5月16日(水)4日目
塩尻で「あずさ」から「しなの」に乗換、4時前に長野着。塩尻に着くと、車窓から
北アルプスが姿を現す。蓼科からは、
南アルプスの甲斐駒や千丈、さらに
中央アルプスがくっきり見えたが、やはり私の山の原点は北アルプス。何か、心のふる里にもどったような安らぎを覚える。
長野駅に村木さんの出迎えを受ける。
以前から、源泉かけ流し温泉と戸隠手打ち蕎麦のお誘いを受けていたので、両方ともに目のない私が押し掛けた次第。
村木さんは私より3年下ですが、2年契約で、長野市の板硝子販売会社の再建請負人として奥さんと一緒に茨城から赴任。1年目から黒字化に成功。2年目も黒字化の目途が立ったのでこの4月に退任。信州が気に入ったので、6月まで当地に滞在し、県内の温泉巡りや自然探勝をして、自宅のある茨城へ帰られる由。
いろいろ話を聞かせて頂いたが、定年後、最後のご奉公として全く地縁のない
当地に赴任、、短期間での再建という当初の目的を見事達成されたのは、遊んでばかりいる自分に比べて立派というほかない。
村木さんの車で、須坂市の郊外にある自宅に案内される。菅平の外れに連なるところで、新緑が素晴らしい。庭から居ながらにして、近隣の名所となっている立派な
『しだれ桜』が指呼の内に見える。 まるで別荘に来ているような住まい。
アッシーとして、奥さんも一緒頂き、野沢温泉に近い木島平村の
馬曲温泉(まぐせおんせん)
に案内される。この温泉は長野県に320もある温泉の中でも一押しの秘湯。
村木さんご夫妻お気に入りの温泉で、回数券も買っておられ、自宅から車で1時間あまりかかるが、2人で良く来られる由。山の中腹、高台にあり、自然のままの作りの露天風呂が素晴らしい。360度の展望が利き、近くの新緑、遠方の北信の山々の眺めが素晴らしい。ちょうど、
山吹の花が満開でその色濃い黄色がアクセントになる。
十分野趣溢れる野天風呂を満喫し、須坂に戻る。村木さん行きつけの
蕎麦屋に案内され、ご馳走になる。店の中央に大きな囲炉裏が切ってあり、そこに座る。
囲炉裏の中には、岩魚が串刺しで焼かれている。さっそく、骨酒を所望。 香ばしくて酒が進む。あては、
ワラビ、
こごみ、
やまうど、
たらの芽、
やまぶどう、
ノビルなどのおしたしと天ぷら、いずれも取り立てとあり、野趣風味豊かで美味しい。仕上げは、もちろん店主自慢の手打ち蕎麦、これがまた美味しい。帰り際、お土産用の「たらの芽」のパック詰めがあったので、家内へのお土産として頼むと料金はいいという。 この店主に気持ちが嬉しい。翌日、天ぷらにして食べたが、自然の味と香りがすると家内も大喜び。
本日の泊まりの
蕨温泉まで送って貰う。
ここは、村木さんに取って頂いた高山温泉郷の秘湯の1軒宿だ。
5月17日(木) 5日目
朝早く、宿の露天風呂と、隣にある村営の大きな露天風呂をはしごする。ここの景色は取り立てていうほどのことはないが、日本のふる里の原風景だ。「うさぎ追いしかの山、小鮒釣りしかの川・・・」 思わず口ずさむ。村木さんも朝早く来て、村営の露天風呂に入る。彼も本当に温泉好きだ。朝食後、村木さんの案内で、高山温泉郷巡りに出かける。志賀高原方面に向かう道に沿って、山田温泉
、松川渓谷温泉
、五色温泉
、七味温泉
、奥山田温泉
と秘湯が続く。途中、
雷滝という立派な滝がある。 ここは滝の裏側を歩いて通れる。滝のすだれ越しに見える対岸の新緑が眩しい。松川渓谷に下りていったところにある露天風呂に入りかったが、10時オープンということで断念。
一番奥にある標高1500mの奥山田温泉
のレッドウッド・インの露天風呂に入る。ここは、アメリカのヨセミテから取り寄せた樹齢1650年というレッドウッドの直径5mある幹をくり抜いて露天風呂にしたもので、山田牧場を眺める景色もなかなかで、お奨め出来ます。雨天用に露天風呂に「かさ」が備え付けてある。「かさ」といっても傘でなく、笠であるところが風流。それにしても、好きとはいえ、村木さんの温泉通には感心する。
戸隠に向かうため、来た道を引き返す。雨の天気予報にも関わらず降らなかったが、長野に向かう頃から降り出し、かなりの降りになってきた。晴れ男もこれまでと思ったが、戸隠高原に入ってくると止み、戸隠連山もくっきりと見えてきた。戸隠はさすがに手打ち蕎麦の本場。道中至る所に蕎麦屋の看板。100軒は下らないと思われる。中で、村木さん推薦の戸隠中社の目の前にある「
うずら家」に入る。ここは、有名店で土、日には行列が出来る由。幸いウイークデイとあり、すんなり入れる。店お奨めの「大ざる」を注文。出てきたのを見ると大盛りの割りに量が少ない感じ。しかし食べてみるとかなりのボリュームで満腹。さすが、手打ち蕎麦の本場、戸隠でも一、二の店というだけあり、美味しい。蓼科の「
登美(とみ)」と甲乙付けがたい。また、別に頼んだ今日では口にすることが珍らしくなった手掻きの本物の削り節と一緒に出される辛み大根の辛さが何ともいえず美味しい。
戸隠でビックリしたのは、蕎麦屋とともに、宿坊というか旅館の多さ。こんなに参拝客が多いのかと思う。杉の大木のある中社を参拝の後、森林公園に向かう。ここは、自然庇護のための木道のほかは、殆ど人の手が入っていない素晴らしいところだ。新緑の自然林を気分良く歩く。オゾンがいっぱい。特に、からまつの新緑が一段と美しい。ここはまた野鳥の宝庫です。村木さんは、野鳥の会にも所属し、だいたい30種類くらいの野鳥に会えるそうです。 来ている人は少なく、殆どがハイカーか、野鳥観察の人。ゆったりとした気分で、ゆっくりと2時間くらいかけて公園内を歩く。途中、
水芭蕉の群生地に出る。やや盛りを過ぎかけたようだが、かなりの群生で美しい。何より、尾瀬と違ってほとんど人がいないので、ゆっくり観賞できるのが嬉しい。途中で雨が降り出したが、木々の緑、道沿いにあちこちで咲いている水芭蕉が雨に映えて美しい。園内の景勝地、鏡池に映る新緑が何ともいえず美しい。
戸隠の良い印象を最後に長野駅まで送って貰う頃には晴れてきた。名古屋行き「しなの」で帰路につく。途中、松本について、列車放送で、島々方面乗換のアナウンスを聞いた途端、血が騒ぎだす。思わず途中下車して上高地へ寄ろうかと思うが、辛うじて思い止まり夜遅く帰宅。それにしても、思う存分遊び、信州の初夏を目一杯楽しんだ5日間でした。
同行の3人と村木ご夫妻に深謝。
【終わりに】
「信州」それは、なんと心地よく響く言葉でしょうか。
大学に入った最初の夏、初めて上高地を訪れ、その日本離れした美しさに魅せられ、山に取り憑かれました。今から49年前のことです。当時はまだ訪れる人も比較的少なく、その神秘的ともいえる美しさは私の心の奥深く刻まれました。
それから、何回信州を訪れたことでしょう。学生時代は、登山とスキー。
社会人になってからも、駆け出しの頃、長野県の担当となり仕事で、それ以外でも山登りや小旅行、ゴルフ、テニス、次男の結婚式・・・と数十回にはなると思います。この地に来ると、何とはなしに心が安まります。 心のふる里、そんな気がします。
村木さんもこの地がすっかり気に入り、茨城に帰っても年に2回は来たいといってました。豊かな自然、温泉、美味しい蕎麦、・・・ 信州はいつ来ても良いところです。近いうちにまた彼の地を訪れる機会のあることを願って、終わりとします。 井上 喬雄