風俗産業の是非を云々する前に、身も蓋もないけど直視すべき現実が描かれています。
(概要)
一人暮らしする独身女性の3人に1人が貧困状態(年間の可処分所得112万円以下)にある現代の日本。「性風俗」や「援助交際」は、非正規雇用で低収入のまま働く女性たちの「副業」として一般化している。女性の著しい供給過多により、風俗店では応募女性の7割が不採用、20~30代女性の半分は売春しても1万円以下ーー腹をくくってカラダを売る道を選んでも、安く買い叩かれ、もしくは買い手がつかず、貧困から抜け出せない現実がある。本書は現代の性風俗・援助交際を知る入門書であると同時に、カラダを売る女性たちから、現在の社会を読み取ろうという試みでもある。
著者は風俗ライターとして風俗に従事する女性を数多くインタビューしながら、その目線は冷静です。
風俗産業においても女性が供給過剰になり、競争が激化していること、その結果容姿・年齢などで働く業態や場所が限定され、収入も規定される。そしてその底辺にある出会いサイトには暴力団が網を張っている、という現状が実例をもとに理路整然と語られるのは衝撃的でもあるとともに、逆に妙に納得してしまいます。
都市部でないと安定した雇用は少ないが、競争が激しく、家賃も高い。 そこで風俗を選択しても、そこでの競争に勝ち残らないと安定的な収入は得られない。 そこはもはや「風俗に身を落と」せば高金利の借金を返済できるという場ですらなくなっている。 ましてや薬物依存、性格的に問題のある女性はまともな風俗店では雇ってすらくれない。
この現実は、一言「デフレが問題」というのでなく、正規雇用・非正規雇用の賃金だけでなく社会保障費などのフリンジ・ベネフィット面での差、家を借りる際のハードルの高さ(賃借人は借家権で守られるので保証人・入居審査が厳しい)、資金繰りに窮した時の調達の難しさ(サラ金の年収規制)など、今の世の中で特段のスキルがない人が一人でだれにも頼らず安定的に生活をしようとするのは如何に難しいか、セーフティネットを含めた社会制度の在り方がバランスを欠いているのではないかという問題意識を呼び起されます。
著者は一方で高齢者デイサービスセンターを運営していますが、ヘルパーなど時給ベースの人を雇っていることからもそういう問題意識があるのかもしれません。
生活保護の水準や不正受給の問題が議論されていますが、セーフティネットの少し上の水準の生活の人が安定した生活を送れ、所得を向上する機会を与えられ、セーフティネット側に落ちていかない社会を作ることがより大事なのでしょう。