ここに一個のカップ麺がある。
最初に何をなすべきか。
それは手に持ってみることである。
両手でカップ麺を持ってみる。
その軽さに驚く
いつも手に持つ丼のラーメンの重さと何という違いであろう。
しかし、これがいつも食べているラーメンというものの本当の重さなのだ。
いつも手にしている一杯のラーメンの重さは、実はその半分以上が丼と湯の重さなのだ。
カップ麺の底には必ずクボミがあり、クボミのところにはフィルムの閉じ目がある。
その閉じ目に強引に指を突っ込みフィルムを引きむしる。
次にフタを開ける。
OPENと書かれた出っぱりのところをピリピリとはがしていく。
フタを半分ほど開けたら中をのぞこう。
そこには何やら薄暗く、何やらいろいろなものが雑然と押し込まれており、のぞいてはいけないところをのぞいたような、うしろめたい気持ちになる。
うしろめたい気持ちのまま、そこにあるものをうしろめたくゴソゴソと引き出す。
「かやく」「粉末スープ」「液体スープ」「海苔」などである。
「かやく」の中身はネギ、チャーシュー、ナルトなどが多い。
指示通り麺の上に粉末スープをふりかけ、かやくをのせる。
その光景は水のない世界、すべてが乾燥している。
枯山水と見ることもできる。
干からびて荒廃した遺跡、救いのない世界、このまま亡んでゆくしかない世界、と誰もが思うに違いない。
すべてが手遅れで、救済の手だては何一つない、と誰もが思うが、たった一つだけ救済の方法があるのだ。
それは熱湯である。
熱湯がすべてを解決する。
しかも三分で解決する。
三分ののち、液体スープを入れてかき混ぜる。
いよいよ食べるときがきた。
フタをどこまで開けるか、という問題がある。
数々議論がなされたが、全面撤去は推奨しない。
全面撤去では普通のラーメンを食べるのと同じになってしまい、カップ麺としての独自性が失われるからだ。
フタブラブラ、これがカップ麺の正しい食べ方。
ときどきわざと揺らしてブラブラ揺れるのを楽しもう。
おしまいのほうになってスープをすすりこもうとカップを傾けると、フタがおでこに襲いかかってくるのも楽しい。
それを寸前で箸で防ぐのもカップ麺の正しい食べ方である。