中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

『日本敵討ち異相』

2012年11月27日 | 
 12月の新刊の校正が終わり、やれやれ、数日はのんびりだと、先日入手した長谷川伸「日本敵討ち異相」を読みました。

 日本史に弱く、時代小説の面白さがさっぱりわからず、ほとんど読まないわたしですが、これは面白かった!事実を淡々と書き綴っているようで、実際には相当の工夫を凝らして静かにドラマを盛り上げています。心理描写をしないことで、いっそう読み手は登場人物への内面に思いを馳せざるをえません。

 18世紀から19世紀に実際にあった敵討ち諸例から、13の事件が選ばれています。一番印象的だったのは、新潟の新発田藩の青年の例。

 9歳で父親が殺されます。喧嘩両成敗のため、当時は殺された家まで断絶させられるので、なんとしても敵を討って御家再興させねばならない。でも元服は15歳なので、弟がその年になるまで待ち、18歳でいっしょに敵を探しにでかけます。これでもうすでに9年がたっているわけです。

 18歳と15歳のふたりでは心許ないと、壮年の叔父もひとり付けられます。けれど探索のやり方が拙かったのか、相手の逃げ方が巧みなのか、はたまた運が無いのか、30年もの歳月が流れてしまうのです。

 風の噂を頼りに蝦夷まで行き、さらには択捉までも足を運びますが見つからない。藩からもらった金は数年で無くなった為、働きながらの敵討ち行脚です。ついに見つけた相手は僧となっていました。しかも81歳!

 もちろん本人も50近くになっているのです。まさに朔太郎曰くの、「目算もなく、計画もなく、偶然の廻合のみを祈りながら、追剥ぎの出る街道や、辻堂や、笹原のある景色の中を、悲しく寂しげに漂泊している」姿そのものでした。。。



☆☆2013年の講演会予定。

1月19日(土)
千葉市朝日カルチャー
https://sp.asahi-net.or.jp/scgi/shop_pub/shopgen.cgi?id=S05L357RZD;tpl=a.tpl;code=0103-0881

2月23日(土)
姫路市立美術館
http://www.city.himeji.lg.jp/art/

3月2日(土)
名古屋朝日カルチャー
http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=190162&userflg=0

☆最新刊「怖い絵 死と乙女篇」(角川文庫)
2刷になりました♪

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☆最新刊「名画と読む/イエス・キリストの物語」(大和書房)
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☆「二代目・青い日記帳」に紹介が載りましたのでお読みくださいませ♪

 http://bluediary2.jugem.jp/?eid=3047

名画と読むイエス・キリストの物語



☆「マリー・アントワネット 運命の24時間
    ~知られざるフランス革命ーヴァレンヌ逃亡」(朝日新聞出版社)
 新聞評⇒http://chroniclelibrary.blogspot.jp/2012/04/asahi-shohyo_5455.html
     
マリー・アントワネット 運命の24時間 知られざるフランス革命ヴァレンヌ逃亡

☆「危険な世界史 運命の女篇」(角川書店) 2刷中。
危険な世界史 運命の女篇

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危険な世界史 血族結婚篇 (角川文庫)

☆「怖い絵 泣く女篇」(角川文庫)~「怖い絵2」の文庫化~
5刷になりました♪
     怖い絵 泣く女篇

☆『中野京子と読み解く 名画の謎 ギリシャ神話篇』(文藝春秋) 4刷になりました♪
 中野京子と読み解く名画の謎 ギリシャ神話篇
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文春「本の話」から、「自著を語る」(「謎が解けたら、絵画は最高のエンターテインメントになる」)はこちら

http://www.bunshun.co.jp/jicho/1104nakano/index.htm

☆「印象派で「近代」を読む ~光のモネからゴッホの闇へ~」(NHK新書)2刷中。
印象派で「近代」を読む―光のモネから、ゴッホの闇へ (NHK出版新書 350)

☆「『怖い絵』で人間を読む 」(NHK出版生活人新書) 8刷中。

「怖い絵」で人間を読む (生活人新書)

☆「名画で読み解く ハプスブルク家12の物語」(光文社新書)
15刷中。
名画で読み解く ハプスブルク家12の物語 (光文社新書 366)

☆「芸術家たちの秘めた恋 ―メンデルスゾーン、アンデルセンとその時代 (集英社文庫)
芸術家たちの秘めた恋 ―メンデルスゾーン、アンデルセンとその時代 (集英社文庫 な 53-1)
「週刊朝日」書評⇒ http://book.asahi.com/reviews/column/2011100300004.html


☆「残酷な王と悲しみの王妃」(集英社) 2刷中。
 レンザブローで本書についてインタビューが載っています。お読みくださいね!⇒ http://renzaburo.jp/(「特設サイト」をクリックしてください)

残酷な王と悲しみの王妃


☆光文社新書「名画で読み解く ブルボン王朝12の物語」4刷中。

名画で読み解く ブルボン王朝 12の物語 (光文社新書 463) 


☆「怖い絵」16刷中。

怖い絵

☆「怖い絵2」、9刷中。

怖い絵2

☆「怖い絵3」 6刷中。

怖い絵3


☆「危険な世界史」(角川書店) 5刷中。
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「おとなのためのオペラ入門」(講談社+α文庫)
おとなのための「オペラ」入門 (講談社プラスアルファ文庫)

☆「恐怖と愛の映画102」(文春文庫)
 
 恐怖と愛の映画102 (文春文庫)

☆「歴史が語る 恋の嵐」(角川文庫)。「恋に死す」の文庫化版です。

歴史が語る 恋の嵐 (角川文庫)

sai
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4 コメント

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Unknown (mid mid)
2012-11-27 13:04:44
日本史に弱いと謙遜されると、失礼ながら親近感が湧いてしまいます♪…私事ですが、1月に仕事、2月にはプライベートでパリに行くことになり、先生のアントワネット関連本をたて続けに読み返しています。ツヴァイクの「マリー・アントワネット」は学生時代に寝食忘れて読み耽り、私が西洋史に興味をもつようになったキッカケとなった大切な作品です(初めて読んだのは岩波文庫版でした)。大抵、新訳が出ると(たとえどんな名作といわれる原作でも)がっかりさせられることが多いのですが、読み応えのある素晴らしい翻訳はやはり中野先生ならでは。大好きな作品が、大好きな中野先生の翻訳で読める幸せをかみしめております☆
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敵討ち (pascin)
2012-11-27 15:41:37
何とも空しい内容でした。
50歳の青年は81歳を討ったのでしょうか?
ましてや僧侶を?
私ならどうしたか、その場で決められたか、
この結末を知りたいような、知りたくないような・・
自分の思いを最後まで通すことは難しいことですネ。。
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Unknown (棟梁)
2012-11-29 00:27:47
この間コメントありがとうございました。前の時に、説明不足で申しわけなかったのですが、姫路出身と書きましたが、今姫路の自宅から関西の某大学院に通っていますので、関東の学生ではありません。日本美術史(学部時代は、日本史学を専攻していて大学院に入るときに専修を変えました。)を選考しています。明治期以降の歴史画と国定歴史教科書の挿絵を用いて、歴史画と歴史教育の関係について調べていて、それについての修士論文を書いている最中です。(内容は、貧弱ですが・・・。)
中野先生のお持ちの「日本敵討ち実相」は持っていませんが、日本史は、子供のころから好きだったので、こういう話題は、嬉しいです。あと、先生の著作の中で、日本史の人物に置き換えて説明している部分があって非常に印象的で分かりやすいと思います。
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Unknown (みなさま(kyoko))
2012-11-30 18:15:03
mid midさん
 来年はお正月早々に、ステキなパリ滞在が2回も続くのですね。楽しんできてください♪ そして新しい情報があれば教えてくださいまし。

pascinさん
 この本は全て敵討ち成就の実話ばかりです。書きませんでしたが、叔父という人は疲れ果てて武士をやめ、床屋さんになってしまったり。。。ほんと、虚しいですよね。。。

棟梁さん
 わたしのほうこそ勘違いしてごめんなさい。歴史画と歴史教育の関係というテーマは実に魅力的で面白そうですね!
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