ホカ弁屋でホカ弁を買った人の、帰途の歩行速度は速い。
一般的に行きの速度より、帰りの速度のほうが速いといわれている。
ホカ弁を買うと、なぜか心がウキウキする。
それはホカ弁が温かいからである。
ほっともっとののり弁 300円
温かい弁当は、わけもなく人の心をほのぼのとさせる。
心がウキウキしている上に、「なるべく温かいうちに早く食べよう」と思うから、歩行速度はさらに速くなる。
ホカ弁には数えきれないほどの種類があるが、最もホカ弁らしいのはのり弁である。
のり弁は、海苔の上に白身魚フライ、チクワ天、キンピラ、こぶ佃煮、それにピンク色の大根漬、醤油小袋という構成になっているのが多い。
海苔の下には味付きカツオ節が敷いてある。
盛りつけとか、構成とかをいっさい無視した乱雑さが嬉しい。
従って、これらの下のご飯はおかかと海苔とフライのチクワ天の油の味の染みた、得もいわれぬ複合の美味となっている。
そしてここではすべてが温まっている。
ご飯はもちろん、フライもチクワ天も海苔も、キンピラもこぶ佃煮も、そして小袋の醤油さえも温まっている。
さらに梅干しさえ温まっていて、人々は温かい梅干しという、かつて味わったことのない不思議な美味を味わうことができる。
のり弁は中盤にさしかかると、弁当は混乱の極みになる。
白い部分などどこにもない。
おかかと醤油と揚げものの油で汚れたご飯に、キンピラの茶色い煮汁がしみこみ、そこへこぶ佃煮の黒がにじみ、得もいわれぬ色彩美をかもしだす。
ホカ弁は、「温かい」ということですべてが許される。
冷えきった弁当ならば、これらの色の配合は決して色彩美とは映らない。
のり弁の海苔は、どういうわけかよく伸びる。
ゴムのように伸びる海苔というのもなかなか珍しいものである。
これも「温かい」ということで許してもらえるのではないか、と思うのであった。