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憲法の解釈変更は許されないか(下) では自衛隊違憲論も立憲主義にもとるのか

2014-06-23 07:17:06 | 日本国憲法
承前

 さらに、次のような例で考えてみたい。
 いわゆる55年体制の下で野党第一党の座にあった日本社会党は、自衛隊は憲法違反であるとの立場をとっていた。
 石橋政嗣委員長(任1983-1986)は「非武装中立論」を掲げ、タカ派、軍拡派と(当時は)呼ばれた中曽根康弘首相と国会で論戦した。
 ということは、仮に社会党が政権を獲得したら、当然自民党政権の憲法解釈を変えて自衛隊を違憲とし、これを解散するなり非武装的な組織に改編するなりするということになるのだろう。
 しかしそれでは、歴代政権が確立してきた自衛隊合憲論、前々回引用した今年3月30日付け朝日新聞社説が言うところの「政府と国民との間の合意」とやらを変更するということになる。
 同社説が言うところの「時の首相の一存で改められれば、民主国家がよってたつ立憲主義は壊れてしまう」ということになる。
 だが、非武装中立論に対して、立憲主義にもとるとの観点から批判した憲法学者が当時いたとは寡聞にして知らない。

 いや、社会党を持ち出すまでもない。
 最近のことはよく知らないが、私が学生だった頃は、憲法学の世界では自衛隊違憲説が通説だとされていた。
 とすれば、彼らは、政策として実現することが立憲主義に反し許されない説を奉じていたということになる。

 これで、立憲主義を持ち出しての解釈改憲批判のくだらなさを少しは理解していただけるだろうか。

 その後社会党は、党首が首相となった村山内閣(自民、新党さきがけとの連立)の時に、自衛隊合憲論に転換した。
 しかし、1996年に社会民主党に改称した後、党勢が低迷する中、自衛隊は「違憲状態」であると立場を変えた。
 現在、社民党のホームページに「理念」として掲げられている「社会民主党宣言」(2006年2月、第10回定期全国大会で採択)にはこうある(太字は引用者による。以下同じ)。

(6)世界の人々と共生する平和な日本

 国連憲章の精神、憲法の前文と9条を指針にした平和外交と非軍事・文民・民生を基本とする積極的な国際貢献で、世界の人々とともに生きる日本を目指します。核兵器の廃絶、対話による紛争予防を具体化するため、北東アジア地域の非核化と多国間の総合的な安全保障機構の創設に積極的に取り組み、「緊張のアジア」を「平和と協力のアジア」に転換します。現状、明らかに違憲状態にある自衛隊は縮小を図り、国境警備・災害救助・国際協力などの任務別組織に改編・解消して非武装の日本を目指します。また日米安全保障条約は、最終的に平和友好条約へと転換させ、在日米軍基地の整理・縮小・撤去を進めます。


 この「違憲状態」は「違憲」そのものではないのだそうだ。同じく党のホームページに掲載されている、照屋寛徳・衆議院議員の2013年5月13日付けのコラムにはこうある。

 社民党の自衛隊に対する考え方を辿ってみる。村山政権発足後の社会党(当時)第61回臨時全国大会(1994年9月)において、「『非武装』は党是を超える人類の理想」としつつ「自衛のための必要最小限度の実力組織である自衛隊を認める」、と従来の「自衛隊違憲論」から「自衛隊合憲論」へと転換した。

 その後の自民党政権下で、日米新ガイドライン、周辺事態法、有事法制の制定、イラクへの派兵など、自衛隊の活動領域が専守防衛を超えて拡大し、米軍と自衛隊の一体化が進み、その装備・機能実態は「我が国を防衛するための必要最小限度の実力組織」と言えなくなった、と社民党は評価するに至った。

 そこで社会民主党宣言(2006年2月)では「現状、明らかに違憲状態にある自衛隊は縮小を図り、国境警備・災害救助・国際協力などの任務別組織に改編・解消して非武装の日本を目指します」と路線転換した。私は、社会民主党宣言を纏める責任者だった。私個人は、当時も今も自衛隊は“違憲状態”を超えて「違憲な存在」と考えている


 その後、2009年の総選挙による政権交代で、社民党は与党の一角を占め、福島瑞穂党首が入閣した。しかし党は見解を改めることはなかった。2010年3月12日の参議院予算委員会で、自衛官出身である自民党の佐藤正久議員はこの矛盾を福島大臣に対して追及し、以下のような見苦しい答弁が会議録に残されるに至った。

○佐藤正久君 自衛隊が合憲かどうか、政党としての基本的な考え方を持たなくて、本当に政党政治ができるんですか。今この瞬間も、自衛隊員は陸に海に空に、国内に国外に、防衛大臣の命令の下、体を張って国を守っているんですよ。与党の社民党が自衛隊が合憲、言わなくてどうするんですか。大問題だと私は思いますよ。
 平成十八年の社民党大会におきまして、自衛隊は違憲状態と言われました。それから四年たって、今、社民党はもう与党です。与党の社民党が合憲と言わなくてどうするんですか。自衛隊は合憲ですよね、違いますか。

○国務大臣(福島みずほ君) 社民党宣言を私たちはつくりました。その社民党宣言をみんなで議論してつくったその結論をその後も変えておりません。当時、イラクに自衛隊が派遣をされている、そのような状況は問題であるというふうに考え、その状態は問題であるという議論を大いにいたしました。
 ですから、社民党としては、その社民党の宣言以上でも以下でもありません。それは社民党の見解です。

○佐藤正久君 やっぱり鳩山丸は泥船だというふうに多くの国民が思いますよ。与党の一員であってもそういうことを今でも言われている。国民は不安になりますよ。ほかの国から見ても異常です。国を守れずしてどうして命を守れるんですかと、そういう議論になりますよ。
 福島大臣、社民党はまだ決めていないと言われました。でも、福島大臣は閣僚です。一閣僚として、国務大臣として、自衛隊は合憲か違憲か、どちらですか。

○国務大臣(福島みずほ君) 社民党の見解は申し上げました。閣僚としての意見は控えさせていただきます。私は社民党党首ですから。

○佐藤正久君 閣僚の意見を言わなくてどうして予算がこれは組めるんですか。もう一度お願いします。

○国務大臣(福島みずほ君) 社民党の見解は、以上、言ったとおりです。(発言する者あり)
 社民党の見解は申し上げたとおりです。閣僚としての発言は控えさせていただきます。

○委員長(簗瀬進君) 速記を止めてください。

○委員長(簗瀬進君) 速記を起こしてください。
 暫時休憩します。
   午後二時十二分休憩
     ─────・─────
   午後二時十八分開会

○委員長(簗瀬進君) ただいまから予算委員会を再開いたします。
 休憩前に引き続き、平成二十二年度総予算三案を一括して議題とし、質疑を行います。
 福島みずほ国務大臣。

○国務大臣(福島みずほ君) 内閣の一員としては、内閣の方針に従います。

○佐藤正久君 ということは、自衛隊を合憲と認めるということでいいですね。明確に御答弁をお願いします。

○国務大臣(福島みずほ君) 社民党の方針は変わりません。そして、内閣の一員として、内閣の方針に従います。したがって、自衛隊は違憲ではないということです。

○佐藤正久君 福島大臣は自衛隊を合憲として認めたということでいいですね。お願いします。

○国務大臣(福島みずほ君) 内閣の一員として、内閣の方針に従います。

○佐藤正久君 はっきり答えてくださいよ。違憲じゃない、違憲じゃない、だけど、合憲と言っていないじゃないですか。明確にお願いしますよ。

○国務大臣(福島みずほ君) はっきり言っているじゃないですか。内閣の一員として内閣の方針に従います。

○佐藤正久君 自衛隊は合憲ですか。福島大臣、もう一度お願いします。

○国務大臣(福島みずほ君) 内閣の一員として内閣の方針に従います。繰り返し申し上げているとおりです。

○佐藤正久君 副総理、自衛隊は合憲ですか。

○国務大臣(菅直人君) 言うまでもありませんが、この予算には自衛隊の予算も入って、全員が閣議でサインをしておりますし、内閣としては自衛隊は合憲というふうにもちろん考えているというよりも、そういう形ですべてのことを進めております。

○佐藤正久君 福島大臣、内閣の方針は自衛隊は合憲だということで、福島大臣も合憲と認めるということでいいですね。イエスかノーかでお願いします。

○国務大臣(福島みずほ君) そうです。

○佐藤正久君 初めからそう言えばいいんですよ。この防衛予算というのは内閣全体で決めた意思でしょう。自分もサインしたんでしょう。それで、今この瞬間もハイチの方にも海外で隊員は行っているんですよ。何でここまで時間掛かるんですか。おかしいと思いますよ。
 防衛大臣、今のやり取りを聞いて、国の守り、あるいは隊員あるいは家族のことを考えたら、怒りとか憤りがわいてきませんか、防衛大臣。

○国務大臣(北澤俊美君) 国政の中核に位置する問題で、大臣を拝命しながら、感情的に怒りを爆発させるとか、そんなことは思いません。


 「合憲と認めるということでいいですね」「そうです」とは述べたものの、とうとう福島大臣の口から明確に「自衛隊は合憲である」と語られることはなかった。内閣の一員でありながら。ならばそもそも合憲論に立つ大政党との連立に加わるべきではなかったのではないか。

 なお、同年5月、福島は普天間基地問題で辺野古移設の日米合意に反対したため、閣僚を罷免された。社民党は連立から離脱した。

 社民党と同じく護憲派とされる日本共産党はどうか。

 2004年1月の第23回党大会で改定された現在の党綱領には次のようにある。
 
〔国の独立・安全保障・外交の分野で〕

 1 日米安保条約を、条約第十条の手続き(アメリカ政府への通告)によって廃棄し、アメリカ軍とその軍事基地を撤退させる。対等平等の立場にもとづく日米友好条約を結ぶ。

 経済面でも、アメリカによる不当な介入を許さず、金融・為替・貿易を含むあらゆる分野で自主性を確立する。

 2 主権回復後の日本は、いかなる軍事同盟にも参加せず、すべての国と友好関係を結ぶ平和・中立・非同盟の道を進み、非同盟諸国会議に参加する。

 3 自衛隊については、海外派兵立法をやめ、軍縮の措置をとる。安保条約廃棄後のアジア情勢の新しい展開を踏まえつつ、国民の合意での憲法第九条の完全実施(自衛隊の解消)に向かっての前進をはかる。


 この点について、共産党のホームページに掲載されている綱領の解説(2004年3月7日(日)に「しんぶん赤旗」に掲載されたものだという)は、次のように述べている。

Q 自衛隊はすぐに廃止するのではないのですか?

 自衛隊は天皇の場合とは違って、存在自体が憲法違反ですよね。違憲の自衛隊を解消すべきだという日本共産党の立場は、変わっていないんです。

 ただ、自民党政治のもとで半世紀もの間、自衛隊が存在する中で、“自衛隊なしに日本の安全は守れない”という考えが広められました。

 国民が“自衛隊をなくしてもいいよ”という気持ちになるには、それだけの時間と手続きが必要になっています。

 綱領は、憲法九条の完全実施をめざす立場に立ちながら、国民の合意をもとにして一歩一歩、自衛隊問題を解決していくという、方法と道すじを明らかにしたんです。

Q どういう道すじなのですか。

 自衛隊問題は大きく三つの段階をへて解決していくことを展望しているんです。

 日本共産党は、日本を「アメリカの世界戦略の半永久的な前線基地」にしている日米安保条約を廃棄してこそ、民主的改革の本格的前進の道が開かれると考えています。

 第一段階は、この安保条約を廃棄する前の段階です。「海外派兵立法をやめ、軍縮の措置」をとることが課題となります。

 第二段階は、安保条約を廃棄して軍事同盟からぬけ出した段階です。自衛隊の民主化や、大幅な軍縮を進めていきます。

 国民の合意で憲法九条の完全実施にとりくむのが、第三段階です。アジアの国々とも平和で安定した国際関係をつくりあげるために努力します。

 “自衛隊がなくても平和に生きていけるじゃないか”と国民が確信をもてるようになって、自衛隊解消への合意が熟していくのと歩調を合わせて、九条の完全実施に向かう措置にとりくみます。

 日本共産党はこの方針を、四年前の二十二回党大会で、「自衛隊問題の段階的解決」として体系的に明らかにしました。綱領は、その内容を簡潔に要約しています。


 仮に共産党が主張する民主連合政府が成立して、このような政策の転換がなされるのであれば、これもまた「政府と国民との間の合意」の変更、「時の首相の一存で改められれば、民主国家がよってたつ立憲主義は壊れてしまう」ことではないのか。

 こんな政党が機関紙で

 時の政権が勝手に憲法解釈を変えるのは、憲法で権力を縛る立憲主義を踏みにじるものです。そんなやり方を許せばいまは憲法で禁止する「苦役」にあたると否定されている徴兵制でさえ解釈変更で強行されかねません。

〔中略〕

 憲法解釈の変更だけで集団的自衛権の行使を認める企ては、憲法に対するクーデターそのものです。解釈変更の閣議決定は絶対に許すことはできません。

 集団的自衛権の行使を認めるかどうか、決めるのは国民の世論と運動です。いまこそたたかいを強め広げることが求められます。


と訴えたところで、何の説得力があるだろうか。

(文中敬称略)