ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

子どもが教えてくれたこと

2018-07-12 23:24:30 | か行

 

いまを生きる。子どもたちの、魅力的なこと!

 

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「子どもが教えてくれたこと」70点★★★★

 

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フランスの小児病棟で

難病を患いながらも毎日をキラキラ生きる

5人の子どもたちを追ったドキュメンタリーです。

 

この映画も、原作者の動機が素晴らしかった「ワンダー 君は太陽」とちょっと似ていて

映画の成り立ち=(この場合は監督の動機)が大きく意味を持っている。

 

1973年生まれのアンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン監督は

4人の子を授かった女性監督ですが

長女、そして次女が難病を患ってしまった。

 

その経験をした際に、彼女は病気の我が子に勇気づけられ、

そして

やはり病気の子を抱える家族が同じ経験をするのをみて

そのことを作品として描きたいと思ったそうです。

 

なるほど、その意味が、観てすごくよくわかった。

ここには、決して悲嘆ではない、光がある。

 

 

登場する子どもたち5人は

いずれも魅力的なキャラクターで人を惹きつけるし

また、彼らを支える家族の姿がすごくいいんです。

 

 

子どもたちはそれぞれ

絵が得意で庭いじりが好きな子、お芝居が上手な女の子・・・・・・と個性的で

そして一様にみな、自分の病気についてよく知っているし

人の気持ちにさとく、大人びている。

 

辛い経験は人を「できた人間」にするのだな、と

つくづく思う。

 

みんな、魅力的だけど

特に同じ病棟仲間で、勉強が得意でないジェゾンをいつも気にかけてやり、

ゲーム中にヒントをあげる、シャルル、いい子だなあ!

 

「僕のおばあちゃんは、君の財布じゃないんだ!」のセリフにも大笑い(笑)

 

 

親か子か、兄妹か、パートナーか、はたまた愛する動物か。

人はいずれ、誰かの世話をするもの。

子の病気と寄り添う親たちの処し方には

すべての人に価値のある「学び」がある。

 

そう感じました。

 

★7/14(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「子どもが教えてくれたこと」公式サイト

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エヴァ

2018-07-07 14:19:58 | あ行

 

ユペールさまのクールさは最高なんだけど。

 

「エヴァ」68点★★★☆

 

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ある老作家を介護していた青年ベルトラン(ギャスパー・ウリエル)は

彼の死後、未発表の戯曲を見つける。

 

それを盗み、自分のものとして発表した彼は

一躍注目され、イケメン作家として大ブレークする。

 

当然、2作目を期待されるが

これっぽっちも浮かばない(当然)。

 

困り果てた彼は、ある出来事から

娼婦エヴァ(イザベル・ユペール)と出会う。

 

謎めいた彼女に魅了された彼は

彼女を追いかけるようになるが――?

 

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イザベル・ユペール×美男子ギャスパー・ウリエルってことで

どうしても美しい官能シーンを期待してしまったのですが

あーれれ、直接的なそういう場面は皆無。

意外に慎み深いのでありました(笑)。

 

人の作品を盗んで発表し、注目されたイケメン作家。

しかし当然、次回作など書けるわけもなく、困り果ててたところ

彼は謎の娼婦エヴァと出会う。

夫もいて、豪華な邸宅に住んでいる彼女は

なぜ、娼婦をするのか?

 

彼女のことを書けば、なんとかいけるかも……と

彼女を追いかけるんですが

まあそれはつれなくされる。

 

おそらく、エヴァは青年自身の投影なんでしょうね。

彼女にも、実はそんなに探るような中身はない。のかもしれない。

 

すがりついてくる美青年を

軽ーくあしらうユペールさまのツンは大変に好みなのだけれど

どうも、この映画全体に、いまひとつ「味がない」。

それもまた

青年の空っぽさそのもののようで、なんだかむなしい。

 

でも、この「空っぽさ」のリアルは

誰にでも他人事でなく感じるもの、なのかもしれない。

 

青年は自分がなにをしたいかわからず、

ルックスだけでなんとなく生き延びてきて

介護の仕事も、おそらく「可愛がられて」続いてきたんでしょう。

作家になりたかったわけでもなく、でもそういう「スタイル」に憧れた。

 

「中身」を作る努力をしないことが

どれだけむなしく、恐ろしいことなのかを

見せつけられて、胃が縮みます。

 

 

「マジで書けない」作家の焦燥に

自分自身の姿が投影されるから、より身に沁みるんでしょうかね。

 

新作をせっつかれて、なんとなく書き始めた文章を、編集者の彼女にチラ見されて

文法すらなってないようなありさまに

「……どうしたの?」みたいにされる、あのシーン、あのリアル……

悪夢だわ。

よりによってブッカー賞作家の遺作をパクるからじゃボケ!

 

★7/7(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「エヴァ」公式サイト

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バトル・オブ・ザ・セクシーズ

2018-07-06 23:56:29 | は行

 

タイトルは「性差を超えた闘い」の意味です。

セクシーおねえちゃんの話ではありません。

 

「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」70点★★★★

 

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1973年。全米女子テニスチャンピオンのビリー・ジーン・キング(エマ・ストーン)は

怒りに燃えていた。

全米テニス協会が提示した女子の賞金金額が

男子の8分の1だったのだ!

 

抗議が受け入れられず、彼女は試合をボイコットすることを決める。

 

さらに彼女は、女子選手たちを集めて「女子テニス協会」を立ち上げ

「バージニアスリム選手権」の開催にこぎ着ける。

 

そんななか

元男子チャンピオンのボビー・リッグス(スティーブ・カレル)から

ビリー・ジーンに電話が入る。

 

「そんなに男子と女子が平等だというなら

いっちょ、試合をやろうじゃないか」

 

最初は相手にしていなかったビリー・ジーンだったが――?!

 

 

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「リトル・ミス・サンシャイン」(名作!)の夫婦監督が

45年前にあった実話を描いた作品。

 

驚くほど今日的な問題がジャストに詰まってます。

 

 

1973年、男女の賞金格差に異を唱え、

是正のために立ち上がったビリー・ジーン・キング。

 

その彼女に、ボビー・リッグスが

「男子と女子が平等だ、っつうなら、試合で勝負しようぜ!」と

まあパフォーマンス度100%で絡んでくる。

 

最初はアホくさ、と相手にしてなかったビリー・ジーンだったけれど

いろんな事情で、放置できなくなり

世紀の「男女のテニス対決」が行われる。

 

その試合の行方は――?もドキドキなんですが

しかし、この話、単なる「テニスの試合」の話ではなく

そこにビリー・ジーンのセクシャリティの問題が絡んでくるのが

大きなポイント。

 

当時、夫のいた彼女は、ある女性に惹かれ、その状況に戸惑いつつ

「本当の自分」を見つけていく。

そして夫と離婚し、1981年にレズビアンであることを公表するんですね。

 

ビリー・ジーン・キングのことも、この試合のことも

まったく知らなかったので

 

男女差別のタイムリーさに驚いて見ていたら、

え?次はLGBT問題か?!と、思いがけぬ多層構造に驚いてしまった。

 

ここがキモでもあるんだけど、この部分が吉と出るか、苦手と出るか、

正直、分かれそうではある。

 

おなじみ「AERA」で

監督ご夫婦にインタビューさせていただいたところ

セクシャリティの部分は、ビリー・ジーン本人が

「ぜひ、書いて!」と言ったのだそう。

 

セクシャリティに悩む人はまだまだいる。

特に若い人の助けになれば――と。

(掲載はちょっと先、7/14発売号です~)

 

現在74歳のビリー・ジーン・キングは社会活動家でもあり

オバマ前大統領から、勲章も授与している。

そんなスゴイ彼女の最初の一歩として、物語を追うのもおもしろい。

 


ボビー役のスティーブ・カレルは

またもカメレオンぶりを発揮し

(この人の声のデカさにはいつもながら辟易するんですけどね……

 

それにビリー・ジーンを演じるエマ・ストーンの精神力あるプレイヤーぶり!

「ラ・ラ・ランド」よりも、一皮むけた気がしました。

 

★7/6(金)から全国で公開。

「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」公式サイト

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セラヴィ!

2018-07-01 21:01:57 | さ行

 

予想以上におもしろかった(笑)

 

「セラヴィ!」72点★★★★

 

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ウェディングプランナーのマックス(ジャン=ピエール・バクリ)は

この道30年のベテラン。

 

彼は17世紀の城を貸し切っての

ゴージャスな結婚式を仕切ることになる。

 

大勢のキッチンスタッフやウェイターを雇い

式の当日、朝から大忙しで準備が始まるが

しかし、次から次へとトラブルが起こる。

 

いったい、どうなっちゃうの?!

 

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「最強のふたり」監督コンビによるコメディ。

 

ある場所での、ある一日の出来事が、

数人の視点で切り取られつつ、現在進行形でスピーディーにテンポ良く進んでいくという

厳密には違うかもしれないけど

「グランド・ホテル形式」とも言えるんじゃないかなあと思う。

三谷幸喜氏の「THE 有頂天ホテル」(←西田敏行さんのあのシーンに爆笑した!笑)を

ちょっと思い出したなあ。

 

 

舞台となるお城はまあゴージャスの極みで

しかし

起こるトラブルは、まさにこの世の厄災を集めたような(苦笑)

 

多国籍な従業員たちはどこか頼りなく

バンドヴォーカルは「オレさまオンステージ」を繰り広げ(苦笑)

メイン用の肉は腐り、バンドメンバーは倒れ

新郎の度を超えたスピーチに、さらに停電が――?!

 

 

いったい、どうなっちゃうの?(笑)

 

 

そして、やっぱり「最強の~」監督、

ただのドタバタでは終わらない。

 

従業員たちのダメさについにキレたマックスは、

しかし最後の最後で、彼らの思いがけないどんでんをくらうんです。

 

結局、自分が彼らを

「労働者」という型にはめていたことに気づく、という。

 

多国籍国家フランスの光と影、そして

我々にも無関係ではない雇用問題なども、この映画はほんのり示唆している。

 

なかなかでございます。

 

★7/6(金)から渋谷シネクイント、新宿シネマカリテほか全国で公開。

「セラヴィ!」公式サイト

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