2年くらい前かな、西荻の鞍馬へ行きました。あそこはつまみがないんです。でもお酒を頼むと蕎麦味噌が出てくるので、それをなめながら軽く一杯飲んで蕎麦を食べました。
ぼくの席から死角のところで女性が一人注文していました。「天先でお酒を」
へえええ。粋な女性がいるなあ、と感心しました。
天先っていうのは、天せいろなんだけれど、先に天ぷらだけ持ってきてね、という意味。その女性は天せいろの天ぷらをつまみにお酒を飲もうと思ったんですね。
食べ終わり、立ち上がりざまに「ああ、おいしかった」と思わず口にしたぼくに、その女性は、「ねえ、おいしいわよねえ」というような、何とも言えない微笑みを向けたのでした。すてきな微笑みでした。今でもはっきり覚えています。
彼女の訃報に触れて、なんだかすごく寂しいです。彼女の仕事の手触りの良さが好きでしたが、なにより、あの、微笑みを忘れることができません。
安らかにお眠りください、杉浦日向子さん。
ぼくの席から死角のところで女性が一人注文していました。「天先でお酒を」
へえええ。粋な女性がいるなあ、と感心しました。
天先っていうのは、天せいろなんだけれど、先に天ぷらだけ持ってきてね、という意味。その女性は天せいろの天ぷらをつまみにお酒を飲もうと思ったんですね。
食べ終わり、立ち上がりざまに「ああ、おいしかった」と思わず口にしたぼくに、その女性は、「ねえ、おいしいわよねえ」というような、何とも言えない微笑みを向けたのでした。すてきな微笑みでした。今でもはっきり覚えています。
彼女の訃報に触れて、なんだかすごく寂しいです。彼女の仕事の手触りの良さが好きでしたが、なにより、あの、微笑みを忘れることができません。
安らかにお眠りください、杉浦日向子さん。