ケイの読書日記

個人が書く書評

鮎川哲也「ペトロフ事件」

2013-09-16 10:44:36 | Weblog
 すっごく面白かった。
 昭和18年の満州を舞台とした、時刻表トリック小説。巻末に当時の満州鉄道の時刻表が、数ページにわたって載っているが、文字が小さすぎて、ルーペでもないと老眼の私には読めない。また、見る気もない。時刻表のトリックって嫌いなんだよね。

 でも、当時の満州の雰囲気がよく書き込まれていて、本当に読みごたえがあった。
 作者の鮎川哲也は、父親が満鉄の職員だったので、少年期~青年期を満州で過ごしたから書けたのだろう。

 満州と言っても、今の若い人にはピンと来ないだろうから、少し説明しておく。今の中国の東北部の事で19世紀の末頃には、弱体化していた清から、ロシアが租借地として分捕り開発、整備していった。
 そこを、日露戦争(1904-05)で勝った日本が、ロシアから分捕り進出していく。
 満州事変(1931)により、もと清の宣統帝であった溥儀を皇帝として建国。しかし日本の敗戦にともない、消滅した。

 この満州にいる金持ちの白系ロシア人が射殺され、3人の甥に容疑がかかるというストーリー。
 1917年にロシア革命が起こり、共産主義を嫌った大量のロシア人が、満州に逃げてきて住み着いた。ハルピンとか大連という大都市のロシア人街は、ロシア人であふれ、ロシア語・日本語・英語・中国語が飛び交い、真にエキゾチックな国際都市だったようだ。
 例えば、1938年の大連は、人口51万人余り、そのうち日本人は16万人弱だったらしい。


 もう一つ特筆すべきこと。
 この小説が書かれた昭和18年(1943)は、第二次世界大戦中で、南方では日本にとって戦局がどんどん不利になっていった時期だが、この満州では戦時色はほとんど出てこない。(大連が初めて空襲にあったのは、昭和19年7月らしい)
 抗日運動も全然出て来ず、中国人の裕福な農家が、とてもフレンドリーに、日本人の警部をもてなすし、職場では、日本人も中国人も仲良く一緒に働いている。(上司は日本人だろうが)
 これって実際そうだったんだろうか? それとも当時の支配者側の人間・鮎川哲也が、そう思いたかっただけなんだろうか? 
コメント (2)
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