「神様の女房」~もう一人の創業者・松下むめの物語~(ダイヤモンド社)が、テレビ・ドラマ化され、10月1日土曜日・夜9時より、3回シリーズで放映される。
原作者の高橋さんは、神戸大学の稲葉ゼミナールの先輩、一躍、ベストセラー作家になってしまった。
◆◆著者:橋誠之助
1940年京都府生まれ。1963年神戸大学経営学部卒業後、松下電器産業株式会社入社。主に広島営業所などで販売の第一線で活躍。入社7年目、29歳のとき突然に本社勤務の内示があり、「私は忙しい。松下家の家長として十分なことができない。それをきみにやってほしいんや。よろしく頼む」と松下幸之助直々の命を受ける。以来、松下家の執事の職務に就き、20年以上にわたり松下家に関する一切の仕事を担う。幸之助とむめのの臨終にも立ち会い、執事としての役目をまっとうする。その後、幸之助の志を広めるために1995年に設立された財団法人松下社会科学振興財団の支配人となる。2005 年、財団法人松下社会科学振興財団支配人、定年退職。
1960(昭和35)年、むめの夫人が松下幸之助とともにオランダ、フランス、イタリアを訪問したときに撮影したパスポート用写真
米国・タイム誌に掲載された夫婦の写真
1966(昭和41)年、夫婦でお茶を楽しむ記念写真
1970(昭和45)年、幸之助、勲一等瑞宝章受章記念
むめの夫人は平成1993(平成5)年9月5日に97歳で亡くなられた。(幸之助は、1894(平成1)年4月27日に95才で亡くなられた。)
むめの夫人の名言集
◆“苦労”と“難儀”とは、私は別のものだと思っています。“苦労”というのは心のもちようで感ずるものだと思うのです。ものがない、お金がないというのが苦労だといわれる方がありますが、私は、これは“難儀”だと解しています。苦労は気分の問題であり、難儀とは別のものではないでしょうか。
◆常に希望をもっていましたから、私は苦労という感じは少しももたなかったのです。
◆私の主人の場合は、絶対に夫唱婦随でないといけないという人なのですが、私はそれに反対してきました。主人だって神様ではないのですから、物事の見極めを誤ることもありましょうし、そんなときに妻の立場で、「それはおかしいですよ」と言うこともあっていいと思いますし、また必要だと思うのです。
□著者に聞く。
◆執事として長く仕えさせていただいた私にできること
――この小説がNHKの連続ドラマになることが決まっています。
それはもう夢のような話です。本当にびっくりしました。私のまわりはまだ半信半疑ですからね(笑)。撮影は進んでいるのに。
しかも、主演を務めてくださる常盤貴子さんは、西宮の出身なんです。これがまたうれしい。どんな、むめの夫人を演じてくださるか、とても楽しみです。
そしてジェームス三木さんの脚本。事前に拝見させていただいたんですが、その完成度の高さには本当にひっくり返ってしまって。プロの脚本家のすごさを見させていただきました。
でも、脚本の表紙にあった私の名前が、原作だということでジェームス三木さんの上にありまして。これはもう、本当に恐れ多くて(笑)。とんでもないことを私はしでかしてしまったのではないかと(笑)。
ただもう、この先は、楽しみにするだけです。
◆『神様の女房』の読者のみなさんにメッセージをお願いします。
私は定年退職をして、すでに老人の域に入っています。今から事業を興す野心など、もちろんありません。でも、ひとつだけ社会のお役に立てることがあると考えています。それは、執事として長く仕えさせていただいた幸之助さんの、そしてむめの夫人の生き方を、たくさんの方々に伝えて、よりよい日本の社会を作っていくヒントにしていただくことです。
蓮如という人がいます。親鸞の教えを広く一般の人々に伝えた人です。もちろん蓮如の真似などできませんが、幸之助やむめの夫人の思想を広めていくという点では、気持ちだけでも蓮如に近づきたいと思っています。
世間一般では、松下幸之助さんは事業に成功してお金持ちになった人だ、というくらいの認識しかありません。それが現実だと思うんです。
でも、本当はそうではないんです。すべての人を幸せにしようと真剣に考えていた。世の中をもっともっと良くしたいと思っていたんです。むめの夫人の助けを借りて、それを本当に実現しようとする途中で、この世を去ってしまった人なんです。
今回、『神様の女房』を出版させていただいて、なんとも奇遇だな、と感じたことがありました。幸之助さんが私財を投じて最後に残した松下政経塾から100人近い政治家や経済人が出てきていますが、とうとう第一期生から内閣総理大臣を輩出したことです。野田佳彦総理大臣、その人です。
幸之助さん一人ではできなかったことが、松下政経塾出身の、志を同じくする人々によって育っていこうとしている。それが大きく羽ばたいたのが、野田総理の就任でした。なんとも見事なタイミングで、この本を出させていただくことができたと思っています。これも何かの思し召しかもしれません。
でも、幸之助さんは草葉の陰で、総理が出た、と万歳をする一方、「どこまで頑張ってくれるか」と心配もしていると思います。残した志で、この難局をなんとか乗り切ってくれ、と。