中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

「日本怪奇小説傑作集」(1)、(2)から

2006年03月19日 | 
 泉鏡花「海異記」
  --「妖しき海の神の、人を漁るべく海からあらわれた」という設定がすばらしい。漁師である夫が海で魚を釣っている間、陸では海の化け物が人間の子を食おうとやってくる。膳をけとばして「児(こ)を呉(く)れい」という、クライマックスの凄さたるや・・・。ゲーテの「魔王」に匹敵。

 漱石「蛇」
  ーー漱石は人がどこに恐怖を覚えるかを熟知しており、この短編でもとりたてて何が起こるというわけでもないのに、まさに背筋が凍る。

 山本周五郎「その木戸を通って」
  --記憶喪失の女性がどこからともなくあらわれ、主人公である武士の妻となり子を産んで、またどこかへ去ってしまうというだけの話しで、いわば民話「鶴女房」など異類婚の系列といえる。ありふれた物語なのに側側と胸をうつのは、この女性の包み込むようなやさしさによって、最初は嫌な男だった主人公が愛を知り、愛に生き、愛を失うからだろう。
 
 するとこの小説は、もしかしたら「失恋」というものを象徴的に描いているのかもしれない。愛というものを知らなかった男は、最初、相手の女性をいずこから突然やってきて、自分の生活を侵害する迷惑な存在と見なす。やがて彼女がかけがえのない人となると、今度はいつまた元のところへ帰ってしまうのではないかと不安でならなくなる。そして愛が終わったとき、男にとって彼女は手の届かない遠い世界へ消えてしまったと同じなのだ。
 
 結論ーー恋こそが怪奇である。(ン?)


☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪

怖い絵
怖い絵
posted with amazlet on 07.07.14
中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」

☆ツヴァイク『マリー・アントワネット』、なかなか重版分が書店に入らずご迷惑をおかけしました。今週からは大丈夫のはずです。「ベルばら」アントワネットの帯がかわゆいですよ♪
☆☆画像をクリックすると、アマゾンへ飛べます。

マリー・アントワネット 上 (1) マリー・アントワネット 下 (3)
「マリー・アントワネット」(上)(下)
 シュテファン・ツヴァイク
 中野京子=訳
 定価 上下各590円(税込620円)
 角川文庫より1月17日発売
 ISBN(上)978-4-04-208207-1 (下)978-4-04-208708-8












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2 コメント

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なるほどお (はーと)
2006-03-20 02:09:57
[その木戸を通って]は昔よんで、「なんじゃらほい?」と読みすごした事があるように思いますが、失恋にかけていると考えると奥深いですね!

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後でわかること (ハートさんへkyoko)
2006-03-20 16:41:33
わたしも昔むか~し恋を知らなかった頃、恋愛映画を見るたび、「何やってるんだ、仕事しろ!」と思っていました・・・
返信する

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