ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

悲しみに、こんにちは

2018-07-20 23:51:38 | か行

 

またひとつ、忘れられない子ども映画が生まれた!

 

「悲しみに、こんにちは」77点★★★★

 

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1993年のスペイン、バルセロナ。

 

母を亡くし、独りぼっちになった6歳のフリダ(ライア・アルティガス)は

母の弟である叔父夫婦に引き取られ

カタルーニャの田舎に引っ越してくる。

 

叔父夫婦は優しく、彼らの娘である幼いアナ(パウラ・ロブレス)は

フリダをお姉ちゃんとして慕ってくれる。

 

しかし、フリダは新しい家族になじめず

理由なき反抗を繰り返してしまう。

 

そんなとき、アナが行方不明になる事件が起き――?!

 

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スペイン・カタルーニャの田舎の風景と、幼い姉妹の様子から

「ミツバチのささやき」をまず思い出しました。

さらに「ポネット」も!

 

そうした名作の匂いを感じさせながら

「いま」に生まれた、子ども映画の新たな傑作だと思います。

 

 

1986年生まれ、32歳のカルラ・シモン監督は

観る人に、ほとんどインフォメーションを与えないんです。

なので

観客は主人公の少女フリダと同じく、よくわからない状況に置かれる。

 

 

ママが死んでしまい

突然、新しいパパとママと妹ができた少女の

怪訝さと、とまどい。

 

そんななかで

ダダをこね、理由なき反発と反抗をくりかえすフリダに

 

観る人は苛立ち、ハラハラしながらも

おそらく、全員が、その心理に、ごく自然に共鳴してゆくと思います。

 

それは監督が

少女フリダの心に立つさざなみを、

ひとしずくも逃すことなく盆に受けているから。

 

 

たっぷりの自然、陽光、吹き抜ける風のなかで

フリダが触れるものも、大人たちの発する声のトーンに反応するさまも

すべてが、繊細に、すくわれている。

 

ゆえに、この映画には

万人に共通できる、まぶしさ、痛み、じんわり沁みるものがある。

 

ラストのフリダの突然の慟哭も、

きっと誰もに「・・・・・・わかる!」と感じられると思うんです。

 

そして

ラストの文字で、これが紛れもなく監督自身の話なのか!と驚いた。

 

さらに映画のなかでははっきりと明かされないけれど

監督も、フリダもまた、両親をエイズで亡くしているんです。

 

1990年代のスペインのエイズ蔓延の状況。

そのチルドレンである監督世代に起こっていること。

そんな社会的背景を内包しつつ、

25年前の経験を、センチメンタルでなく、

みずみずしく普遍性ある映像に編み上げた監督に拍手!です。

 

そして、監督にお話を聞くことができました!

AERA、来週7/23発売号で、「祝福~オラとニコデムの家~」のアンナ・ザメツカ監督とともに

子どもの視点から社会をみる、テーマで記事を書いております。

ぜひご一読くださいませ~

 

★7/21(土)から渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。

「悲しみに、こんにちは」公式サイト

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