経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

トンカチで机を叩かないように

2010-11-14 | 企業経営と知的財産
 先日訪問した企業の話です。その企業はある装置を開発・販売しているのですが、ある用途向けの装置の市場ではシェアが極めて高くなっており(100%というものもあり)、毎年相当程度の件数の特許出願を行っています。これぞ「特許で参入障壁を築いて市場シェアを高める知財戦略の典型的な成功例」と言いたくなるところですが、これだけを見て「トンカチにとってすべての問題は釘に見える」となってしまってはまずい。そこで「この高いシェアに特許はどのくらい、そしてどういうふうに効いているのでしょうか?」と素朴な疑問を社長様にぶつけてみたところ、「それには業界の成り立ちから説明する必要がありますね・・・」と、その理由について市場が形成された歴史、業界の特性から説明してくださいました。
 お話を要約するとこんな感じです。この装置の市場は顧客ありきで形成された市場で、異なる製品を製造している顧客が各々が親しいメーカーに装置の開発を依頼し、その結果、それぞれの顧客の事業分野に合わせて、各メーカーは得意な分野の技術を蓄積してきた。その結果、市場は用途別に細分化され、各々の用途別の市場に強いメーカーが生まれ、後発がそこに参入しても技術の蓄積・顧客との関係ともに太刀打ちできないということで、自然に棲み分けがなされていった。それが高シェアの原因であって、特許が他社の参入を妨げたわけではなく、当初は特許を殆ど出さなくても問題の起こらないような業界だった。ところが、技術の蓄積や顧客との関係が参入障壁になっていたとしても、特許だけはとろうと思えばとれてしまうことがあり、他社が特許をとって顧客に迷惑をかけるような事態が生じてしまうと、本質的な強みである顧客との関係に悪影響を及ぼしてしまうおそれがある。そこで、製品の品質保証的な目的から、特許出願に力を入れるようになった。そういう目的で特許を出しているから、自社の実施態様をカバーすることが第一の目的であり、クレームをできるだけ広げるとか、製品の開発計画と関わりなくアイデアを募って特許を出願するとかいったことは二の次であると。ゆえに、特許を出願するための仕組みについても、開発で採用する機能を漏れなく拾うことを重視した体制になっている、ということです。
 この例からも感じたのですが、やはり先日も書いたとおり、知財活動というのは事業モデルの必然性によって生じるからこそ定着するものであり、要は事業モデルの問題であるなぁと。知財活動で扱う対象物である‘知的財産’が事業モデルを左右することはあっても、その知的財産を扱う知財活動のあり方は事業モデルによって規定される。ゆえに、知財活動を支援する際には、まず事業モデルを理解し、その事業モデルを支える、或いは強化するための知財活動の目的を設定し、その目的にあった仕組みを作っていく、基本的にはこういう流れであって、定着モデルには、その前提として‘事業モデル’を加える必要があるのでしょう。
 という風に考えながら、話題の「インビジブル・エッジ」を読んでいると、最初のほうは、何だかトンカチで机を叩いているような書きぶりだなぁ、という印象をもったのですが、コラボレーションの例としてトヨタが出てくるあたりから、知財云々ではなく事業モデルが主題になっている印象です。やはり知財戦略を見ようとすると、事業モデルに行き着くということか。あとこの本は、やはり米国のコンサルタントが書いているだけあって、当たりまえですが‘企業’に対する考え方がいかにもアメリカ的です。知財についてもその考え方が前提になっているので、日本企業(特にオーナー系の中小企業)にはそのまま適用できそうもない話が少なくない印象ですが、その違いが見えてくるという点でなかなか興味深いかと。この本については、まだ読み終わっていないので、できれば後日改めて書ければと思います。


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