クラシック 名盤探訪

クラシックの名盤紹介・おすすめ散策コース等、趣味の発信の場です。

とっておきの名盤 その155 チョ・ソンジン ~ The 17th Chopin Piano Competition Warsaw 2015

2016年01月09日 | とっておきの名盤「器楽曲」


昨年10月の第17回ショパン・コンクール、優勝したチョ・ソンジンが弾くショパンのP協第1番を初めてYouTubeで聴く。
とにかく驚いたのは、聴く人の心の中に訴える彼のピアノの限りなく透明なそして美しい音の流れ!
これまでに名のある演奏家のピアノをいろいろと聴いてはいるが、こんな経験は初めてだった。
これは彼の持つピアノの音色の素晴らしさだけではなく、何よりも作曲家が曲に対して示した音楽構成というものをしっかり把握したうえで、それを聴くものの心にストレートに伝えているからだと思う。
どんな言葉遣いを使っても、その素晴らしさを的確に伝えることは難しいとは思うが。
とにかく1年4ヶ月ぶりに、”とっておきの名盤”に値するCDを取り上げることが出来たことは嬉しいの一言に尽きる。
・チョ・ソンジン<P>「Winner of the 17th international Fryderyk Chopin Piano Competition Warsaw 2015」~ Prelude_OP28、Piano Sonata_No.2 in B flat minor OP35 など <Grammophon>

とっておきの名盤 その154 ヴァレンティーナ・リシッツァ 「ライヴ~ロイヤル・アルバート・ホール」

2014年09月11日 | とっておきの名盤「器楽曲」
 

世界中にその存在が知られていなかった異色のピアニスト、ヴァレンティーナ・リシッツァ、YOU TUBEによって、その魅力的な演奏があっという間に世界に広まり、その後、メジャー・レーベルからレコード・レビューを果たしたというから面白い。
早速、主題のCDを注文、一曲目の「ラフマニノフ:前奏曲作品25第5番」を聴く。
その途端から、「何とも言えない不思議な力が私の心を掴んで離さない」と云うべき演奏がレコードの最後まで続いたのには全く驚かされた。
とにかく、このとっておきの名盤はもちろん、これからも彼女の魅力的な演奏をぜひ聴いていきたいと思うこの頃である。
・ヴァレンティーナ・リシッツァ<P>「 Valentina LisitsA LIVE at the ROYAL ALBERT HALL」<DEECA>

とっておきの名盤 その153 J.S.バッハ 「平均律ピアノ曲集・第1巻」

2012年09月08日 | とっておきの名盤「器楽曲」
 

ポリーニは2000年を境にして、一段と進化した。
1942年の生まれだから、その頃は還暦をもうすぐ迎える年頃だった。
1999年に、ロマン派の精髄とも言えるショパンのバラード全曲を録音したが、その4つの曲の中に、新たに到達した円熟の境地というか、入魂とも言って良いその素晴らしい演奏には、ただただ驚かされたことを今でも覚えている。
それから約10年後に録音したこのバッハの演奏のさらなる素晴らしさは、どう言ったら良いのだろうか。
今の私には、「・・・わびさびが感じられる最も美しい平均律」としか言いようがない。
ともかく、とっておきの名盤に新しい一枚が加わったことに感謝したい。
この曲のベスト・ファイブを挙げておくと以下のようになる。
・マウリツィオ・ポリーニ<P> <Grammophon>
・スヴャトスラフ・リヒテル<P> <Me>
・ケネス・ギルバート<Cembalo> <ARCHIV>
・アンジェラ・ヒューイット<P> <hyperion>
・ヴイルヘルム・ケンプ<P> <Grammophon>
とっておきの名盤 その73 ベートーヴェン ピアノソナタ第21番ハ長調「ワルトシュタイン」作品53
とっておきの名盤 その136 ショパン 12の練習曲 作品10 作品25

とっておきの名盤 その152 ショパン 4 スケルツォ

2012年03月04日 | とっておきの名盤「器楽曲」
 
今回、「とっておきの名盤」としてこの盤を取り上げたのだが、ポゴレリチについての褒め言葉は過去のブログの中で十分に述べているので、まずはその演奏の素晴らしさを書きたいと思う。
たまたまCDの名盤紹介の本を読んでいたら、ショパンのスケルツォの名盤について敬愛する音楽評論家・宇野功芳氏のコメントに遭遇、その説明がとても素晴らしく、それ以上の表現は私などにはどうしても浮かんでこない。
ということで、そのコメントをそのまま使わせていただくのが一番だと勝手に決めてしまう。
「・・・スケルツォはポゴレリチ<G>だ。強靭なタッチと胸のすくようなテクニックを駆使し、鮮やかな手練の技を聴かせてくれる。表情の変わり身の速さ、最高のリズム感、そこではすべての音がドラマを語りかけており、感情の振幅は極大である。一個の表現者として、まことに彼は端倪すべからざる存在といってよい・・・『クラシックCDの名盤』 宇野功芳 中野雄 福島章泰 <文春新書>」。
たしかに、この盤の最初の曲(スケルツォ第1番)を耳にした瞬間から、聴いた者の心を最後までしっかりと掴んで離さない彼の説得力の強さにはとにかく驚かされる。
そんなことで、しばらく途絶えていた「とっておきの名盤」に新しい一枚が加わったことを嬉しく思っている。
ほかにアラウ、ポリーニなどの簡単には無視できないCDがあることにも注意。
・イーヴォ・ポゴレリチ<P><Grammophon>
・クラウディオ・アラウ<P><Philips>
・マウリツィオ・ポリーニ<P><Grammophon>
とっておきの名盤 その133 モーツアルト ピアノソナタ第11番イ長調K331「トルコ行進曲」他
とっておきの名盤 その101 ショパン 24の前奏曲 作品28
とっておきの名盤 その15 チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番変ロ短調 作品23

とっておきの名盤 その143 ベートーヴェン ピアノソナタ第31番イ長調 作品110

2009年01月29日 | とっておきの名盤「器楽曲」
  
ベートヴェンの晩年の作品群は、仏教で言う解脱の境地というか、精神的に一歩進んだ高みの境地があって、とても素晴らしいものを私の心に伝えてくれる。
交響曲では第9番、弦楽四重奏曲では第14番以降の3作品、声楽曲では荘厳ミサ曲、そしてピアノソナタではこの作品を含む30番からの3作品がとくに素晴らしい。
何度聴いても飽きないし、聴くたびに新しい何かを啓示してくれる。
仏教では、菩薩というのは悟りを求めて修行し、一方では衆生を教化する身であるという。
如来というのは悟りを開いた覚者を指している。
晩年の作品の高みは、それこそ菩薩の身からやっとたどり着いた如来の境地と言えるのかもしれない。
その境地を、真に伝えてくれる少ないピアニストの一人が晩年のアラウで、この31番のソナタの第一楽章や第3楽章など、作曲家が伝えたかったメッセージを何とも深い形で聴くものの心に伝えてくれる。
私などは、しょっちゅう煩悩に追われて落ち着かない日々を送っているが、時々このとっておきの名盤を引っ張り出しては、精神的な落ち着きを取り戻そうとプレーヤーにこの盤を載せている。
晩年の3作品のベストスリーの盤は以下のピアニストのものを推奨する、
・クラウディオ・アラウ <PHILIPS>
・ルドルフ・ゼルキン <Grammophon>
・エミール・ギレリス <Grammophon>

とっておきの名盤 その138 J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ

2008年10月22日 | とっておきの名盤「器楽曲」
  
クレーメルが当代きってのヴァイオリニストであり、良い意味での斬新的な演奏を常に提示してくれることは知っていたが、これだけ素晴らしいバッハを録音してくれるとは!
25年ぶりとなる3度目の録音、演奏については専門家の文章をそのまま借りると、「計算されたヴィブラートやイネガル的なリズム、変化に富んだディナーミクや多様な色彩、ポリフォニックな横の流れ、ダンスの愉悦等ピリオド奏法の発想を柔軟に取り入れた上で、まったくクレーメルにしかなしえないオリジナリティに富んだ演奏が展開される。」と、やたら横文字が並ぶ難解な表現になる。
私などは文章で上手い表現が出来ないので態度で示すと、「最初の一音を聴くや否やぐっと身が引き締まる思いがし、その後はただひたすらバッハの音楽の深い森の中に入り込んでしまう。」となる。
クレーメルのこの盤、とにかく歴史的名盤と言っても良いくらいの名演奏で、あまたある盤を凌ぎ真っ先に挙げるのはこの一枚しかない。
厳格なバッハの音楽と合わない表現かもしれないが、わかりやすく楽しく聴かせてくれるのが、グリュミオーの盤、これを次点としてぜひあげておきたい。
・ギドン・クレーメル<Vn> <ECM>
・アルチュール・グリュミオー<Vn> <PHILIPS>

とっておきの名盤 その136 ショパン 12の練習曲 作品10 作品25

2008年09月18日 | とっておきの名盤「器楽曲」
 
このCDを聴いた時の驚きは、尋常なものではなかった。
練習曲といっても、この曲集は若き日の輝きに満ちたショパンの天才的なひらめきがあちらこちらに点在している素晴らしいもの。
特に作品10の第3番「別れの曲」や第12番「革命」などは、演奏家の腕次第で一層輝きを増す。
当時グラモフォンレーベルにデビューしたばかりのポリーニが、全身全霊をこめて弾いたこの曲集、その新鮮で鮮やかな響きに満ちた演奏はとにかく素晴らしいものだった。
録音も優秀で、これほど3拍子揃った盤は他には見あたらず、歴史的名盤をあげると必ずその中に加えられる一枚だった。
今聴きなおしても、新鮮なその輝きは変わっていないし、最初に聴いた時の驚きがまざまざと胸に甦る。
とっておきの名盤として外せない一枚。
・マウリツィオ・ポリーニ<P> <Grammophon>

とっておきの名盤 その133 モーツアルト ピアノソナタ第11番イ長調K331「トルコ行進曲」 他

2008年08月29日 | とっておきの名盤「器楽曲」
旧ユーゴ(現クロアチア)のベオグラードに生まれたポゴレリチは、恩師でもあり後に彼の妻ともなった名女性教師ゲゼラーゼとの出会いにより一気にその才能を開花させた。
彼の大胆な作品へのアプローチや異常とも思えるようなテンポの設定、そして甘美を極めるような音色は、すべてゲゼラーゼが植えつけたものともいわれている。 
彼がショパン国際コンクールでファイナリストになれず、この決定に激怒したアルゲリッチが審査委員を辞退したという逸話は良く知られているが、その事が彼が世界的な演奏活動を繰り広げるきっかけになったというのも面白い。
ポゴレリチがモーツアルトを弾くこの盤、気品と退廃とが隣り合わせの危険な世界を実感させるとか悪魔的な魅力を持つとか評される彼の演奏が、この作品の表現にどう反映しているのか、購入時にとても気になった一枚。
このソナタ、第一楽章は変奏曲で第二楽章はメヌエット、そしてフィナーレはトルコ風のロンドとソナタ形式が一つも無い異色の作品だが、良い意味でその事がポゴレリチの個性的な表現にぴったりと合っているのか、その自在な語り口はとにかく魅力的としか言いようが無い。
とっておきの名盤として文句のつけようが無い一枚といえる。
イーヴォ・ポゴレリチ<P> <Grammophon>
このとっておきの名盤は一枚ものだが、全集ものも是非あげておきたい。
・クラウディオ.アラウ(1977~1988録音)<Philips>
・リリー.クラウス(シャルラン1956録音)<EMI>
・ダニエル.バレンボイム(1984年録音)<EMI>
番外としてワルター.クリーン<VOX>

とっておきの名盤 その124 ベートーヴェン ディアベッリ変奏曲 作品120

2008年05月01日 | とっておきの名盤「器楽曲」
19世紀の大ピアニストであったビューローは、50数分を要するこのベートーヴェンの晩年の大作を次のように称賛している。
「彼の天才の凝縮であると共に、音楽の全世界の要約であり、音楽的な構想と想像力のあらゆる展開が、そして最も高尚深遠な思想から最も奔放な諧謔までが、最も雄弁に語られている。
それは尽きることのない泉に等しく、われわれに限りない栄養を与えてくれる。.,,,,」
何とも抽象的で哲学的ともいえる大げさな表現だが、この言葉を聴いて、一度はこの曲を聴いてみたくなるのは私だけではないと思う。
この曲を見事に演奏してくれるピアニストは、”最も正統的なドイツ音楽の継承者”であるアラウを差し置いて、今の私には誰も他に考えられない。
このアラウのドイツ音楽の精神は、リストの高弟であったベルリンの名教師マルティン・クラウゼの徹底的な薫陶によって育まれたものらしい。
そしてリストはベートーヴェンの弟子であるツェルニーに師事しているから、まさしくアラウは”正統的なドイツ音楽の継承者”の位置にあるといえる。
この盤は円熟の極みに達したアラウ82歳の時の録音のもの、遅めのテンポながらこの長大な曲を最後まで飽かすことなく聴かせてくれる力量には、とにかく感服するしかない。
とっておきの名盤としてはずすことの出来ない一枚。
・クラウディオ・アラウ<P> <PHILIPS>

とっておきの名盤 その122 リスト ピアノソナタロ短調

2008年04月12日 | とっておきの名盤「器楽曲」
この盤の素晴らしさを、このブログを読む人にどう伝えたらよいのか?
どうも沢山の形容詞が文章の中を空しく走り回るだけで、本当に伝えたいことの万分の一も解ってもらえそうも無い。
アルゲリッチは、そんな演奏をする天才肌のピアニスト。
身をたたずまして、ただひたすらに耳を傾けて聴いて欲しいとしか言いようの無い一枚、滅多にあるとは思えないそんな一枚がこのとっておきの名盤(リストのピアノソナタ)。
この盤は1971年の録音だから、彼女がちょうど30歳の時のもの。
今は一人では弾かなくなってしまった彼女だが、バッハでもベートーヴェンでも良いから、何か独奏曲を取り上げて録音して欲しいと思うのは私だけではないはず。
この願い、何時実現するのか今後の楽しみの一つとして大事にとっておきたい。
・マルタ・アルゲリッチ<P> <Grammophon>

とっておきの名盤 その119 J・S バッハ パルティータ選集(1、2、3、5番)

2008年03月17日 | とっておきの名盤「器楽曲」
これは1991年、88歳で亡くなったアラウ最後の録音、まさしく入神の域に達したともいえる崇高な演奏。
このパルティータの最初の一音からのピアノの音の神がかった響きをどう表現したらよいのか。
解説書にある梅津時比古氏の以下の文章は、そのことを私の胸に最も痛切に説いてくれる。
「アラウがバッハを弾きたくなったのは、永年連れ添った夫人と子息を相次いで亡くし、およそ2年間、悲しみの余りステージから離れた後だった。
・・・その音はピアニズムの魅力の極地でありながら、ピアノの音を超えている。
おそらくアラウのなかに、美しい音を聴かせようというような気持ちは、もう微塵も無かったのであろう。
音色の変化をやさしくすくいとりながら、どこか無骨で、それでいて何もかもが自然、そして自在である。
たとえて言えば、風が美しい花の香りも細かな土ぼこりも、同時に自由に運んでくるよう。
大きな自然の中で、どこからともなく聞こえてくるような音。
それはバッハからもたらされる音なのだろうか。
アラウからもたらされる音なのだろうか。
おそらく、そこには、夫人や子息への思いも含めてアラウの感情の総てが流れているのだろう。・・・」
このアラウの”白鳥の歌”と言うべき演奏を聴かずして、真のバッハは語れないのではないかとつくづく思う。
・クラウディオ・アラウ <P> <PHILIPS>

とっておきの名盤 その116 ショパン ワルツ全曲(14曲)

2008年02月05日 | とっておきの名盤「器楽曲」
前項のヌヴーと同様、若くして白血病のため夭折した不滅の天才ディヌ・リパッテイ、録音した盤の数は少ないがどれも真の芸術が放つ輝きに満ちた光芒が私の心を捉えて止まない。
1917年、ルーマニアのブカレストの生まれで、父はヴァイオリニスト、ピアニストだった母に4歳の時からピアノの手ほどきを受けたというから、これも多くの著名な芸術家がなした血筋と教育の例に漏れない。
この盤、リパッテイのすがすがしい新鮮さとみずみずしい感性、そして澄み切った詩情と憧れに満ちた感性が織り成すピアノの響きに満ち溢れている。
高貴さという言葉が、身にしみて感じられる演奏はリパッテイだけがなしえたもので、最高のショパン演奏家と賞賛された当時の評判が、今でも生き続けて欲しいという気持ちは私だけの願いではないはず。
この盤はショパンのワルツ全集の定番として、必ず名盤の案内書などに取り上げられるものだが、私にとっても外せない一枚で、別の意味でとっておきの名盤としているピリス盤と共に特別の棚に置かれている。
この曲のベスト・スリーを挙げておくと、
・マリア・ジョアオ・ピリス、1984年演奏 <ERATO>
・ディヌ・リパッテイ、1947年演奏 <EMI>
・クラウディオ・アラウ、1979年演奏 <PHILIPS>

とっておきの名盤 その105 バッハ小品集

2007年10月23日 | とっておきの名盤「器楽曲」
ケンプが生まれたのは1895年で、1991年に96才の長寿を全うした。
まさに20世紀に君臨したドイツ最高のピアニストの一人だった。
この盤は、アンコールや公開講座の最後には彼自身の編曲によるバッハの作品を演奏したという、バッハへの畏敬の念がぎっしりと詰め込まれた貴重なもの。
オルガン演奏にも優れた才能を見せただけあって、一つ一つの曲がバッハの奥深さを聴く者に強く訴えかける素晴らしい編曲、そして演奏になっている。
この盤に収められた総ての曲を聴いていて、これだけ心が安らぐ演奏を他には求めることができない。
最近、「求めない」と言う本が売れているそうだが、これだけは是非求めて欲しい。
二枚組みの廉価盤でお買い得だし、中身の濃さがとにかく飛び抜けている。
とっておきの名盤として、常に手元に置いていたいもの。
・ヴィルヘルム・ケンプ<P> <Grammophon>

とっておきの名盤 その102 ショスタコーヴィチ 「24の前奏曲とフーガ」 作品87

2007年09月25日 | とっておきの名盤「器楽曲」
ショスタコーヴィチの作品群では、共に15曲ある交響曲と弦楽四重奏曲が傑作とされているが、私が好きなのはピアノ曲で、ここで取り上げる「24の前奏曲とフーガ」は、それこそ座右の盤として手元から離せない曲集となっている。
この曲の初演者であるニコラーエワの演奏が素晴らしいのか、曲自体が飛びぬけて良いのか、どちらだと言いきれない程に曲と演奏が渾然とした魅力を醸し出しているからだ。
1950年、ライプチヒでのバッハ没後200年記念音楽祭で行われたピアノコンクールで優勝したのがニコラーエワ、審査員のショスタコーヴィチが、その深い芸術性に感銘して彼女の為にこの曲集を作曲したと言う。
彼女は1952年にこの曲集を初演している。
前奏曲の多彩に変化する音の綾、フーガにおける主題の魅力的な調べなど、聴いていてこれほど飽きが来ず、しかも楽しく思える作品はそうは無い。
彼女は1962年、1987年、1990年の3回この曲を録音しているが、2回目のものが断然素晴らしい。
残念ながら1回目のものは、入手困難でまだ耳にしていないが、3回目のものはエコーが強い録音で、その反響が気になる音の響きは、折角の作曲者のペンを台無しにしている。
ここで取り上げる2回目のもの、その豊かな響きに包まれた旋律の明快な解釈、曲中の多様な書法の中に浮かび上がる彼女のいつくしむような優しさと温かさ、この作曲者と作品に対する出会いをどれだけ大切にしているかが、これだけ伝わってくる演奏は他にあるとも思えない。
とっておきの名盤として、ぜひ座右に置いて欲しい一枚。
・タチアナ・ニコラーエワ<P> <Regis> Previously on Melodia

とっておきの名盤 その101 ショパン 24の前奏曲 作品28

2007年09月18日 | とっておきの名盤「器楽曲」
ショパンの数ある名作の中でも、「24の前奏曲」は特に私の思い入れが強い作品。
まず一つ一つの曲のまとまりが素晴らしい、全体として大きな一つのストーリーを形成していて、全曲を聴き終った後の感じは、感動的な小説を一気に読み終えた様な充実感を覚える。
一つ一つの曲に詩があるのが何とも私の心を魅了させてくれる。
それを一番胸に深く感じさせてくれるのが、ポゴレリチのこの演奏。
1989年、ポゴレリチ31歳、まだ演奏家としては若い時の録音と言われるかも知れないが、聴いていて私にはとてもそうは思えない。
他のピアニストの演奏では思いもつかない様な、中身の深い曲の表現にはとにかく驚かせられる。
第一番のこれから話が始まるよと、聴き手に語りかけてくるピアノの絶妙なタッチ、続く第2番の淡々として語を始める間合いの素晴らしさ、好きな第四番の胸をうつ哀愁に満ちたメロディーの極み、一つ一つを書いているときりが無い。
ポゴレリチが奏でる、最後の第24番の劇的な高揚感に満ちた渾身のピアノの響き、そしてあっという間に全曲を読み通し聴き終わっている自分にふと気がつく。
とにかく他には無い詩的魅力度の素晴らしさに惹かれる、とっておきの名盤として取り上げない訳にはいかない。
2位以下は聴いた後での感銘度が少し落ちる感じになるが、この曲のベスト・ファイヴの盤をあげると、
・イーヴォ・ポゴレリチ <Grammophon>
・クラウディオ・アラウ <PHILIPS>
・サンソン・フランソワ <EMI>
・マルタ・アルゲリッチ <Grammophon>
・アリシア・デ・ラローチャ <DECCA>