一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『本当の戦争の話をしよう: 世界の「対立」を仕切る』

2017-06-25 | 乱読日記

国連PKO幹部として東ティモール暫定政府の知事、シエラレオネで武装解除、アフガニスタンでは日本政府特別代表として武装解除を指揮した著者が、高校生に相手におこなった授業を本にまとめたものだが、大人が読んでも面白い。

タイトルとは逆に、いかに「仕切る」ことができないか、という反省や失敗談から、「自衛」が「戦争」に変わる力学、国を作り直すことの困難さ、国連という組織の限界までを飾らずにわかりやすい言葉で語っている。

本書で初めて知ったのが、安全保障の分野で、戦争の意思形成がどのように作られるかに着目した「セキュリタイゼーション」という概念。

戦争が起こる前に社会は必ずセキュリタイぜーション--この敵を放っておいたら大変なことになる、という世論形成--が起きる。 「仕掛け人」が言葉で聴衆に対して恐怖を煽る。そして民衆が「恐怖」の状態でいるときに何か事件が起こると、それが戦争への契機となる、というようなことらしい(日本語での適切な訳語が定着していないとのことで、確かにググってもヒットしなかった)。

具体的には、イラクのクウェート侵攻時におけるナイラの証言があげられている。

しかも、このセキュリタイゼーションがやっかいなところを著者は説明する。

 セキュリタイゼーションの「仕掛け人」を攻めたって無理です。だって、罪悪感がないんだから。でも、すべては「仕掛け人」が育む、極めて主観的な正義感から始まるのです。それに、より多くの支持を集めるため、大衆が抱く危機意識が操作される。そうして主観的な正義感は、客観的な政治意思へと昇華するのです。このメカニズムを理解することこそが、僕たち自身が、脱セキュリタイゼーションを身につけることなのだと思います。
 セキュリタイゼーションを成功させてしまうのは、実は「仕掛け人」ではなく、「聴衆」である僕たち自身なのですから。

元の授業は2012年、本書の刊行は2015年だが、それから以後も、世界各地での移民排斥運動や、米国大統領選挙など、例示に事欠かない。
ただ、大統領選で登場した”Fake News” や"Post-truth"という概念が広まったことは、逆に一定の抑止力になるのかもしれない。


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『風邪の効用』

2017-06-23 | 乱読日記
風邪は治すべきものではない、経過するものである。
風邪を自然に経過させることで、身体が自然に自らを整えなおすことが重要、と説く。

著者の野口晴哉氏は戦後の整体の世界を代表する方だったらしい。

いくつかの講演録をまとめたもので、重複も多いが、逆にくり返されることで頭に入りやすい。

自分自身整体は好きで結構通っているが、こういうものは施術者の力量とか相性によるところが大きく、なかなか一般化できないし、「万病に効く」というのは眉唾なので、ちょっとずつよさげなところを試してみて、自分に合ったものがあれば取り入れればいいと思う。


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『熊と踊れ』

2017-06-21 | 乱読日記
犯罪小説の形をとって、親子・兄弟の血のつながり、暴力の連鎖を描いた小説。

それは、犯人側だけでなく、捜査に当たる刑事にとっても重い意味を持っている。

場面場面で「それ以外の選択肢は何があったのか」を考えさせられながらも、一気に読ませる。

読後感が爽快とは決して言えないが、面白い。


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『捨てられる銀行2 非産運用』

2017-06-19 | 乱読日記
タイトル通り、前著『捨てられる銀行』に続き、森金融庁長官(3年目続投になりましたね)の目指す金融改革を解説した提灯本。

今回は金融庁が使うようになった「フィデューシャリー・デューティ」(日本語だと「顧客本位の業務運営に関する原則」)の概念を軸に、資産運用改革についてまとめている。


確かに新興国通貨建てや元本取り崩し毎月分配型など自分は怖くて買えないのだが、実際にはけっこう売れている。
このへん、銀行窓販の力もあるのかもしれないが、自分で貯金を取り崩すより「分配金」という名目でもらった方が高齢者にとっては心理的な抵抗が少ないというあたりにフィットしている部分もあるのかもしれない。

そして1,800兆円と言われる個人金融資産の大半が未だに現預金だとすると、まだまだ焼畑農業を広げても全然大丈夫なんだろうけど、それでは健全な「貯蓄から投資へ」という流れにつながらないよね、と金融庁も言い出しているという話。


この影響で毎月分配型投信は販売を自粛?したために残高が急減しているわけだが、これを買い支えるのが日銀、というのも市場の価格形成としてはどうかと思うのだが、そのへんは金融庁の所管ではない、ということなんだろうか。



PS
英国における信託の歴史の説明に紙数を割いていて、『フィデュシャリー「信認」の時代―信託と契約』(今は絶版になっていて中古ではいい値段がついているようです)などからも引用されていたのが懐かしかった。

丸の内の三菱UFJ信託銀行本店の脇にある信託博物館、いつも横目で通り過ぎていたんだが、一度覗いてみようと思う。


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『本日は、お日柄もよく』

2017-06-18 | 乱読日記

友人が面白い、とくれたので。
原田マハは初めて。

スピーチライターという仕事を軸にした、主人公のアラサーOLの恋愛と成長の話、と書くと軽い感じになるし、実際テンポよく読みやすいのだが、折々に出てくるスピーチがいちいちツボをついていて、言葉の力を感じさせてくれる。

政権交代前夜の選挙が舞台になっているのだが、現実の政治家のスピーチは、上からの借り物だったり、型どおりでその場のお約束にのっとって「目黒のさんま」よろしく小骨が(どころか背骨も)抜けてるか、逆にやたら感情的になってるのが多いのだが、ライターを入れるかはさておき、もうちょっときちんと話せる人が出てきてほしい。

本書は2010年8月発行だが、このセリフが既に重い。

「いい?スピーチは魔法じゃないのよ。そりゃあ今回の総選挙はうまくいったかもしれない。でもそれは聴衆がたまたま変革を求めていた時期と選挙の時期が重なって、それを民衆党がうまく誘導できたから。タイミングも、運もあったと思う。私たちが作ったスピーチがすべてを変えた、なんて思い上がらないことよ」

 

 

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