれを借用していました。オリジナルに比べて出来はよろしくなかった)

 トリュフォーがヒッチにインタビューする本の中で、当然この「バルカン超特急」は取り上げられているのですが、それによると、老婦人が消える、というアイディアは実話を元にしている由。

 以下は、ヒッチ本人の話からーー

 時はパリ万博(1889年)、所はパリの某ホテル。インドからやってきた母娘がいて、母親のほうが急病になる。医者が呼ばれる。特殊な薬が必要だから買ってきてほしいと医者は娘に指示。娘は言われたとおり、辻馬車でその薬局へ行くが、遠かったので帰ったのは4時間後だった。

 すると、部屋に母がいない。いや、それどころか、別人が泊まっていて、壁紙も家具も前とは全然違っている。。。

 パニックになった娘に、ホテル中の人がこう言うのだ、そんな婦人は最初からチェックインしていませんでした。

 さて、いったい何があったと思いますか?

 実はインドから来たその女性はペストにかかっていたため、医者とホテルがグルになって(おそらく政府も関与したに違いありません)隔離してしまったというのが真相でした。

 万博目当てに世界中から観光客が訪れ、フランスの威信をここぞとばかり高めねばならないこの時期にペスト患者が出た、などと世間に漏れたら大変です。そこで大掛かりな隠蔽となった次第。

 ヒチコックはインタビューでその後の母娘について何も語っていないのですが、たぶん命は助かったのではないでしょうか。でなければ真相は公表されないわけだし。

 それにしても万が一、ペストが万博の人ごみの中に混じり、罹患したと知らない観光客が、それぞれ本国にもちかえっていたら。。。




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2 コメント

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兵庫県立美術館 (トクちゃん)
2012-07-22 18:13:25
ピサロと印象派の講演会、ありがとうございました。印象派とオペラと産業革命、聖遺物の話、すごく面白かったです。サイン会は本を全部持っているので、残念ながら失礼しました。
秋には京都でエルミタージュの講演会があると良いな~って思っています。
これからが夏本番、お忙しい京子さん、どうぞお体ご自愛くださいませ。
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Unknown (トクちゃんさん(kyoko))
2012-07-25 10:42:21
 いらしてくださってありがとうございます♪
 エッフェル塔とパリ万博の話もするつもりでいたのですが、脱線しすぎて忘れてしまいました(あちゃ~)
 関西はやはり暑いなあと思いました。トクちゃんさんも御自愛くださいね!
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