経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

習慣

2007-07-10 | プロフェッショナル
 明日はオールスター・ゲームですので、メジャーリーグネタから。
 今年のオールスターに出場するドジャースの斎藤隆投手がChallengeBlogというブログを書いています。7日付の「七夕の誓い!」という記事にいいことが書いてあります。久しぶりにリリーフに失敗してしまった日のことですが、

・・・(前略)・・・
「斎藤隆、何をするためにアメリカに来たんだ」と、もう一度自分に問いかけてみろと。
僕は、オールスターに出るためにアメリカに来たのではなく、ドジャースの一員として、
チームの勝利に貢献するためにプレーをしているのです。
・・・(中略)・・・
自分の仕事ができなくては、オールスターも意味がありません。
・・・(後略)・・・

 知財の仕事の場合は、どちらかというと逆の方向の罠(日常の仕事・細かい実務を重視しすぎる)に陥りやすいことが多いかもしれません。クライアントや現場の事業部門から「事業をサポートする」ことを求められているのに、目の前にある細部や知財の世界での勝負に拘って、本来の目的を見失ってしまう。考えてみると、個人のスキルによる実績も、チーム(企業)の成績(業績)に貢献するものでなければならない、という意味では同じことがいえるのではないでしょうか。よい仕事を続けていくためには、「もう一度自分に問いかけられる」ことが重要なんだと思います。
 斎藤投手の著書「自己再生」によると、彼はマウンドに向かう前に右手で胸を2回叩き、
「斎藤隆、お前は何をしにここに来たんだ
と自分に問いかけるそうです。結果が出てるだけに格好良すぎますが、「もう一度自分に問いかける」ことは、このように「習慣」にしてしまうことが効果的なのかもしれません。ミーティングに臨む前、明細書や意見書を書く前には、右手で胸を2回叩いて自分に問いかける。
お前は何のために、知財の仕事を志すことになったんだ?

自己再生―36歳オールドルーキー、ゼロからの挑戦

ぴあ

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時価総額と純資産の差は知財の価値か?

2007-07-09 | 新聞・雑誌記事を読む
 「赤字続きのバイオベンチャー/実を結ばぬ先行投資も」
 本日の日経金融新聞の記事です。新興市場に上場するバイオベンチャーの多くは、上場当初は高い株価をつけるものの、実績の遅れや協力金の打ち切りなどによって株価が急落する例が多くなっています。記事の表に掲載されている5社についても、アンジェスのみが高株価を維持し、それ以外は1株あたり純資産に近いレベルまで株価が低下しています。

 会計上の純資産と時価総額、知的財産の関係ということで、
 〔株価時価総額〕-〔会計上の純資産〕=〔見えざる資産(⊃知的財産)〕
つまり、投資家は知的財産を含めた見えざる資産を評価して株価に織り込んでいる、ということが、拙著、「知的財産の分析手法」(p.40)も含め、よく説明されています(、「知的財産部員のための知財ファイナンス入門」p.179~180etc.)。ところが、バイオ分野のような株価の実態を見ていると、この説明は誤りというわけではないのですが、実態にあまり則していないような気がしてきました。

 バイオベンチャーの場合、時価総額と純資産の差はまさに技術(≒知的財産)への評価という考え方は筋が通っているのですが、契約関係で何らかの悪材料が出ると株価は急落するのが通常です。その間に、技術、つまり知的財産そのものの内容が変化したわけでもないのに、突然評価が急落する。勿論、DCFで考えれば知的財産の価値が急落したということで説明がつくわけですが、実際に投資家が見ているのは知的財産がどうのこうのということではなく(実際技術そのものに何か変化があったわけではない)、期待していた収益機会が失われたということをストレートに反映しただけのことのように思います。つまり、ここでオフバランス資産が失われるということは、知的財産の価値の低下というよりも、そこに見えかけていた「現金」が消失した、ということに過ぎないのではないでしょうか。見えていた現金こそが知的財産の価値である、だから知的財産に対する評価が変化したのだ、という理屈もつくにはつくのですが、どうも理由としては後付けに過ぎないような感じがします。

ヘッジファンドのコピー

2007-07-05 | 新聞・雑誌記事を読む
 本日の日経金融新聞の記事によると、最近「ヘッジファンドの複製」なる金融商品が売られるようになっているそうです。高い運用成績を誇るヘッジファンドは、運用報酬も成功報酬も高く設定されているのが通常ですが、過去の運用のリターンを分析してその運用方法をコピーした複製を作って、似たような運用成果の商品を安価に提供するというものだそうです。要するに、「クリーンルーム方式」みたいなことをやっているのでしょう。勿論、これならば違法ではありません。
 ヘッジファンドの運用が「匠」の世界なのかどうかよくわかりませんが、「練り物の本質」の記事で書いたような、「匠」の技である暗黙知を形式知にして実践することが可能なのか。この世界では運用成績にストレートに反映されるので、いずれその結果は明らかになるのでしょう。
 

横綱相撲

2007-07-04 | 知財発想法
 「知はうごく:知財の時代を迎えて(1-2)排他的独占からオープン化へ」の記事が興味深いです。IBMの特許のオープン化の意味について解説されていますが、
★ 特許は事業で収益を上げるためのツールである。
★ ツールの使い方は多様である。
という常々考えていること(「知的財産のしくみ」p.131)を痛感し、さらに、特許のこういう活かし方もあるのか、と考えさせられました。
 この記事によると、要すれば、知財云々に関わらず事業の競争力に自信があるならば、自らが特許で囲った安全地帯に他社を引き入れることによってその市場を活性化し、結果的にマーケットリーダーである自社の収益を拡大する、という考え方なのだと思います。「特許」=「排他権」or「ライセンス収益」という固定観念にとらわれず、自らのリードするマーケットを活性化する安全柵として特許を用いる方法もあるということなのでしょう。尤も、こうした戦略はソフトウエア業界の特性やIBMのポジションを前提にはじめて有効になるものであり、横綱ならではの戦い方という感じがします。各々の業界特性、業界でのポジションを考慮して、特許というツールをどうやって活かすかは、各々の企業が考え抜いていかなければならない課題です。
 
<入門の入門>知的財産のしくみ

日本実業出版社

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300億円の意味

2007-07-02 | 新聞・雑誌記事を読む
 週末の日経新聞にライオンが「バファリン」の商標権を約300億円で買い取るという記事が出ていて、単純に商標権で300億円とは凄い金額だな、と思っていたのですが、今日の日経金融にもう少し詳しい数字が説明されていました。
 300億円の購入費用を今後10年間で償却するため、年間30億円の償却費が発生するそうですが、来期は30億円償却後の営業利益が20億円となる見込みだそうです。しかしながら、これまで事業を行っていた合弁会社からの配当金10億円がなくなり、今回の購入資金の借入金利も考慮すると、経常段階では殆ど利益が出ないそうです。この計算でいくと投資回収には償却期間の約10年を要するということになりそうですが、実際は7~8年での回収を目指しているとのこと。その根拠は、商標権を取得することによって、鎮痛薬以外の分野(例えば風邪薬)への「バファリン」ブランドでの参入が可能になり、収益を押し上げる効果を見込んでいるということだそうです。
 これぞまさに「ブランド価値」といったところですが、300億円という金額には、既存事業が生み出す価値だけでなく、ブランドを利用した事業の広がりまで含まれているということのようです。

ロジャー・クレメンス

2007-07-01 | プロフェッショナル
 昨日のブロードキャスターで、一昨日のメジャーリーグの先発投手をみると、ロジャー・クレメンスをはじめ何と6人が40代というニュースをやっていました。彼らの選手寿命が長い理由の一つとして、ピッチングフォームがよいのでよい筋肉がつき、投げることによってさらに選手寿命が延びる、という解説がされていました。「ベテランが活躍する理由=熟練したテクニック」と理解されがちですが、そうではなくよいフォームを繰り返すことによって「投げる力」自体も向上するという見方は、ちょっと驚きでした。

 知財の、特に特許の実務をやっていると、先端技術のキャッチアップなどの側面から、選手寿命ならぬ実務家寿命が意識されることがあります。このニュースが何かヒントにならないかなぁ、などと思ってみていたのですが、テクニックでかわすことを覚えるだけでなく、「正しいフォーム」を繰り返すことこそが、実務家寿命を延ばすために最も大切なことなのかもしれません。