アメリカの海軍兵学校の生徒を主な対象として1959年に書かれた本を野中郁次郎氏らが共訳して第一版が1981年に出版されたもので、本書は2009年に出された第二版。
1981年当時はともかく、今となっては特にものめずらしいことは書いていないのですが、心理学を含めた理論編からリーダーシップのみならず人間関係や組織管理、カウンセリングや面接の方法に至るまで網羅的に書かれていて、しかもそれが1959年に著された、つまりそれ以前から問題意識と研究が積み重ねられていた、というところに、アメリカ(軍)の(少なくとも当時の)底力を感じます。
とにかく具体的に、平易に、を心がけていて、その分冗長になるところもあるのですが、軍隊、人間の特性や欠点・限界も冷静に見ながら、何一つ所与の前提としたり神格化することなく淡々と語っているその語り口に好感を覚えます。
たとえば軍隊という存在自体の特殊性について
強制集団の重要な特徴は、個人の成員が脱退できないということである。このような集団のリーダーは、いかにいやなことをしても技術的にフォロワーを失うことはない立場にある。成員が離脱できない場合には、リーダーが自分は有効なリーダーシップを促進しているという錯覚を抱きやすい。
そして気風の変化について
・・・二十世紀中期の士官は上司たる上級者であって、もはや「優越者」ではなく、二十世紀中期の応募兵は「部下たる下級者」であるが、劣等者ではない、といえるだろう。
次に、水兵も兵曹もおしなべて、分別に基づいて旅に立つ用意があり、避けられぬ不自由と不便を甘受する意思があるけれども、本質的に独裁的な軍人社会、専制的な編成組織の内部でさえ抵抗する代表的なアメリカ人であると認められる。
責任回避について
責任をとりたがらないことは、精神的勇気の欠如を示すものである。たえず非難されることについて恐怖の念をもっていることは、士官のイニシアチブを大いに阻み、兵曹をして「命令待て」をなさしめる一番強い原因である。軍隊に最も共通に見られる恐怖の形態は、身体的損傷の恐怖ではなくて、むしろ非難の恐怖である。
これらは現在の日本企業(特に「強制集団」のマインドが残っている人がいるところ)においても、心すべき点でしょう。
最後に、「人間関係(presonal relations)」の章から、『合衆国沿岸警備隊マガジン』からの引用による、人間関係についての「13の過失」。
1950年代からこういうことが関心を持たれていて、雑誌の記事にまでなっていた、というところが印象的ですし、現代にも当てはまって苦笑させられます。
(1) 自分勝手な善意の規準を設けようとすること。
(2) 他人の楽しみを自分自身の物差しで測ろうとすること。
(3) 世間の意見の画一性を期待すること。
(4) 無経験を酌量しないこと。
(5) すべての気質を同じ型につくり上げようとすること。
(6) 重要でない、ささいなことがらについて譲歩しないこと。
(7) 自分自身の行動に完全を求めること。
(8) つまらぬことに自分自身また他人についてくよくよ思い悩むこと
(9) 場所のいかんを問わず、助けることができるときにだれも助けないこと。
(10) 自分自身が実行できないことを不可能と考えること。
(11) われわれ有限の心で捉えうるものだけしか信じないこと。
(12) 他人の弱点を斟酌しないこと。
(13) その人をつくり上げるのが内部の質的基準であるのに、外部の質的基準で評価すること。
冒頭にも書いたような理由から万人にお勧めできる本ではありませんが、組織とかリーダーシップとかをゼロベースから考えてみる、または、古今東西似たような問題に直面してきたんだなということを知るには面白い本だと思います。