玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

坂本光『英国ゴシック小説の系譜』(1)

2015年03月19日 | ゴシック論
 たまには研究書にあたってお浚いしておくのもいいだろうと思い、この本を求めた。帯に「世界に氾濫するゴシック的なものとは何か。その源流を英国の怪奇的イメージにさぐる」とあり、それなら私のテーマと共通する部分があると考えたのだったが、失敗であった。
『英国ゴシック小説の系譜』は主に、坂本が勤務する慶應大学の出版会が出版する論文集として刊行された4冊の本の、坂本執筆分をまとめたもので、テーマもまちまち、系統立てて書かれたものでもない。坂本自身は「ゴシック小説の入門書になれば」と書いているが、そのようなものにもなっていない。
 まず取り上げられているのは、ウィリアム・ゴドウィンの『ケイレブ・ウィリアムズ』とメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』である。この二人実は父と娘である。しかし、どちらもゴシック小説として典型的な作品とは言えない。『ケイレブ・ウィリアムズ』には超自然的な要素は全くないし、どちらかと言えば「犯罪小説」であり、探偵小説の源流のような作品だ。『フランケンシュタイン』は今で言うマッド・サイエンティストものであり、SFの源流とも言える(ゴシック的な要素が強くあるのは確かだが)。
 次に取り上げられるのはアメリカのウィリアム・ピーター・ブラッティの『エクソシスト』と、それを原作とした映画『エクソシスト』である。アメリカン・ホラー映画の今日における隆盛の原点となった作品とは思うが、坂本が言うほど優れた作品とは思わない。もっともっとゴシック的で、凄い映画はたくさんある。
 もうひとつはオスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』で、坂本はこれをゴシック小説の系譜の中に位置づけている。しかし、そうであるかも知れないがあまりに時代が下りすぎている。だってウォルポールも、ベックフォードも、ルイスも、マチューリンも出てこない「英国ゴシック小説の系譜」っていったいなんなんだろう。
 まあ、いいだろう。参考になる視点がいくつかあったので、そのことに触れておくことにしよう。『ケイレブ・ウィリアムズ』と『フランケンシュタイン』に共通するテーマとして坂本は“旅”と“秘密”を挙げている。“秘密”は極めてゴシック的なテーマであって、どんなゴシック小説もこの“秘密”がなければ成り立たない。謎解きの要素があるからこそ後の推理小説につながっていくのだから。
 ゴシック小説にあってその“秘密”は自ずから隠れているのでもなければ、目に見えないところにあるのでもない。作者こそが秘匿する。作者こそが読者に対して秘匿するのであって、それこそがゴシック小説、恐怖小説、推理小説、SFを貫流する原理である。その視点から書いてほしかったと私は思う。
坂本光『英国ゴシック小説の系譜――フランケンシュタインからワイルドまで――』(2013・慶應義塾大学出版会)
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