一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『町の未来をこの手でつくる-紫波町オガールプロジェクト』

2019-03-28 | 乱読日記
岩手県盛岡市から東北本線で南に20分ほど行った紫波(しわ)町の駅前の開発は、補助金に頼らず、無理な借金をせすに人の流れを変えたプロジェクトとして地域活性化・公民連携の(数少ない)成功例として取り上げられている。

ウェブサイトはこちら
https://ogal-shiwa.com/

本書は、オガールプロジェクトのけん引役となった紫波町の人々に焦点を当てたオガールプロジェクト立ち上げの記録。

オガールプロジェクトには外部の専門家もアドバイザーとして加わっているし、それぞれの視点から言及した本もあるが、本書は町の人の目線から試行錯誤の過程を追体験できるのがすばらしい。

今でも各自治体からの視察が絶えないようだが、「うちもあんな感じでやろう」というような自治体や「成功例を全国展開」という中央官庁的な発想をする前に読むべきだと思う。


★5




PS
紫波町には昨年12月に盛岡出張のついでに寄りました。


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『大きな鳥にさらわれないよう』

2019-03-26 | 乱読日記
川上弘美はセンセイの鞄くらいしか読んだことがなかったのだが、こういう話を書く人とは想像していなかった。

出だしはふわっと始まるのだが、だんだんこれが人類の未来を描いたデストピア小説の様相を呈してくる。
というよりデストピアなのかユートピアなのかの判断を読者にゆだねながら、断片が少しずつ明らかになっていく。
そこでは「人類とは?」「自分とは?」、種の維持・存続のために異なる存在をどこまで許容するか、が常に問いかけられる。

残念なのは、最後の種明かしがちょっと性急だったところ。
確かにずっと宙ぶらりんの状態に置かれたまま読み進めるのは骨が折れる経験であったが、そのまま時間がかかったとしても最後まで物語としてまとめれば(自分も含めて読者がそこまでついていければ)すごいものになったのではないかと思う。

★3

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『孤狼の血』

2019-03-24 | 乱読日記
盤上の向日葵の柚月裕子つながりで。

こちらは広島の暴力団抗争を舞台にした刑事の話。
作者得意の「頭は切れるものの態度が下品という年配男」であるベテラン刑事の迫力はこちらの方が上かもしれない。
部下の若手刑事やヤクザとの掛け合いの広島弁も生き生きとしているし、息をつかせない展開も見事。

こちらは第69回日本推理作家協会賞受賞作。納得。

★4.5

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『盤上の向日葵』

2019-03-23 | 乱読日記
最近小説は本屋大賞、このミスや気になったレビューに頼ることが多いが、これは2018年本屋大賞第2位。

身元不明の白骨死体と30年前の少年の話、プロ棋士の世界と掛け将棋で生きる「真剣師」の世界が将棋の駒を介してつながる、という話。
筋書きは後半に入ると大体読めてくるのだが、会話や心理描写のディテールの上手さで最後まで一気に読ませる。解説で「頭は切れるものの態度が下品、という年配男」を書くのが上手いと言われていたがまさにその通り。

ちなみにまったく将棋を知らない人はさておき、へぼ将棋の身でも十分楽しめる。

★4

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『破門』

2019-03-02 | 乱読日記
黒川博行つながりで、つぎは直木賞受賞作の『破門』。

これは既に7作刊行されている「疫病神シリーズ」の5作目。

建設コンサルタントの二宮と「疫病神」ことヤクザの桑原の二人を中心にストーリーが展開する。

登場人物のキャラクターも確立されていて、掛け合いはこっちの方がさらに面白い。

二宮はギャンブル好きでいつも金に困っているダメな奴で、疫病神扱いの桑原の方が(特にシノギに関しては)段取りや先読みが利く、というデコボコ度合も面白い。

エド・マクベインの「87分署シリーズ」をちょっと思い出した。


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『迅雷』

2019-03-01 | 乱読日記

『K氏の大阪弁ブンガク論』でセリフの壮絶さを絶賛されていたが、確かにその通り。

「わしはあれを見て、これや、と手を打った。裏の世界でシノギしてるやつから金をとったら、被害届なんか出えへんがな」思わせぶりな笑みを浮かべて、稲垣はつづける。
「――で、わしは極道を誘拐することにした」
「よう考えてみい、極道は金持ってて懐がルーズや。不健康な生活しとるから体力はないし、バッジ見せたら怖いもんはないと思とるから挑発に乗りやすい。おまけにあちこちで恨みを買うてるから、身柄(ガラ)をさらわれても相手のめぼしがつかん。身代金をとるには最高の獲物やで」

という話。

とはいうものの、筋書き通りに話は進まず、主人公たち犯人グループと誘拐された極道達の立ち回りが続くのだが、設定柄、主人公と誘拐・拘束されている極道たその部下とは会話・電話でのやりとりだけになるので、確かに台詞回しがポイントになる。

ストーリー自体もディテールが凝っていてとても面白い。
土地勘がないところで展開される物語なので登場人物が行き来する地名をGoogleMapを横に置きながら読んだらリアリティが出てより楽しめた。

 

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