一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』

2012-06-26 | 乱読日記

戦後沖縄の実像を正確に写しとるためには、最低限虫の目と鳥の目を兼備した複眼レンズが必要である。それは、大状況の概説を生き生きとした物語に転位させ、逆に、些細な日常を世界と日本の投影として描くということを意味する。  
重要なのは、沖縄が置かれた“大枠”の状況を語ることではない。そうした歴史的制約をむしろプラスに転化し、その変転する状況のなかで、したたかに生き抜いてきた人間たちひとりひとりの問題を語ることである。  

「戦争」「基地」というキーワードだけで沖縄を語るステレオタイプな本や、侵略者としてのヤマトの立場からの贖罪や逆に手放しの礼賛という著者の思いを投影しただけの本とは一線を画すものを書こう、という著者の意図は、 インタビューを芋づる的に繰り返して隠れた事実や人間関係をあぶりだす著者得意の手法によって見事に結実しているといえます。
(人と人のつながりや発見を過剰に自画自賛するところが若干目に付きますが)

元は雑誌の長期連載だけあって、とりあげられているテーマも多面的なところも本書の魅力です。  


一番印象に残ったのが、沖縄における奄美出身者への差別の歴史。
 
戦後奄美群島も米軍占領下にあったものの、山がちな奄美諸島は基地に適さないうえに日本は「外国」であったために、奄美の人々は沖縄に出稼ぎに行っていました。
ところが、1952年の奄美復帰により日本人になった奄美人にはUSCAR(米国民政府)により琉球政府において外人登録が義務付けられ、それと同時に奄美人の公職からの追放、土地所有権の剥奪、公務員資格の剥奪などが行なわれます。
琉球政府の行政副主席兼立法院議長、琉球銀行総裁、琉球開発金融公社総裁、琉球電電公社総裁などの要職にあった人々もすべて解任されたそうです。
そしてその背後にはUSCARへの沖縄人の陳情があり、その根底には琉球人に対する差別意識があったそうです。

その結果沖縄の奄美出身者は満足な職につけず、出身を隠していた人が多かったそうです。  

ヤマトと沖縄の関係の縮図が足元で行なわれていたことには、やりきれない思いもしますが、人間の営みの陰と陽はいずこにもあるということなのでしょう。  


それ以外にも戦後の沖縄の政財界の歴史に登場する人々の列伝や人物評(現、仲井真県知事も含む)も興味深く読めました。  


その他小ネタも盛りだくさんです。

昭和53年に当時衆議院議員だった石原慎太郎が尖閣諸島を購入しようと当時の所有者と交渉したことがある。
ジョン・カビラは沖縄尚王朝の名門川平家の末裔で、曽祖父は琉球王家の通訳として江戸、明治にかけて数度上京したこともある。(本書には明治5年に尚泰王の名代として伊江王子に遂行したとありますが『小説 琉球処分』のその場面には登場してなかったような)

などなど。

今年は沖縄返還40周年ですが、これを機会に読んでみるにはいい本だと思います。




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大飯原発はそもそもの安全性のレベルの問題を除けば普通の再稼動手続きをしているだけなんだけどな

2012-06-24 | 原発事故・節電・原発問題

議論や関心がどんどん妙な方向に行っているような・・・

大飯原発:水位の警報作動 発表半日後で陳謝
(毎日新聞 2012年06月20日)

保安院などによると、警報が鳴ったことは、同原発に近い大飯オフサイトセンターに設置した「特別な監視体制」が発生と同時に把握。監視体制には保安院や関電、福井県などの担当者が常駐しているが、「安全への影響がなく、法令に基づく異常事象でもないので、夜中に発表する必要はないと判断した」という。
保安院の担当者は20日、「前倒し発表をする認識はあったが、結果的に発表が遅れたのは、判断を誤った」と説明した。

法令の「異常事象」の範囲が甘い、という批判であればまだわかりますが、大きなリスクでない事象を即座に報告しないことは非難されるべきことではないと思います。

機械装置である以上は何らかの不具合は起きるわけで、それが事故にならないようにすることが大事なはずです。
細かい不具合自体を許容しないかのような姿勢は「絶対安全神話」を支えた心理の裏返しのように思います。

こうやって非難される

と、隠蔽か過剰反応かどちらかにならざるを得なくなります。

その結果がこれ。


大飯原発で送電異常の警報 大気不安定で無線途切れる
(中国新聞 2012年06月24日)

関電は公表対象のトラブルではないが、特別な監視体制の下にある現状を踏まえて発表したとしている。再稼働準備作業への影響はないという。


心配するなら、普通の再稼動手続きをやっている大飯よりも、トラブルからの復旧途上にあるもんじゅの方をより心配すべきだと思います。

もんじゅ来月中、復旧見込み 中継装置の機能試験。無事終了
(MSN産経ニュース 2012年06月22日)


電力会社・保安院が責任追及されることに過敏になる→専門家も「大したことないですよ」とは言えずリスクを大きめに予測して万が一のときの責任を回避する→不安が不必要に拡大する→そのうち受け止める側が「オオカミ少年」ととらえてしまい、重大なリスクの兆候を見逃してしまうという展開にならなければいいのですが。


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「経済学」の安売り

2012-06-19 | よしなしごと

日経ビジネス6/18号の特集 「早期退職の経済学」

「経済学」と銘打ちながら、要するに損得勘定の話。

老後に必要な費用を試算しながら、退職の後はバラ色ではない、という話と、残るとしてもこれからはもっと厳しくなるよ、というような内容です。

記事では明確にそうは言っていませんが、損得勘定ではよほど勝算がない限りは早期退職は得ではない、実際には退職に追い込むようなかなり過酷な事例もあるようですが(「中高年の最終処分場」などというのもあるらしい・・・)、実もふたもない話、がんばって「ぶら下がり」「しがみつき」をしたほうが得だと示唆しています。

大企業・中堅企業の従業員が中心と思われる日経ビジネスの読者を想定すればそこまででいいのでしょう。
ただ、中高年が老後に必要な資金を確保するために、若年層の就職や資産形成、ひいては家族形成の機会が失われてしまうのでは本末転倒です。

少なくとも「経済学」と銘打つ以上は、中高年の損得勘定が他に与える影響--「企業の従業員の1割が余剰人員」と言われている一方、65歳定年が義務付けられる中で、中高年が損得勘定優先で「ぶら下がり」「しがみつき」をすると、どの程度のしわ寄せが大企業の下請けや若年層に及ぶか、についての分析も欲しかったところです。
(「経済学」という言葉が幅広い意味に使われている証左でもあるわけですが)


「天つば」を承知で言えば、あまり中高年を甘やかさず、60歳くらいでまだ身体も頭もそこそこ動くうちに、自力でどうにかしろ、と世の中に大量に放り出したほうが、新しい就業のスタイルができてくるように思うのですが。
(というか、公務員や大企業・中堅企業の社員以外の世の中の多くの人はそうやって食っているわけですから。)

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がんにかかわる話二つ

2012-06-17 | よしなしごと

本日はクラス会

まあ、皆いいオジサン・オバサンになっている。

そこでの話し。
記憶も定かでないし裏を取ってもいないので、ヨタ話と言う前提で。


医者の話

胃にポリープが悪性である可能性(「がん化率」とか言ってたかも)は低いので、見つかって生検するからと言って怖がることはない。

それよりも、腸の内視鏡を2年おきくらいにやったほうがいい。
腫瘍マーカーとか便潜血検査では見つからないことも多いし、早期に発見できれば治癒率も高くなる。


保険屋の話

がん保険加入時に、乳がんの検診の経験ありと答えると、検診結果の如何にかかわらず、がん保険の保険料が高くなるらしい。

統計的に検診受診者の発症リスクが有意に高いのか?
ピンクリボンの運動をしている人は怒りそう。


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『没落する文明』

2012-06-11 | 乱読日記

新書にありがちな派手なタイトルですが、文明や科学技術に対する見方や切り口で面白いものが多い本です。

対談本(哲学者の萱野稔人氏と科学史の神里達博氏)なので、一貫した文明論にはなっていないのですし、根拠や出典もないので強引に見える部分もありますが、そこも含めて楽しめばいいのだと思います。

一言で言えば、本書で語られているのはこういうことです。

(神里) なるほど近代を生きるわれわれは、さまざまな知識やテクノロジーについては充実させてきている。でも、歴史のズームをぐっと広げ、広いパースペクティブで見てみると、われわれのリスクとの付き合い方は、むしろ本質的なところでヘタクソになってきているのではないか。  

ここでいう「われわれ」は、日本人であったり人類全体であったりと議論は幅広く展開します。

日本について言うと
日本は気候が温暖で、麦に比べて生産性の高い稲作が中心だったので、人々が放っておいても食べていくことができた。
その反面日本社会では自己責任の観念が強いのではないか(日本では福祉政策のために国家が権力を行使する事に対して否定的な傾向が他国に比して強いという調査結果がある)。
日本人が「天災」には寛容なのに「人災」となると非常に不寛容になるのが典型例。
誰かが決定して自然に抗うよりも流されて生きていく方が楽、という社会ではリスク(=自由意思に基づく決定とともに生じる)という観念が根付かない。
そのためか日本では社会的にリスクの可視化をいやがる傾向が強い。  
たとえば「富士山が噴火するリスクは高いから対策を立てるべきだ」ということが「お前は富士山噴火が起きればいいと思っているんだろう」とリスクを可視化する言説が呪いとして受け取られてしまう。
呪術とか言霊信仰自体が悪いものではないが、それらに依拠しているのにその自覚がないので、合理的にリスクをマネジメントすることができないことが問題。  


仕事でも問題点を指摘されると個人攻撃と受け取る人というのは結構いますね。  


あと、面白かったのがテクノロジーについての話。  

テクノロジーにはメリットを得るためのテクノロジーとリスクを制御するテクノロジーがある。
リスク社会化している先進国では、後者のテクノロジーが有用になる。
しかし、あるリスクを技術によってコントロールできるようになると、結果についての責任が自分に帰ってくるので、しなければいけない決断の量が増えてしまう。  

(神里) もしこの世に傘というものがなければ、雨が降ってくるかもしれないというリスクに対して、人間は決断する必要がないですね。だって雨を受け入れることしかできないですから。でも、傘というテクノロジーを持ってしまったがために、雨が降るかどうかのリスク計算を、人間は引き受けなければならなくなってしまった。  


企業の不正防止を目的としたコーポレート・ガバナンスの議論もここに陥っている感じがします。  


最終章「国力のパラダイムシフト」で日本流のリスク管理のあり方とか、成長幻想・輸出幻想から脱却して「縮小対応力」をつける、というようなことが語られていますが、ここのところは残念ながら踏み込みガ足りないので残念でした。

まあ、これだけで本が書けるようなテーマですから仕方ないのかもしれませんが。


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大飯原発再稼動と多重防御

2012-06-10 | 原発事故・節電・原発問題

 大飯原発、16日にも再稼働決定 福井知事も同意意向  

首相は8日夕、官邸で記者会見し「国民の生活を守るため、大飯3、4号機を再起動すべきだというのが私の判断だ」と表明。これを受け、西川知事は「重く受け止める」とコメントし、事実上同意する意向を示した。

おおい町長、大飯原発再稼働説明で首相会見を評価 「非常にありがたい」

福井県おおい町の時岡忍町長は8日、関西電力大飯原発3、4号機(同町)の再稼働問題をめぐる野田佳彦首相の会見を受け、町役場で報道陣に「原発の必要性と、立地自治体が果たしてきた役割を明言してもらい、非常にありがたい。今日まで時間がかかったが、納得できた」と述べた。

個人的には再稼動をやめた延長で脱原発というのも乱暴だと思うのですが、ただ一度再稼動してしまえば安全対策が曖昧にされてしまうのではないかという危惧を持っています。

地元の首長としては、一度再稼動を承認してしまうと逆に弱い立場になってしまうので、再稼動を承認する条件として上のような情感処理を求めるのでなく、万が一の事態に備えてより具体的な要求をすべきだったように思います。

たとえば政府が東日本大震災と同程度の震災(=千年に一度レベル)に対して安全性を主張しているのですから、万が一事故が起きたときに福島のように賠償額や東電の破綻リスクなどでもめたりしないように、事故が起きた場合にそのレベルに応じて事前に賠償額について関西電力と合意するとともに国の保証をとっておくべきだったように思います。

具体的には、事故レベルに応じて住民一人当たりに対する賠償額をかなり多め(たとえば住民登録をしている人に一律一人一億円+被曝推定量により増額)に決めておいたうえで、個別にそれ以上の損害を立証できた場合には請求を妨げない、さらにその損害賠償請求については国も連帯保証する、というのはどうでしょうか。
関電や国としても「安全」と言っている以上断りにくいはずです。
そして実際に万が一原発事故があった場合にも、住民の生活維持に対して最後のセーフティ・ネットにもなります。

さらに、大飯町に住民登録をすれば、いわば国の原子力政策に対してプットオプションを買うことができるわけで、国の原子力政策を信用していない人は住民税を掛け金にして「宝くじ」を買うこともできるわけです。
それを見越して大飯町も住民税率を少し上げれば、数十年後に脱原発になったときに備えて町の財政を強化することもできるのではないでしょうか。

事故があったら結局お金の問題になるのだから、地元自治体としては技術面にとどまらない多重防御の仕組みをとっておくべきだと思うのですが。

コメント (2)
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6月6日

2012-06-06 | よしなしごと
天気予報は雨なんだが、そもそもこの日は

 ♪ 雨ざぁざぁ降ってきて ♪

の日だ、というのはアラサー世代には通じないと知って軽いショック...



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パンダ二題

2012-06-02 | 動画・画像

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「一度つかんだら絶対に降りないぞ」という意志の強さは、中国共産党の新体制の主導権をめぐっての中央委員会政治局常務委員のポスト争いを連想させます。




一方でこちらは、てっぺんよりも場外乱闘の方が好きな日本の状況


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最後にちゃっかり自分だけ上にあがるのは誰でしょう。

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