宇都宮市内某公園に隣接、いや隣接と言うより殆ど公園敷地内かと思われる場所にまっつ赤なサイロ風屋根の可愛らしい建物があった。「ん?幼稚園かな?」と思いながらナニゲに見ると・・・へ?窓ガラスがバリバリに割れている!この異様さに「もしや!」とピンと来るものがあり、思わず走り寄って接眼モードに入った。
そう、それは廃屋だった。
何処から見ても立派な廃屋。
その屋根の赤さ故に、パッと見廃屋とは思えないけれども・・・。
よって、カメ大興奮!
それもだ、人の多い公園に隣接、そして割られた大きな窓から建物中身全開状態。これなら一人で探索しても身の危険は無さそうだし、内部に侵入せずとも中の様子が充分に窺えると言った、まさに廃墟デビューに打って付けの物件じゃん!ひゃっほう!
さてさて、先ずは外観を探索してから・・・と思って周囲をグルリと回る。玄関から3メートルくらい前方に門柱があり何やら表札らしきものが掲げてありそうなので「この可愛らしい建物が何に使われていたのかが判るかも」と期待して見てみたら・・・・・
( ̄□ ̄;)ガーン!!!!!
およそ、この外観とは相応しくない団体様の御名前がデカデカと掲げられており、此処で一気に意気消沈。「もう帰ろかな・・」の気分になる。
と、そこに重たそうなスーパーの袋を持ったとても上品そうな老婦人が建物に近づいて来、おもむろに、しかも違和感無く廃屋のサッシ窓を開けるではないか!ひょえ~!
ガラガラッ・・・開けた部屋から洗面器の様な容器を取り出して持参したペットボトルから水を注ぎ始めた。すると、何処からともなく十数匹の猫が現れてニィーニィーと甘えた鳴き声を出しながら老婦人に擦り寄って来た。
老婦人は此処に住み着いた猫達に一日も欠く事なくエサと水を与えに通っていると言う。少しの間お話させて貰う中で、カメがこの建物に触れた時(本当は根掘り葉掘り聞きたくてたまらなかった)、老婦人は少しだけ眉をひそめ、しかし慎重に言葉を選びながら「此処が使われていた当時は、ワケの判らない人達が出入りしていてそれは物騒だったのよ・・」と言った。
その老婦人が去ってから、改めて窓ガラスの割れ目や蹴り破られて開放状態になった裏口から内部を眺めると・・・・持ち主だった団体様の先入観があるせいか、そこには何とも形容しがたい異様な光景が息づいていた。兎に角、遺物量が半端じゃない。どうしてこんなに物があるのかと思うほどに夥しい量の物が散乱し、積み重なっている。
つくづく観察して思うに、どうもこの建物は最初はダンスホールの様な遊技施設として造られたのではなかろうか。一番大きな部屋の片側の壁一面がガラス張りになっているし、建築当初からのものと思われる照明器具類は何れも瀟洒なデザイン。それに半円形の天窓まである凝りよう。
しかし、大人の遊技場は途中でリタイア、その後は某団体様が借り受けて使用していたと思われる。
「それにしても、この廃屋には人の憎念とか怨念が生生しいまでに息づいてるなぁ・・・」と背筋をゾクッとさせていたところに、突然ケータイが鳴ってビクッと驚いた。(ま、電話ってのは突然鳴るものだけど)
電話の主はカメの御意見番、大久保彦左衛門。興奮のあまり、考え無しにこの状況を話したら、うんとこさ叱られてしまった。住居不法侵入の罪に問われる恐れあり。大きな危険と背中合わせな愚行。・・・と懇々と説教されて、直ぐさま退散した。直ぐさまと言っても写真を30枚くらい撮ってからだけど。ハハ・・
しかし、もうしません・・・不気味だったし。
廃墟には陰と陽があるけれど、これは明らかに陰の廃墟。かつての住人達の過剰なサディズムがそのまんま残されてしまったかの様なイヤ~な空気に満ち満ちており、人の泣き叫ぶ声がこの身に纏わり付いてくる様ですらあった。覗き見る条件は最高なれど、その佇まいは最悪・・・廃墟初心者にはヘヴィな物件かも。
廃墟に感じる魅力は、朽ち行く建物の中にギュッと閉じ込められた「あの時のまま止まった時間」。頑ななまでに在りし日の栄光を己の身体に封じ込めつつ、ゆっくりと静かに朽ち果てて行く・・・・それが廃墟の美学だろうと思う。
その後、彦左からは廃屋繋がりで「破れ窓理論」のレクチャーを受け、人に管理されずに荒れた建物が人の心理に及ぼす害悪の話になり、更には犯罪抑止理論にまで発展した。・・・此処まで学べるならば、廃墟への興味も「百害有って三利あり」くらいのもので捨てたもんじゃないよね。