経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

知財紛争は経営マターか

2006-05-18 | 企業経営と知的財産
 知財に関する問題が経営に与える影響というと、通常思い浮かべるのは特許訴訟による損害賠償ではないかと思います。そこを本日の記事では敢えて、「個々の紛争による損害賠償云々は経営マターではない。」という立場にたって考えてみたいと思います。

 知財が経営において重要だ、と言うのであれば、果たして知財の事件が企業価値(=株価)にどのように影響しているか、いくつかの例を分析してみたことがあります。その時の例に限れば、知財に関する事件が新聞等で大きく取り上げられることがあっても、株価は殆どといっていいほど反応していませんでした。なぜなのかをあれこれ考えてみたのですが、絶対額としてはそれなりにインパクトのある賠償額であったとしても、企業の利益規模に比するとそれほどでもないことが多いことと、損害賠償額自体は一期の決算で処理されるものなので(会計処理の詳しいことはわからないのですが、少なくとも将来に引きずる性格のものではないと思います)、株価を決める企業の将来収益への影響は軽微と判断されやすいことが考えられるのではないかと思います。損害賠償額については、最後は無効ということでおしまいになってしまいましたが、約80億円で過去最大の賠償と騒がれたパチスロ特許の事件の当事者であるセガサミーをみると、最近の経常利益は毎年1000億円を超えており、仮に賠償を支払うことになっていたとしても収益へのインパクトは大きく株価を左右するほどのものにはならなかったのではないでしょうか。不良債権処理時のメガバンクの特損が毎年数千億円であったことや、為替変動の影響でも年間数十億、数百億といった利益の変動が出ることに比べると、経営マターとしてのインパクトには相当差があります。ライセンス料の支払などで中長期的な将来への影響も生じ得るのでしょうが、損害賠償額に比べるとさらに企業収益全体に与える影響は軽微でしょう。そういう意味では、少し前に大騒ぎになった職務発明の問題については、企業収益へのインパクトという点では、さらに影響は軽微と考えられます。このあたりが、経営層が知財の問題に感覚的に今ひとつ乗ってこないことが多い、一つの理由になっているのではないでしょうか。

 だからといって、知財そのものが経営マターではない、などというつもりは勿論ありません(そうであれば、私もこの仕事に力が入らなくなってしまいます)。経営マターという以上は、経営者の感覚で考えて、それは重要な問題であると感じられるようなものでなければなりません。それは、個別の事件の影響がどうこうということではなく、もう少し全体の問題として捉えた場合に、例えば「粗利率」をどうやって向上させるか、という経営課題が一つの切り口になってくるのではないかと思います。


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