おとといの原発と会計つながり。
先日原子力発電所を見学したときに、構内の要所要所にIAEAの査察用のごついモニターカメラがありました。
IAEAの予算の多くは日本の核施設を監視するために使われているという説明でした。
文部科学省29.IAEA保障措置体制下における日本の保障措置制度の改善・強化(拡充) 【達成目標10‐5‐4】によると
(2)近年、イラン、シリア、北朝鮮、インド等の国への対応として、IAEAに対する要請がこれまでになく高まってきている中で、IAEA査察資源の3割をも活用している日本は、平成21年度より国内保障措置制度(*1)による評価・認定の事業を開始した。これにより、日本独自の保障措置結論を得られる国内制度を構築し、国内保障措置の信頼性・透明性の向上と、IAEA査察量の削減に取り組んでいるところである。
(4)また、平成21年度以降、プルトニウムをウランと混ぜて、混合酸化物燃料「MOX(モックス)燃料」に加工し、これを現在の原子力発電所の軽水炉で使用するプルサーマル計画により、今後16基~18基で導入を計画(大量の査察需要の発生)しているが、MOX燃料はウラン燃料よりも核兵器に転用しやすいため、より厳格な保障措置が必要となる。(*2)これに伴う立会査察等の増加に対し、我が国として、保障措置の効果を維持しつつ、効率的に対応をしていかなければならない。
日本人としては日本の核軍事転用に備えて巨額の査察費用を投入するのは無駄なんじゃないかと思うし、しかもIAEAの予算の原資である国連の分担金のうち多くは日本が拠出した(*3)ことを考えるとどうも納得がいきません。
しかし、憲法で戦争放棄をしているといっても、世界の国々からは軍事転用の技術力は十分にあるし大量の核施設を持っている日本は十分に疑うに値するということなのでしょう。(核開発疑惑の北朝鮮に対しても、拉致問題を前面に出すあたりも「余裕があるのは実は・・・?」と勘ぐられていたりして。)
この、「悪さをするんじゃないかと疑いの目で見られている者が身の証を立てるために多額の費用をかけて自ら監視・検証の仕組みを作る」というのはJ-Soxとか独立役員などのコーポレートガバナンス(*4)に関する規制に似てます。
財務報告の数字が正しいか、というのは疑い出せばきりがない話ですし、それを企業が多額のコストをかけて検証するというのも今ひとつ納得感がないのに通じるものがあります。
「独立役員」の「独立性」も同様。そして、完全に独立した取締役でなければいけないというのであれば、昔のソ連軍にいた「政治将校」みたいに、公務員とか証券取引所が勝手に任命すればいいじゃないか、というところに行き着いてしまいます。
ところでIAEAは査察手続きの簡素化をしているようですが、J-Soxでも簡素化の動きが見られます。(*5)
でも、「簡素化」するためにプロセスを変えるのにまたコンサルを入れてなどという費用がかかったりしたりして・・・
ちなみにIAEA対応では日本側でつぎのような予算措置をしています。
(1)国内保障措置活動による評価・認定体制の確立と査察業務量の低減のためのリモートモニタリングシステムの導入
1.立会査察の代替として、a.カメラによる監視、b.ネットワークによる情報転送、c.コントロールセンターによる情報管理及び評価の実施
(2)平成22年度要求額:3,309百万円のうち、183百万円(新規)
評価・認定体制の確立とリモートモニタリングシステムの導入
核開発をしながらIAEAの査察を受け入れないと世界的に非難を浴びたり疑惑の目で見られるというデメリットはありますが、J-Soxとかコーポレートガバナンス上の規制については上場しなければいいだけの話なので、過度に負担が大きかったり規制自身に合理性にかける部分があると結局証券市場の健全な成長のためにもならなくなってしまうような気がします。(*6)
(*1)
IAEA アニュアルレポート (p79)にある"Integrated Safeguards"のこと。以下にあるように軍事転用の危険性が低いと判断された国は査察体制を効率化できるようです。
Integrated safeguards are defined as the optimum combination of all safeguards measures available to the Agency under CSAs and APs to achieve maximum effectiveness and efficiency in meeting the Agency’s safeguards obligations. They are implemented in a State for which the Agency has drawn the broader conclusion. Integrated safeguards were implemented during the whole of 2008 in 25 States. Safeguards implementation activities were carried out for these States in accordance with the State level safeguards approaches and annual implementation plans approved for each individual State.
ちなみに25カ国の内訳は
Australia, Austria, Bangladesh, Bulgaria, Canada, the Czech Republic, Ecuador, Ghana, Greece, the Holy See, Hungary, Indonesia, Ireland, Jamaica, Japan, Latvia, Lithuania, Mali, Norway, Peru, Poland, Portugal, Romania, Slovenia and Uzbekistan.で、日本だけが優等生扱いというわけでもないようです。
(*2)
IAEAのProgramme and Budget for 2010を見ると、総予算318Mユーロのうち査察費用が121Mユーロ(その3割が日本に使われているということでしょうか)、さらに The Agency’s Programme and Budget 2010?2011(IAEA)査察予算の明細(p236)を見ると、通常の査察予算に加え"Development and implementation of a safeguards approach for a large mixed oxide fuel fabrication plant in Japan (JMOX)"(プルサーマル監視費用ですね)として2Mユーロが計上されています。
(*3)
外務省2008-10年国連通常予算分担率・分担金参照。
過去3年の分担率と金額は
2008年 16.624% 304.1百万US$
2009年 16.624% 405.0百万US$
2008年 12.530% 265.0百万US$
と、いずれも世界第二位です。
(*4)
「コーポレート・ガバナンス」というのがマジックワード化していて、コーポレートの何を、誰のためにガバナンスを効かせるのかというところがつめきっていないかんじがしますが、そのへんは別の機会に。
(*5)
J-SOX簡素化・明確化の議論開始、内部統制部会を3年ぶりに開催 など
(*6)
ただ企業側の「重要な欠陥」という語感が悪いから変えろ、というのは単なる言葉遊びのような感じもしますけど。
マスコミに報道されると誤解を招くということかもしれませんが、制度の趣旨を理解していれば動じることはないと思うのですが。
経営者が妙な優等生主義や潔癖症だとそれに伴う無用のコストや負担が組織にかかって良くないと思うんですけど。