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ケイの読書日記

個人が書く書評

リンダ・グラットン 池村千秋訳 「ワーク・シフト」

2013-10-12 09:43:15 | Weblog
 ちょっと前に話題になったビジネス書。「孤独と貧困から自由になる、働き方の未来図 2025」という副題がついている。

 著者のリンダ・グラットンさんは、ロンドン・ビジネススクールの教授で、働き方の研究をなさっている方らしい。彼女の言いたい事はこうだ。


 2025年には、世界の人口のうち、50億人くらいがインターネットでつながっているので、パソコンを通じて、単純な労働は、皆、途上国の労働者の仕事になる。だから、私たちは高度な専門知識と技能を身に着け、友人とつながり、収入ではなく創造的な仕事をすべきだ…という事らしい。

 
 なるほどね。でも、これって頭の良い人の話であって、そうでない人はどうすればいいの?
 ていうか、50億の人間が、いっせいに、それぞれの専門知識や技能を持つことって、可能なんだろうか? ごく少数の人が持つからこそ、高度な専門知識なのであって、50億人が持っていたら、ありふれた物になるんじゃないの?
 それとも、50億の専門分野があるんだろうか?
 色々、考えてしまう。


 それよりも、リンダさんが来日した時のインタビュー記事が、とても印象的だった。
 リンダさんは、日本に来た時、空港のタクシー運転手が、日本人ばかりだったので、本当に驚いたそうだ。なぜなら、他の先進国では、タクシー運転手は移民の仕事らしい。
 その理由として、彼女は日本語を挙げていた。
 もちろん、日本政府が、移民に消極的な方針のせいもあるけど、何よりも、日本語の高い障壁が、外国人の参入を阻んでいると。
 そうかもね。日本語って難しいものね。

 日本全国どこに行っても、誰にでも英語が通じれば、専門性の低い仕事は、みな賃金が安い外国人労働者がやることになるだろう。
 そうか、私たちは、日本語に守られているとも言えるのか。最終的には良い事か悪い事か、わからないけれど。
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ティム・オブライエン 村上春樹訳 「レイニー河で」

2013-10-07 09:14:17 | Weblog
 この「レイニー河で」は『本当の戦争の話をしよう』という短編集の中の一つ。
 すべてヴェトナム戦争に関連した話だが、その中でもこの「レイニー河で」は印象に残る。いろいろ考えさせられる。

 作者は1968年6月、21歳で、ヴェトナム戦争の徴兵通知を受け取った。
 彼は、その戦争を憎んでいた。ハッキリした反戦活動をしていた訳ではないが、この戦争は間違ったものに思えた。
 彼は、徴兵を忌避するために、カナダに行くことを真剣に考える。北に車で8時間行けば、国境だ。トンズラするんだ。
 迷った末、彼はスーツケースに荷物を詰めて、北に向かう。レイニー河の対岸は、もうカナダだった。
 レイニー河の手前の、アメリカ側のみすぼらしいロッジに、彼は宿をとる。
 ロッジの主人は、兵役逃れのため彼がカナダに行こうとしている事を、うすうす感じながら、余分な事は何も言わず、6日間、彼と一緒に過ごす。
 ロッジの主人と一緒に、レイニー河に釣りに出かけ、泳いでカナダに渡る機会をもらいながらも、彼は行かなかった。
 
 まさにその時、対岸を眼前にして、私は悟ったのだ。そうするべきだとわかっていても、私はそうしないだろうという事を。私は私の生まれた町から、祖国から、私の人生から泳ぎ去ることはしないだろう。(本文より)

 そして自宅に戻り、兵士としてヴェトナムに行った。

 短編の最後に彼は、私はひきょう者だった。(良心をうらぎって)私は戦争に行ったのだ、と締めくくっている。
 本当にそうか?


 私はここで、ヴェトナムとは全く関係ない事を思い出していた。福島原発が水素爆発した時、国外に逃げた人たちの事を。
 確かに、彼らの行動を非難するのは間違いだし、彼らの日頃の主張から考えれば、国外へ退避することは、彼らの良心にかなった事だろう。
 でも…信用できる? こんな大変な時に、自分が育った土地を捨て去る人たちの事を。
 九州や沖縄に逃げるならともかく、国外だなんて。

 私の心が狭いのだろうか? いろいろ考えてしまう。
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奥泉光「黄色い水着の謎」

2013-10-01 13:48:07 | Weblog
 これも、前回のブログと同じく、桑幸シリーズ。

 クワコーこと桑潟幸一准教授が顧問を務める文芸部が、海辺の民宿で合宿するので、クワコーも参加せざるをえなくなる。
 皆で魚や貝やエビ、カニを獲ってバーベキュー。自由時間には、お気に入りの水着で日光浴したり、泳いだり、楽しく過ごす。
 しかし、翌朝、ギャル早田の黄色い水着が盗まれる。これって、変態メールを送ってくるストーカーの仕業?
 その上、文芸部OBのスタイル抜群美女の黄色い水着も、意外な場所に放置されていて…。

 最終的に、ギャル早田の黄色い水着は、クワコーのリュックの中から見つかる。やっちまったな!クワコー!! が、これも、名探偵・神野仁美がスラスラ謎解きして、クワコーの名誉(あるとすればだが)を守ってくれた。

 ストーリーは単純だが、色んな濃いめのキャラが、入れ替わり登場して、読むのが大変。特筆すべきは、文芸部1年の丹野愛美。ボーイズラブと村上春樹を何よりも愛するこのメガネっ子は、なんとスクール水着で合宿に参加するのだ。(コスプレ?!)
 この子が、時々鋭い推理を見せて、ひょっとしたらポスト神野仁美?と思ってしまう。
 神野仁美は、どうもキャラがつかみにくく、印象がうすいです。



 この小説の面白さは、なんといってもクワコーの困窮生活ぶり。池でザリガニを獲ってきてフライパンで炒め、ご近所のゴミ捨て場から雑誌を拾ってくる。
 クワコーの給与は前任校と比べ、大幅に下がったようだ。いくら、学生の定員割れが続いているからと言って、給与規定もあるだろうに、なぜに? 勤続年数が少ないから? 准教授だから? 教授になれば増えるの? 
 だけど、火村英生准教授は、結構もらっていそうじゃん。有名大学の准教授だから?   ああ、クワコーかわいそう。
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