経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

定着モデル~その1

2010-06-20 | 企業経営と知的財産
 一昨日と昨日は知財学会の学術研究発表会で、昨年度の地域中小企業知財経営基盤定着支援事業でとりまとめた‘定着モデル’をご紹介させていただきました(「学術研究」というような内容ではありませんが・・・)。
 本日はその‘定着モデル’のご紹介を。

 2009年度の「地域中小企業知財経営基盤定着支援事業」では、知的財産を活かした経営を中小企業にいかにして定着させていくか、そのためにはどのような知財戦略支援を行うべきかというテーマで調査研究を行いました。専門家の支援を受けて中小企業が知的財産活動への取り組みをはじめてみたものの、専門家が去ってしまうとそこまでとなってしまうことがある。どのようにすれば知的財産活動が中小企業の経営に意味のある活動・必要な活動として定着するのか、そこを考えるのがこの事業での狙いです。
 当初は、体制やはどうあるべきか、規程類や業務フローをどのように定めるか、といった形式的な部分に目がいっていたのですが、形ばかり整えてもかえってそれが負担になって定着を妨げてしまうこともあります。要は、経営・事業にとって、必要なときに必要な対応がとれる状態が‘定着’した状態であって、それは形式だけでは測れないだろうということです。
 そこで、必要な要素を整理してみたのが、図に示した‘定着モデル’です。

 ‘定着’に必要な要素は、図に示した4つと考えられます。
 まず、知的財産活動の前提として、汎用的な知識やスキルが必要です。
 知財関連の知識やスキルというと、知的財産関連の法制度や出願、契約などの実務に関する基礎的な知識やスキルがまず想定されますが、これだけでは不十分です。知的財産を経営に活かすという視点からは、知的財産に関する活動が経営に対してどのような実効性を有するものであるか、現実の経営において知的財産にはどのような活かし方があるのかという、知的財産戦略・知財経営に関する知識もまた必要になるものです。
 前者に関する知識は、一般的なセミナーや入門書などによって中小企業にも比較的得やすいものですが、後者に関する知識は、知的財産活動が効果を発揮している企業の実例や、経営者の生の声を聞くことが有益と考えられ、体系的に整理するのが難しい性質のものです。公的機関には中小企業がこうした知識を得るための支援制度も望まれるでしょう。

 次に、前述の知識やスキルを個別企業に適用して、その企業に適合した知財戦略を実践することが必要になります。
 そのためには、第一に、自社における知的財産活動の経営戦略上の目的・位置づけを明確にすることが求められます。知的財産活動の目的・位置づけはあくまでも経営上の課題に対して成果を上げることであるから、各々の中小企業のもつ経営資源やおかれている経営環境を考慮して、知的財産活動を行う意味を明確にしていく必要があります。
 第二に、知的財産活動を実践する仕組みを構築することが求められます。実践する仕組みとは、具体的には、知的財産活動に必要な人員や予算を割り当てる、外部の専門家との協力関係を築く、規定・マニュアル類を整備する、研修制度を導入する、といった例が考えられるものの、いくつか留意すべきポイントがあります。まず、こうした仕組みは中小企業が実践可能なものでなければならないので、大企業で一般的な仕組みをそのまま適用すればよいというものではない、ということです。中小企業の社内体制や資金力に合った、実践可能な仕組みが求められるものです。次に、こうした仕組みは先に明確にした知的財産活動の経営戦略上の目的、位置づけに沿ったものでなければならない、ということです。例えば、主力製品に特許で強固な参入障壁を築くことが主たる目的であれば、主力製品に関する出願を集中的に促進する仕組みが必要になり、発明提案の活性化による社員全体のレベルアップが主たる目的であれば、全員参加型の仕組みを導入することが求められることになります。

 こうした4つの要素が揃うことによって、自社における知財活動の経営戦略上の目的・位置付けが明確になり(そのためには、知的財産活動の実効性や知的財産の多様な活かし方など知財戦略・知財経営に関する知識が必要)、知財活動を実践する仕組み(組織や業務フロー)ができあがることによって(そのためには、法制度や実務に関する基礎的な知識やスキルが必要)、知的財産活動がその企業にとって意味のあるものであり、かつ実践可能なものとして‘定着’することになると考えられます。

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