経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

技術評価・知財の価値評価ができればハイテクベンチャーにお金を出せるのか?

2008-04-17 | 知的財産と金融
 日本で研究開発型のベンチャーが育ちにくかったり、優れた技術力のありながらも伸び悩む中小企業が多い背景を、
 「研究開発費等の資金を十分に調達できないからだ。」
 ⇒ 「VCや銀行などの金融機関が技術を評価できないからだ!」
と分析し、
 ⇒ 「VCや銀行に技術評価情報を提供して資金供給を促すことが必要だ!」
といった説が唱えられていることがあります。本当でしょうか。

 私の過去の経験に照らして考えると、おそらくこの仮説は正しくはありません。金融機関は「技術」に投資や融資をするのではなく、お金を出す対象は「会社」です。よって、必要になるのは技術評価そのものの情報ではなく、その技術がどのようにキャッシュを生んでいくかを判断するための情報です。具体的には、その技術が市場のトレンドやニーズに合致しているか、市場の中でどういうポジションで活かされ得るのか、といった市場の中での位置づけに関する情報であり、技術そのものを理解したり、技術レベルが高いか、革新的か、といった情報を求めているわけではありません。それ故に、投融資の判断で悩んでいたときに、大学や研究機関で聞く話より、業界誌の記者のように業界動向に詳しい人から聞く話が大きなヒントになったというようなことがよくありました。
 ましてや、保有する「知的財産権の価値評価」が、意思決定の決め手になるというようなことはまずありません。繰り返しになりますが、お金を出す対象は「会社」であって、「知的財産権」ではないからです。「知的財産権」をベースに「会社」が構成されているのではなく、「会社」の事業計画(そこから生じるキャ主フロー)を支える一要素として「知的財産権」が存在しているわけなので、「知的財産権の価値評価」から「会社」を評価するという考え方は主客が転倒しています。知的財産権に関して必要な情報というのは、「会社」の事業計画の前提条件やリスク要因を検証するために、「知的財産権」が事業計画にどのように影響しているかという定性情報ということになるはずです。となると、知的財産権の価値は事業の価値の中に織り込まれているはずだから、見えない資産の価値とかいって企業価値に加算するのはダブルカウントになってしまうと思います。


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2 コメント

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Unknown (ある弁理士)
2008-04-17 16:42:37
技術や知的財産権をいくら評価しても、「商品」としてキャッシュを生まなければ、企業に対する投資価値はないので、先生が仰られるとおりだと思います。

一方で、日本のVCや銀行が、外資の金融機関のように、企業を上手く育成・再生できないのはなぜでしょうか?大阪のUSJは、外資の金融機関が入っていなければ潰れていたそうです。日本の金融機関に問題がないわけではないと思います。

すいません。失礼なコメントになったことをお許し下さい。
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Unknown (土生)
2008-04-18 00:32:27
ある弁理士さん
コメント有難うございます。
ご指摘の点ですが、「育成・再生」(「育成」という言い方は上から目線で私はあまり好きではありませんが・・・)という機能を持つかどうかは金融機関のビジネスモデルの問題なので、外資はよくて日本はダメ、と単純に説明できる問題ではありません。外資にだって、右から左にお金を動かすだけ、さらには投資先を引っかき回して利益を抜いてさっさといなくなるようなところだってあるわけです。国内にもハンズオンで汗をかいているVCはあるし、再生では政府がやった産業再生機構だって実績を上げました。
やはりそこは、金融機関のビジネスモデルの選択の問題です。割合として日本にハンズオン型・再生型が少ないのは、受けての側の企業の性格や、リスクテイクに対する価値観や文化の問題まで含めて積み上げられてきた歴史の結果なので、そこはアメリカはよくて日本はダメで済む問題ではないように思います。
これを書き出すと長くなりますので、とりあえずそんなところで。
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