さだ・とし信州温泉紀行

続編;茨城パートⅡ

新聞広告「決断と再生」

2018-09-14 21:13:48 | 出版
写真は、一昨日(2/19)の日本経済新聞に掲載された出版社・同友館「決断と再生」の広告。
都内の書店では、平積みされました。平積みされるのは、発売後1週間から1か月のようです。規模が小さい書店だと、3冊仕入れて2冊売れると、そのまま棚に移されてしまいます。

読後感想文
「決断と再生」の共著者、櫻田登紀子先生 の公演に行きました。そこで今回は、この本の凄さについて、公演内容を踏まえつつ感想を書かせていただきます。既に読まれた方が多いと思いますが、 この本のすごいところは、
(1) 最新のノンフィクション ~徹底した取材~
本書に収められた7つの物語すべてに、再生現場のリアリティが宿っている。 企業再生にかけた男たちの熱き思い、そして「再生」を果たしたときの清々しい感動。 それは、最新の再生事例ばかりを徹底的に取材した、貴重なノンフィクションだからこそ伝わるものだ。 
再生した企業といえども、自社が事例としてとりあげられることには少なからず抵抗感もつ。 ましてや進行中の事例なら、なおさらだろう。 
取材拒否、行き違いによるトラブル、執筆者降板など幾多の危機に見舞われた・・・そんな厳しく、貴重な取材を通してしか得ることのできない本物の凄みがこの本にはあると思う。 

(2) 細部まで、とことん「こだわり」
タイトルはもちろん、カバーデザイン、帯のキャッチコピーなども出版社に頼ることなく、全て櫻田先生のこだわりで出来たもの。  
特にカバーデザインは素晴らしい!
シンプルでいながら実に力強く、無駄なところが一切ない。 本の内容ともよく合っているし、とても上品。

(3) 再生手法より経営手法
人間ドラマでもなく、再生スキームの解説でもない。 中小企業診断士に一番求められる、「経営の視点」を中心として書かれている。 だから参考になる。 ( これは企画段階からコンセプトとして据えていたそうです。)そして、21日の公演では、第5話登場の 再生請負人 村木貞之さん ご本人が登場!

・ 企業再生にあたっては、まず職場を活性化して社風を変える
・ むかうべき夢を示しさえすれば、一時の辛抱は可能
・・・などまさに再生企業の経営に関する、リアルなお話もうかがうことができました。

■ わたしは、この本に出会い、やりたいことが見えてきた気がします。 とても良い本ですから、まだ読まれていない方は、是非本屋で手にとってみてもらいたいと思います。


☆★☆――――――――――――――――――――――――――――――
社長、上司が「あの人はすごい!」といわれるピカイチ情報

労務管理に奇策なし!大企業20年、中小企業13年 人事労務畑一筋で
現場をはいずりまわった人事労務担当者が中小企業経営者のために語る

作者: 中川清徳  2010年2月11日号O
◆──────────────────────────────◆
 【経営】村木さんの再建体験
◆──────────────────────────────◆

中川 こんにちは。
社長 こんにちは。
   最近業績がふるいません。
   なにかいい言い知恵はありませんか?
中川 中川は人事労務のコンサルタントですが、経営のコンサルタントでは
   ありません。
   中川に相談しても困ります。
社長 それは失礼しました。
   中川さんはいろんな社長を知っているでしょう?
   これはという方はいませんか?
中川 そうですね。
   たくさんいらっしゃいますよ。
   社長もそのうちのお一人です。
社長 また、おだてて。
中川 では、短期間に赤字会社を黒字会社にした社長のお話をしましょう。
社長 ほう!短期間で。
   是非聞きたいですね。
中川 今は現役を退かれましたが、茨城県に在住の村木貞之さんです。
社長 ほう、元社長だったのですか。
中川 そうです。
   出会いはセミナーでした。
   弊社主催の茨城県水戸市で「コンピテンシーセミナー」に参加されました。
   そのご縁が続いている方です。
社長 あのう、不勉強で恥ずかしいですが「コンピテンシー」とは
   何ですか?
中川 社員は行動をしてなんぼです。
   その行動を高いレベルにすることをコンピテンシーといいます。
社長 もっと具体的に説明してください。
中川 たとえば、評判のいいA子さんと普通のB子さんがいたとします。
   その違いは行動なのです。
社長 はい。
中川 評判のいいA子さんはお客様の名前をすぐに覚えて「中川様」と
   話しかけていたのです。
   しかし普通のB子さんは「お客様」としか言わなかったのです。
社長 若い子から自分の名前を言われるとうれしいですね。
中川 A子さんは優秀な社員です。
   そのA子さんの行動を模範として他の社員の行動を高めようと
   いうものです。
社長 へえ、なんだかよさそうですね。
中川 村木元社長は、赤字会社の再建にコンピテンシーの導入をされました。
   同業者と差別化するにはこれだと感じられたのです。
社長 へえ、そんなにすごいことですか。
   コンピテンシーとやらは。
中川 そうです、すごいのです。
   でも、もっとすごいのは村木元社長です。
   行動の質を高めることを本気で取り組まれました。
   この本気度がもっとも大事だと思います。
社長 ほう。
中川 赤字会社でリストラをしたことで暗かった職場が
   明るく元気のあるあいさつを交わす職場に変身したのです。
社長 それはすごいですね。
中川 笑顔がすてきな方で、従業員と和気あいあいの雰囲気をつくり
   だされました。
社長 へえ、一度お会いしたいですね。
中川 中川式賃金研究所でも数回セミナー講師をしていただきました。
社長 そうですか。
   何というセミナーですか?
中川 「経営が苦しいときに経営者がうつべきこと」というセミナーでした。
社長 今も開催しているのですか?
中川 今は予定がありません。
   セミナーを収録したDVDはあります。
  http://nakagawa-consul.com/dvd-6.html
   上記から購入できます。(宣伝ですみません。良い情報だからお許しを)
社長 はい、早速拝見します。
中川 中川のセミナーに参加された経営者が経営で苦しまれており
   ご相談を受けたことがあります。
   経営は中川は出る幕がありません。
   その場合に村木さんを紹介しています。
社長 へえ。それで実績は?
中川 詳しいことは知りませんが、いずれも軌道に乗っているようです。
社長 すごい実力の方ですね。
中川 そうです。尊敬する経営者のお一人です。
社長 本を書かれていますか?
中川 はい、「決断と再生」を書かれています。
   共著ですが。
   同友館発行
   すばらしい内容です。
   村木さんは第5話で登場します。
社長 それはいいですね。
   早速買います。

(中川コメント)
「決断と再生」安田龍平、櫻田登喜子編著 同友館 1700円(税別)
ません。
良い情報を提供するのが中川の役目と思っていますのでご容赦ください。


今日はここまで。では、またあした。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『決断と再生』の立ち読み

2018-09-14 21:02:37 | 出版
『決断と再生』
中小企業をどん底から救った男たち
■この本の内容
経営危機に陥った企業をいかに再生させたか? 成功とはいえない事例も含め、社長とそこに関わったコンサルタントや金融機関等の支援者たちの姿をリアルに描き、企業再生に必要なものを問いかけている。企業再生手法などもコラムで紹介、解説している。
■著者名 安田龍平 櫻田登紀子 編著
■判型  四六判
■頁数  240
■定価  1,785円(本体1,700円+税)
■第1刷発売 2010年02月05日

□第5話 中小企業をどん底から救った男たち 
 人を変え、会社を変える。プロの再生請負人の信念を築いた。つらい経験とは・・・・。
・企業のプロフィール
社名    株式会社信州硝子
業種    板硝子・サッシ・樹脂建材などの卸
本社    長野県
資本金   5400万円
従業員数  55名、役員4名
創業    大正12年

・登場人物
亀井清二  株式会社信州硝子 代表取締役社長
村木貞之  株式会社信州硝子 副社長兼CEO(株式会社ひたち硝子 元社長)


     1

「チリリリリン……、チリリリリン……」
鳴り続ける電話。うつ向き加減の従業員。事務所には暗い雰囲気が立ち込めていた。
「クレームの電話ばかりなのだろう。誰も取りたがらないわけだ」
平成17年4月、株式会社ひたち硝子の顧問(当時)、村木貞之は、株式会社信州硝子の社長室に向かいながら、ひたち硝子が赤字続きだった頃を思い出し、目の前の光景と重ねていた。
 株式会社信州硝子(以下、信州硝子)は、資本金5400万円、売上高24億円の、長野県では知名度の高い板硝子・サッシ・樹脂建材等の卸会社である。
しかし、3期連続の赤字決算により社長が更迭され、それまで常務を務めていた創業者の末子の嫡男、亀井清二が一年前に社長に就任した。
「事務所は薄暗い。そして机の上は……、やはり乱雑だな」
村木は心の中で呟き、案内された社長室に入った。
「失礼します」
「どうぞ。遠いところ、よく来ていただきました」
社長の亀井が立ち上がり手を差し出した。
「お声をかけて頂き、ありがとうございます」
村木も手を伸ばし、二人は力強く握手をした。しばらくの雑談の後、亀井が本題に入った。
「早速ですが、村木さん。あなたには副社長兼CEOとしてわが社の経営を立て直していただきたい」
村木貞之は、平成9年に茨城県にある株式会社ひたち硝子(以下、ひたち硝子)に社長として就任した。再建に尽力した結果、3年で黒字化を達成し、6年目には無借金経営にまでひたち硝子を立て直した実績を持つ。経営基盤が安定した後は顧問に退いていた。
村木に信州硝子再生の白羽の矢が立ったのは、社長職を退いて3ヶ月後のことだった。
村木と亀井の出会いは、亀井が主要取引先である日本板硝子株式会社に、信州硝子再生のため経営のわかる人材を紹介して欲しいと依頼したことがきっかけである。経営幹部への外部からの人材登用は、亀井にとって大きな決断だった。そして、日本板硝子から紹介されたのが村木だった。
村木は、この日、亀井から直々のオファーを受け、茨城から長野へやって来た。ひたち硝子では顧問として既に第一線から退いていたこともあり、
「ひたち硝子での経験を、信州硝子のために生かせないか」
という強い思いを持っていた。このため、亀井から信州硝子の状況説明を受けた時点で、村木の心は固まっていた。
「分かりました。お引き受けいたします」
村木と亀井は立ち上がり、もう一度固い握手を交わした。

 村木は、信州硝子の副社長に就任後1ヶ月間で、財務分析と部長クラスの従業員と複数回の面談を実施した。そして、赤字脱却のために、以下の4つの方針を打ち立てた。
一.売上志向から利益志向へ ~不良債権整理・債権回収管理ルールの徹底~
二.人事制度改革 ~年功主義から実力・成果主義へ~
三.組織改革 ~ピラミッド型組織からフラット組織へ~
四.職場文化の活性化 ~朝礼の実践・コンピテンシー・マネジメントの導入~

この方針を基に、以下の再生3ヶ年計画をまとめた。
平成17年8月期 経営陣刷新、不良債権処理、債権回収管理ルールの徹底
平成18年8月期 黒字転換、財務改善、従業員のモラル向上
平成19年8月期 営業構造改革、業務改善による物流コストの削減

「会社が疲弊する前の、スピーディな黒字化が必要だ」
村木は、就任後2年目の黒字化を目標とした。そして、この再生計画を実現するために、具体的な施策と目標数値を盛り込んだ。「売上アップによる収益改善」のような絵に描いた餅ではない。社内の施策によって実現可能なものである。再生計画は、目標ではなくコミットメントでなければならない。必達であることにこだわりをもった。
 1ヶ月かけて作成した再生計画も、従業員と共有しなければ意味が無いと村木は考えていた。内容の共有だけではなく危機意識を共有しなければならなかった。
平成17年6月、村木は全従業員を臨時招集し、一人一人に語りかけるように挨拶した。
「現在、当社は不良債権、借入金過大、労務倒産型の収益体質のため経営破たん寸前に陥っています。このままでは会社が倒産して全員が失業してしまいます。足もとの危機を克服して黒字化を図り、皆で力を合せて新しい信州硝子の創業メンバーとなることを決意しましょう。闇夜は続きません。必ず夜明けが待っています。社員の皆様にとって、やりがいのある会社、仕事を通じて自分が成長できる夢のある会社を創業しましょう」
皆が新しい会社に入社し、創業するつもりで再建を果たしていきたいと、村木は思っていた。
その後、村木は金融機関や主要な取引先を次々と訪問し、再生計画を説明した。金融機関や取引先はどこも、計画に理解を示し支援の意向を示した。
ここから、信州硝子の再生が始まった。

     2

「皆さん、おはようございます」
「おはようございます」
これまでの信州硝子には全く無かった光景だった。村木は就任早々、毎日の元気朝礼を導入した。連絡事項を伝えることが主な目的である通常の朝礼とは異なり、大きな声での挨拶から始まる元気朝礼はマニュアル化され、テキパキとした段取りでの進行を従業員に強く求めた。朝礼にはその企業の社風、従業員の質がすべて表れると考えていたからだ。
元気朝礼と同時にコンピテンシー・マネジメントも導入した。コンピテンシーとは「高い業績をコンスタントに示している人の行動の仕方などに見られる行動特性」という意味である。保有している能力ではなく、行動として現れた能力を言う。グループ討議により、職場で重要視される「コンピテンシー」を従業員自らがピックアップし、具体的な行動基準を作った。職場を改革するために、どのような行動を習慣化すべきかを従業員全員が考えた。朝の挨拶や事務所内の清掃等は、村木自らも日々実践した。
 また、平成17年8月より新人事制度を導入した。概要は以下の通りである。
一.年功主義から実力・成果主義への変更
二.少数精鋭主義への転換
三.マネージャ制度の導入によるピラミッド型組織からフラット型組織への転換

給与総額を大幅に圧縮し、年齢や勤続年数だけではなく、組織や業績への貢献度をベースに給与を再配分した。また、同じ仕事を少人数で実施することにより、人材の量から質へ転換を図った。さらに、マネージャ制度を導入し、経営トップと担当者の間にはマネージャが一人存在するのみというフラット型組織へ大幅な転換を図った。
就任から3ヶ月足らずで、村木は、元気朝礼とコンピテンシ―・マネジメントの導入、新しい人事制度の開始と、矢継ぎ早に手を打った。
これには、ひたち硝子で経験した二つの出来事が関係していた。

 ひたち硝子は日本板硝子系の卸会社4社が合併してできた、いわば寄せ集めの会社だった。従業員に愛社精神は無く、あいつは旧どこそこ派だという会話がそこかしこで聞こえてくる。部署間の意思疎通は皆無で、社内には他責的な意識が充満していた。あの部署が悪い、仕入先が悪い、日本の景気が悪い・・・。職場の机を見ても、資料が乱雑に積まれており事務所の雰囲気は暗い。従業員はうつむき加減で電話が鳴っても出るのは遅い。
村木との面談ではベテラン従業員までが、
「うちの会社は、協調性が無いのが特徴なんですよ」
と言う始末だった。
「扱う商品は一流メーカーの一流商品なんだ。当たり前の商いを行えば赤字になるわけがない」
ひたち硝子社長に就任したばかりの村木は、事務所を見回しながら、どうしたら社内の一体感を醸成できるのかを考えた。そして、まずは再生計画を練ろうと考えた。労務費の圧縮、つまり人員整理と給与カットが必要なのは分かっていたが、一年ほどじっくり見てからで良いだろうと思った。ところが、親会社の日本板硝子から早急な人員削減を求められた。毎月赤字を垂れ流している状況を変える。変えなければ、いつまでも銀行や取引先が待ってくれるとは限らなかった。
 当時、ひたち硝子の従業員は80名だった。固定費の圧縮による黒字化を考えた場合、適正従業員数は64名。2割の従業員を削減する必要があった、まずは、早急に希望退職者を募った。
「仮に、優秀な人材が希望退職に手を挙げた場合、慰留すべきだろうか……」
村木は迷った。文書による通達から2ヶ月後、幸いにも、優秀と見ていた従業員は手を挙げることはなかった。希望退職者を募るという、誰が手を挙げるかわからない怖さを感じた2ヶ月間だった。
 翌年は、不採算部門の外注化などにより従業員数は58名まで減ったが、売上高が予想以上に落ち込み、黒字化の見通しは立たなかった。そのため、さらに、社長20%、管理職12%、一般従業員10%という大幅な給与カットも実践したが、それでも黒字化には至らなかった。「倒産」という言葉が目前に迫っていた。村木は、指名解雇を行わざる得ない状況に追い込まれた。
「2ヶ月後に、4名の指名解雇を行います」
村木は全従業員に通達を行った。この時点でいてもらって困る従業員は一人もいない。つまり、会社が平常時であれば解雇などする必要ないのだ。それでも4名を解雇しなければならなかった。管理職を呼び、自分の部下の中から一人選べ、ということもできたのかも知れない。しかし、会社の将来に責任を持つ自らが決断すべきだと村木は考えた。
「このままこの会社に居続けても、本人にとってマイナスになるのでは?」
「もしかしたら将来的に彼の仕事ぶりが会社にとってガンになるかもしれない」
理由にならない理由を自分に言い聞かせ、管理職1名、一般従業員3名を自ら選んだ。2ヶ月間、悩みに悩みぬいて出した結論だった。
該当者に対して、担当の部長が「面接があるので、社長室へ行くように」と指示した。
村木は、理由は言わず、ただ解雇する旨だけを伝えた。
「・・・わかりました」
拍子ぬけするほど、あっさりとした答えが返ってきた。
「社長とはこれほどまでに権限が大きく、社会的責任が重大なのか」
村木は、経営者として最も辛い指名解雇という経験を通じ、本丸である会社を守るため自らの信念を曲げないタフな精神力の重要性をひしひしと感じた。同時に、指名解雇を行わずに再生を果たすことができなかった悔しさも味わった。
「希望退職も指名解雇も行わずに再生を果たしたい」
 信州硝子での元気朝礼やコンピテンシー・マネジメントの導入、年功主義から実力主義への変更は、指名解雇を行わずに再生を図る、そのための施策だった。急激な改革を行えば、変化を嫌がる従業員は自然と淘汰されていくはずだと、村木は考えた。

 また、もう一つの経験が村木の信念を支えた。
 ひたち硝子が黒字化を果たし、ようやく経営基盤が安定してきた頃、そろそろ係長に昇格させようと考えていた入社6年目の有望な営業職の従業員の不正が発覚した。
ある販売店で、総債権残高が数千万円に膨らんだため取引を制限していた先があった。だが、販売店の店主が取引先の工務店から商品を卸してほしいと頼まれたため、「別口でちゃんと支払うから、商品を流してほしい」と担当営業に泣きついたのだ。販売店とつき合いの長い担当者は断りきれず、限度額を超えて商品を流した。このため、その担当営業は、新規販売店を開拓したと会社に虚偽の報告をし商品を流した。その後、工務店から販売店に支払われた代金はサラ金の返済に消え、不良債権はさらに膨らんだ。
「仲間の給料をとったのと同じだぞ、どうするんだ」
不正を行った従業員を社長室に呼びだした村木は、強い語調で言った。
「首にしてください」
その従業員はあっさりと言った。これではこいつの将来はない、そう感じた村木は当人の父親を会社に呼び、三者で話し合った。村木がひとしきり状況を説明した後、父親は重い口を開いた。
「このままでは息子がダメになる。弁済させて下さい」
と言って謝罪した。村木同様、若い従業員の将来を思ってのことだった。損失の3割に当たる300万円を月賦で払う約束をし、父親が息子の連帯保証人になった。
その後、その従業員は懲戒解雇されたが、約束通り月賦で全額を弁済した。
村木は、不正社員の懲戒解雇という経験から、信州硝子ではマネージャ制度の導入と、ピラミッド型組織からフラット型組織への転換を早期に図った。社長の下にマネージャ、その下は担当者というシンプルな組織を実現した。これにより、担当者の管理責任を一人のマネージャに集めた。この体制変更でマネージャの考え方を変え、何か問題があればすぐに社長に情報が来るようになった。担当者も「自分の行動をマネージャが見てくれている」という安心感が生まれ、自ら進んで問題の芽があれば報告をするようになった。
「同じ過ちを繰り返さない」
村木の強い気持ちがそこにはあった。

      3 

元気朝礼やコンピテンシー・マネジメント等の導入により、組織に大鉈をふるうことはもちろんのこと、不良債権の棚卸・整理等の財務面の改革は経営者の最優先課題である。
村木は、従業員一人一人との面談を実施した。「報告書を書け」と言っただけでは何も変わらない。面談により従業員とコミュニケーションを図り、社長自ら「過去の負の遺産は経営者の責任だ。俺に任せろ」という気持ちをぶつけ、一つずつ従業員と一緒になって処理することにより、従業員は安心して自らをオープンにしていく。時間はかかったが、ほぼすべての不良債権は棚卸できた。
 また、債権回収管理ルールを徹底するとともに、たとえ少額の回収遅れであっても、異常債権発生報告として、問題が発生した場合の上司へのホーレンソー(報告・連絡・相談)を徹底させた。敢えて悪い報告を評価した。うそ、隠し事、ごまかしが再建を阻むと考えていたからだ。
 平成17年8月期は、総額2億5000万円もの不良債権を特別損失として計上した。3億円の赤字決算となったが、「膿は一気に出した方が良い」と村木は判断した。金融機関には、あらかじめ作成していた事業計画を丁寧に説明し理解してもらった。来期の黒字化を目指し、資金回収サイトの改善、不要な土地の売却、新人事制度導入による給与の見直し等の様々な施策を実施した。
 また、村木は、短期的だけではなく、信州硝子の3年後や5年後の将来を見据えた施策も講じた。長野県から、中小企業経営革新支援法に基づく経営革新計画の承認を平成17年に取得した。
経営革新計画とは、「経営革新」を行うことにより「相当程度の経営の向上」を図ることを満たす3~5年の計画のことである。承認されると低利の融資が受けられる等のメリットがある。
信州硝子の経営革新は、以下の新事業がポイントである。
① 「窓」完成品販売
板硝子やサッシなどの部材の卸販売が主だったが、ペアガラス工場の隣接地に工場・倉庫を移転することで、ペアガラス+サッシ=「窓」製品の完成品組立ラインを建設、完成品販売体制を充実した。
② 物流拠点の統合
板硝子・サッシと樹脂建材の倉庫が2ヶ所に分散していたところ、新工場建設を機に1ヶ所に集中。積み合わせ輸送による多品種、少量、短納期に対応し、顧客サービスを向上させた。

信州硝子が経営革新計画の承認を受けたことは地元新聞にも掲載され、従業員の気持ちの中にも再生への前向きな気持ちが生まれた。

「皆さん、おはようございます」
「おはようございます」
大きな声、きびきびとした態度、リズミカルな進行。
「だいぶ様になってきたな」
就任早々に導入した当初は、挨拶の声も小さく、進行のための紙に顔を落としていたが、半年経過した今では、朝礼の様子は大きく変わっていた。朝礼だけではない。勤務中の事務所内の雰囲気や従業員の顔つきも明るいものになっていた。
コンピテンシー・マネジメント導入の効果も出始めていた。
「電話に出るのが早くなりましたね」
「事務所に行くと、さわやかに挨拶していただける。とても気持ちがいい」
そんな声が、取引先や銀行から上がるようになったのだ。周りの評価が変わっていくことで、ますます従業員の行動は変わっていった。
「職場の活性化により周りの評価が変わる、評価が変わることで自分の会社にプライドが持て、会社への忠誠心が芽生え始める。この土台作りが重要なのだ」
短期間での改革の実現。その実現のため、村木は副社長就任直後から継続して従業員に語り続けていたことがある。
それは、月に一度のCEOメッセージだった。給与袋に入れられた一枚の紙には、再生を果たすために従業員に求める考え方・行動が書かれていた。特に、業績を伸ばしている会社の特長を訴え続けたのだ。組織形態や人事制度を変えただけで人は動かない。従業員の心を変革するためには、経営者自らが継続して想いを届ける必要がある。村木はそう考えていた。
 信州硝子就任から2年間。副社長からの手紙は24枚に渡り、一度も途切れることなく従業員一人一人の元に届けられた。
 しかし、急激な改革により、会社に適応できずに自ら退職を申し出る従業員も出始めた。副社長に就任して半年後のことだった。
「都合により辞めさせて下さい」
「分かりました。今までありがとう」
村木は、いかに仕事で大きな実績を上げている人間であっても、慰留のための説得はしない、と心に決めていた。辞めたいという従業員には喜んで辞めてもらう。
「今辞めていく人間は、会社の風土の変化に付いていけないものばかり。元気朝礼の導入などで活性化した職場に合わないのならば辞めてもらっても構わない」
ひたち硝子での希望退職や指名解雇という苦い経験が、村木に確固たる信念をもたらしていた。
 一人、二人と従業員が去る中、同じ部署の従業員たちは初めは戸惑っていたものの、数週間もすると彼らが辞める前と何も変わらない、もしくは残った従業員同士で辞めた人の分をカバーしあうことでより連帯感が生まれていた。業績は逆に上がっていたのだ。
従業員の推移は以下の通りだった。
平成17年5月 66名
平成19年4月 57名 (うち、新人採用8名)

希望退職を募ることも指名解雇も行わず、2年間で全従業員の2割強の17名が退職した。徹底した改革の実行により人材は淘汰された。
   
 4

平成18年3月の、ある日のことだった。
「再生三ヶ年計画の通り、今期での黒字化を図り、来期には営業構造改革を実施し、物流コストを削減。2期連続の黒字決算を果たせるものと考えます」
村木はメイン銀行に再生三ヶ年計画の進捗状況を説明した。新規融資・金利引き下げの交渉に臨んでいたのだ。平成18年8月期決算の前ではあったが、黒字化の目処は立っていた。
「計画通り再建が進んでいることは理解できます。ただ、本店の方が、過去の実績・数字をもとに判断している。金利引き下げには応じられません」
銀行の担当者は計画に納得していたものの、新規融資や金利引き下げには応じなかった。
「分かりました。今後ともよろしくお願いします」
銀行からなんとか借り換え融資を取り付け、その場を後にした。容易には進まない。だが、確実に再生へ向かっている。就任からおよそ一年経ち、村木は確信していた。

それから更に一年が経過した。

「ご覧の資料のとおり、平成19年8月期には平成18年に続き、二期連続の黒字決算の見込みです」
平成19年2月。一年前に断られた新規融資と金利引き下げ。今回は実績とともに銀行担当者に相対していた。前回とは違う、村木には自信がみなぎっていた。
平成18年8月期、売上高は21億円と前期に比べ1億5000万円ほど減少したものの、労務費を中心に大幅な固定費の削減による収益力の改善、在庫・売掛債権の圧縮、土地の売却、不良債権の処理による消費税還付1000万円など、財務状況は大幅に改善した。その結果、5期ぶりの黒字決算を果たした。
また、平成19年2月期中間決算から今期の黒字化も見えていた。
「分かりました。金利も引き下げます」
銀行担当者は信州硝子の要請に応じた。計画を粛々と実行し、実績を残し数字として示す。当たり前のことを当たり前に実行して見せたのだ。
「数字だけではない。社員の生き生きとした顔を見れば分かりますよ」
社長の亀井は事務所内を見回し、会社の変化を改めて感じていた。
元気朝礼やコンピテンシー、新しい組織形態や人事制度の導入からおよそ2年、信州硝子は劇的に変化していた。毎朝の朝礼前の10分間、従業員は誰に言われるわけでもなく、自発的に事務所内の掃除を行う。そして、毎朝のキビキビとした爽やかな朝礼。進行表に目を落とすこと無く、段取り良く進んでいく。電話が鳴ると、皆が自ら進んで取り応対する。取引先からの評判も上々だ。また、従業員同士、互いの成果を褒めあう文化が生まれ、事務所は明るい雰囲気に包まれていた。
「本当に会社が変わったんですね」
「これからが大変です。本当の意味での再生はまだ始まったばかりです」
亀井は村木の表情を見た。これからも苦労は続くだろうが必ず信州硝子は再生する。これほど多くの人財を持った会社なのだ、再生しないわけはない。亀井は村木がそう感じていると、その表情を見て確信した。
村木が信州硝子にやってきて二年が経とうとしていた。

 長野市内の某ホテル。信州硝子副社長村木の送別会が盛大に行われていた。信州硝子の真の再生が始まりを告げる会でもあった。従業員は皆、明るく前向きな顔で副社長の退任を祝っていた。これで本当の意味でスタートに立ったのだ、そういう表情だった。そんな中で、村木の最後の挨拶が始まった。
「皆さん、こんばんは。今日は私のために送別会を開催していただき、大勢出席して下さりありがとうございます。2年前の平成17年5月、この伝統のある信州硝子の再生・改革のために亀井社長にお招きいただき丸2年間、社員の皆さんと一緒に働かせていただきました。役員の皆さん、社員の皆さんの2年間に亘るご協力に感謝いたします」
不良債権の整理に始まり、元気朝礼・コンピテンシー・マネジメントの導入。組織の変化に耐えられず辞めていく従業員もいた。黒字までの道のりは決して平たんでは無かった。
村木の挨拶を聞く従業員は、短くも充実した日々を思い出していた。感極まって涙を流す者もいた。
それほど緊張感のある2年間だったのだ。
「皆さんのご努力が実って、会社はトンネルの出口を出ました。しかし、出たばかりです。元気・本気・根気を失わず、山の頂を目指して着実に歩んで下さい。皆さまのご健康、ご活躍、信州硝子の益々のご発展をお祈りしております」
挨拶を終え、2年前と同様に亀井と村木は固く握手をした。
しかし、そこには、2年前とは全く違う光景があった。しっかりと将来を見据えた従業員が、大きな拍手とともに二人を囲んでいた。

こうして信州硝子は倒産の危機を脱し、再生へのスタートを切り、その後も順調に業績を伸ばしている。赤字企業率が全国一の長野県で、信州硝子が再生し黒字経営を続けることができたポイントは以下の通りである。

一.止血を迅速に行い、経営悪化を素早く食い止めた
二.主要な取引先・銀行へのコミットメントにより、協力を引き出せた
三.徹底した組織改革により、全社一丸となって再生に取り組んだ

そしてまた、副社長の村木の手腕が大きいことは言うまでもないが、亀井社長の決断があったからこそ早期の再生が可能だったと言える。自らの経営手腕の不足を正直に認め、経営のわかる人材をCEOとして早々に登用。会社を絶対に潰さないという強い使命感。その使命感が副社長以下、全社一丸となって再生に取り組むことができた一番の要因だったのであろう。

(おわり)ここまで読んでいただきありがとうございました。





 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「決断と再生」出版ストーリー

2018-09-14 21:01:11 | 出版
★書評★
中小企業診断協会の機関誌「企業診断ニュース」5月号(毎月9000部が発行されている)に著書「決断と再生」の書評が取り上げられました。
★講演★
 (1)研究会名:ニュートレンド研究会
 (2)開催日時:4月21日(水)18:30~20:30
 (3)開催場所:学士会館308号室(千代田区神田錦町3-28 神保町駅A9出口)
 (4)テーマ:『「決断と再生」出版ストーリーと中小企業再生の実態』
 (5)主催者:平田仁志 hhirata@c3-net.ne.jp
    ・企業再生を志す仲間たち。税理士などの士業の集まり。
◎著者:櫻田登紀子さん(中小企業診断士)
 講演には、第5話に登場していただいたプロの再生請負人、村木貞之先生や、経営者の方にもご参加いただきました。参加いただいた皆様から沢山のご意見をいただき、私も沢山の気づきが得られました。
 私は、出版を通して、本を書いただけではなく、「商品を企画して、作って売る」というプロセスを実践したのだということ。共著であったことによって、初めて、10人以上の部下を持つという経験を得たこと(部下を持ったことはありましたが、10人以上と言う経験は初めてでした)。
 そして、「決断と再生」は、経営者と支援者との出会いがコンテンツでありながら、まさに多くの出会いによって生まれ、また、多くの出会いを生みだすのだということ。
 それから、講演をさせていただいたニュートレンド研究会会員の、80歳になられる大先輩の坂本晃先生から、懇親会でこんなことを尋ねられました。
「あなたは、高校生の時、将来何になりたいと思っていた?」
 私はハテと考えて、まったく覚えていないですと答えましたら、
「もしかしたら、作家とかジャーナリストとか、文章を書く職業に就きたいと思っていなかった?」 と言われました。
 そしてその時やっと、中学・高校と真似ごとで物語を書いていたことを思い出しました。 中学の時は、旺文社の小説コンクールに入選したこともありました(笑) そして、けっこう、正義感は強かった、と思います。
「そうでしょう。診断士になったばかりの人は、意外と、その頃の思いが仕事に出るもんなんだよ。診断士だから書いたんじゃなくて、あなたにもともと書きたいという気持ちがあったんだと思うよ」
 とおっしゃいました。私は、多感だった高校生の自分と突然出会ったような気がして、胸が締め付けられるような気持ちになりました。 ぼんやりと未来に夢を持っていたあの頃の私に、「ほら、こんな本を書いたよ」と知らせてあげることができたような気がします。
 診断士を目指す人も、診断士になったばかりの方も、もしかしたら数年後に高校時代の自分と会えるかもしれませんね。

◎大内康弘さん(中小企業診断士・特定社会保険労務士)
昨晩は中小企業診断士の研究会に参加しました。正式に加入しているのではありませんが、sakuraさん の講演があるといので聴きに行きました。
テーマは事業再生です。2月に出版された決断と再生 を中心に話を伺いました。
中小企業診断士として、事業再生の知識があることは基本中の基本であることを実感しました。
その知識を実務の場で活かせるためには、経験も大事だと感じました。
昨日は、一般の企業経営者も参加されていました。
経営者の立場でのお話も伺えたこと、ベテラン中小企業診断士の方のお話を聴くこともできて、とても有意義な時間を過ごせました

◎Cota(中小企業診断士)
「決断と再生」中小企業をどん底から救った男たち 
 安田 龍平  櫻田 登紀子 編著
 書店でこの本が並べてあるのをみて、面白そうだと思いました。ただそのときは、他に買う予定の本があったので、次にでも買おう、と思っていました。
 そして後日、いくつかの書店をみたのですが、すべて売り切れで、アマゾンでやっと手にいれたわけです。
 内容は、ノンフィクションのため、企業再生の実態がなまなましく伝わってきます。全く経験のない私にも分かりやすく、読み物としても非常に面白い本でした。
 そして本文の実例7つの間に、企業再生のキーワードについて解説もまとめられています。そのため、知識的なことも非常に受け入れやすかったです。
 さて、昨日は研究会に参加してきました。
 この本の「出版ストーリーと中小企業の実態」について、著者である櫻田登紀子さんの講演を聴きました。本を読んだだけでも、企業再建の大切な部分はやはり社長の熱意だな~と思いましたが、お話を伺い、あらためてそう思います。
出版までの道のりをうかがう中で、実際の出版にこぎつけたことについては、なにより櫻田さんの熱意だと感じました。
 さらには、登場人物の方の話もきくことができ、熱意をビンビン感じました。
お話の中であった「結果に責任をもつ」こと、
 そして櫻田さんのように、ひとつひとつの仕事を丁寧にやること、
 新たな意識で心がけていきたいと思います。
 。。。学びの多い夜でした。

◎MORITON(某大手金融機関に勤務 事務オペレーション部門の管理職)
「決断と再生」の共著者、櫻田登紀子先生 の公演に行きました。 (21日、ようやくお会いできました!)
 そこで今回は、この本の凄さについて、公演内容を踏まえつつ感想を書かせていただきます。
 決断と再生―中小企業をどん底から救った男たち/安田 龍平
¥1,785  Amazon.co.jp
 既に読まれた方が多いと思いますが、 この本のすごいところは、
(1) 最新のノンフィクション ~徹底した取材~
 本書に収められた7つの物語すべてに、再生現場のリアリティが宿っている。 企業再生にかけた男たちの熱き思い、そして「再生」を果たしたときの清々しい感動。 それは、最新の再生事例ばかりを徹底的に取材した、貴重なノンフィクションだからこそ伝わるものだ。 
 再生した企業といえども、自社が事例としてとりあげられることには少なからず抵抗感もつ。 ましてや進行中の事例なら、なおさらだろう。 
 取材拒否、行き違いによるトラブル、執筆者降板など幾多の危機に見舞われた・・・そんな厳しく、貴重な取材を通してしか得ることのできない本物の凄みがこの本にはあると思う。 
(2) 細部まで、とことん「こだわり」
 タイトルはもちろん、カバーデザイン、帯のキャッチコピーなども出版社に頼ることなく、全て櫻田先生のこだわりで出来たもの。
 特にカバーデザインは素晴らしい!
 シンプルでいながら実に力強く、無駄なところが一切ない。 本の内容ともよく合っているし、とても上品。
(3) 再生手法より経営手法
 人間ドラマでもなく、再生スキームの解説でもない。 中小企業診断士に一番求められる、「経営の視点」を中心として書かれている。 だから参考になる。 ( これは企画段階からコンセプトとして据えていたそうです。)
 そして、21日の公演では、第5話登場の 再生請負人 村木貞之さん ご本人が登場!
・ 企業再生にあたっては、まず職場を活性化して社風を変える
・ むかうべき夢を示しさえすれば、一時の辛抱は可能
・・・などまさに再生企業の経営に関する、リアルなお話もうかがうことができました。
■ わたしは、この本に出会い、やりたいことが見えてきた気がします。 とても良い本ですから、まだ読まれていない方は、是非本屋で手にとってみてもらいたいと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

誕生日プレゼント

2017-03-17 08:57:47 | 出版
顧問先の会社では、その月にお誕生日を迎える社員を社長室に招き、プレゼントを贈呈している。3月は11名(別に、支店2名)。
私もついでにお祝いを頂いた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ドキュメント『再生への道』の立ち読み(1)

2017-01-17 19:54:59 | 出版




 経営不振、倒産の危機に陥っている企業を見ると、その原因の根っこの部分はみな共通しています。連続赤字、不良債権の山、借入金の三重苦に苦しんでいます。
 これらをもたらした原因を明らかにし、短期間のうちに取り除く。これが会社を再建するということです。
 そんなことはわかっていると経営者の方はみな言います。が、わかっていながら、むずかしい、できるわけがない、それをやっては今後に差し支えるなどと言って、手を打たずにいる。手を打ったとしても、中途半端なことしかやっていない。時代や社会環境のせいにして思考をストップさせる経営者も少なくありません。
 つまり、会社が再建できるかどうかは、経営者が本気になるかどうかで決まるのです。本気で会社を生き残らせたいのか、本気で会社を改革したいと考えているのかどうか。経営者の本気度で決まります。
現在、私はターンアラウンド・マネジャー(再建請負人)の看板を掲げていますが、もともとは板硝子メーカーの営業マンでした。営業には販売店や問屋を相手とするルート営業と、設計事務所や建設会社を相手にする技術営業があり、私はルート営業担当でした。そのため、営業担当、課長時代には取引先の監査役を何社も務め、決算監査をやっていました。
 そうした経験を買われて89年、46歳のときに東京都内にある販売子会社に専務取締役として出向しました。これが再建請負人としての第一歩です。ここでの3年間で、売上管理と経理の違いや、人材の採用・教育の大切さなど、経営者のやるべき仕事、役割を学びました。
 その後、92年に都内B社に専務として、95年に東北T社に代表取締役社長として出向。そして97年に、赤字続きで苦しんでいた茨城県内の卸売業者4社が合併した株式会社ひたち硝子の二代目代表取締役社長に就任しました。
 同社では、「厳しく、楽しく、たくましく」をモットーに、経営者としてたずさわりそれまでの赤字を3年弱で黒字に転換。以後も増収増益を続け、05年に取締役顧問に退きました。
 同年、ムラキ総研を設立し、ターンアラウンド・マネジャーを名乗りました。すると、親会社から依頼があり、独立系の創業80年以上の老舗問屋・株式会社信州硝子のCEO・代表取締役副社長として再建を託されました。
 契約期間は2年間。これまでの体験をすべて注入して再建にあたり、1年数ヵ月で黒字化に成功。2年目に増収増益基調としたところで、契約通り退任しました。

■ 改革に聖域なし
――― 長引く建設不況と円高による輸入品の流入で、板硝子業界はバブル崩壊後、苦境の一途。当時、「日米貿易摩擦問題」を契機に、系列化の排除、リベート制度が廃止され、従来体質の問屋は商売が成り立たなくなってしまった。そんな環境下で、にっちもさっちもいかない会社を任されました。

 まず必要なのは、再建を担う責任者にその会社の1年後、2年後の姿が見えるか、絵を描けるかどうかです。私はひたち硝子の再建に約3年かかりました。が、信州硝子では2年足らずでできた。それは茨城で経験したことをもとに、長野で絵が描けたからです。
 たとえば、ひたち硝子では現業部門、管理部門の整理、効率化を進めましたが、当初は営業部門は聖域として手をつけませんでした。販売会社は営業第一と考えたからです。
 ところが、営業が改革を遅らせた一番の原因でした。営業管理は、売上、回収、利益の3項目がありますが、売上しか見ない営業が何人もいました。原価を割って売ったり、不良債権を膨らませたり、赤字を隠すため経理処理せず何年も仕掛在庫のまま残していたり……。
 改革に聖域を設けてはいけない。この教訓も長野で活きたわけです。

「改革と改善は違う」ということも、茨城時代に学びました。
 これまで100円でつくっていたコップを80円とか85円で作るのは改善。50円以下でつくらないと改革にはならず、グローバルな時代の競争に勝てない。
 改革は、誰がみても分かる劇的な変化です。再建を担う責任者は、この仕掛けを立案し実践するのです。


■ 根っこ以上の木は育たない
――― 会社再建とは何か? 一言で言えば、これまでの体制、経営陣が手をつけなかった経営上の問題点、解決できなかった問題点を、手遅れになる前に、一気に取り除くことです。

 経営悪化の問題点は、冒頭に述べた三重苦に行き着きます。解決できるのは経営トップ以外ありません。改革が進まないとしたら、それは社長がサボっているということ。社長の怠慢が会社の経営を悪化させるのです。
 赤字縮小のためコストカットしようというとき、給与体系の見直しは避けて通れません。年功序列型は即刻改める。それを、長年一緒にやってきたからなどと、しがらみに引きずられて進められないのでは明日はありません。
 不良債権の回収もトップが自ら相手先に出向かなければ話になりません。「3割カットするから7割払え」などといった交渉は、トップでなければできないからです。
 支払の悪い先には売らないのが基本、そして不良債権や不良在庫は損切りし、損失を計上する。赤字決算だと銀行融資が打ち切られると心配する人がいるでしょう。しかし、それは再建計画書などをまとめて説明することで解決できるはずです。
 
再建とは、木にたとえるなら枝葉を落として根っこ、すなわち経営基盤をつくることです。改革を進めると、やる気のない社員、改革についてこれない社員は、木の幹を揺さぶると活きの悪い枝葉が落ちるように、自分から辞めていきます。そのかわり根っことなる人材を、経営が厳しいときでも3年後、5年後のことを考え、採らなければなりません。
 根っこ以上の木は育ちません。人材だけでなく、職場風土の活性化が大切です。収益構造や財務面、商品力、技術力も含め、根っこ(経営基盤)をしっかりつくっていくことが必要です。
 長いトンネルから抜け出るとともに、次の成長路線の入り口に立たせることができるかどうか。ただ数字を瞬間的に赤字から黒字に戻したというだけでは、必ずもとのトンネルに引き戻されてしまいます。
 成長路線のスタートラインに立ったという実感を、経営トップも社員も感じ、将来に期待を持てる状態に持っていくことこそが再建なのです。



 再生には当然、痛みがつきまとう。だが、社員の気持ちが痛んだ状態で再生に時間をかけてしまっては、社員はまた、途方に暮れるだけ。社員たちに言い聞かせたことは、“短期間でともに乗り越えよう”ということ。「闇夜は続かない。必ず夜明けが待っている」と。

■ 長期的な”改善”でなく、短期に状況を一変させる”変革”
会社再建の要諦の第一は、再建期間は短期にということです。長期的な“改善”ではなく短期に状況を一変させる“変革”が必要となります。
ターンアラウンド・マネジャー(再建請負人)である私の場合、会社再建を果たす期限は1年半、遅くとも2年以内と考えています。

 短期間で再建させなければならないのは、一般の経営者が再建にあたる場合も同じでしょう。
 再建には当然痛みが伴います。社員の給料カットが避けて通れないケースも多いはずです。それなのに示された再建計画が5年、10年などと長期にわたるようでは、社員は途方に暮れてしまいます。
 計画自体は短期だったが、期限内に黒字に転じることができず、締め付けがズルズル続くというのもいけません。社員は途中で疲弊してついてこられなくなります。
「いつになったら給料は元に戻るのか」
「いつになったらボーナスが出るのか」
 などと考えるようになって士気が落ち、社内の雰囲気もかつての怠惰なものに戻ってしまうのです。
 会社再建は、時間的に余裕を持ってじっくりと取り組む「改善」では達成できません。追い込まれた泥沼状態からすみやかに抜け出せなければ、会社再建など不可能です。再建に向けて必要なのは、短期間で状況を一変させる、抜本的、劇的な「変革」なのです。
 再建実務自体は、むずかしいことはありません。問題点を発見したら、あとは手順通り粛々と作業を進めるだけです。手の打ち所もだいたいは決まっています。それをしっかりやり遂げられるかどうかです。
 ところが取引先や社員、社員の家族などのことを考えて、問題点の洗い出しをためらったり、聖域をもうけたり、決断や実行を躊躇してしまう経営者が少なくありません。「改善」でお茶を濁そうとする経営者も多い。前回述べたように、再建できるかどうかは経営者本人が、本気になれるかどうかにかかっていることを忘れてはいけません。


■ 社員にどんなメッセージを送るか
――― 信州硝子のCEO・代表取締役副社長に就任したのは、2005年5月の大型連休明け。就任するとすぐに情報収集に努め、再建計画の作成にあたった。1ヵ月後の6月11日、全社員を集め、1枚の紙にまとめた「信州硝子の再生・改革計画」の要旨を発表しました。

 再建計画は、主要仕入先や取引銀行にだけでなく、社員に示すことが必要です。会社再建には社員の理解と意識変革が不可欠だからです。社員の意識が変わらなければ再建など不可能です。
 私は社員に説明した計画要旨の冒頭に、「はじめに」として次のように記しました。

「現在、当社は不良債権、借入金過大と、労務倒産型の収益体質のため、経営破綻寸前になっています。失業するより、力を合わせて『ベンチャー企業=新生・信州硝子』の創業メンバーになることを決意しましょう。
 闇夜は続きません。必ず夜明けが待っています。生き残る条件として、足もとの危機を克服し、黒字化を図り、『社員にとって、やりがいのある会社、仕事を通じて自分が成長できる夢のある会社』を創業しよう」

 そして具体的な再生・改革計画を示しました。
① 売上指向から粗利重視へ
 固定費の大幅削減、不良債権処理、与信回収管理ルールの徹底と、まずは健全経営に転換することを宣言します。
② 人事制度改革
 年功序列型賃金を成果主義・実力主義に改めます。
③ 組織改革
 ピラミッド型組織をフラットな組織に変更するを掲げました。
④ 職場風土の活性化と差別化
 職場を、そして社員の意識を劇的に変えるために、企業風土の活性化策として、活力朝礼の実践、差別化戦略としてのコンピテンシーの導入を盛り込みました。


■ 風土を劇的に変えるから、
「あの会社は変わった」と言われる

―――信州硝子には朝礼がなかった。ときどき全社員が朝、召集されることはあったが、それは社員にハッパをかけたり説教するための場でしかなかった。

 信州硝子の場合、よい社風、よい企業風土と呼べるものが私には見えませんでした。
 会社再建では、社員をやる気にさせ、社内の雰囲気を明るいものに変えることもたいへん重要です。それには職場の雰囲気を劇的に変える必要があります。
 社風、企業風土の確立には、朝礼を活用することが一番です。朝礼には、その企業の社風、社員の質などのすべてがあらわれます。まさに朝礼は“企業の縮図”です。朝一番に、さわやかで、楽しく、リズミカルな職場朝礼を創造することで、“ヤル気集団”が生まれてきます。
 当番社員の「皆さん、おはようございます」の声に、全員が元気よく「おはようございます!」と挨拶すること、連絡事項を手短に伝えることなどのルールを決め、毎朝の朝礼を導入しました。すると、たったこれだけのことで、社員の表情が明るくなり、態度もキビキビしたものに変わりました。

 そして効果が高かったのが「コンピテンシー」の導入です。「コンピテンシー」とは、「高い業績をコンスタントに示している人の行動の仕方などに見られる行動特性」と定義されており、簡単に言えば、「職場風土を活性化する、よい習慣づくり」ということです。
 それまで同社では、事務所はうす暗く、職場の清掃にまったく無関心、女性社員がたまにデスクの上をきれいにする程度でした。電話がかかってきてもすぐに出ようとせず、平気で相手を待たせていました。来店のお客さまに対しても、ろくな挨拶をしていませんでした。
 導入にあたっては、
「多少改めましたという程度では駄目。劇的に変わらないと他人は評価しないものだ」
 と社員に言いました。

 しだいに銀行とか取引先から「電話に出るのが早くなった」「事務所に行くと、さわやかに挨拶をしてくれた」「信州硝子は変わった」という声があがるようになりました。
 掃除についても、朝の朝礼前に全員が自主的に10分間掃除をするようになりました。
 企業風土は非常に重要です。活性化することによって職場が明るくなり、会社にプライドを持てるようになり、そこから会社に対する忠誠心も芽生えてくるのです。




 黒字基調に戻すために、固定費削減は避けて通れない。人員削減という止血のための苦しい決断を伴う。希望退職を募って辞めていく人たち、会社の先行きは暗いと、長く勤めてくれた人が辞めていく。「再生することが社員のため」の信念を決して曲げることはなかった。

■ 先に血を止めなければその先が続かない
─── 会社再建には社内改革が必要だ。改革には当然ながら痛みを伴う。だが、社員が望むのは今日の苦難より、先の見通しである。経営者は明確なビジョンを打ち出し、その可能性を確信的に、そして明快に語りつづけ、社員に希望と安心を与えなければならない。

 再建でまず手をつけなければならないのが、『止血』です。それに即効果があるのが、人員削減と社員の給与総額の圧縮です。会社再建にはこの2つの固定費削減策の実行が避けられません。毎月、毎期、ダラダラと流れ出ていく固定費を抑えることこそ、その他の再建計画に先立って、まず行うべきことです。
 実は私は、1997年3月にひたち硝子の社長に就任し、実際に赴任するまでは、人員削減は期末である同年12月頃をめどに行えばいいと考えていました。内情をじっくり把握し、再建計画を練ったあとにやればいいと。
 ところが親会社から、「時間的余裕はない。希望退職者を募集するのが先決だ」と言われました。毎月赤字を出し続けているのだから、すぐに手を打てというわけです。このとき、止血こそが再建を託された経営者が、第一にやるべきことなのだと学びました。
 止血を怠ったままでは、銀行が支援を継続してくれたり、仕入れ先がいつまでも納入してくれることなども考えられません。
 当時、長引く建設不況と円高による輸入ガラスの流入で、業界は苦境に立たされていました。94年をピークに板硝子の需要は落ち込み、ピーク時を100とすれば需要は約40%減。価格も約40%近くダウンという厳しい事態に追いやられていました。


■ 辞めたいという人間に慰留する必要はあるか
─── 97年4月1日、ひたち硝子の社員数は私を含め80名だった。適正社員数は2割減の64名と計算した。2割減れば、売上高が伸びなくてもなんとか赤字を脱却できると。5月31日、同年春に入社した新入社員も含め全社員に対し、希望退職者の募集を文書で通知した。募集人員は、期末までの自然減を考慮して11名。会社都合による退職金に給料1ヵ月分をプラスするという条件で、募集期間は6月1日から6月15日までとした。

 人員削減の対象となる人物像というのは、やはりあります。
 第一に、挨拶や返事がちゃんとできない人。
 第二に、素直でない人、嘘をつく人。
 こういう人はなかなか自己改善が難しい。朝礼で練習しても大きな声が出せない、リーダーの目を見て話せないという人です。
 隠し事をしていたり、ルールを守らなかったり、会社に損害を与えているケースがあります。少なくともこういう人がいると、チームやグループ内の人間関係が悪くなる。
 人員削減で大切なことは、優秀な人材を辞めさせず、いらない人材、いてほしくない人材に辞めてもらうことです。優秀な人材が辞めてしまい、ただ会社にぶら下がっているだけの社員、マイナスの社員しか残らないのでは、再生計画も何も話になりません。それこそ会社消滅が現実の話になります。
 希望退職者を募集した際、優秀と見ていた人間は幸い手を挙げませんでしたが、もし手を挙げたら説得して慰留させようと考えていました。  
 しかし、いかに優秀な人材でも、辞めたいと言う人間に、慰留のための説得をしてはいけないと、これはひたち硝子での経験で感じました。結局、11名の募集に対して8名が手を挙げ、その後、自己都合や定年などで期末までにほぼ予定通りの17名が退職しました。
 こういう時期に辞めていく人の理由は、会社の先行きが明るくないという思いや、朝礼を導入するなど職場がどんどん活性化してくるのについて行けず、居づらくなったというものです。
 ところが面白いことに、それまで10人だった職場が8人とか9人になると、残った社員たちが辞めた人の分をカバーしようと燃え、さらに職場が活性化するようになったのです。改善など新たな工夫も生まれ、前と変わらないか、従前以上の業績が上がるようになりました。
 いくら上から見て、必要な人材と思っても、無理やり説得して、イヤイヤ残ってもらうより、残った人間が知恵を出しあい、発憤して仕事をしたほうがコストパフォーマンスが高いことがわかったわけです。それからは慰留する考えは捨てました。いったん辞めると言った人には、喜んで辞めてもらう、それが鉄則だと学びました。


■ 黒字体質にするには指名解雇もやむなし
─── 翌98年、ひたち硝子は不採算部門であったサッシ加工部門の外注化などで収益改善を進め、人員も12月の期末時には58名になった。が、売上高が予想を下回ったため、同年度での黒字転換ができなかった。

 決算対策のため、10月11月の2ヵ月間、社長20%、管理職12%、一般社員10%の給与カットを実施しましたが黒字転換できませんでした。
 ただ、給与カットにより会社が危機的状況にあること、現状のやり方、考え方、意識の持ち方ではダメだ、自らを改革しなければ、という危機意識を全社員に浸透することができました。
 翌99年、経営は土壇場に立たされ、市況がさらに悪化しても黒字体質に転換させるには、計4名の削減が必要でした。ここまでくると、希望退職募集という生ぬるい手段でなく、指名解雇をやらざるを得ません。決算が出る2月末に指名解雇を行うことを全社員に通知しました。
 では誰を指名するか。自分ひとりで、2ヵ月間近く社内を見ながら、「あいつをカットしたらどうなる」「こいつを辞めさせたらどうなる」と、頭の中でシミュレーションを繰り返しました。
 もうこの時点で、いてもらっては困るような社員は一人もいませんでした。そこで自分なりに、「彼の仕事ぶりでは将来的に社のガンになるかもしれない」「このまま仕事を続けてもマイナスにしかならないのでは?」などと、会社が普通の状態にあれば解雇理由にならないことを理由に、課長1名、現業3名を選び出しました。
 2月末頃、Xデーとなる1週間前の月曜日に、該当者を個別に呼んで理由も言わず、ただ解雇する旨、通知しました。みな、指名解雇を行うことはわかっていましたから、納得はしていなかったでしょうが、抵抗もなく「わかりました」と答えて辞めてくれました。
 辞めたあとのトラブルもありません。赤字会社ですから、退職金の割増もありませんでした。
 この時は社長という役職の権限の大きさ、社会的責任の重大さを痛感しました。さまざまな場面で決断を下し続けなければならない経営者。いちばん辛い決断が指名解雇でした。私は、会社は社員のためにあると考えています。ですから経営者は、人に優しい、人間重視の経営を心がけなければならないと信じています。
 しかし、会社再生を図ろうというときには、希望退職者を募り、さらに指名解雇を行わなければならない場合もある。全社員の給与を下げるような給与体系の改訂が必要なこともあるかもしれません。
 そうしたとき経営者は、これが残る社員のためであるとの信念を一歩も引かずに貫く覚悟と、精神的なタフさをあわせ持つことが求められるのです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ドキュメント『再生への道』の立ち読み(2)

2017-01-17 19:51:37 | 出版


階段は上から掃除しなければ、いつまでたってもきれいにならない。再建も同じ。トップの意識から変えていかなければ、決してすべての社員の意識は変わらない…。

 ■ 今に慣れきった人に再建は不可能。
“異質”遺伝子が会社を変える

――― 階段は上から下へ掃除するもの。下から上に掃除していっては、階段はいつまでたってもきれいにならない。会社再建も同じで、現場の担当社員や中間管理職、役員より、まず最初に変わらなければならないのは経営トップだ。

 中小企業は社長しだい。99%、経営者で決まります。ですから、経営者が変わると会社も変わることができます。
 会社が経営危機に陥ったとき、もっともいいのは経営者が交代することです。
私が2005年から2年間、CEO・代表取締役副社長に就いた株式会社信州硝子の幸運は、私を招いたことではなく、社長が交代したことだったと思います。
 長野オリンピック後の需要急減に対応できず、経営危機に追い込まれてしまった、創業者の長女の婿である前社長に代わり、それまで常務を務めていた創業者の末子である嫡男が社長に就きました。
 新社長は社内の抜本的改革の必要性を痛感し、経営のわかる人材を外部に求めたほうがいいと判断して、主力の仕入メーカーに相談を持ちかけ私を招いたのでした。
 前社長は、業績悪化の原因は会社を取り巻くビジネス環境の激変にあり、自分は一所懸命がんばっていると、辞めるつもりはなかったそうです。
 ところが、このままでは会社の存続が危ういと危機感を持った新社長が立ち上がり、大株主の同意を取りつけて前社長を更迭しました。
 私を招請しても、新社長に危機感がなければ、再建はうまく行かなかったでしょう。新社長が「俺が、俺が」とならず、裸になって、きちんとした会社にしたいという意欲に燃えたからよかったのです。
 危機感と、社の経営に強い意欲を持つ人材が社内にいたことが、同社にとって幸運でした。
 では、再建請負人の役割とは何かというと、私は“異質ビジネス遺伝子”として社内に刺激を与えることだと考えています。
 下関のトラフグを生きたまま京都や東京の高級料亭に陸送するとき、生け簀の中にフグだけを入れておくと、何割か死んでしまう。ところが、違う種類の魚を一匹入れておくと、フグは死なずに到着するそうです。
 私の任務も同じです。再建が軌道に乗ったら終わりです。
「糞の中にいる虫は、糞の臭いを知らない」「大酒飲みは酒の鑑定はできない」と言います。外の人間が見ると、「へー、よくこれで潰れずにやっていけるなあ」と思うようなことも、その中にはまっているとわからなくなる。それが当たり前だと思っている。
 会社の常識は世間の非常識。それをわからせることが、異質ビジネス遺伝子を持った再建請負人の仕事だと思っています。

■ 挨拶の実践ひとつで一体感が出るようになる

―――しかし、多くの中小企業は、倒産の危機に直面したどん底状態にあるようなときに、社長に代わって経営を引き受けようという意欲を持った人材など、肉親といえどなかなか出てこない。結果、経営者がそのまま社を引っ張り続け、再建を目指さなければならないケースがほとんどだろう。

 そうした場合も、経営者が意識や心構えを変えることで、会社を変えることができます。
 まず変わらなければならないのはトップの心構え。トップが変わることから会社再建が始まります。それが原点です。
 続いて着手するのが、全社員の危機感の共有化、そして企業風土の改革です。活力朝礼やコンピテンシーの導入などが効果的です。
 ただ、これらは言葉や書面で指示するだけでは高い効果は望めません。トップがまず意識を変え、実践しなければなにも始まりません。
 例えば挨拶。社員に「出社したら『おはよう』と挨拶するように」と言うだけでは駄目です。社長が明るく大きな声で社員に「おはよう!」と言い続ければ、その日のうちに社員は挨拶するようになります。
 社員が挨拶を交わすのを眺めているのではなく、トップが意識を変えて、自ら実践しなければいけません。
 業績不振の会社には共通の特徴があります。社員に元気がない。お客さまが来ても挨拶しない。会社に一体感がない……。こうしたことも、挨拶の実践一つで、変えることができるのです。
 むずかしいことではありません。要は経営者が危機感を持って、意識改革できるかどうか。それにかかっているのです。

■ 社員全員のベクトルを同じにするマネジャーの役割

――― 経営トップの考えをマネジャーに伝え、マネジャーはそれを担当者に伝える。このとき重要な役割を担うのが、トップと担当者を結ぶマネジャーの存在だ。

 私の好きな言葉に、禅の『啐啄(そつたく)同時』という言葉があります。鳥のヒナが卵から孵るとき、卵の殻を内側からヒナがコツコツとつついて合図を送ることを「啐」と言い、親鳥がそれに応じて外から殻をつついて破ってあげることを「啄」と言います。この!啐と啄が同時に行われることで卵の殻が割れ、ヒナが孵ることができるのです。啄が早くても、遅くても、一瞬でも時期を外すと、中のヒナの命が危ない。そこから「機を得て両者相応じる得難い好機」のことを「啐啄同時」と言うのです。
 経営者とマネジャー、上司と部下も、阿吽(あうん)の呼吸で啐啄同時の関係になれれば、会社の再建も容易に軌道に乗るでしょう。
 ただ、鳥の親子は本能で啐啄を同時に行いますが、人間はそうはいきません。日ごろからよく対話すること、話し合うこと、会議をすることが必要です。対話することで情報の共有化を図り、ベクトルを同じ方向に向けなければなりません。
 社員全員のベクトルを同じにするには、マネジャーの役割が重要になります。逆に言うと、おかしな会社はちゃんとしたマネジャーが育っていません。年功序列でただ年をかさねただけで、リーダーシップを持ち合わせていない中間管理職しかいません。
 ではどうするか。
 これから経営再建しようという会社に、再建請負人はやってきても、マネジャークラスの人間をよそから持ってくるのは大変にむずかしいことです。生え抜きの社員を教育して、愛社精神を持ち、リーダーシップを持った社員を発掘してマネジャーに育てるしかありません。
 しかし、教育といってもむずかしいことはありません。危機感を持って意識改革した経営者が、日ごろの対話や会議を通じて自分の考え、思いを伝え続けることで、情報を共有し、ベクトルも自ずとあってきます。
 トップの危機感・意識・思いを、マネジャーに下ろし、マネジャーが担当に下ろす。階段は上から下に、順番に掃除するものです。


 赤字会社では、ありとあらゆる数字にメスを入れていかなければならない。現状を隠そうと数字を操作することは延命にはつながらず、死期を早めるだけだ。それは「人」についても同じことが言える。

■ 財務情報の信頼性を上げ、現状を正確に把握する

――― 一度左前になった会社を再建するのは、なまやさしいことではない。社員も危機感を共有し、経営者と一丸とならなければ再建はおぼつかない。自己保身を図ることなどを考えて、経営者とベクトルを同じくしない社員がいると、再建計画は内部から崩壊していく。

 再建のプロセスで、うそ、隠し事、ごまかしがあってはなりません。特に、次の3つについてはなおのことです。
 第1は「月次資料」の信頼性確保。赤字会社がまず手をつけなければならないのは、財務情報の信頼性を高めることです。これがおろそかだと会社の置かれている状況が正確につかめません。業務から発生する「数字」を信頼性のあるものにする。その数字をいろいろな視点、切り口で集計、分析する。そうしないと問題点が見つからず、次のアクションが起こせません。
 赤字会社では、売上、仕入、在庫、粗利など、ありとあらゆる数字が信用できないというか、数字のあちこちに問題があります。たとえば在庫や不良仕掛かりなど。本来は処理しなければならないのに、さも価値があるように装うということは、それだけで会社の置かれた状況を見えなくします。
 どの部門が儲けを生み出していて、どの部門が損しているのかがはっきりしないと、この部門には人を重点的に配置しよう、この部門は廃止しようなど、経営資源の選択と集中の判断もつきません。逆にいえば、それが正確に把握できるようになればいろいろな手が打てるので、業績は着実によくなります。
 しかし、数字の信頼性を上げることは簡単なことではありません。赤字が習慣化している会社というのは、えてして不良在庫も長年処理しないまま来ていて、そのため、業務の棚卸しもいい加減になり、利益の計算もいい加減になっているものです。
 月別、部署別、商品別、顧客別、担当者別の売上、利益の正しい数字が時期を失せず出てくるよう、意識と仕組みを改めなければなりません。
 疑わしい数字の精査は、時間をかけずに早急に行わなければ意味がありません。時間がとられては、やっと出てきた数字も時期が過ぎたために意味がなくなることが往々にしてあります。


■ 将来有望な社員でさえ、会社を裏切ることがある

―――第2は「異常債権発生報告」の厳格化だ。営業担当が上司報告を怠ったり、隠したり、値引き処理を先送りしていると、不良債権がどんどん貯まり、結果、資金不足解消のため利益を考えない売上に走り、売上至上主義、資金繰りに走り回る悪循環に陥る。

 悪循環を止めるには、たとえ少額でも未収金が発生したときにすぐ上司、トップに報告することを徹底することにつきます。
 すぐ報告しないと、信用調査とか出荷停止などの手を打てず、ずるずる不良債権を膨らませ続けることになります。負の資産の処理、過剰債務の解消がなければ会社再建などできるはずがありません。
 りそなホールディングスの細谷英二会長は、不良債権の処理にあたって、全行員に次の3つのメッセージを伝えました。
 ① 厳格に
 ② うそをつくな
 ③ 先送りするな
 中小企業であっても、まさにこれなのです。
 担当者がうそ、隠し事、ごまかしをする理由は、自己保身だけではありません。情にほだされてということもあります。
 ひたち硝子時代、将来有望と見込んでいた若手の営業社員がいました。ある販売店が破綻して手形ジャンプが続き、総債権残高が何千万円かに膨らんだため、その販売店の再建策を話しあいながら、債権残高がこれ以上増えないよう、限度取引をしていました。
 ところが販売店は取引先の工務店から商品を卸してくれと言われ、その店主は営業社員に「不良債権とは別にちゃんと支払うから」と泣きついてきた。
 店主と長いつきあいの彼は情にほだされ、新しい販売店を開拓したと社にうそをついて架空口座を開き、商品を流した。が、工務店から販売店に入った代金は、サラ金への返済に回され、さらに不良債権を膨らませました。
 彼は当然、解雇です。が、能力を認め、将来を嘱望していた人間に裏切られ、私は悔しい思いをしたのと同時に、一時人間不信に陥ってしまいました。


■ 役員間のホウレンソウが全社一丸の鍵を握っている

――― 第3は「ホウレンソウ」を根づかせること。“悪いことの報告こそ大切”ということをいかに理解させるか。それには、ミスは報告したら叱らない、ミスを隠していたら罰を与えるという方針を周知、徹底するといい。

 会社再建では役員会をいかに運営するかが重要です。役員が一致団結することが再建の前提であり、役員それぞれに異なった思惑があっては再建など無理な相談です。経営者とベクトルを合わせないといけません。
 その役員が集まる役員会で、「情報の共有」がしっかりなされなければ協働などあり得ません。役員会でうその報告や、隠し事、ごまかし、駆け引きがあるようでは話になりません。数値データを含め、いいこと悪いことすべての情報を共有してはじめて一丸となって前進することができます。
 しかし、いくら経営者と役員がベクトルを合わせなければならないからといって、役員が経営者のイエスマンである必要はありません。経営者は一時でも早く儲かる仕組みにしたい、儲かる会社にしたいと考えるものです。ですから、経営者が役員会で何かを発案したとき、反対意見を述べることが役員の大きな任務のひとつです。
「それは無理ではないですか。時間が必要です。なぜなら……」といった声がたいへん重要になります。経営者は誰もがそうした意見が言える役員会にしなければいけません。そうでないと経営者が先走って、独り相撲を取り、失敗することになりかねません。
 役員会を活性化させるために、ルールを決めておくといいでしょう。
 たとえば、役員会は反対意見であれ、思いつきであれ、何を言ってもいい場とする。ただし結論は多数決では決めない。反対意見が多数になっても、トップが下したことを結論とする。そして決めたことは一丸となって断固としてやり遂げる。役員会で話し合ったプロセスは一切口外しない……。
 再建できるかどうかという瀬戸際のときに、反対意見は言いづらいものです。しかし、それが言える雰囲気の役員会にしなければいけません。反対意見が出たとき、経営者が嫌な顔をするなどもってのほか。次からもう誰も反対意見を言わなくなります。


 再建を進めるにあたって、金融機関と主要取引先の支援が受けられるかどうか。ここは決して避けて通れない道。私は、再生3年計画をまとめ、それに向けた進捗を細かく報告することで支援を取り付けた。一方、会社の将来に対する「人材」という投資には資金も労も惜しむことはしなかった。

■ 再建の必達目標を設定し退路を断つ

――― 赤字続きの会社が経営を立て直そうとするとき、特に欠かせないのがメイン金融機関と主要仕入れ先の支援だ。だが、銀行も仕入れ先も、ただ「頑張るので助けてほしい」などと懇願しただけでは、甘い顔をしてくれないことは言うまでもない。

 日産自動車のカルロス・ゴーン社長は、日本語では『目標』という同じ言葉が使われるところを、ニュアンスの違いを明確にするため『コミットメント』と『ターゲット』の2つの言葉を使い分けました。
 コミットメントは、絶対に達成すべき必達目標です。対してターゲットは、コミットメントより高い目標です。「実現目指して頑張ります」といった希望的観測が多分に含まれ、実現を確約できるものではありません。
 ゴーン氏は就任直後に発表した『日産リバイバル・プラン』で、
・2000年度に連結当期利益の黒字化を達成
・02年度に連結売上高営業利益率4.5%以上を達成
・02年度末までに自動車事業の連結実質有利子負債を7000億円以下に削減
 との具体的な目標を1999年に掲げました。そしてこれらはすべてコミットメントであると内外に宣言し、達成できなかったら責任をとる、社長を辞すと明言しました。
 いずれも1年前倒しで達成させたことは周知の通りです。
 会社再建では、もっともリスクを背負っているメイン金融機関と主要仕入先の理解と支援が不可欠です。
 それには再生計画を立て、金融機関、仕入先それぞれにきちんと説明し、その後も計画の進捗状況を定期的に報告することが必要となります。
 再建計画はもちろん、希望的観測を羅列したターゲットではなく、説明を受ける金融機関、仕入先も納得できる具体的なコミットメントでなければなりません。
 私が2005年からCEO・代表取締役副社長として再建にあたった信州硝子では、着任するとすぐに『再生3年計画』をまとめました。
・05年8月期
 =経営陣刷新、固定費削減、不良債権処理、与信管理の徹底
・06年8月期
 =黒字転換、財務改善、モラル向上
・07年8月期
 =営業構造改革、業務改善による物流コスト削減、資産の有効活用を断行する
 として、それぞれ具体的な計画を立てました。


■ あらゆる部分の出るを絞る

――― 再建計画を説明したからといって、金融機関がすぐに新たな融資に応じてくれることはないだろう。まだ実績が出ていないのだから当然だ。計画を粛々と実行して実績を残すしかない。実際、信州硝子では07年2月中間決算後、数字となって出だすと金融機関が新規借入に応じたばかりか、金利の引き下げにも応じてくれた。

 その1年前の06年2月中間決算後、メインとサブの金融機関に借入交渉に行きました。が、新規融資や金利引き下げ要請は断られ、なんとか借り換え融資に応じてくれただけでした。
 再建計画の説明には納得してくれても、いざ貸付の話になると、あくまでも過去数年間の数字をもとに判断します。
 ひたち硝子では、月々約3000万円を仕入れていた主要仕入先の一つに、支払いを1ヵ月延ばしてほしいと交渉に伺いました。1ヵ月猶予してもらえれば、金利がかからない金が、そのまま運転資金になります。
 結局、販路の維持を重要視していただいたようで、小口仕入先が支払いサイトの短縮や現金払いを要求してくるなか、応じてもらえました。
 
05年8月期に2億5000万円の不良債権を特別損失として計上し、計3億円の赤字を出しました。膿は一気に出したほうがいいと判断したからです。金融機関は巨額の赤字決算を懸念しましたが、キャッシュフロー戦略を細かく説明し、理解を得ました。
 資金を流入させるキャッシュ・インフローでは、出(いずる)を絞ることが最重要です。人件費に代表される固定費のほか、在庫、売掛債権などの削減、資金回収サイトの改善、不要な土地の売却など、あらゆる部分に手を着けて黒字転換を果たしました。
 不良債権を処理したため、売上が取り消しになり、仮払いしていた消費税が還付されました。売上は2億円ほど減りましたが、消費税が1000万円戻ってきました。これも黒字転換の上で大きかった。


■ 赤字でも夢があれば新卒は採れる

――― 資金が流出するキャッシュ・アウトフロー戦略も必要だ。新規採用や研究開発費など将来に向けての投資は、どんなに経営が厳しいときでも企業の発展のために必要だからだ。

 信州硝子ではキャッシュ・アウトフロー戦略として大学新卒者の採用と、市内2ヵ所に分散していた倉庫を物流加工センター内に一元化する物流効率化を中心に行いました。
 新卒採用はひたち硝子時代も毎年行っていたもので、企業の存続、発展には欠かせません。
 会社を変えようというとき、一方で人員整理をしながら、新しい血を入れる、若い人を採用することが必要です。
 会社が変わるということは、社員も変わるということ。本音をいえば、既存社員を教育して変えようとしても、そう変われるものではありません。それより、新しい若い人を入れたほうが会社はよほど変われます。中途採用も結構ですが、新卒採用を毎年定期的に行うことが重要です。
 茨城でも長野でも、私が新卒社員の定期採用をすると言うと、「赤字会社に新卒など来てくれるわけがない」とみな腰が引けていました。ダメでもともとと、地元出身者で東京などの大学に通っているUターン就職希望者を狙って、リクルートなどが主催する就職説明会に出展しました。これだと出展コストも数十万円程度と安くすみます。毎年三十数名が説明会のあと、会社訪問に来ました。
 学生獲得のコツは、経営者が学生に「夢」を語れるかどうかと、会社訪問に来た学生に、社員が挨拶などちゃんとできること。
 採用者数は1人だけだとすぐに辞めてしまう確率が高いので、毎年3人くらい複数でとります。
 再建とは、長いトンネルから抜け出るとともに、次の成長路線の入口に立たせることができるかどうかです。将来たのしみな新人が入ると、みなが一緒になって頑張るようになります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ドキュメント『再生への道』の立ち読み(3) 

2017-01-17 19:48:43 | 出版


「あなたは何のために会社を経営しているのか?」。なんとなくなら、どんな「社長」でも経営できる。「管理者」の延長線上に「経営者」がいる訳ではありません。
企業再建という、これまでの経営の常識が通じないなかでは、「目的」と「使命」といった支えを強く持つ「経営者」でなければ、会社は存在すらおぼつかなくなる。

■目的感、使命感はどうやって持つのか

─── 会社再建を成功させるには、絶対に再建を成功させるのだという強い決意が必要だ。それは、何のために再建するのか、何のためにこの仕事をしているのかという目的感、使命感に裏づけられたものでなければならない。

 当たり前のことですが、再建にかぎらず、どんな仕事をするときも、目的感、使命感をしっかり持っていないと、最後まで頑張り抜くパワーは生まれません。
 しかし二代目社長や、親会社から天下りで来た出向社長などのなかには、これを持っていない人が少なからずいます。
 創業者の息子だからという理由で、苦労もなく、御輿の上に乗せてもらった二代目社長。会社からの突然の人事異動に驚き、出向を左遷という意識で受け止め、やがて帰る親会社があると腰掛け意識の出向社長。経営者は、管理者の延長線上にいるわけではありません。
 こういう社長は概して、回収が甘い、仕入先にいい顔をする、お客さまには冷たい、部下にきつく当たるという傾向があります。
 企業の多くをダメにしているのは、こういう二代目社長・出向社長です。
 社長には誰でもなれます。が、誰もが経営者になれるわけではないのです。
 では、目的感、使命感はどうやって持つのか、どうやったら持てるのか。
 実は動機づけするための理由は何でもいいのです。「ご先祖様の顔に泥を塗っては申し訳ない」でもいいですし、「社会のために」「家族のために」とか、「街の経済を支えなければ」という思いでもいい。
 ただ、自分が儲けるために頑張ろうといったものは駄目です。
 自分のためだと、うまく行かないことが何度か続くと、「まあ、いいか」と簡単に諦めてしまいやすいからです。自分以外のもののために一所懸命頑張ろうと思えるものを見つけられれば、それが動機になります。
 ある駅伝選手が「いちばんしんどいときに何を考えた?」と質問されたとき、こんなことを言っていました。
「ゴールまであと何キロだから頑張るのではない。走るのをやめると、一緒に苦しい練習をしてきたチームの仲間に迷惑をかけるから、走るのだ」
 自分一人のことしか考えていないときには、100%の力しか出せない。でも他人の思いを背負うと100%以上の力が出せます。

■社長は自ら置かれた立場を十分認識すること。

ーーー会社再建とは、会社を替えること。変革には反撃、思いもしないところからの攻撃、誹謗中傷がつきものだ。どんな問題、アクシデントがあっても、必要とあれば裸にもなれる、馬鹿にもなれる心の強さが必要だ。

 私をCEO・代表取締役副社長として招いた信州硝子の四代目社長は、創業者の末子でした。なぜ経営再建を外部の人材に託したのか、その思いを直接聞いたことはありません。が、何かの折に、「私には企業経営の知識、経験がありませんから」と話されたことを記憶しています。自分のことを率直に見つめ、それを恥ずかしがらずに正直に話ができる方なんだと思ったことを覚えています。
 新たに就任した社長は創業者の末子とはいえ、4人姉弟の中の唯一の男子でした。そのせいか、長野市内で85年も続いた名門企業を潰してはならない、従業員を路頭に迷わせてはならないという意識を強烈に持っていたようです。
 プライドばかり高い御曹司だと、会社が倒産の危機に瀕していようと、「俺が、俺が」となり、結果、潰してしまうところです。
 が、社長はそうした性格とは正反対の方でした。自分の置かれた立場を十分に認識し、恥を忍んで、裸になって、主力の仕入メーカーに、経営のわかる人材を紹介してほしいと頭を下げられた。
 信州硝子を絶対に潰さないという目的感、使命感があったからこそできたことでしょう。

■孟子の『五知』が教えてくれる、目的感、使命感

─── 私にとって、信州硝子を再建させるという使命感を持つ動機づけとなったのは、大学を出て就職してから約40年間世話になった、親会社に対する「恩返し」の気持ちだった。

 私が信州硝子の再建請負人として親会社から声をかけていただいたのは、ちょうど株式会社ひたち硝子の社長を退き、現役からリタイアするつもりでいたときでした。サラリーマン生活の総仕上げの場を提供していただいたわけであり、これは恩返ししなければと奮い立ちました。
 長野県市場で大きな市場シェアーを持っている老舗問屋が経営危機に直面しており、そこが再生(リ・バース=生まれ変わる)することは、メーカーにとってもうれしいことです。
 私はサラリーマン時代、営業マンとして全国の販売店や問屋を見て歩いていましたので、46歳で本社を離れて、はじめて販売子会社に出向したときも、左遷されたとは思いもしませんでした。それぞれに問題を抱える子会社、関連会社を立て直すことに強い目的感、使命感を持って赴任していきました。
 長野に赴く際、経営者が集まる倫理法人会という勉強会で学んだ孟子の『五知』の教えを心のなかで反芻しました。
 経営者など上に立つ者は「命を知る、難を知る、時を知る、足るを知る、退を知る」の5つを知らなければならないという教えです。

 五知の意味を簡単に説明すると──、
「命を知る」… 自分に与えられた立場、使命を深く知り、今やるべきことに力を抜かずぶつかっていく。
「難を知る」… 困難にぶつかったら冷静に対応し、目先の現象に振り回されたり、バタバタせず、軸足をぶれさせない。自分の能力以上の困難は与えられない。打つ手は無限、解決できないものはない。

「時を知る」… 一刻でも早くと考えてしまうが、相手のある仕事には、待つことも必要。事を進めるには、何ごとも最高のタイミングがある。まわりからのよいアドバイスがある。
「足るを知る」… 私利私欲を一切持たず、ひとつのことに執着しないで、現状に満足、肯定的人生を送る。
「退を知る」… 引くタイミング、状況をいかに美しく、よいものにするか。
 ───となります。

 このなかで「命を知る」とは、まさに目的感、使命感を持つということです。 私は「命を知る」を常に意識するとともに、いかによい状況にして退任の時期を迎えるかという、「退を知る」を意識して仕事をしました。



率先垂範が社員の意識と行動を変える。これは、どん底にあえぐ再建企業ほど徹しなければならない。全社員の意志の力が会社を再生させるのだ。社長はなにが起こってもぶれることのない、カリスマ的存在となることを追求したい。

■経営者のカリスマ性とは社員の不平不満を鎮める力

─── 経営者が引き続き指揮を執るにせよ、再建請負人が経営にあたるにせよ、経営再建を目指す企業の経営者はカリスマ性を持たなければならない。会社のため、社員のためと言っても、厳しい再建策は言葉だけでは受け入れられず、社員は動かない。社員に疎まれ、恨まれるだけで、改革は挫折する。

 経営者のカリスマ性というと、京セラの稲盛和夫名誉会長のような超一流経営者だけが持つものと思われるかもしれません。が、そんなことはありません。
 カリスマの語源は、ギリシア語の「神の恵み(カリス)」です。最初にカリスマを使ったのは、ドイツの社会学者マックス・ウェーバー(1864~1920)。彼は人間を支配する権威の類型は3つあり、1つは伝統の権威、2つめは合法の権威、3つめはカリスマだと言った。つまりカリスマは、権威というわけです。
 権威は人を従わせる。人は権威に従う。辞書を引くとカリスマとは、自然に人々の心をつかみ、人々に影響を与える能力だと説明しています。
 経営者にとってのカリスマ的支配とは、社員の不平不満を鎮める力。要は、言うことを信用して、行動に移らせる力です。口先で「ああしろ」「こうしろ」と指示するだけでは、すぐに「何だ、言うだけか」「自分は何もやらないのか」と見透かされ、言うことを聞かずに勝手なことをし出しかねません。
 カリスマは生まれつきのものではなく、実践から学び身につけるものです。誰でもカリスマになれます。
 経営者が普段の活動の中でカリスマ性を身につけるには、次の4つの行いのうちのいくつかを実践することが近道でしょう。
 第1は「軸足が定まっている」こと。
 価値判断の基準・原則を決め、個々の現象に振り回されず、ブレないことです。
 倒産の危機に瀕した会社には、さまざまなことが起こります。クレーム、風評、取引停止、社内反乱……。
 そうした一つひとつの事柄に振り回され、経営者がここではこう言い、あそこではああ言ったなどとなっては、社内、取引先を問わず混乱し、足もとを見られ、つけ込まれます。
 決めた基準に照らして、どんなことにもブレのない、的確な反応をしなければいけません。
 会社再生という目的意識を強く持ち、軸足が定まっていれば、体面など気にならなくなります。軸足が定まっていれば、社内の対立意見を“抵抗勢力”と決めつけて排除することなく、歓迎できるでしょう。
 仮に本当の抵抗勢力だとしても、会社を何とかしたい、社員の生活を何とかしたいという気持ちが見えるなら、少なくとも意見を聞くだけは聞いたほうがいいでしょう。得てして改革スピードが速すぎて、社員が誰もついて来られないなどといったことを、こういう人が教えてくれることもあります。


■社員への責任追及だけではいつか誰もいなくなる

─── カリスマ性を身にまとう第2の方法は、「過去に解決できなかった難題を解決する」こと。難題解決といっても、さほど難しいことではない。たとえば先送りされてきた不良債権問題。焦げ付きの責任は経営者にあると考え、率先して処理にあたれば事は意外に簡単に動く。

 第2は「過去に解決できなかった難題を解決する」こと。
 問題が起こると担当者の責任を追及して懲罰を与え、問題の解決そのものは担当者任せにしたままという企業が多いと思います。
 私も、1997年にひたち硝子の社長に就いた当初はそうでした。焦げ付きを出した担当者、支店長、そして私の給料を2ヵ月間減給の懲戒処分をして、済んだ気になりました。後の処理は支店長や担当者に任せていました。不正販売をしたため、焦げ付きを発生させた社員を解雇したこともあります。
 しかし、あるとき、ふと気づきました。「こんなことをしていたら、いつか社員が誰もいなくなる」と。
 担当者の責任を追及してばかりいても問題は解決しません。焦げ付きの責任は社員ではなく経営者にあると考えて、直接、私が処理にあたることにしました。
 債権回収方法は得意先の状況に応じて細かく分けました。分割払いや手形ジャンプで回収。下請け手間代から相殺して回収。訴訟を起こし法的手続によって回収。根抵当権を設定した不動産の任意売却によって回収。連帯保証人から回収……。
 こうしてひたち硝子では、98年に20社約2億円あった不良債権を、02年には5社1500万円にまで減らすことができました。債権回収によって、銀行借入ができない状況下で、1億円以上のキャッシュフロー改善を果たしたのです。
 どの回収策を採るかは最終的にはトップが決断することです。社長でもむずかしいことを支店長や部長に責任をもってやれといっても、50~60人規模の会社ではできる人材がいません。
 先送りされている不良債権の処理は嫌で億劫な課題ですが、決定権限のある経営者自ら対峙すれば、問題は解決します。

■経営者のマイナスパワーは社員に感染する

───第3は、疲れた顔を社員に見せないこと。体調が悪いとき、風邪を引いたとき、弱気になったときも、疲れた顔、曇った表情は絶対に見せてはいけない。

「元気」は感染します。元気な人といるとウキウキしますが、暗い人といると気分が暗くなります。不景気な人がいると、こちらも不景気な気分になります。
 経営者のマイナスパワーは、社員に感染します。いつも疲れた表情、眉間にシワを浮かべた顔をしていると、社員は「うちは大丈夫だろうか」と心配になり、負のオーラがうつってしまいます。
 したがって、カリスマ性を持つ第3は、「疲れた顔を社員に見せない」こと。
 心配事があれば、人間どうしても顔に出るものです。が、企業再建に取り組む経営者であれば、絶対に表情に出してはいけない。出さない努力をすることが大事です。風邪を引いても、引いたとは言わない。熱が出ていても何気ない顔で過ごすことが大切です。
 社員に疲れた顔を見せないために、普段から心がけておくべきなのが夫婦円満でいることでしょう。家庭円満が明るいパワーの源泉です。
 第4の方法は「日々の実践」です。
 挨拶、返事、後始末、さらに清掃、時間厳守など、社員に教育していること、日々言っていることを、経営者自らが謙虚に率先垂範することです。
 経営者のほうから社員に「おはよう」と声を掛ける、ゴミを拾う。こんなことを日々実践するだけで社員は、「ただ口で言うだけでなく、行動がともなう経営者だ」と感じ、より強い連帯感が生まれます。
                    *
 カリスマ性をまとうためのこれら4つの事柄のうち、ひとつでも結構です、徹底してやってください。そうすれば社員は必ずついてきます。
 口先だけでは社員は動きません。


 退職を考え辞めたいと申し出てきた社員を慰留してはいけない。その社員は、慰留されたことで従来のやり方でかまわないと勘違いし、「一丸となって再建しよう」というまわりの戦う姿勢についていけなくなる。「企業は人なり」。ベテラン社員であっても「人罪」であれば、そのまま居座らせてはいけないのだ。

■改革を遅らせるガンを放置してはならない

─── 会社再建に向け、給与カットなどの厳しい策を打ち出すと、「辞めたい」と言ってくる社員が必ず出てくる。そうした社員には、ベテラン社員が含まれるケースが少なくない。だが、退職希望が出されたら、誰であれ喜んで受けるべきだ。

 辞めたいと申し出てきた社員を慰留すると、本人が意図していなくても、いずれその社員は改革を妨害する勢力になり、改革を遅らせるガンになります。会社再建は、病気の原因をすべて取り除くことから始まるのです。
 仮に慰留に成功したとすると、その社員は「今まで通りやっていればいいんだな」と思います。それでなくても自分は優秀だという自負がありますから、仕事のやり方、信念を変えようとしないものです。
 会社が生まれ変わろうとするなか、今まで通りのペースで仕事をし、既得権を守ろうとすれば、当然、周囲とぶつかります。
 しかも、意識改革した他の社員に比べて、見劣りする成果しか挙げられなくなります。すると言い訳や、不平不満が多くなる。
 そして他の社員に、やる気をそぐようなグチを言うようになります。腐ったミカンが一つでもあると、周囲のミカンも腐っていきます。よい組織はできません。
 ひたち硝子時代、希望退職を募ったところ、古参の営業担当者が手を挙げました。
 私は、得意先を熟知している彼がいなくなっては再建などままならないと思い、慰留しました。が、周囲がぬるま湯から脱して戦闘集団に変わったのに、彼だけがマイペースのまま。注意しても一向に変わらない。それどころか同僚や部下に、「どうせこんな会社……」といった誹謗まじりのグチを言い出す始末でした。
 そこで今度はこちらから辞めさせようとしたのですが、彼も会社が再建軌道に乗ったことがわかっているだけに、なかなか辞めると言わず苦労しました。
 辞めると言ってきたときに、辞めさせるべきだったと反省しました。


■人罪を人材に入れ替え、つねに新陳代謝をはかる

─── ダーウィンの『進化論』の中に次の一文がある。「強いものが生き残るのではない。優れたものが生き残るのではない。環境に適応したものだけが生き残るのである」。これは生物の進化だけでなく、会社にも個人にも言えることだ。

 会社の空気、企業風土が変わると、会社に馴染めなくなる人が出てきます。
 業績不振の会社には、ぬるま湯的でたるんだ雰囲気が漂い、個人プレーが横行し、物事が惰性で動く傾向があります。それが業績がよくなり成長軌道に乗ると、ピリッとした心地よい緊張感が漂うようになります。会社が変わると、知識力や技術力が多少あっても、空気の変化に適応しようという意識がないと、淘汰されていきます。
 よく人材は「人財」20%、「人在」60%、「人罪」20%で分布すると言います。が、はじめから人罪の人はいません。しだいにお局様化し、老害をまき散らし、人罪になっていくのです。
 彼らにはいくつかの特徴があります。
 まず、今までのやり方が一番いいと思い込み、自分のやり方に固執して他人の意見を聞かず、やり方を改善、工夫しようとしない。
 仕事が増えて自分や部下のキャパシティを超えるのが不安になり、新しいことにチャレンジしようとしないのもお局様化の特徴の一つです。
 また、仕事を抱え込んで他人に渡さない。仕事は完璧にこなし、責任感も強いのですが、部下を指導したり、部下に任せることが苦手で、その結果、仕事を山のように抱え込み、肝心のことがおろそかになる。
 企業は人なり、です。人罪はどんどん新しい人材に入れ替えなければいけません。再建中の会社は、人罪が定年退職していくのを待つ時間的ゆとりがありませんから、給与体系を実力主義、成果主義に改めるほか、苦しくとも新人の採用を続け、新陳代謝をはかる必要があります。
 森林の再生には普通、何百年という歳月を要します。が、横浜国立大学の宮脇昭名誉教授が提唱する森づくりは、わずか20年で森をよみがえらせると言います。
 その要諦は次の3点です。
・その土地にあった樹を植えること(適材適所)
・主木を取り違えないこと(正しいリーダーを据える)
・混植して、混ぜる、混ぜる、混ぜる(競り合いながら成長させる)
 組織のあり方に実によく似ています。


■いまこそ、内部改革の好機、危機感を失うな

───「城は内から崩れる」の言葉があるように、企業の業績不振の原因もすべて内にある。携わる社員が腐っているか、光っているかの差が大きい。

 不況時は、内部改革の好機です。
 好況時は経営者も社員もつい有頂天になり、危機感を失い、現状にあぐらをかき、気づいたら破綻の道へということが多々あります。逆に言えば、経営者は景気がよい時期ほど気を引き締めることが必要ということにもなります。
 給与制度、評価制度、人事組織の見直しなどを行うのに、不況時ほど適した時期はありません。
 辞めたいと手を挙げる社員はどんどん辞めてもらって結構ですが、不況時は他社に転職することがむずかしい時期でもあります。ショック療法を実行しても、多くの社員が必死になってついてきてくれます。それによって「人罪」も意識改革して「人在」「人財」へと変わっていき、一人ひとりが光り出します。
まさに、いまこそが内部改革の好機です。
               *
 9回にわたって会社再建の要諦を述べさせていただきましたが、改革は当然ながら経営者にも社員にも、痛みを伴うものです。しかし私は、経営の原点は、社員にとって楽しい会社であることだと考えています。
 どんなに経営が苦しいときでも、厳しい再建策を実施しているときでも、社員がうきうきして出社してくる会社を目指していただきたい。それには、近い将来のビジョンを明確に打ち出し、その可能性を確信的に明快に語り続け、社員に希望と安心を与えることです。そう信じています。
                                  (連載完)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

出版「決断と再生」

2016-05-01 12:38:02 | 出版
この度、中小企業診断士協会東京支部のメンバーによる、企業再生の本『決断と再生』が2月5日、(株)同友館より発売されます。書店にもでる予定、出来映えが楽しみです。

プロモーションビデオ
   ↓
『決断と再生』CM
「決断と再生〜中小企業をどん底から救った男たち」
 出版社  (株)同友館
著者名   安田龍平 櫻田登紀子 編著 (中小企業診断士)
 判型    四六判
 頁数    240
 定価    1,785円(本体1,700円+税)

I☆発売前の紹介文
経営危機に陥った企業をいかに再生させたか? 成功とはいえない事例も含め、社長とそこに関わったコンサルタントや金融機関等の支援者たちの姿をリアルに描き、企業再生に必要なものを問いかける。企業再生手法などもコラムで紹介、解説する。
  
☆目次
 第1話 長靴社長の本気 (鮮魚卸、事業譲渡と特別清算事例)
 第2話 ニッチな技術とものづくりへの情熱 (電子部品製造、民事再生事例)
 第3話 諦めない 木を植え続ける経営 (模型製作、知的財産活用と事業承継事例)
 第4話 限界を認める勇気 (環境設備販売、破産からの再出発事例)
 第5話 経営者自らの実践 (板硝子販売、不良債権整理と組織改革事例)
 第6話 伝統を守る使命 (メダル製造、資金調達とIT活用事例)
 第7話 社長教授の経営哲学 (工務店、株式交換と特別清算事例)

第5話が長野の企業再生の事例です。出来上がった本は、まだ手元にありませんが、出来映えを楽しみにしています。

カスタマーレビュー
□ 会社はヒトが支えているって、再認識させられますね

こういう方たちが世の中をを支えて下さっているんだって、改めて気づかされました。
社長もちろんですが、社長を黙って支えてくれる奥様、自分の進退をかけて再生に取り組むコンサルタントや金融マン、社長の人柄と技術を守るために動くクライアントなどの熱い思いが伝わってきて一気に読めました。

ストーリー仕立てなので、それぞれのシーンが映像のように目に浮かびます。感情移入して思わず涙する場面も。。。

「どん底」といわれる状況から立ち直ったのは、社長と周囲の方たちの覚悟だったのでしょう。そして周りの方たちを本気にさせるのは、やはり社長の本気なのですね。「今まで働いてきた中で大切だったことは『組織を超えた情熱と信念だ』」、という言葉が出てきましたが、この本の根底には
まさにこの言葉が流れている、と感じました。
企業に属している方もそうでない方も、ぜひ読んでほしい本です。

□ 企業は人に尽きる!
大企業であれ、中小企業であれ、企業は多くの問題を抱えています。この本で紹介されている物語は、他人事ではなく、実際にあなたの会社で起こっている出来事かもしれません。この本は、「企業再生」を切り口にしていますが、実は会社を支えている「ヒト」の物語です。会社が成長するのも、衰退するのも、最終的にはその会社に関わる「ヒト」次第ということです。その意味でも、中小企業診断士や公認会計士といった専門家のみならず、中小企業の経営者や大企業の管理職にも是非、読んで頂きたい一冊です。

□ 身近で飾りの無い真実の再生ストーリー
通常、企業再生の書籍というと、コンサルタント再度の視点で描かれているモノが多いのですが
この書籍の魅力として、実話のストーリの解説は編者でもある著者が語り部を担っており中小企業経営者、中小企業社員、中小企業診断士,会計士など(コンサルタント)、金融機関融資担当(メインバンク、サブバンク担当)という主に4つの視点が対等な視点で描かれている事が新しい。
特に、泥臭い人間模様だけではなく、専門的な再生スキームの図解や説明なども挿入されて...

□ 今までになかった「生の企業再生本」
編著者の一人が前書きで述べているように、企業再生のノウハウ本はいろいろあるが再生・再建の実話を集めた本は意外に少ないと思う。本書は企業側の都合で仮名にはなっているが、中小企業が破綻から立ち直り再生に向かうまでのプロセスが物語のようなタッチでリアルに生き生きと描かれており、ノンフィクション作品そのものである。事例を通じて企業再生のキーワードが銀行や中小企業診断士などの外部支援者の存在であることが良く分かるが、それらの外部支援者を突き動かすのは、最終的には破綻した企業経営者の人間性であることもわかりやすく描かれている。本書を通じて企業再生で重要なことは、従来のノウハウ本で書かれているようなテクニックだけでなく「人と人との絆」であることがよくわかる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

主任管理職研修

2012-11-12 08:56:39 | 出版





2012.11.9(金)、顧問先の主任クラス9名を対象の研修。
1.社長講話
2.今期の財務状況
3.中期経営計画の説明
   ・グループ討議 実習
   ・グループ討議 発表
4.「文書作成マニュアル」について
   ・文書作成  実習
   ・文書作成  発表
5.挨拶実習
6.研修会の感想発表 (各個人)

社外文書の書き方
□ はじめに
文書の作成に当たっては、各自が会社あるいは部課を代表して作成するという気持ちを失わず、次の事柄に留意して作成する。
 1.内容の正確な表現
(1)述べようとするところを正確、適切に表現する
(2)誤字、脱字のないようにする
 2.わかりやすい表現
(1)できるだけ短く区切り、句読点、符号を用い、箇条書きにする
(2)不必要な用語を避け、無用な事項を省いて、結論をはっきり。
(3)難解な漢字や、略号をつかわない
 特に、社外文書は企業と企業の間でやりとりされる文書です。用件を丁寧に、相手に伝える意思伝達という本来の目的とともに、企業イメージや評価にも影響を与えます。そのために、敬語を適切に使う、誠意がこもっていると感じられる、礼儀正しい文書であることが重要です。
目 次
1.社外文書の種類
(1) 取引上の文書
(2) 外交上の文書
2.社外文書の基本構成
① 発信年月日
② 相手の名前
③ 発信者名
④ 件名
⑤ 頭語
⑥ 前文(時候の挨拶、慶賀の挨拶、感謝の挨拶)
⑦ 主文
⑧ 末文
⑨ 結文
⑩ 付記
⑪ 担当者名
⑫ 添付物
⑬ 追って書き
3.文例集



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

管理職研修

2012-06-25 14:14:41 | 出版









2012.6.22-23、行方市レイクエコーにて、顧問先H社の管理職研修。
第一部 テーマ「中期目標について」
第二部 テーマ「新人事評価制度について」

《考課者訓練》
1.はじめに
評価エラーを起こさないように、日頃から次のような行動をとることが大切。
① 部下の仕事に関心を持ち、仕事ぶりを良く観察して、具体的な事実に基づいて評価する。
② 行動事実(プラスの点、マイナスの点)を記録する。
③ 行動事実に沿って、コミュニケーション(プラス面は誉め、マイナス面は指導)をとる。
2.人事評価について
(1)評価制度の目的
人事評価の目的は、能力開発、能力活用、公正な処遇の3点、その本質的な意義は、社員間のコミュニケーションを円滑にし、メンバーのスキルアップを図り、強い組織を作り、業績を向上させるための制度。
(2)新人事評価制度の内容
① 賞与に関する内規(給与規則 第四章)
② 等級説明書(給与規則第 第二章第16条 階層区分表)
③ 評価手引き書
④ コンピテンシー一覧
⑤ 個人評価表(No.1~No.8)
(3)絶対評価と相対評価
一次評価者は、部下を絶対評価で評価する。絶対評価は、能力開発のウエイトが大きい。
二次評価者や最終評価決定者は、限られた枠、原資という制約の為に相対評価が必要になる。
    
3.人事評価のエラー傾向
(1)ハロー効果
  一つのことで、すべてよいと評価したり、すべて悪いと評価したりするエラー。
(2) イメージ効果
「昔から仕事ができない・・・」「何しろ彼は優秀な奴だから」という漫然としたイメージで今を評価する誤り。「印象評価」とも言われる。
(3) 寛大化傾向
 評価が甘くなってしまい、SやA評価ばかり、高い評価に集中するエラー。
寛大化傾向の評価者の言い分は
イ)まあまあいいんじゃないの。(事実をよく見ていないタイプ)
ロ)よい評価をしたら、本人はやる気になるだろう(景気付けタイプ)
ハ)悪い評価をしたら、評価結果のフィードバックがやりにくく嫌だ。(気の弱いタイプ)
(4) 中心化傾向
 差がつけられず、無難な普通の評価(標準評価B)に集中してしまう誤り。評価に対する自信のない人によくあるタイプ、寛大化傾向と似ている。
 人事評価は、業績を向上させるために人が人をマネジメントする手段の一つ。
(5) 厳格化傾向
 評価結果が厳しくなりすぎて低い評価ばかりになってしまう誤り。
(6) 対比誤差
 評価手引書をはなれ、自分と比べたり、同僚と比較して評価をする誤り。
(7) メイキング
 評価結果を意図的につくりかえる誤り。つまり、最終の評価決定が「A」になるように、合計点数を定め、評価要素別の得点を操作してしまうもの。
4.評価演習
(1)グループ別けとモデル検討対象者を決める
(2)上長は事前に、評価期間中の評価要素別の職務行動事実を作成
(3)グループ研究
① 目標・活動・実績など職務行動事実の確認(質疑応答)
② 個人で評価する。(標語、点数)
③ グループ評価決定と理由づけ
(4)発表・ディスカッション


古墳名;宇崎台畑古墳群1号墳
墳形 :円墳。墳頂に平坦面がある。
規模 ;径21m、高さ4m
所在地;宇崎字台畑
☆☆宇崎台畑古墳群は、レイクエコー周辺の北浦を望む台地縁辺に分布。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする