経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

次に一掃されるのは・・・?

2006-10-12 | 知財一般
 日本橋の丸善で知財本のコーナーを見ていて、あることに気付きました。「ビジネスモデル特許」の本が、1冊もないのです。普通の経営書のコーナーにビジネスモデル関連ということで並べられているのかと思ったのですが、どうも見あたりません(何かを買うわけではなかったので、店員さんには尋ねられなかったですが・・・)。
 それにしても、4、5年前には一般書のコーナーに平積みされるくらいの勢いだったのに、流行の去るのは早いものです。「ビジネス関連発明」は消えてなくなったわけではない(成立した特許の件数は殆ど変わっていません)ので、書店から一掃されるというのも随分極端な気がしますが・・・。尤も、当時出版された「ビジネスモデル特許で一儲け!」的な書籍は意味を失っていますので、これから意味を持つものが存在し得るとすれば、経済産業調査会や発明協会が出版する実務系のマニアックなものくらいしかニーズはなさそうな感じもしますが。
 で、知財本コーナーから次に一掃されるのは何だろうか、などとよからぬ想像をしてしまいました。知財ファイナンス絡みとか危ないんじゃないかって、実は拙著がピンチなのかも(因みに、拙著は厳密にいうと「知財ファイナンス」の本ではないのですが)。

知財インテグレーター

2006-10-11 | 知財一般
 先週末に、知財検定2級公認セミナーで特許法の講義を担当しました。以前は、「制度解説なんて必要な人は本を読めばわかる話なんだから、大事なのは戦略だ」などと頭でっかちなことを考えていたのですが、知財の基礎知識を身につけることの重要性を、最近になって改めて感じるようになっています。

 多くの企業の知財業務において、今最も必要とされている機能は、事業からより多くの収益を上げるために知的財産権という制度・ツールをどのように効果的に利用するかという、基本的な設計機能であるように思います。コンピュータシステムの世界に置き換えると、経営サイドや事業サイドの意図を理解してコンピュータという道具を利用した基本設計を描く、情報系コンサルタントや上流工程を担うSEのような機能とでも言えるでしょうか。こうした機能を担うためには戦略的な思考が求められ、「知財戦略」について理解することが重要になるわけですが、ここで描かれた「知財戦略」は、実働部隊が実行可能なものでないと何の意味もありません。そのためには、システムインテグレーションで「コンピュータで何ができるのか」を理解しておくことが必要であるように、知財のインテグレーションにおいても「知的財産権で何ができるのか」という基礎知識をしっかり身につけておくことは、実効性のある「知財戦略」を実践するために不可欠であると思います。
 知財検定の受検などを通じて基礎知識を学ばれている方は、足腰を鍛えることは全ての基本になるので、是非ともしっかり取り組んでいただくとともに、単に制度や条文を覚えるだけではなく、「この制度で何ができるのか」といったことも少し考えてみると、より拡がりのある知識として身に付いていくのではないでしょうか。

KidZania

2006-10-10 | その他
 強力な新・テーマパークが登場しました。子供がいろいろな仕事を体験できる「キッザニア東京」です。
 キッザニアには、飲食チェーン、宅配、航空会社、新聞社、銀行などの企業がスポンサーとして、かなり本物感のある店舗を出店しています。子供はそこで仕事を体験すると、パーク内で使える専用通貨(キッゾ)でお給料がもらえます。このお金は次回以降も繰り越して使うことが可能なので、テーマパークにとって最大の課題であるといわれているリピーターの確保という点を考えてみると、キッゾが残っていれば子供はまた行きたくなるでしょうから、かなり期待がもてそうな感じです。
 オープンと前後してテレビでも度々報道がされており、スポンサーとして出店している企業の宣伝効果は結構大きいのではないでしょうか。スポンサーの「ブランド戦略」的にいうと、大人より子供のほうが人生、当然ながら先が長いですから、ブランドがキャッシュフローを生み出す期間も長期間に渡ることになります。ディスカウントキャッシュフロー法で価値評価をしてみても、理に適った戦略ということになるでしょうか(笑)。

お知らせ(ちょっと宣伝)

2006-10-07 | お知らせ
 「特許戦略ハンドブック」の続編である「新・特許戦略ハンドブック」が、間もなく発売されます。僭越ながら、執筆者の一人として参加させていただいた関係で一足早く現物を手にしましたので、ちょっと宣伝をさせていただきます。旧版に比べると相当分厚くなっており、かなり読みごたえがありそうです。内容も一層盛り沢山になっていますが、旧版も含めてこの本の面白いところは、各章の筆者の説の整合性をとるように特に調整されている風ではなく、筆者が自説を思うがままに展開して、各章毎に独自の味わいが醸し出されているというところでしょう。そういう意味では、わからないことがあったときに紐解く辞書的な「ハンドブック」というよりは、「麺達七人衆-品達」みたいな世界とでもいうか、ちょっとコッテリ感のある印象です(笑)。
 それと、新版は色がすっきり、青系になりました。旧版は濃い赤でしたが、マリナーズ・ブルー好きの私としては、こちらのほうが個人的には○です。
 発売は18日とのことですが、個人で購入するのはちょっと高い本ですので、是非会社で一冊ご購入いただければ。

視点をどこに置いて「戦略」を考えるか

2006-10-05 | 書籍を読む
 「知財革命」を読んでみました。重いタイトルの割には、読みやすい本です。この本は国レベルの視点で書かれているので、経営本として企業レベルの「知財戦略」を考えたいと思って手に取った人には、ちょっとミスマッチになるかもしれません。
 こういった知財系の書籍や論文などを読んで思うのは、「知財戦略」について議論する際には、視点をどこに置くかをはっきりさせておかなければ混乱するということです。
 国レベルに視点を置けば、知財戦略とは特許制度や裁判制度、中小企業支援や人材育成施策といった話になってきます。企業の経営レベルに視点を置けば、知財戦略として考えるべきことは、研究開発の方向性や参入障壁形成の基本方針といったことになるでしょう。さらに、企業の部門(知財部)レベルに視点の置けば、どうやって強固な特許網を築くかといった戦略が議論の対象になってきます。
 「知財戦略」の特殊性は、こういったレイヤーの異なる戦略が、全て「知財戦略」とひっくるめて言われていることにあると思います。「経営戦略」と言えば、経営レベルに視点を置いた「経営戦略」のことですし、「人事戦略」「財務戦略」といった場合には、経営レベルに視点を置いた「経営戦略」として議論されていることが多いと思います。ところが、「知財戦略」については、むしろ国レベルや部門レベルの議論が先行していて、経営レベルの知財戦略と混同されやすい状況にあるのではないでしょうか。尤も、経営レベルの知財戦略は、極めて個別性の高い性格のものなので、そもそも企業の枠を超えた議論の対象にはなりにくいものなのかもしれませんが。

証券会社が?

2006-10-04 | 新聞・雑誌記事を読む
 日経金融新聞に珍しく「特許」についての見出しを見つけました。野村證券が大学特許の一覧サイトの運営を開始したとのことです。「大学発」や「特許流通」には縁遠いほうなので内容に興味を持ったわけではないのですが、「証券会社が?」という意外感があって、ちょっと覗いてみました。
 記事には、「専門用語が多くて難解な特許内容を平易な言葉でわかりやすく紹介する」と書かれていて、そんなの要約書をみればいいじゃないか、と思ったりもしたのですが、確かにこのサイトの「概要」の部分はわかり易いですね。本格的に検討を進める場合には、紹介されている技術と権利範囲との検証などが必要になるのは当然ですが、最初に当たりをつけるにはとてもわかりやすい説明だと思います。
 では、特許屋の書く要約書とどこが違うのか。1つは、「です、ます」の口語調で書かれているものが多いということでしょう。これだけでも、随分読みやすさが違います。もう1つは、要約書は「発明の要約」なので、どうしても請求項の内容に引っ張られてしまうのに対して、このサイトの概要では、その発明を適用した技術を広めに書いているところではないかと思います。硬いことを言えば、実際以上に権利範囲が広いように誤解を与えるとも言えるかもしれませんが、最初の段階のサーチは読み易さ優先でよいのではないでしょうか。
 それにしてもこのサイト、登録も閲覧も無料だそうです。証券会社の狙いは、大学と中小企業の橋渡し役となり、将来の株式公開案件に結び付けるとのことにあるそうですが、証券会社にしては随分気の長い話だなぁという印象です。このサイトがブレイクするかどうかは証券会社のモチベーションの維持次第、というのは少々意地の悪い見方でしょうか。

シンデレラマン

2006-10-02 | その他
 ブログのタイトルからはちょっと離れたネタになってしまいますが、週末に前から見たいと思っていた「シンデレラマン」をDVDで見ました。

 実在したボクサーを題材にしたストーリーで、舞台は大恐慌時代のニューヨークです。同じように仕事をしている人間が、経済の大きな流れに逆らえずに苦境に陥ってく様子がかなりリアルに描かれているのですが、本当の意味で我々の世代が経験したことのない「経済の状態が悪い」ということがどういうことなのか、映画を見ながら息苦しく感じるとともに、現実にこういう状態に陥ったらと考えると、かなり恐ろしいものがありました。最近は、経済優先の社会を批判したり、拝金主義を咎める声が大きくなっていますが、一方で「経済をよくする」ということの意味が具体的にどういうことなのか、よく理解した上で議論することが必要だと思います。
 特許法、実用新案法、意匠法、商標法のいずれにも、第1条には「産業の発達に寄与(・・・)することを目的とする。」と書いてあります。弁理士試験の受験時には、レジュメの一部として丸暗記するフレーズかもしれませんが、この言葉の意味は、実はとても重い歴史的背景を背負っているものなのです。少々大袈裟になってしまいますが、我々の仕事のミッションは、これらの法律に定められた制度を活かして、経済を豊かにしていくことにあるのだなどと、主人公の仕事(=ボクシング)に対する真摯な姿勢に感動しながら、改めて考えさせられてしまいました。
シンデレラマン

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螺旋的発展

2006-10-01 | その他
 事務所を開業して満5年となりました。自分のブログという場で誠に恐縮ですが、独立以来様々なご教示をいただいている鮫島弁護士、久米川弁理士をはじめとする諸先輩方には、改めて御礼を申し上げたいと思います。
 また、実務家としてこれまで得てきた経験は、クライアントの皆様がいろいろな新しいテーマを与えてくださるからこそ、得ることができたものです。これからも、「これをやってみろ」とご依頼をいただけるように努めていきたいと思いますので、引続きよろしくお願い申し上げます。

 弁理士の職に就いて、目指すところは人によって様々であろうと思いますが、私の場合は、「知財」という切り口からどのように企業や社会を見て、企業や社会に対してどのように関わっていけるかというところが最大の関心事です。うまく表現するのが難しいのですが、ただ企業や社会についての一般論や理想論を述べるだけではなく、反対に目の前の実務だけに没頭してしまうわけでもなく、社会や企業の目指すところに目配せをしながら目の前の実務をこなしていくという、そういうスタンスで日々の仕事に臨んでいきたいと思っています。

 田坂広志氏の著作「使える弁証法」(日頃使わない思考回路が刺激を受ける素晴らしい本です。)に、「『螺旋的発展』の法則」という考え方が紹介されています。
 物事が発展するとき、それは、直線的に発展するのではない。螺旋的に発展する。
という考え方で、物事が進歩するときには、一見すると昔いたところに戻ったように見えながらも、前の段階よりも着実に進歩しているというものです。ここでいわれている「螺旋的発展」の典型的なケースとは少し違うかもしれませんが、これを自分なりに解釈し、
 一実務家としての側面と、一経済人としての側面は、螺旋的に発展するものである。
というイメージをもって、上記のようなスタンスで仕事に取り組んでいきたいと考えています。

使える 弁証法
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