一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

「ここがアメリカだ、ここで刷れ」

2006-08-17 | 乱読日記

月曜日(多分)NHKの朝のニュースで、フィリピンの1ペソ硬貨をニッケル原料として日本に密輸する業者の話がありました。

元ネタはこの話のようです

1ペソ硬貨の密輸摘発  

関税局と中央銀行は6日、300万ペソ相当の1ペソ硬貨を日本へ密輸出しようとしていたコンテナをマニラ国際コンテナ港で発見、押収した。 

積み荷は銅やニッケルのスクラップと申告されており、書類によると、輸出業者はケソン市のワールドワイド・スクラップ・サプライ社で、輸出先は大阪の業者だった。積み荷は不正申告および1万ペソの持ち出し規制に違反したとして押収された。 

税関の捜査官は、中央銀行はこの数カ月、硬貨の流通量が不足しているとして硬貨を貯金しないよう市民に訴えていたが、硬貨の密輸が流通不足の原因ではないかと話している。なぜフィリピンの硬貨が輸出されるのか中央銀行は説明しなかったが、硬貨を銅とニッケルに溶解して売られていると言われており、関係者は、日本では1ペソ硬貨の場合、銅とニッケルに溶解し、残りの成分をパチンコ玉に鋳造し直していると話している。 

今回の硬貨押収は今年3度目で、2月には97万1,000ペソ、3月には20万ペソを押収している。(Manila Times)  

フィリピンの1ペソ硬貨はニッケル製らしいのですが、ニッケルの価格が高騰(ペソの価値が下落?)したために輸送・溶解の手間をかけても原材料として売却して十分利益が出るということです。 

フィリピン政府は対策としてニッケル含有量の低い新硬貨の発行も検討しているのですが、新硬貨への切替えも費用がかかりそう簡単にはいかなそうです。  

フィリピン事情のblogによると(こちらこちら参照)実際1ペソ硬貨は大量だと持ち歩きに支障が出るほど大きくて重いそうです。  


さて、硬貨はモノ自体の価値から他のモノとの交換を保証することで独自の価値を持つという「命がけの跳躍」((C)カール・マルクス)をしたはずなのですが、硬貨が貨幣としての価値より金属としての価値のほうが高くなってしまうということになると、またモノの地平に落ちてきてしまうわけです。 

その意味では硬貨は金貨・銀貨の時代(=モノとしての価値が裏づけになっていた)の残像を引きずっているのかもしれません。 
ただ金貨・銀貨の時代は悪貨により自らの価値を下げてしまう、という問題のおき方だったのが、1国の硬貨の価値がグローバル市場おける為替と材料価格の関係で貨幣としてよりも価値を持ってしまう、というのが現代的な部分ですね。  

こうなると、赤字を承知で硬貨を鋳造し続けるか、自国通貨の価値下落を正直に認めて改鋳するかという国のプライドが試さる状況になってしまったわけです。  


一方で、紙幣はどんなハイパーインフレになっても(極端な話紙幣の製造コスが紙幣の価値を上まわったとしても)、ゼロをいくつか増やした新札を刷るだけでいいので気楽です。 
(でもそんなことをするとますますハイパーインフレは収まらなくなってしまうのですが・・・)



さて、跳躍と『資本論』つながりで言えば「ここがロードス島だ、ここで跳べ」(もとはイソップの寓話で、ここでは調子が悪くてうまく飛べないがロードス島でなら高く跳べる、と言い訳をした男に対して言われた言葉だそうです。)というフレーズも有名です(『資本論』以外でもいろんな哲学者に引用されてるようです)。 

これを「問題を回避するのはやめよう/ここできちんと問題を解決しよう」という意味でなく「ちゃんと飛べるのであればそこをロードス島にしてしまおう」と逆に読み込み、自国をアメリカに見立ててドル札を刷った国がある、という話が 『ウルトラ・ダラー』です。  

既に話題になっている本ですが、確かになかなか面白かったです。

筆者は元NHKアメリカ総局長ですが、様々な取材をもとにしたと思われる精巧なドル紙幣を偽造するための仕組みやそれを取り締まる側の行動がリアルに描かれています。
ただしサスペンス小説としてよりノンフィクションとして読んだ方が楽しめます(最後の部分、ちょっと慣れない小説をやりすぎてしまった感じがします)。  


ところで本書にも記載があって驚いたのが、精巧な偽札だと額面の80~85%くらいで取引されるということ。(参考事例はこちら) 

それだけ精度が高い(換金リスクが15~20%より低い)ということなんでしょうか。 
それとも、偽札の対価が真札ということはないでしょうから、偽ドルを買い求める人のドル紙幣の入手困難度(逆に言えば対価として支払われる通貨価値の不安定さ)分のプレミアムが反映されているのでしょうか。  

  

同じ紙なら自国通貨じゃなくドル札を刷った方が儲かるじゃないか、とある意味論理的に身もふたもなく考えた北朝鮮 
一方、正規のものだからと延々とドルを刷り続ける(国債を発行し続ける)確信犯のアメリカ  

両者とも「ここがアメリカだ、ここで刷れ」と印刷機をじゃんじゃん回しているわけです。   


それに比べると 「モノとしての価値」の方がはるかに上回る貨幣を鋳造し続ける愚直まじめなフィリピンは好対照ですね。  



ちなみに、日本の1円玉はアルミニウム製で、製造原価が1円より高いという記憶があり、ググッて見たところ 製造原価は2円 という説やアルミの原材料費だけだと0.7円 という説がありましたが、まだ鋳潰して原料にするのはペイしない水準のようです。







コメント (4)
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