一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

楽天vsTBSの和解報道

2005-11-30 | M&A

楽天、TBSが和解合意 30日発表、対決回避
(共同通信 2005年11月29日 (火) 20:58)

楽天とTBSは29日、楽天が経営統合提案を撤回し、資本・業務提携に向けての和解交渉に入ることで基本合意した。両社は30日午後に覚書に調印し、正式発表する見通し。楽天が取得したTBS株については、半分程度の議決権を凍結し、交渉中には買い増ししないことを確認した。

楽天がTBSの株式を大量取得して経営統合を迫っていた問題は、全面対決に突入する直前になって、取引銀行のみずほコーポレート銀行の仲裁で一転、和解に向かうことになった。放送とインターネットの融合について、提携で具体的な成果を出せるかが焦点となる。

 このニュースは29日の昼過ぎから流されていたのですが、これは楽天にとっては具体的な成果がないまま1100億円が塩漬けになるということで決してプラスの話ではないと思うのに、この報道に関して何のコメントもしていません。

普通なら和解交渉にあたっても守秘義務契約を結び、特に自分に分の悪い和解に当たっては、自社のスタンスをpositiveにアピールするためのコメントを用意した上で同時に公表するというのが多いと思います。
もっとも今日の株価の動きを見ると、始値が前日比2,700円高の80,000円から約45分で今日の高値85,900円まで上がり、そのあと83,000前後で推移しているので、市場としては折込済みだったのでしょうか(でも、朝一番の動きはちょいとインサイダー臭いですが。下図参照)



それなのに、前日に立会時間内にネットに流され、4紙の夕刊に取り上げられるほどの派手なリークをなぜ止められなかったのでしょうか。
今回どの報道でも「みずほコーポレート銀行の仲裁」というのが出ているので、みずほCBからのリークっぽいのですね


それだけ交渉がTBSペースで進んだということなのでしょうか
それとも、次のような理由から楽天があえてリークを容認したのでしょうか(②はあまりかっこいいとはいえませんが、戦術としてはありだと思います)

① いきなり公表してサプライズを与える前に「観測気球」を上げた
② 興銀OBとしての三木谷社長がもう一度財界にすりよるために花を持たせた

いずれにしろ、今日の正式発表のときに前日の報道を踏まえてどの程度前向きなアピールができるか次第ですね。

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国交省委員会招致(構造計算書偽造問題 その7)

2005-11-30 | あきなひ

今日実施された、衆議院国土交通委員会参考人招致の内容については、夜のテレビニュースで見た程度なのですが、簡単な感想を

 1 企業PRという観点の欠如
そもそも立ち居振舞いが論外だったのがヒューザーの小嶋社長と木村建設の社長。

小嶋社長はそもそも悪人面のうえに、イーホームズの社長の発言に対して恫喝するような野次を飛ばしたり、質問に対して国交省に八つ当たりしたり「倒れるなら前向きに倒れる」などと開き直った発言をするなど、「論外の外」でした。

木村社長は「東京支店長がやっていたのでわかりません」の一点張りで、東京支店長も「そのようなことはありません」だけで、何で1社で2人出てきたのかすらわからない状態でした。

アメリカの百戦錬磨のPR会社を雇えとは言いませんが、

 ① そもそも参考人招致というのがどういう趣旨なのか
⇒言い逃れに終始した木村建設と逆切れした小嶋社長はそれ自体わかっていないようでした
② テレビで実況中継されることのPR効果をどう考えているのか

について少しは考えてから出席すべきだったと思います。
まあ、当事者のレベルがわかった、という意味では収穫だったかもしれませんが。

その意味では、イーホームズの藤田社長は質問にまっとうに答えていました(IPOをめざしている経営者としてはこれくらいできないと仕方ない事なのかもしれませんね)
ただ、2で触れるように、ちょっとずつ関係者に責任転嫁しつつ自らの正当性を主張する、というトーンが目立った感じもします。

2 イーホームズ藤田社長の証言について

論外な2社については放って置くとして、藤田社長の証言で物議をかもしそうな点について

(1)国土交通省の担当官の一時対応

「本来特定行政庁(建築確認をする市など)に報告申し上げるところでしたが、事の重大性から国土交通省に報告したところ、『申請者とよく話し合うように』と言われた」という点

民間委託後の建築確認制度と行政責任についてはtoshiさんの記事に詳しい解説があり、行政も(購入者の被害を全額国家賠償請求できるかはさておき)法的責任から無縁ではすまないと思いますが、さらにこの発言から、窓口担当者の感度の鈍さ、事なかれ主義が明らかになってしまいました。

(2)日本ERI

「ある構造設計士から、姉歯の別の案件で1年前に偽造が発覚したときは建築確認を行った日本ERIが隠蔽したと聞いている」

これをあえて発言する必要があったのか、というところには意図的な責任分散の臭いもしますが、そのあとのTVの取材に対する日本ERIの社長の発言「隠蔽の事実はないが担当者が偽造に気づかなかっただけだ」(という趣旨)は、少なくともこの偽造問題発覚後は内部調査をしたであろう建築確認審査会社としては相当おそまつな発言です。何で自ら公表しなかったのでしょうか?

(3)「内部監査」の連発

イーホームズの社長は「当社の内部監査により偽造が発覚」ということをくり返し言っていました。これは、ミスがあったとはいえ自社のコンプライアンス態勢は機能していた、ということを主張したいのだと思います。
確かに本件を自ら最初に公表したことは評価すべきだと思います。また、内部監査が機能したことも評価すべきだとは思うのですが 一体どういう内部監査で偽造が発覚したのでしょうか?

毎日新聞の記事(2005年11月28日15時00分)では、

イー社の説明では、10月6日に内部監査室が月に1度の社内監査を実施すると関係部署に通知。延べ床面積200平方メートル以上の建築物308件の中から5件を無作為抽出したところ、姉歯(あねは)建築設計事務所がかかわった構造計算に不審な点が見つかった。調査の結果、工事中・未着工のマンション4棟の構造計算書が偽造されていたとして26日、国交省に報告。

とありますが、イーホームズの社長の「偽造は巧妙なもので、通常の審査では発見できない」という主張が正しいとするなら、20日間で5件の構造計算を通常よりも高い精度で行ない、国交省に報告できるまでに仕上げられたところに不自然さを感じます。

やはり事前に姉歯建築士の物件の問題をピンポイントで指摘するようなきっかけがあったのではないでしょうか。 その辺を明らかにするとより説得力が増すと思うのですが、そうなると姉歯(または木村建設/ヒューザー)とイーホームズ担当者の癒着のような話がでてくるのでしょうか。


全体的にはイーホームズの藤田社長のまっとうさが目立った委員会招致でしたが、きれい過ぎるところに逆にdefensiveな香りを感じてしまいました。

******************************************
(11/30付記)

昨日はTVニュースのダイジェスト版だったのですが、今日の新聞報道を見ると

①1年前の姉歯の偽造隠蔽(日本ERI)について匿名で情報提供があった
②これをもとに10/20、姉歯がかかわった1件で偽造が発覚した。建築主はヒューザーだった
③姉歯・ヒューザーの組み合わせの全物件を調査したところ、11件で偽造が発覚した

ということのようです。

こっちのほうがつじつまが合うのですが、②で発覚した1件は無作為抽出だったんでしょうか?
産経新聞の記事のように定例の内部監査でないとすれば、②の時点で姉歯関係を全件チェックするのが普通では?と思ってしまいますが・・・

ちょっと勘ぐりすぎですかね・・・

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おしゃべりなエレベーターの悩み

2005-11-29 | よしなしごと

最近のエレベーターにはいろんなサービスがついています。

中に液晶パネルがあって、時刻や天気予報は当然として、株価や為替速報、Bloombergのニュース速報まで流れていたりします。

また階数案内を日本語と英語でしてくれるのもあれば、中がちょっと混んでいて入るのに躊躇していると「あと2,3人乗れます」などと言ってくれるものまであります。
これは開扉時間と重量から計算するのでしょうが、そこで実際に乗り込むのは1人くらいのことが多いですね。やはり、自分が乗った途端に重量オーバー、というのはいやですから。

そういうおしゃべりなエレベーターに乗ったときのこと、「ドアが閉まります」という日本語のアナウンスの後に

"Doors are closing."

 と英語でアナウンスが流れました。

「へぇ。両開きだから"doors"って複数形なんだ」と妙に納得していたところ、数日後別のビルのエレベーターでは

"Door is closing."

 と言うではありませんか。 一体どちらが正しいんでしょうか?

後者は冠詞がついていないので文法的には正しくないのでしょうが、自分のドアが閉まることを言うエレベーターのセリフとしては 

"A door is closing." というのもちょっと間が抜けてるし

"The door is closing." というのもよそよそしいし 

"This door is closing." というのでは、どこかに隠し扉があるのか?と疑われてしまいそう

なので、なかなか難しいところです。

最初のエレベーターはこの辺を悩んだから複数形にしたのでしょうか?

正しい英語はなんだろう、と謎は深まるばかり。
留学帰りの連中も見解が分かれてます。


で、ひとつの仮説を立てて見ました。

アメリカではそもそもエレベーターがしゃべったりしないので、それを前提とした適切な冠詞や指示代名詞の用法なんてものはなく、これは日本のエレベーター特有の悩みなのではないか


過剰な能力を持ってしまった鉄腕アトムの悩み(古!)とちょっと共通するところがあるかもしれません。
そうだとするとエレベーター業界のお茶の水博士も罪作りなことをするものです。

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「砂と霧の家」

2005-11-29 | キネマ
原作の小説もアメリカでベストセラーだった、という謳い文句と、ジェニファー・コネリーとベン・キングスレーの競演ということで、「砂と霧の家」を借りました。


ジェニファー・コネリーは父親から相続した家に住んでいるものの、税金の滞納から家を競売にかけられてしまいます。
その家を、ベン・キングスレーが落札します。彼は一方でイラクで裕福な生活をしていたものの革命で亡命を余儀なくされ、アメリカに渡ってからも残った資産で表向きは贅沢なホテル暮らしをしながら肉体労働の掛け持ちで生活を支えています。彼はこの家でホテル住まいですさんだ家族の絆を取り戻すと共に、転売する事で利益を得ようとします。
ところが、競売手続きにミスがあったことが判明します。しかし一度競落された物件は飼い主の合意がないと返してもらえないので、ジェニファーはベンに掛け合いますが、ベンはうんと言おうとしません。

そこで、この家を巡る2人の争いが始まり、悲劇的な結末を迎えてしまう、という話です。


確かに2人の演技はうまいです。
脚本も良く出来ています。
おまけに「24」シーズン4のテロリストの首領の妻と息子の役をした俳優がそのままベン・キングスレーの妻と息子役という内輪受けのネタまであります。

なので、なかなか見ごたえのある映画です。

でも、amazonのレビューを見ると「悪い人はどこにもいないのに皆不幸になってしまう」というようなことを書かれている人がいましたが、どう考えてもジェニファー・コネリー役の女が悪いと思います。

父親から相続した唯一の自分のよりどころとなる家にこだわる気持ちはわからなくもないけど、ベン・キングスレー役の男は別に何も悪い事はしていないのですから、そんなにしつこくからむ必要はないわけです。

しかも、ジェニファーはデキてしまった副保安官の暴走をある意味ずるく利用して、それが悲劇の原因になるわけです。

それに比べてベン・キングスレー役の男は頑固ですが立派です。
決してこんな目に遭う必要はないわけです。


なんか「家を取り上げられた無職の白人と人種的偏見を持つ田舎の副保安官が、家を取返そうとして、真面目に働く移民に因縁をつけて寄ってたかってひどい目にあわせている」という感じがしてしまいました。

それだけ、ベン・キングスレーの演技が上手い、という事かもしれません。







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立場と役割と責任について三題

2005-11-28 | よしなしごと
(その1)
弁護士でもあり衆議院議員でもある西村真悟氏の非弁活動問題

これはもっぱら「西村議員逮捕」という文脈で報道されています。

しかし今回の非弁行為は衆議院議員としての活動の一環としてではなく弁護士事務所の活動としてなされていたようですし、職業独占を認められている弁護士自身がその規制を破ったという意味で「弁護士西村真悟」としての責任の方がはるかに大きいと思います。

事は弁護士としての職業倫理の問題であり、議員として所属する民主党の対応などでなく、所属する大阪弁護士会の対応(懲戒処分)に注目したいと思います。


(その2)
ヒューザー社長 公表2日前、伊藤元長官が国交省幹部に紹介について。

伊藤元国土庁長官は、「相談を受けたときは構造計算書偽造の話は知らず、居住者のためにも早く対応すべきだと思っただけ。小嶋社長からも偽造の話はなかった」「その後、小嶋社長から連絡はないし、私から連絡したこともない。問題の情報も報道以上のことは知らないが、こうなった以上、小嶋社長との付き合いにけじめをつけなければならないと思っている」と言ったり、自民党の武部勤幹事長が「事実なら不用意極まりない」と言ったりしているようですが、国土交通省関係に造詣の深い議員であれば、ヒューザーとのつながりを躍起になって否定するのでなく、この問題をどう解決すべきかについての見識を見せるべきではないかと思います。

寄付をもらっている支援者からの相談であれば相談に乗るのが普通でしょうし、問題の重要度からいえば支援者でなくとも国土交通省を紹介するのは国会議員の仕事として当然だと思います。
ところが上のような言い逃れの連発を見ると<支援者を役所に紹介する=支援者を助けようという役所への圧力>という図式がマスコミや世間に定着しているだけでなく、やはり当の国会議員もそれが基本と考えていることが透けて見えてしまっています。

言い逃れなどせずに
「相談を受けて国交省を紹介したのは事実だが、支援者だからといってヒューザーのしたことを擁護するためでなく、事態の重要性・緊急性に鑑み、問題解決のためには国交省も積極的に介在していく必要があると考えたためだ。個人的には・・・・・・というような対応策が必要だと思っている」
くらいのことを堂々と言えないものでしょうか。


(その3)
ヒューザー、全物件買い戻し表明 購入額に6%上乗せ
(2005年11月26日 (土) 22:50 朝日新聞)
ヒューザー「年末にも倒産の恐れ」と説明 住民は猛反発
(2005年11月28日 (月) 01:27 朝日新聞)

当事者能力も当事者意識も責任感もない奴からは、とっとと主導権を奪ってしまったほうがいいと思います。
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季節感の喪失

2005-11-28 | よしなしごと
ダイエーに行ったら、クリスマスソングの流れる店内で、ボジョレー・ヌーボーの隣で鏡餅を売りはじめていました。

商店街の美容院では、来年の成人式の案内をしていました。


需要を先取りする気持ちはわかりますが、季節ごとのイベントに追い立てられるような感じがして、かえって季節感が失われてしまうように思います。
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水資源の話

2005-11-27 | よしなしごと
昨日に続いて水の話。

先週NHK-BSの朝の世界のニュースで、リビアの水資源開発の話をやっていました。
南のニジェールとの国境付近の砂漠の地下の巨大地下水層から水を汲み上げ、地中海沿岸の都市部までパイプラインを引くという25年の年月と1000億ドルの巨費(だったと思います)をかけたプロジェクトです。
現在一部が稼動中で、都市の水道、砂漠の緑化、農地の拡大に役立っているそうです。

「リビアといえばカダフィ大佐」という以上の知識はほとんどないのですが、石油資源の資金力はすごいですね。

でも国境付近の巨大地下水層というのは、国際法上の権利はどうなっているのでしょう。
(尖閣諸島の大陸棚油田とも共通する問題ですが、これについては知識がないので、勉強してから書きます)

新刊された"Courrier Japon"の創刊号で、ブッシュ父が衛星で南米の氷河の下に希少金属の鉱脈があるのに目をつけ、採掘権を手に入れて大規模な開発をしている、という記事が載ってましたが、地下水層というのも今後探索合戦が盛んになるのかもしれません。
(既存の欧米のミネラルウォーターの採水権はネスレグループを中心に大手資本がほとんど押さえてしまっているようですが)


一方で、新聞の特集記事で見たのですが、"The Body Shop"の創業者の女性は「水資源は公共財だ」という意見のもと、市販のミネラルウォーターは一切口にしないそうです。

これもひとつの見識だと思います。

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中国の汚染事故と川下・風下としての日本

2005-11-26 | 天災・人災

【中国】 吉林石化事故で汚染か、ハルビン断水措置
(2005年11月23日(水) NNA)

河川汚染、露ハバロフスク非常事態宣言へ
(2005年11月25日 (金) 21:23 読売新聞)

石油化学工場の爆発事故による中国黒竜江省ハルビン市の松花江汚染問題で、中国環境保護総局は25日、河川に流入したニトロベンゼンの濃度が同日午前0時に環境基準の33・15倍に達したと発表した。

松花江の下流、アムール川に面するロシア極東・ハバロフスクでは警戒が高まっており、ロシア政府は24日、アムール川での魚釣りを数年間禁止することを検討していると発表。「世界自然保護基金」ロシア支部も、「アムール川のすべての魚の消費禁止が必要になるかもしれない」との見解を示し、「汚染の影響は5~7年間続く」可能性を指摘した。

中国政府によると、有害物質の流れは長さ80キロに及び、露当局によると、露領内通過には10~14日間が必要という。


「姉歯問題」に気を取られているうちに、中国でも大変な事態が起きていました。

また、
中国・重慶でも化学工場爆発、1万人以上が避難
(2005年11月25日 (金) 18:28 読売新聞)
という事故もあったようです。

工業用水や輸送のために工場も大きな河川に沿って立地することが多いので、工場での事故が河川の汚染につながることが多いのだと思いますが、
中国は実は水資源が不足していて、人口一人当たりの水資源は世界平均の4分の1にすぎず、しかもその分布はきわめて偏っており、江南地区にその70%が集中しているそうです(『中国農民の反乱』による)

つまり、河川の汚染は農業生産にとっても深刻な打撃になるわけです。
(ちなみに中国の人口一人あたりの耕地面積は世界平均の半分以下、日本や韓国の数分の一だそうです)

その結果中国の食料輸入が世界の市場を押し上げて同じ食料輸入大国である日本への影響もありますし、農地が荒廃して砂漠化が更に進むと、黄砂問題などもより深刻化しそうです。

黄砂に関しては偏西風の風下である日本への影響も大きいですし、
アムール川の汚染なども、日本海が汚染の排出口になるわけです。

しっかりしてもらいたいものですし、自国の安全の見地からも、災害対策援助をしたほうがいいのではないでしょうか?

******** 付 記 ***********

こちらのエントリからの再掲ですが、

中国から見ると、日本は(南西諸島を含めると特に)太平洋への出口をふさいでいるように見えるし、中国から流れ出たものは日本海にたまることになる、という図です。ご参考まで。

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再発防止のために必要なもの(構造計算書偽造問題 その6)

2005-11-26 | あきなひ

耐震強度偽装、「見逃し」自治体も困惑
(2005年11月25日 (金) 12:39 朝日新聞)

耐震性が不足している設計のホテルが、神奈川県平塚市の建築確認をすり抜けていた疑いが強まった。建築確認したのは自治体なのに、安全が確認できないとして営業を休止しているホテルは、愛知県刈谷市や長野県松本市にもある。

民間の検査機関が建築確認できるようになった99年以前に自治体が行った審査の信用性にも疑いが生じている。

前にコメントしたように(こちらの記事の最後のほう)、今回の事件は建築確認を民間に委託したから起きた、という議論は問題の所在をミスリードするように思います。

今回の偽造が単純なもので、民間の検査機関や役所がそれすら見抜けなかった杜撰な検査をしていた、というのなら、再発防止はそこの検査機能を強化すればいいわけですから比較的容易です。

しかし事の本質は、今回の偽装が建築確認のしくみが想定していない悪質な偽装だった、というところにあるのではないでしょうか。


すべての検査、確認のしくみは関係者に一定レベルの信頼がおける、という前提で成り立っています。そのために公的な資格があるわけです。

逆に関係者が全く信用が置けない、となると、隅から隅まで徹底して調べなければならなくなりますが、そうすると世の中すべてのしくみに膨大な経済的・時間的コストがかかってしまいます。
極端な話、大臣認定ソフトウエア自体の改ざんとかまで考えると、構造計算を建築確認をする企業や役所が一からやり直さないといけなくなってしまいます。


ところがここ数年、雪印乳業の賞味期限切れ牛乳の再利用、三井物産のディーゼル触媒のデータ改ざん、三菱自動車の欠陥隠しなど、「さすがにここまではやらないだろう」と思われるような出てきて、従来の常識は崩れつつあるように思います。

上の企業は大企業でしたので、役員の辞任、社会的な制裁や株式市場での評価というペナルティがそれなりに効を奏して、他の大企業もコンプライアンス態勢の充実に取り組むようになってきた訳です。


しかし、今回の姉歯建築士のような「背に腹は替えられない」という個人事業主や、ヒューザーのような自分の会社の急成長しか視野にないオーナー企業に対しては社会的制裁では限界があるということが明らかになってしまったと思います。

となると、今後は世の中の諸制度を上手く機能させるためには、刑事的な罰則の強化(木村建設のように破産に逃げ込んだときのための経営者個人への両罰規定の強化も必要かもしれません)や懲罰的賠償のような民事的な制裁の強化をしていかないといけないのかもしれません。


それが社会全体にとっていい方向ではないとは思えないところが悩ましい部分でもありますが・・・

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コンプライアンスと現場の取引関係(構造計算書偽造問題 その5)

2005-11-25 | あきなひ

耐震偽造 「支店長がリベート要求」姉歯建築士が本紙と会見 (産経新聞)

姉歯建築士は、大口取引先の建設会社支店長から「今月は四十万円ほしい」などとリベートを要求され、この建設会社から架空業務を受注した形にして現金を捻出(ねんしゆつ)し、支店長に送金したとも証言。

偽造を始めて以降は、同社からの仕事が全体の九割以上を占めるようになった。このため支店長の意向に従わないと仕事がなくなると思い、偽造やリベート提供を続けたとしている。

建設業は特にそうなのかもしれませんが、どの業界でも、現場や末端の細かい仕事は個人事業主やそれに近い会社が仕事を請け負っていることが多いと思います。

そこでは、

発注者側は「発注の裁量権の範囲で動かせる金はあるがサラリーマン個人として自由になる金は少ない」
受注者側は「発注をもらわなければそもそも仕事にならないが、個人として自由になる金は多い」

という構造になり、そこにキックバックやリベート、無理な受注の強要が生じやすくなります。

独占禁止法などで発注者の優越的地位の濫用は規制されているのですが、発注側の担当者と受注側の利害が一致する場合は現場での規制が働かなくなります。

その結果、無理な発注を処理するために、今回の姉歯建築士のように提供するサービス・商品を粗悪品にするとか、低賃金の外国人不法労働者などににしわ寄せをする、というような現象がおこりがちです。


この部分は企業のコンプライアンスを実効性あるものにするためにどのような方法が有効かは難しい問題です。

昔の銀行は給料が高ければ不正はしないだろう、という考えもあったのでしょうが、高待遇に慣れてしまえばやはり不正は起きたわけですし、そもそも「接待」と「過剰接待・供応」の線引きは難しい部分があります。
流通業の会社などで受付に「弊社社員への中元歳暮付け届けは一切禁止します。発覚した場合は取引停止します」などと掲示してあるのを見ると、現場での線引きがいかに難しいかを実感します。

一連の報道で「だから建設業は・・・」と思いがちですが、他の企業も教訓にすべき部分は大きいと思います。

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コンラッド『闇の奥』

2005-11-24 | 乱読日記
Kobantoさんの記事に背中を押されて、本棚の奥から取り出してコンラッド『闇の奥』を読みました。

1899年の作品で、コンゴ川を遡って密林の最奥の象牙商社の出張所に居ついてしまい伝説となったエージェントを連れ戻しに行くという大英帝国が元気だった頃の話です。
コッポラの「地獄の黙示録」の原案になったことでも有名です。
実際主人公が尋ねていくのが「クルツ」という名前だったり(映画では「カーツ大佐」)プロットやエピソードも原案をかなり下敷きにしているところがあります。

一方でE.W.サイードは『オリエンタリズム』の中で本書に言及して(一説は下巻扉の部分でも引用されています)

「西洋に発見されるオリエント」という「発見し、現場におり立ち、暴露しようとする認識論上の衝動に特有な倫理的中立性をおびることができ」る地理的な欲望という形で東洋への著述に潜在しているオリエンタリズムの一例としてあげています。

本書の場合はアフリカに対して「発見し、暴露」しようとすらせず、不可知な他者であり、略奪の対象、クルツの狂気をもたらした特殊な外部環境というもっと引いた立場で書いているところが「ここにヘンな世界があるよ」と高みから言っているということなんでしょう。

確かに現地や原住民に対する認識の壁(コミットのなさ)がクルツの狂気や他のイギリス人の人間性の荒廃の由来に踏みこまないことになり、結局「アフリカ」というのが単なるモチーフで「狂気に直面した主人公の心の揺れ」を描いただけ、という物足りなさはあります。

まあ、それも現代の視点(高み)からの見方で、そういう小説もあっていいのですが(もともと文庫で160ページくらいの中編小説ですし)・・・


考えてみるとこの点は「地獄の黙示録」にも共通しているように感じます。
この映画も「戦争の狂気」を描いているのでなく「狂気のモチーフ」として戦争を描いているわけですね。

ただ、終わり方は小説のほうがわかりやすかったです。







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逆風でも順風でも

2005-11-23 | あきなひ
構造計算書偽造問題はいろんな広がりがありそうなのでここ2,3日エントリが集中してしまいましたが、ちょっとひと休み。

先日キムチを主力商品にしている食品加工会社の人と話す機会があったのですが、中国・韓国の「寄生虫の卵混入」事件で国産キムチは追い風かと思ったら、逆にキムチ全体が敬遠され、売上が激減だとか。

急いで「国産」のシールを作り、商品に貼ってもなかなか売上は伸びないらしいです。


ひるがえって、設計・建設業界・マンション業界では、今回の事件で大手の会社には風評被害が及ぶのか、を考えると、建築確認審査の強化等の影響はあるでしょうが、住む家や建物自体は必要なので需要全体が大きく落ち込むまでは行かないのではないかと思います(キムチと違って代替するものがないですから)。
かえってに大手には追い風かもしれませんね。

今回の件はまじめにやっている人々にはいい迷惑だったと思いますが、これを「一部の悪徳業者」のせいにするのでなく、自分たちの仕事が社会の重要なインフラを担っていることを真摯に受け止めて、改めて妙な業界慣行など(がまだあれば)を見直す機会にしてもらいたいものです。

「景気の影響はあるにしろ、結局仕事はなくならないから」という姿勢でいると、いつかしっぺ返しが来ると思います。
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依然妙案なし?(構造計算書偽造問題 その4)

2005-11-23 | あきなひ

「7棟建て替えに47億円」 ヒューザー社長が会見
(2005年11月22日 (火) 22:36 朝日新聞)

小嶋社長は「(建て替えのためという理由では)民間の金融機関では相談に乗ってもらえず、国や都、県の貸し付けを検討してもらいたい」と述べ、公的資金が必要との考えをあらためて示した。入居者からの買い戻しの要請については、「150億円の資金が必要になり、応じられない」と語った。
また、7棟の入居約230世帯を対象に、今後の対応策が決まるまでの間、ホテル宿泊費を負担することを明らかにした。

さっきテレビのニュースを見ていたのですが、この社長は、「建物は問題ありますが土地は問題ないのですから(解除には応じられない)・・・」などと意味不明のことを言っていて、混乱しているのはわかるのですが、この会社大丈夫なのかな、と心配になりました。

倒産したら元も子もない、という(ちょっと開き直りも含めてですが)なかで打開策を提案しようという姿勢は妙に周到に倒産を目指している木村建設よりは一応評価すべきだとは思いますが、住民への補償を除いても

① 建て替え中にフューザーが倒産したり、建て替え資金を差し押さえられたらどうする
② 建て替えの際に住宅ローンの金融機関は抵当権をはずしてくれるのか(他の担保提供や返済を求めないか)
③ 建て替え期間中に(急病・相続・離婚等で)売却を余儀なくされた住民はどうなる

など、かなりハードルは高そうですし、フューザー自身「公的融資が前提」と言っているので、結局は時間稼ぎにしかならない(または最初からそのつもり)かもしれません。

公的融資については今さらフューザーに融資して焦げ付くリスクを取るのであれば、ストレートに契約解除でフューザーが倒産した場合に住民が取りっぱぐれた部分(の一部)を公的資金で補償するほうがいいのではないかと思います。

ただここで、本件に公的資金を投入すべきなのか、という問題が別にあります。

耐震強度偽装で国交相、公的支援を検討の方針
(2005年11月22日 (火) 14:33 読売新聞)

北側国交相は「民間の検査機関が行ったとはいえ、建築確認は法律上は公の事務だ」と説明し、マンション居住者らへの補償責任については、「まずは建築主に契約上の責任がある」として、具体的な支援策については明らかにしなかったが、「(公的支援も)今後しっかり検討したい」などと述べた。 

比較的早い段階での国交相のコミットは非常にいい事だと思うのですが、今回、住民の損害のほとんどを国家賠償の形で補償するのは他の行政活動とのバランスからも難しいようにも思います(上の記事によると「民間の指定確認検査機関が行った建築確認は、それを受理した自治体に責任がある」という最高裁判決が今年6月にあったそうですが調べてません)


また、「被害者救済」という意味での公的資金の投入にはアスベスト被害(やU-2さんからコメントいただいた原発)のように、社会的に有用と思っていたものが実は国民に損害を与える事が発覚した、という政策の不備や被害の広範性が必要なんじゃないかと思うのですが、今回は住民は特定企業の不法行為の被害者なので、犯罪被害者は犯人に民事訴訟で損害賠償を求める以外に公的資金で財産的損害をカバーする制度がないこととのバランスとかが問題になるのではないでしょうか。

それとも、行政の責任との「合わせ一本」というのもありでしょうか。

また、今回の事件で業界全体の信用が失墜しつつある検査団体・設計会社・建設業・不動産業者が主体となって補償を考え、それに対して若干の公的補助をするというのが理想的なようにも思いますが、大手の会社は「だから信用のあるところと取引すべきなんだ」「インチキ業者の奉課帳を回されるのはたまらん」と協力に消極的なことが予想されますのでこれも難しいかもしれません。


ということで、今日もすっきりしないで終わってしまうのですが、次回以降の整理のためにいくつかの論点を付記します


1 建築確認の民間委託が本当に原因だったのか

個人的には今回の偽装は役所が検査していたら発見できたのか、役所は民間より厳格な審査を行っているのか、については懐疑的です。

そもそも指定確認検査機関の指定を受けるには所定の数の建築基準適合判定資格者検定に合格した「確認検査員」を置く必要があります。
ところがこの「建築基準適合判定資格者検定」というのはそもそも受験資格自体が

一級建築士試験に合格した者で、建築行政又は確認検査の業務その他これに類する業務で政令で定めるものに関して、二年以上の実務の経験を有するものでなければ受けることができない。 (建築基準法5条3項)

という厳しいもので、しかも

第二条の規定の施行前に旧法第五条第一項の建築主事の資格検定に合格した者は、新法第五条第一項の建築基準適合判定資格者検定に合格した者とみなす。 (建築基準法附則2条2項)

というおまけつき。つまり、「民間委託するけど今まで従事していた役人を天下りさせろよ」と言っているような制度のように見えます(聞いたところによると、実際に天下りが多いらしいです)
なので、民間委託したから検査の精度が下がったとは当然にはいえないと思います(営業サイドからの圧力、と役所における議員さんからの圧力はどっちもどっちではないでしょうか)。

したがって、建築確認の審査体制の強化というのは「官民の対立・比較」と別の軸で議論したほうがいいように思います。
また、このへんが国交相の「行政の責任」発言の背景にあるのかもしれません。


2 「マンション業者の社会的責任」

ちょっと実も蓋もない話になってしまうかもしれませんが、業界の構造上、分譲マンション業者(やそのメインバンク)がCSRを果たす(ために企業を支える)インセンティブが必ずしもないのではないか、という話です。

聞くところによると、極端に言えばマンション業者は、銀行融資と用地情報を紹介してくれる不動産屋と建設会社があればだれでも出来るそうです。
バブルの頃や最近のマンションブームになると、雨後の筍のように聞きなれない名前の新規参入業者が出てくるのはこのためです。

銀行にとっては資金回収が比較的早い融資先が増えるだけでなく、信託銀行の不動産部門や銀行の(銀行法上は関係ないことになっている)親密不動産会社の手数料収入にもなるので一石二鳥です。
さらに、自分の融資先のリストラのための資産処分や、再建支援中のゼネコンの仕事にもなるとなれば、そういう新興デベロッパーへの融資にも積極的になります。

新規参入組の典型例は、土地を仕入れる強力なルートを持っていたり、強力な販売力を持っていたり、強力なコスト競争力を持っている「やり手オーナー社長」の会社で、ブームを契機に業容を拡大し、IPOをして大手デベロッパーの仲間入りを目指したりします。
ただ、中には「強力な」という部分がコンプライアンス上問題(悪質な地上げ、過剰な営業、手抜き工事)があったりしてトラブルになる会社もあったりします。
しかしこういう企業の社長は、一度失敗しても種銭(それもスポンサーが出す事が多い)を失うだけなので、また次のブームに新たなスポンサーを見つけて復活を遂げたりします(それ自体は敗者復活があるので健全かもしれませんが)

また一方では、「用地・建設・販売まで一貫して面倒を見てあげるのでお金だけ出せばいいですよ」と共同事業の事業シェアを売ってフィーを得るというビジネスモデルのH社のようなデベロッパーもあるので、ほとんど投資会社のようなデベロッパー(立派な新聞折込の下に売主としてゾロゾロ名前を連ねている会社ですね)もいます。

つまり、

①一定の規模以上の会社でないと、収益を犠牲にしてまでCSRを果たそうというインセンティブが働かない
②銀行も「メインバンク」という意識よりは効率のいい融資先程度にしか思っておらず、自らの資金回収と融資の安全を優先する
③投資会社のような売主の場合、会社への出資者の資本の論理が優先しがち

という業界の構造になっているのではないでしょうか。

となると、過去記事(下の「その3」)でCSRといっても倒産してしまったら・・・という話をしたのですが、今回のように新興(中小)業者のトラブルではCSRを叫ぶ事自体、残念ながらあまり意味がないのでは、という感じもしてしまいます。

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過去記事はこちら
構造計算書偽造問題について
マンションの購入者と倒壊の責任リスク(構造計算書偽造問題 その2)
CSR、倒産法制、"Empty Pocket"問題など(構造計算書偽造問題 その3)

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CSR、倒産法制、"Empty Pocket"問題など(構造計算書偽造問題 その3)

2005-11-22 | あきなひ
構造計算書偽造問題については、
構造計算書偽造問題について
マンションの購入者と倒壊の責任リスク(構造計算書偽造問題 その2)
でふれたのですが、今回特に被害・リスクの大きいマンション購入者については

①マンションの瑕疵を理由に契約解除して売主から売買代金を回収するのが手っ取り早い
②工作物責任のリスクを考えると一刻も早くしたほうがよい

ということがいえると思います。

しかしここで問題になるのは「マンション分譲業者は契約解除に応じるだけの資金力があるか?」という点です。

分譲マンション業者は

  ① 土地を購入(代金支払い)
       ↓
  ② 建物を建築(建築費支払い)
       ↓
  ③ 一般分譲(投下資金+利益回収)

を繰り返す商売をしています。①から③までは(規模にもよりますが)1年~1年半くらいで、銀行からの借り入れを運転資金にしながら資金の回転を早くして収益性をあげよう、という構造になっていると思います(なので、今回のような「仕事が速く工事の手間もかからない設計をする設計事務所」が重宝がられたのでしょう)

これは見方によっては自転車操業なわけです。
となると

 A 自己資金がない
 B 銀行の追加融資が受けられない

という状態になると、契約を解除されても返す代金がないので倒産してしまうわけです。

今回の売主のプロフィールは調べてませんが、構造計算書の偽造に荷担しておらず、今後も事業を続けていこうという会社であれば、CSR(企業の社会的責任)またはブランド失墜の回避のために自ら率先して買戻しを申し出るはずだと思います。

しかし、買い戻すにも自己資金がない場合は、銀行に頼るしかないわけですが、融資を依頼された銀行としては
 イ 会社が構造計算書偽造に荷担していて免許停止になる可能性
 ロ 建築会社、設計会社の資力が乏しいため求償できずに買い戻し費用がそのまま持ち出しになる可能性
 ハ ブランドイメージが維持できずに、今後の収益が悪化する可能性
というあたりをリスクとして考えます。

銀行は自分の株主に対する責任もあるので、倒産リスクのある企業にあえて融資をしていきなり倒産した場合には株主代表訴訟にもなりかねません(そこにあえて資金投入するのが銀行のCSRとまでは言えないと個人的には思います)。


となると、現時点でマンション分譲業者の自己資金がない場合は銀行の融資も受けられず
、契約解除をしても業者の倒産によって代金が戻ってこない、ということが残念ながら現実的なシナリオなのではないかと思います。


また、業者が倒産した場合には法律にのっとって債権の優先順位が決められ、担保をとっていない債権者は大きく債権カットされてしまいます。
考えられるとすれば民事再生の再生計画の中で、住民の買い戻し費用や耐震回収費用を優先的に支払うように債権者間の同意を取りつけることくらいだと思います。ただ、この場合も銀行等の債権者が被害者救済のために自分の債権回収を犠牲にする、という判断を迫られる事になります。
※ここは素人考えなので、他に手段があるかもしれませんが


資力のある大企業(Deep Pocket)が関係者にいる場合は理屈をつけてそこに負担をさせるという、という解決もある(もちろん大企業の側から見てそれが公正か、CSRの限度を超えていないかという問題はあります)のですが、関係者の財政基盤が弱い場合(いわば"Empty Pocket"状態でしょうか)には民事上の世界では実効性のある救済は難しいという問題があります。


そうすると、行政が公的資金で救済する、という選択肢もありますが、一私企業の悪事を公的資金で救済するには、(アスベスト問題などと比べても)事件の規模や一般性などが少し不足している感じもします。
たとえば築年数が古く老朽化したマンションの建て替え費用の補助との比較の問題になると思います。


あとは、業界団体が保険に加入するような制度をつくり、今回だけ遡及適用する、とかいう方法がありますか(保険料率の問題やらモラルハザードの問題があるのでダメか・・・)


うーん、なかなか難しそうですね・・・(すみません、尻切れトンボで)
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マンションの購入者と倒壊の責任リスク(構造計算書偽造問題 その2)

2005-11-22 | あきなひ

一昨日の記事toshiさんの記事でご紹介いただき、恐縮至極のあまり調子に乗ってお礼のコメントで

「責任」といってもいろんな切り口があるので、被害者救済と再発防止、業界や行政の信頼回復に向けての解決の全体像(おさまり)をイメージする必要があると思います。

などと申し上げた手前、もう少しいろんな視点から考えてみようと思います。

これはろじゃあさんが取り上げられている、欠陥マンションの購入者が万が一マンションが地震で倒壊して近隣に損害を与えた場合に、自らが工作物責任を負うリスクがあるという問題です。

工作物責任とは次の規定(民法717条)のことをいいます。

 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

これは土地の工作物(当然建物も含まれます)に瑕疵があった場合には、所有者は自分がその欠陥について故意・過失がなくても責任を負うことになります(無過失責任)。
そして瑕疵とは一般的には工作物が本来備えるべき安全性を欠いていること、と言われています。
では建物が自然災害である地震に対してどの程度の耐震性を有していれば瑕疵ではないか、が問題になります。

これに関して有名なものでは昭和53年の宮城県沖地震の際に以下のような事件が起きました。

Aは自宅の周りにコンクリートブロック塀を作ろうとBに発注した。しかしBはブロック塀に鉄筋を入れないなどの手抜き工事をした。Aはそれを全く知らずに数年後に宮城県沖地震(震度6)があり、ブロック塀の下敷きになって小学生Cが死亡した。
Cの両親はAに工作物責任に基づく損害賠償請求をした。

これに対して判決(仙台地判昭和56年5月8日)は

① 宮城県沖地震は過去に発生したことのない震度6の地震であった。そのような地震にまで耐える安全性を備える必要はないし、震度5程度で倒れる程度の塀であったという証明もないので設置の瑕疵はない。
② 法令上はブロック塀の改修の義務はないので保存の瑕疵もない

としてAの責任を認めませんでした(裁判例の詳しい解説はこちらをごらんください)


しかし今回は、構造計算の再計算によって「震度5でも倒壊のおそれあり」と判定されてしまったのですから、上の裁判例の考えでも設置の瑕疵はある事になってしまい、万が一の倒壊の場合には、住民は損害賠償責任を負うことになってしまいます。
※ちなみに「保存の瑕疵」については、現行の建築物の耐震改修の促進に関する法律でも改修努力義務までしか定められていないのでこちらは大丈夫だと思います。

理屈で言うとなんともやりきれない話ではあります。

万が一損害賠償責任を負った場合は、原因者である売主や施工会社などに責任追及できますがその場合は一般の不法行為責任の追及になるので、相手方の故意・過失を立証しなければいけない、というこれまた厳しい問題があります。

ということなので、工作物責任を回避するには一刻も早く契約解除してしまうのが一番なのですが、業者が倒産してしまいそうな場合などの問題もあります。

そのへんについては改めて。


PS こう考えてみると、失火責任法(※)との責任のアンバランスは際立つ感じがしますね。
(※)「民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス」という一文だけの法律で、火事で他人に与えた被害は故意・重過失(故意と同程度の過失)でなければ損害賠償責任を負わない、というものです。
でも、賃貸マンションで火事を起こしたりした場合は、賃貸借契約上の債務不履行責任を問われてしまいます(このネタはマンガ『ミナミの帝王』にもありましたね)ので、くれぐれも火の元にはお気をつけ下さい。

コメント (4)
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