日本製紙が北越株8.49%取得、王子TOB阻止へ
(2006年8月3日 21:06 Nikkei Net)
製紙業界2位の日本製紙グループ本社は3日、北越製紙の株式8.49%を取得したと発表した。今後も10%未満の範囲内で買い増す。同首位の王子製紙による北越株TOB(株式公開買い付け)を阻止するのが狙いで、経営支配が目的ではないとしている。
北越の増資に応じて株式の24.4%を取得する三菱商事と合わせると、両社の保有株比率は3分の1を超える可能性が高く、王子が目指す北越との経営統合は難しくなる。北越を巡る買収戦は業界1、2位が争奪戦を繰り広げる異例の展開になった。
日本製紙(持株会社)のリリース当社子会社による北越製紙株式会社の株式取得に関するお知らせによると
当社の今般の株式取得は、経営統合等を企図した北越製紙の経営支配権の獲得を目的としたものではありません。現時点まで当社は、北越製紙および三菱商事との間で当社との将来的な関係構築に関しては、折衝、協議を行っておらず、当社の株式取得による詳細な効果の見通しは出来ませんが、北越製紙による三菱商事への第三者割当増資実施後、しかるべき時期に、当社と三菱商事・北越製紙グループの間で何らかの緩やかな協力関係を築くための協議に入る申し入れをしたいと考えております。
EDINETを見ても、大量保有報告書は出てませんから、8/1の王子製紙のTOBの前後から急いで買い集めたという事だと思います。
また、「株式取得の背景」としては以下のように説明しています。
・・・当社はこうした本件買収の進行を注意深く見守ってまいりましたが、王子製紙による本件買収の強行は、北越製紙の経営体制、従業員の生活および地域社会のみならず、製紙業界の秩序を乱す恐れがあると考え、当社の判断で今般の株式取得を実施することといたしました。
また、日本の紙・板紙市場は、洋紙事業においては日本製紙が首位、板紙事業は王子製紙がトップという形で、いわゆる2 大メーカー中心の体制がここ数年定着してまいりました。王子製紙による本件買収が成功した場合には、当社は洋紙事業規模で王子製紙に並びかけられ、連結売上規模全体で明確な差をつけられることになります。紙市場全体の大きな伸びが期待できない環境において、売上規模の格差はそのまま収益稼得機会の差となって、企業規模におけるキャッチアップ実現をより困難にする恐れがあり、本件買収は当社の著しい不利益となる可能性があり、当社としても看過できない事態であると認識しております。
つまり10%を取得する事が、後段の本音(株主への投資の正当性の根拠)である「王子製紙のTOBを成立させたくない」を実現するとともに、前段の「義を以って助太刀いたす」というポジションを取ることで、あわよくば北越製紙=三菱商事の提携に一枚かもう、と意図しているということですね。
これに対して、北越製紙は日本製紙株式会社による当社株式取得に関するお知らせで
当社としては、このたびの日本製紙グループによる本お知らせは、当社の労使の相互信頼関係を重視した自主独立経営、中長期的視点による効率的な経営、地域社会への貢献等にご理解、ご賛同をいただいたものと考えており、かかるご理解、ご賛同も踏まえて、今後共、自主独立経営による当社の企業価値の確保・向上に努めてまいります。
と、「勝手に助太刀するのは構わないが、恩に着たりはしないよ」というスタンスです。
今後の展開を私ごときが予想しても仕方ないですが、日本製紙の市場での買い集めが成功すれば、TOBが成立したとしても王子製紙が2/3を握る事は不可能になります。
ただし、まだ王子のTOBの成立の可能性がありますので、その場合は、王子製紙50%+α、三菱商事22.4%、日本製紙10%という「3すくみ」の株主構成になり、上場廃止基準にも抵触する、という、北越製紙の経営陣にとっては悪夢のような状況になります。
また、TOBが不成立の場合も、三菱商事のほかに日本製紙も大株主に加わることになり、この場合でも北越の主張である「経営の独立性」を維持するのは苦労しそうですね。
最後に素人の疑問と感想
1 日本製紙の「取得意向表明」は「風説の流布」にはならないのか
今回の発表により、株価がTOB価格の800円以上に上昇してTOBへの応募が行われにくくなる可能性があります。
しかし、日本製紙は「10%未満」という上限をつけていますので、10%を買いきってしまった時点で(他にも参入者が出てこない限り)一般株主には再度王子のTOBに応募するインセンティブが働くわけです。
となると、日本製紙は満腹になったことを悟られないのことが大事で、となると、TOB期間の最後ギリギリまで「10%になりました」という大量保有報告書は出さないような買い方をする必要があります。
「10%買う」といって10%買うのであれば風説の流布にはならないのかもしれませんが、買うと言って買わないと問題があるのではないでしょうか。
日本製紙は既に8.49%取得しているので、それだけでも「10%未満」は満たしています。追加取得を宣言した残り1.5%の枠の中でどこまで追加取得すれば風説の流布と言われないのでしょうか。
(そもそも日本製紙はそんなセコいことを考えてないのかもしれませんし、また当然事前に弁護士に確認しているでしょうから証券取引法上も問題ないことなのかもしれませんが)
2 三菱商事=北越製紙と日本製紙の間での合意は本当にないのか
三菱商事と日本製紙が、王子の統合提案に反対という「共同して株主としての議決権権利を行使することを合意」していたとすると、改正後の金融商品取引法では「第三者割当増資+1/3をまたぐ市場買い付け」を一定期間内に実施するにはTOB規制がかかります。現行証券取引法ではたとえ合意があったとしても違法ではないのですが、「駆け込み」という批判をかわすために、あえてこういう形をとった、というのは勘ぐりすぎですかね。
3 弁護士事務所
既に北越、王子、三菱商事という当事者がいてそれぞれに弁護士を雇っているはずですから、今回日本製紙が参入すると、少なくとも4つの事務所が登場することになります。
大手弁護士事務所の数がギリギリですね(噂では北越は超大手(弁護士100人超)とは違うところを使っているようなので、まだ1社くらいは参戦できるかもしれませんが)
これで訴訟でも起きて、西村ときわとあさひ狛の合併が延期になったりして・・・