温泉卵には風情がある。
小ぶりな器の底に、わずかなだし汁を尻に敷いて沈んでいるプヨプヨの白い物体。
箸の先で押せばゆるるんと揺れる。
まるで揺らしてくれるのを待っているように見える。
温泉卵は自身が少し乱れているところがいい。
寝乱れ姿というんですか、白い裾が割れて黄身がほんの少し見えているところに風情がある。
温泉卵はなんとなく高級感がある
目玉焼きより、卵焼きより、茹で卵や半熟卵より高級な感じがする。
なんだか料亭の料理に出てきそうな感じがあるが、料亭の料理には出てこない。
だが確かな高級感がある。
上品な感じもあり、上品なおばあさんが食べていると似合うような気がする。
若い男には似合わない。
おじさんにも似合わない。
だけど温泉街に行くと、大広間でおじさんたちが浴衣の裾を広げ、温泉卵をすすっている光景を見かけるが、なんとも言い難い感がある。