クラシック 名盤探訪

クラシックの名盤紹介・おすすめ散策コース等、趣味の発信の場です。

とっておきの名盤 その109 キョン・チョンファ "スーヴェニール"

2007年12月04日 | とっておきの名盤「室内楽曲」
ヴァイオリンの小品集といえども、取り上げるのは通俗的な内容に流れない珠玉の作品の数々、そして決して手を抜かずに意味深い真摯な演奏を聴かせるキョン・チョンファのとっておきの一枚。
彼女の演奏を聴いていて、ふと頭をかすめるのが韓国の伝統芸能であるパンソリ。
常に威敵の進入・支配に悩まされ、そして耐え忍んだ辛い歴史を持つ韓国人独特の心情”恨(ハン)”なしには、パンソリの歌唱の真髄は極められないとも云われている。
彼女の魂を振るわせるヴァイオリンの響きは”恨”、まさにパンソリの歌唱そのものの様に思える程だ。
脱線してしまうが、パンソリを知るには、4年ほど前の映画「風の丘を越えて」という作品を見るのが一番。
韓国では5人にひとりが見たと言われるほどの大ヒット作らしいが、パンソリを極める悲劇の女主人公をテーマにしたドラマで、唱者ひとりと鼓手ひとりが繰り広げる、いわば一人オペラに近い音楽(パンソリ)がとても良く理解できる。
何はともあれ、是非聴いてほしいとっておきの一枚。
・チョン・キョンファ<Vn>、イタマール・ゴーラン<P> <EMI>


とっておきの名盤 その82 モーツアルト 弦楽四重奏曲第21番~第23番「プロシャ王第1番~第3番」

2007年04月15日 | とっておきの名盤「室内楽曲」
モーツアルト最晩年の神品ともいえるこれら3曲の作品は、実に透明度の高い澄み切った音の世界を展開する。
その1曲目の出だしなど、さりげなく流れていく抑制美に溢れた旋律を聴き始めると、その神秘的ともいえる音の世界に、スーッと吸い込まれていくような錯覚にとらわれる。
中でも第3番は、モーツアルトが残した弦楽四重奏曲の最後となる作品だけに、特に素晴らしい。
その無駄を省いたシンプルで磨きぬかれた音の響きは、死を間近に迎える天才だけがなしうる世界と言える。
アルバン・ベルク四重奏団は、達人の作ともいえるこの傑作を、まれに見る透き通った弦の響きで聴かせてくれる。
とっておきの名盤として推奨できる唯一の演奏。
・アルバン・ベルク四重奏団 <TELDEC>

とっておきの名盤 その65 ブラームス 弦楽六重奏曲第1番変ロ長調 作品18

2006年12月19日 | とっておきの名盤「室内楽曲」
ブラームスの青春時代、27歳頃の作品。
曲全体を通し、のどかな田園の情緒を思わせる明るさの中にやるせない感傷性も秘めていて、ブラームス好きにはたまらない。
結成以来40年に亘って顔ぶれが変わることなく活躍を続けるアマデウス四重奏団、歌にあふれた第2楽章の表現などひとしを耳に染み入る。
録音も優秀、ふくよかな弦の響き、深みのある音色が19世紀ロマン情緒をかもし出す。
この曲のベストスリーは、
・アマデウス弦楽四重奏団、セシル・アロノヴィッツ<2ndVa>、ウイリアム・プリース<2ndVc> <Grammophon>
・ウィーンコンツェルトハウス四重奏団、フェルディナント・シュタングラー<2ndVa>、ギュンター・ヴァイス<2ndVc> <Westminnster>
・なし
ウィーン情緒がひとしおのコンツェルトハウス盤も懐かしさがひとしお。

とっておきの名盤 その55 モーツアルト ディヴェルティメント 変ホ長調 K563

2006年11月14日 | とっておきの名盤「室内楽曲」
モーツアルトの名前にあやかった四重奏団のメンバーによる至福の一枚を、生誕250年の年に紹介できるのは何とも嬉しい気持ちだ。
この曲は有名な3大交響曲を仕上げた一ヵ月半後に生み出されたもので、編成こそ三重奏と小さいが、その落ち着いた透明な美しさには驚かされる。
通常の名作リストには殆ど載らないものの、知る人ぞ知るモーツアルトの傑作で、数ある室内楽曲の中でも私が特別に愛聴する秘蔵の曲。
表現が大げさになってしまうが、この曲を聴くたび比類の無いその澄んだ響きと透明な美しさは、埃にまみれた私の心を芯から清めてくれる。
特に第1楽章と最後の第6楽章の美しさは何と表現したらよいのか、とても言葉では表しきれない程で、とにかくこのジャンルに於ける天才の最後の輝きに満ちた響きに、ただ私は浸るのみ。
アマデウス四重奏団のメンバーはこの曲の神髄を絶妙な表現で捉えており、とっておきの名盤にふさわしい演奏を展開している。
他にはグリュミオー・トリオによるものが良い。
・ノーティンバート・ブレイニン<Vn>、ピーター・シドロフ<Va>、マーティン・ロヴェット<Vc>(アマデウス弦楽四重奏団) <Grammophon>
・グリュミオー・トリオ <PHILIPS>

とっておきの名盤 その47 J.S.バッハ チエロとチェンバロのためのソナタ全集

2006年10月14日 | とっておきの名盤「室内楽曲」
「チエロのプリンス」と呼ばれたフルニエの、気品に溢れた精神性の深い演奏にまず惹かれる。
フランスを代表するチエリストで1953年には、レジョン・ドヌール勲章を受けている。
バッハは彼の得意とする分野で、「無伴奏チエロ組曲」をはじめとして、どれも一級の演奏を残している。
チェコ生まれの女流奏者ルージィチコヴァも、バッハの名手だけあってフルニエとの息の合った演奏は素晴らしい。
この盤に含まれる曲は、どれも夜更けの静かなひと時に耳を傾けて欲しい、とっておきの癒しの名品といってよい。
とにかく何度聴いても飽きが来ない、お勧めの一枚だ。
次点として、ヴィオラ・ダ・ガンバによる名演奏を挙げておく。
・ピエール・フルニエ<チエロ>、スザナ・ルージィチコヴァ<チェンバロ> <ERART>
・ヴィーラント・クイケン<ヴィオラ・ダ・ガンバ>、グスタフ・レオンハルト<チェンバロ> <EMI>

とっておきの名盤 その42 モーツアルト ヴァイオリン・ソナタ集

2006年10月03日 | とっておきの名盤「室内楽曲」
モーツアルトが子供の頃から特に親しんできた楽器による曲だけあって、どの曲も聴き始めると楽しいことこの上ない。
後半の曲になってくると、深みも加わり一層充実したひと時をすごせる。
まさに、「モーツアルトを聴く楽しみ」ここにありと言って良い。
当時60歳を超えたグリュミオーのヴァイオリンは、円熟の極みと言って良い艶やかな音で、モーツアルトそのものを奏でる。
クリーンはモーツアルトの名演奏家と言われただけあって、曲が持つ軽やかさから憂いのある深みまで、グリュミオーと対等に渡り合って至福の音楽を作り出している。
録音も非常に優秀で、ヴァイオリン、ピアノの音の艶やかさはひとしお。
4枚組の全集だが、座右の愛聴盤として是非持っていたい名盤である。
・アルテュール・グリュミオー<Vn>、ワルター・クリーン<Pf> <PHILIPS>

とっておきの名盤 その31 ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調 作品131

2006年09月07日 | とっておきの名盤「室内楽曲」
ベートーヴェン後期の弦楽四重奏曲の中でも、第14番嬰ハ短調作品131はとりわけ優れた作品であり私が最も愛する曲のひとつだ。
この作品は七つの楽章からなるが、第4楽章のアンダンテは特に魅力的だ。
宗教的な表現になってしまうが、解脱したというか慈愛に満ちた旋律が淡々と流れ、聴き手の心をいつのまにか至福の状態に導いて行く。
他の楽章も素晴らしく、聴き始めると最後まで時間の経過というものを感じさせない不思議な力を持つ作品だ。
ウイーンフィルのメンバーからなるバリリ四重奏団のこの盤(1952年録音)は、何とも懐かしいウィーンの音を醸し出して心に染み入る音をじっくりと聴かせてくれる。
現在廃盤の状態と思うが、中古CD店等で何とか入手して欲しいお勧めの一枚だ。
・バリリ四重奏団、ワルター・バリリ<1stVn>、オットー・シュトラッサー<2ndVn>、ルドルフ・シュトレング<Va>、リヒャルト・クロチャク<Vc> <Westminster>

とっておきの名盤 その25 チャイコフスキー ピアノ三重奏曲イ短調「偉大な芸術家の思い出のために」

2006年08月20日 | とっておきの名盤「室内楽曲」
この曲はチャイコフスキーの作品の中でも、彼独特の叙情的旋律が全楽章に亘って綿々と流れる、深く胸に響く名作である。
「偉大な芸術家」とは、彼に先立って死んだ親友のピアニスト、ニコライ・ルービンシュタインと云われている。
私はこの曲が好きで(特に第一楽章が素晴らしい)手元に8枚のCDがあるが、ボロディン・トリオ奏するこの盤を第一に愛聴している。
ロシアを亡命したこのトリオのメンバーは、故郷の音楽だけに情熱的に、しかも懐かしさに溢れた演奏を繰り広げている。
Chandosレーベルの録音も、何時もながらしっかりとした音でこの演奏を捉えている。
この曲のベスト・スリーの盤を挙げると、
・ボロディン・トリオ エドリーナ、ドゥビンスキー、トゥロフスキー <Chandos>
・ルービンシュタイン、ハイフェッツ、ピアティゴルフスキー <RCA>
・チョン・トリオ チョン・ミュン=フン、チョン・キョン=ファ、チョン・ミュン=ファ <EMI>

とっておきの名盤 その18 シューベルト ピアノ三重奏曲第1番変ロ長調 作品99

2006年08月10日 | とっておきの名盤「室内楽曲」
CHANDOSレーベルの盤は、優秀なものが多い。
少なくとも私が持っているこのレーベルの盤にはハズレが無い。
このボロディン・トリオが演奏したシューベルトの盤も立派なものである。
シューベルトは、歌曲はもちろん、室内楽に優れた作品が多い。
この三重奏曲は人気曲であるピアノ五重奏曲「鱒」と似た雰囲気の曲である。
シューベルト晩年の1827年、またはその前の年1826年の作品である。
それだけに、充実した曲想が次々と私を楽しませてくれる。
ボロディン・トリオは三人共ロシアから亡命した演奏家だが、シューベルトの次々とあふれる美しいメロディーを浪々と奏でてくれる。
私は、ただその圧倒的雰囲気にただ浸りきるだけである。
この曲のとっておきの名盤は、これに止めをさす。
・ボロディン・トリオ <CHANDOS>