最近はあまり演奏会の記事をチェックしていなかったので、最も好きなオペラのひとつ、R.シュトラウスの「影のない女」の公演をもう少しで見逃すところだった。
何気なく読んでいた朝日新聞の片隅に載っていた記事を発見、一度は観たいと思っていたオペラだったので、さっそく公演の事務所に電話する。
年金暮らしの当方にとっては最も安い席から空きを確認するも、OKだったのは3階最前列のバルコニー席のみ。
値段はC席¥7350で、「この席は舞台が3分の1しか見えませんがよろしいでしょうか」という答えに一瞬とまどったが、見えないほうが想像力を膨らまして楽しく聴けるなどと強がりを言って予約する。
初めて初台にある新国立劇場オペラパレスに行ったが、建物は近代的な造りでオペラと言う雰囲気には程遠い。
しかし中へ入ってみるとウィーン国立歌劇場(行った事はないが)の内部を思わせる立派な構造になっているのに関心する。
電話での話しの通り、席にきちんと座って舞台を見ると3分の1程しか見えないが、バルコニーの手すりに身を傾けると8割がた見えるし、真下のオーケストラピットが全て見下ろせる。
指揮者の一挙一動やオケの各パートの演奏振りも良く分かるし、思ったよりも良い感触の席に満足する。
それよりも一番素晴らしいのは、なんといってもR.シュトラウスの音楽そのもの。
彼のオペラでは「サロメ」とか「バラの騎士」が有名だが、私にはモーツアルトの「魔笛」にも通ずる、哲学的ともいえる深みを持つ音楽そしてストーリー(二組の男女が試練を乗り越え、真実の愛によって結ばれるという物語)を兼ね備えた「影のない女」が最高の作品。
歌い手で素晴らしかったのは皇后役のエミーリ・マギー、アメリカ生まれで主にドイツの主要歌劇場で活躍中とのことだが、澄んだ美しい声でシュトラウスの精緻な旋律を丁寧に歌っっていて、各場面での皇后の感情を聴く者の胸に深く訴えかけてくれたのが強く印象に残る。
他の歌手も水準以上で、オペラ全体にわたって音楽的な歌の調べを聴かせてくれたのも嬉しい。
オケの東京交響楽団の技術水準もこんなに高まっているとは思わなかったほど優れていて、場面転換での間奏曲など、シュトラウスの豊潤な音の響きを聴く者の耳に見事に伝えてくれる。
指揮者エーリッヒ・ヴェヒターの経歴を見ると、ドイツでの主要な歌劇場ばかりを専門的に振っている職人らしく、オケ各員の気持ちをうまく掴んで、的確に曲の運びを進めるコツをわきまえている様。
久しぶりのオペラのコンサートだったが、パンフレットの「R.シュトラウスの美しく濃厚な音楽が描く、壮大なファンタジー・オペラ」という謳い文句を見ながら、あまり違和感を感じることもなく、満ち足りた気持ちで新国立劇場を後にする。
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