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国宝阿修羅展

2009年04月04日 | 仏教・仏像

興福寺創建1300年記念の特別企画「国宝阿修羅展」。

最初に言ってしまおう、今回の売りぐるり360°阿修羅は、予想外にツッコミどころ満載・ネタ満載なのだった。

国民的アイドル仏・興福寺阿修羅だが、カメとしちゃ「そんなに・・」程度。
何せ、一番好きなみ仏が東大寺四月堂の千手観音菩薩立像ってくらいに、ちょいとクセのあるお像に惹かれるのだなぁ(人間も同じかも)・・・それくらいだから、キレイにまとまり過ぎる阿修羅は、心に引っ掛かって来ない。

それでも、お像の“側面感”や“背面感”を大事にするカメとしちゃ、「この機会に、阿修羅の背面をジックリと拝ませてもらおう」と、それを楽しみに観覧したのだが・・・。

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↑ズバリ、背面はこんなであった。(図録写真より)

開口一番「ええ~っ?!」。
ブーイング。
こんなだったの・・・つーか、こりゃ~ね~だろ。
何故なら、カメとしちゃ↓こんなのを期待していたからだ。

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↑これは滋賀県渡岸寺の十一面観音菩薩立像で、このお像も正面の両脇に大きな顔がある。
しかし、背面を見ると一つの頭として破綻なく収まっているのだ。
阿修羅の左右両面は、渡岸寺像よりも大きく正面とほぼ同じ大きさであるけど、だからと言って頭を2つに割ったままの造形は、ちょいと稚拙だろうと思ってしまう。芸なさすぎと言うか。

館内の殆どの人達は、これが最初で最後かも知れない阿修羅の背面に食い入るように見詰め、感嘆の声を漏らしていたが、カメと上子カメは「ププッ!」と噴き出してばっか。
「これってマンガ!」と・・。

阿修羅は「八部衆」の中の神で、八部衆と言うのは釈尊に教化された異教の神々の集まり。
つまり、仏教が興隆するに従って、元からあったインド土着の神々を取り込んで行った結果、天部のみ仏達が誕生して行った。
梵天・帝釈天、四天王、仁王などに代表されるのが天部のみ仏で、その天部に八部衆も居る。

しかし、今回の展示では、八部衆の中で阿修羅だけが別格扱いで、単独別室展示となっている。
ま、「国宝阿修羅展」なる名称だし、阿修羅の前で人垣が出来るのを考えれば別室展示も致し方ないと思うのだが、惜しいのは阿修羅に当たるライトだけ他の部屋より強めで、阿修羅が持っている色が飛んでしまっているのだ。
裳裾に残る僅かな金箔だけが光り輝くだけで、あとはどんな色なのかが不鮮明に。
これは東博に物申したいところ。

興福寺八部衆の中で、カメが一番に好きなのはこのお像!

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↑鳩槃荼(くばんだ)立像。
相変わらずのアウトロー路線好きで。(汗)
何処が良いか・・・それは、真横にグワッと開かれた口で、この口角がもうちょっと上に上がれば泣く子も黙る憤怒の相になるものを、何せ真横一文字、怒ってるのか笑ってるのか分からない。ハーモニカを吹いているようにも見える。
その曖昧なところに深いユーモアを感じ、「やられた!」と思ってしまうのだな。

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↑それから、この五部浄(ごぶじょう)像も素晴らしい。
他の7躯がほぼ完全な状態で伝わっているのに、何故にこの五部浄だけがこれ程欠損が激しいのか・・・美少年好みの光明皇后が毎晩抱いて寝ていたのだろうか。
しかしながら、少年のあどけなさの中に憂いをたたえたこの表情は阿修羅に匹敵するもので、返す返すも胸部から上しか残っていないのが惜しい。
辛うじて残った右腕部分が別展示されていたが、その指の動きには表情があり、それを見ただけでもこのお像の完成度の高さがうかがえる。
この五部浄には隠れファンが沢山居るのだ。もし、完全形で伝えられていたら、阿修羅と組んで国民的ブラザーズ・アイドルになっていたであろう。

そうそう、この五部浄の破損部分を見ると、八部衆の造像技法である脱活乾漆造の様子が良く分かる。
脱活乾漆造と言うのは、心木を組んだところに塑土でもって大まかな造形をする。その上に麻布を漆で塗り固めて貼り付けていく作業を5回くらい繰り返し、乾いたところで中の塑土を取り出して、最後に細部を木と漆を混ぜ合わせた木屎漆(こくそうるし)で成型して行き、乾いたところで彩色を施す。
つまり、お像の中は心木だけの空洞な状態で、張子の玩具のようになっている。
五部浄の胸の辺りから、麻布の張り合わせ方が良く見て取れる。

ところで・・・

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↑この迦楼羅(かるら)立像だけが異形なのは何故なんだろう?
他の7躯は、ほぼ人の顔をしているのにこの迦楼羅だけは、まんま烏。
幼稚園児に八部衆を見せて「仲間はずれはだ~れ?」と問うてみたら、きっと八割以上が「この人~!」と迦楼羅を指すだろうなぁ。

八部衆を拝し終り、次なる展示に向かったら・・・
わお!慶派仏満載だ~♪
それも、慶派も慶派、運慶の父であり師でもある康慶(こうけい)作!

いや~、迫力満点の四天王。
思わず息を呑み、その後呼吸を忘れるくらいに寸分の隙のない造形。

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↑四天王の斬り込み隊長、持国天。
四天王全てが2mを越す大きさ。

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↑邪鬼の踏まれっぷりも良いね~。

流石は慶派だ!
これだけの迫力がありつつも、破綻のない造形。この匙加減が絶妙なんだな~。

その他、法隆寺から特別に「伝橘夫人念持仏」が出されていた。
これは興福寺を発願した藤原不比等にちなみ、藤原不比等夫人であり八部衆像を発願した光明皇后の生母であった橘三千代の念持仏の公開となったのだろう。
カメにとっては、法隆寺で拝して以来の7年振りだ。
念持仏の尊名は阿弥陀三尊で、制作された飛鳥年代特有の童顔童形であるのが愛らしい。

以上、思い付くままツラツラと書いてみたが、冒頭で書いたように阿修羅の背面は(この際、ハッキリ言おう)期待はずれだったものの、伝橘夫人念持仏や康慶による四天王像、八部衆の中の五部浄・鳩槃荼像には、カメ熱狂。
花見で狂乱中の上野にあって、奈良を感じさせてくれ、仏浴させてくれた「国宝阿修羅展」であった。

合掌