日曜日、冬物と器を物色に実家へ帰る。
昼前に着き、いつもポストに入れてある鍵で中に入る。
大体不在の父が夜勤空けの休みで家にいたので昼飯いこうということになった。そんなときは斜め向かいのケーキ屋の二階にあるオムライスが売りのカフェに行く。
父はカレーオムライス、私はデミグラスソースの。スープ・サラダとミニデザート、コーヒー付のランチセット。父はコーヒーは先にと頼んだので私もそうした。
小さい頃の記憶では父は休みの日の昼、いつもレトルトカレーかインスタントラーメンを食べていた。父がいる昼はカレーと煙草のにおいだったのをよく覚えている。舌は子供で、母の料理には味見せずソースをどばーとかける無神経な男だ。
コーヒーを飲みがら、某新聞社の新しい工場の責任者となった父の仕事のことや、花屋の日々のこと、妹のことなどを話した。皆それぞれ仕事や部活が忙しく実家に来ることは少なくなった。
驚いたのは父が中学時代から半生を傾け、社会人になっても続けてきたバレーボールをやめたことだ。昇進して練習に行く時間がなくなったことと、体力の限界を感じたらしい。同じ年代で続けている人もいるそうだが、練習の時間がないまま実力が落ちて同年代に負けるのも嫌だという。父は何につけても中途半端と負けるのが嫌いだ。 それで今はゴルフをやっている。おっさんが休みにする遊びとは違い本気なのだそうで、休みの日は必ず練習に行くという。月に二度は取引先の接待ゴルフがあったり、自分の都合で練習でき、年令的にも長く続けられるスポーツでもある。何にせよ体は動かしたほうがいい。
コーンスープとサラダ、ほどなくオムライスも運ばれてきた。デミグラスソースは自家製で、中はバターライスになっている。
最近パチンコでエヴァンゲリオンに凝っているそう。しかし父はアニメを全く知らないので使徒って何?なんで子供ばかり出てくるのか?などの質問に事細かに答えてあげた。
両親は別居していて父は四年前からがらんとした実家で一人暮らしをしている。もうすぐ正月なので、母の恒例、父の大好物「牛すじの昆布巻」を届けてほしいかどうか聞いといてと言われていたのを思い出して尋ねると、365本と答えたので笑った。さみしい。
オムライスは少し多かった。デザートは一口ずつのアイスとシフォンとフルーツ盛り合わせ。ホットコーヒーをふたつ注文する。
一服して店を出る。
お昼ご馳走になったし掃除でもして帰ることにする。散らかってはいないが前に掃除機かけたのはいつか覚えてないと言う。最近はネズミが出てパチンコの景品ハイチュウを噛られたらしい。
掃除手伝うかと思いきや打ちっぱなしに行ってくると言った。そういうところは変わらない。
居間と二階の寝室が生活スペースで他の部屋は使われていない。棚を拭きながら祖母の遺影と目が合う。体のすべての筋力が落ちる難病で亡くなった。自分のことばかりに必死だった高校から大学の頃の私はもっと介護、できることがあったのに避けていた。
徹底的に掃除しようと思う。
台所、洗面所、掃除機をかけ、階段や床はさらに雑巾がけ。玄関、外壁のタイルを拭く。玄関先は幸福が入ってくる場所なので念入りに。雑巾がすぐ真っ黒。 あっという間に夕方になり、帰ろうとすると丁度父が帰ってきた。きれいになっているので喜んでいる姿を見て、じゃあまた来るわと言う。
おー、気を付けてな。
私は帰る。
帰る家がある。ごはんを作る相手がいる。一緒に食べる人がいる。
お父さんは今夜何を食べるのだろう。
7人家族分の食料が詰まっていた冷蔵庫には烏龍茶、野菜ジュース、梅干し、チョコレート、ウイダーインゼリー、グレープフルーツ。そういう日々。
家に帰ると炊きたてのご飯や煮物の温かいにおいのする生活を大切にせず遠ざけたのは父だ。
心底阿呆だと思う。
でも冷たい部屋、コンビニ弁当。
お父さん、心底です。
私は帰る。
自転車で走りながら頬が冷たかった。
昼前に着き、いつもポストに入れてある鍵で中に入る。
大体不在の父が夜勤空けの休みで家にいたので昼飯いこうということになった。そんなときは斜め向かいのケーキ屋の二階にあるオムライスが売りのカフェに行く。
父はカレーオムライス、私はデミグラスソースの。スープ・サラダとミニデザート、コーヒー付のランチセット。父はコーヒーは先にと頼んだので私もそうした。
小さい頃の記憶では父は休みの日の昼、いつもレトルトカレーかインスタントラーメンを食べていた。父がいる昼はカレーと煙草のにおいだったのをよく覚えている。舌は子供で、母の料理には味見せずソースをどばーとかける無神経な男だ。
コーヒーを飲みがら、某新聞社の新しい工場の責任者となった父の仕事のことや、花屋の日々のこと、妹のことなどを話した。皆それぞれ仕事や部活が忙しく実家に来ることは少なくなった。
驚いたのは父が中学時代から半生を傾け、社会人になっても続けてきたバレーボールをやめたことだ。昇進して練習に行く時間がなくなったことと、体力の限界を感じたらしい。同じ年代で続けている人もいるそうだが、練習の時間がないまま実力が落ちて同年代に負けるのも嫌だという。父は何につけても中途半端と負けるのが嫌いだ。 それで今はゴルフをやっている。おっさんが休みにする遊びとは違い本気なのだそうで、休みの日は必ず練習に行くという。月に二度は取引先の接待ゴルフがあったり、自分の都合で練習でき、年令的にも長く続けられるスポーツでもある。何にせよ体は動かしたほうがいい。
コーンスープとサラダ、ほどなくオムライスも運ばれてきた。デミグラスソースは自家製で、中はバターライスになっている。
最近パチンコでエヴァンゲリオンに凝っているそう。しかし父はアニメを全く知らないので使徒って何?なんで子供ばかり出てくるのか?などの質問に事細かに答えてあげた。
両親は別居していて父は四年前からがらんとした実家で一人暮らしをしている。もうすぐ正月なので、母の恒例、父の大好物「牛すじの昆布巻」を届けてほしいかどうか聞いといてと言われていたのを思い出して尋ねると、365本と答えたので笑った。さみしい。
オムライスは少し多かった。デザートは一口ずつのアイスとシフォンとフルーツ盛り合わせ。ホットコーヒーをふたつ注文する。
一服して店を出る。
お昼ご馳走になったし掃除でもして帰ることにする。散らかってはいないが前に掃除機かけたのはいつか覚えてないと言う。最近はネズミが出てパチンコの景品ハイチュウを噛られたらしい。
掃除手伝うかと思いきや打ちっぱなしに行ってくると言った。そういうところは変わらない。
居間と二階の寝室が生活スペースで他の部屋は使われていない。棚を拭きながら祖母の遺影と目が合う。体のすべての筋力が落ちる難病で亡くなった。自分のことばかりに必死だった高校から大学の頃の私はもっと介護、できることがあったのに避けていた。
徹底的に掃除しようと思う。
台所、洗面所、掃除機をかけ、階段や床はさらに雑巾がけ。玄関、外壁のタイルを拭く。玄関先は幸福が入ってくる場所なので念入りに。雑巾がすぐ真っ黒。 あっという間に夕方になり、帰ろうとすると丁度父が帰ってきた。きれいになっているので喜んでいる姿を見て、じゃあまた来るわと言う。
おー、気を付けてな。
私は帰る。
帰る家がある。ごはんを作る相手がいる。一緒に食べる人がいる。
お父さんは今夜何を食べるのだろう。
7人家族分の食料が詰まっていた冷蔵庫には烏龍茶、野菜ジュース、梅干し、チョコレート、ウイダーインゼリー、グレープフルーツ。そういう日々。
家に帰ると炊きたてのご飯や煮物の温かいにおいのする生活を大切にせず遠ざけたのは父だ。
心底阿呆だと思う。
でも冷たい部屋、コンビニ弁当。
お父さん、心底です。
私は帰る。
自転車で走りながら頬が冷たかった。