ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

祈りの幕が下りる時

2018-01-25 23:59:07 | あ行

「新参者」シリーズ、ついに完結!


「祈りの幕が下りる時」71点★★★★


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東京・葛飾区のアパートで
女性の絞殺死体が発見された。

被害者は滋賀県在住の女性と判明。
さらに現場となったアパートの住人も行方不明になっていた。


警視庁捜査一課の刑事・松宮修平(溝端淳平)は
捜査を進めるうちに

一見、なんの関わりもないような
ある事件との関係を疑い始める。

だが、松宮から事件の詳細を聞いた
日本橋署の刑事・加賀恭一郎(阿部寛)は
激しく動揺する。

この事件は、彼が幼いころに失踪した
母に関わる謎につながっているかもしれないというのだ――!

そして
二人は捜査を進めていくのだが――?!


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2010年のテレビドラマからスタートし
映画化された「麒麟の翼」(12年)
そして14年の元旦スペシャルドラマ「眠りの森」を経て

新参者シリーズ、
久々の劇場版にして、最終章と相成りました。


ある殺人事件が
阿部寛氏演じる主人公・加賀恭一郎自身のルーツ、その謎に通じていく……という
なかなかに重厚なミステリー。

単体ドラマとしてしっかり作られていて
逆に
「そうか、加賀恭一郎のこと、あまり知らなかったんだ」と思うくらいなので

シリーズを知らずに見ても
問題なく、理解できるはずです。


序盤は、かなり成長した溝端淳平氏が
謎に満ちた展開を引っ張り、

そこに阿部寛氏の登場で、
懐かしい“くだけ感”やバディ感を一瞬だけ味わい、

そののちに、主人公自身の謎という
未踏の地に踏み込んでいく。

ラスト、あの人の、あの行動を飲み込めるかは
それぞれかもしれないですが
まあほぼ大満足!でした。


エンドロールで、
懐かしの日本橋の面々が
チラリ登場するのもファンには嬉しいところで。

なんと、時計屋のドン吉ちゃんも!(笑)

もうこれで、日本橋界隈やスポットも見納めかあと思うと
ちと寂しい。

まだまだ続くといいなー。


★1/27(土)から全国で公開。
「祈りの幕が下りる時」公式サイト
コメント (2)
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ゴーギャン タヒチ、楽園への旅

2018-01-24 21:33:42 | か行

画家を描いた映画、
最近多いし、おもしろいよね。


「ゴーギャン タヒチ、楽園への旅」71点★★★★


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1891年のパリ。

作品の売れないゴーギャンは貧窮し
薄汚れた都会にもうんざりしていた。

「こんな場所で創作意欲なんかわかない!南の島へ行こう!」と
マネやドガに言うけれど

航海も危険な時代。実際に行く仲間はいなかった。

そんななかゴーギャンはただ一人、妻子をおいて
楽園タヒチに旅立つ。

そこで彼が出会ったものとは――?!


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あのゴーギャンの
タヒチでの創作の日々を描いた作品です。


19世紀、薄汚れたパリで
「描きたい顔もない!」と妻子を置いて
南の島へ行く決意をするゴーギャン。

南の島に着いた次のシーンで、
さぞ、陽光溢れるパラダイスが広がっているか?
――というとそうでなく、

暗く湿った雨の小屋。

この意外性に、けっこうやられました(笑)。


彼はこの土地で
妻となるテフラに出会い、
彼女をモデルに絵を描きまくり

映画も、少し明るい兆しになりはするのですが

全体に青い空、白い砂浜!
ハッピーパラダイス!というトーンがまるでない。

どこか煙った、彩度の低い色味。

でも、その暗く哀しい話のトーンに
逆に惹きつけられました。


映画を観た後に絵画を見直してみれば、
たしかにトーンは意外と落ち着いたもので
モデルの表情もどこか哀しげだったりする(ように見える、のか?)

ストーリーは
ゴーギャン自身の紀行をもとにしているそうで、
読んでみたい!と思ったし

ゴーギャン演じるヴァンサン・カッセルが
久々に見応えのある役柄。

物質文明に背を向け
“プリミティブ”に憧れたゴーギャンの思いが
とてもよく伝わってきました。

いま、彼を含め
ポスト印象派&印象派取材を進めております。
『AERA』で2月にはお届け出来る予定。

いや~アートってやっぱ
おもしろいよね!


★1/27(土)からBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次公開。

「ゴーギャン タヒチ、楽園への旅」公式サイト
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ロング,ロングバケーション

2018-01-23 23:56:49 | ら行

「人間の値打ち」(16年)監督が
ハリウッド俳優を迎えて撮った作品。

さすが。


「ロング,ロングバケーション」72点★★★★


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その朝、
エラ(ヘレン・ミレン)は
50年連れ添った夫ジョン(ドナルド・サザーランド)をドライバーに
おんぼろキャンピングカーに乗って旅に出た。

ジョンはアルツハイマーが進行し、
記憶が飛びがちになっている。

「そんな状態のパパに運転させるなんて!」と
両親の不在に気づいた子どもたちが大騒ぎするなか

二人は想い出の土地を巡りながら
ルート1号線を南へとくだっていく。

彼らの目的地は、どこなのか――?


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イタリアの名匠
パオロ・ヴィルズィ監督作品。

「人間の値打ち」(16年)も
続く
「歓びもトスカーナ」(17年)
この監督は人間をえぐる描写と、ドラマチックな構成力が
とても素晴らしい。

本作もまったくそんな感じで
“熟年もの”の予想域を超える驚きと
「観てよかった!」の満足感をくれました。


50年連れそう仲良し老夫婦がキャンピングカーで旅に出る。

快活な妻は、周囲の人々とのおしゃべりを欠かさず
対して、認知症がはじまっている夫のほうは
ちょっとやばそう。

でも
若々しい妻の髪がウィッグだったりすることで
「あ、この人、闘病中なのか」と
詳細を言わずもがな、推し量らせる。

そのほかも
随所に気の利いたセリフを散りばめ、
夫婦の軌跡を描いても
センチメンタルになりすぎず

老いや病気をリアルに描いても
決して重すぎることなく笑いもたっぷり。
(ハイウェイで警官に止められるシーンには吹いたなあ

老夫婦だけでなく
それぞれ成人し、別々の道を行くことになった子どもたちを描写することで
どこの家庭にもありそうな問題が
より身近に浮かびあがります。


ラストもワシはアリだと思いました。

そして
これは、両親にも勧められるなあと。
心が沈むような“熟年もの”は見せたくないですもん。


★1/26(土)からTOHOシネマズ日本橋ほか全国順次公開。

「ロング,ロングバケーション」公式サイト
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デトロイト

2018-01-22 23:41:58 | た行

キャスリン・ビグロー監督。
この人の、この強靭さ!

「デトロイト」72点★★★★


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1967年、デトロイト。

この地では
根強い人種差別、それによる格差に
黒人たちの不満や怒りがピークに達し、
暴動が発生していた。


そんなある夜。

将来有望とされていたバンドのメンバー、ラリー(アルジー・スミス)は
暴動の余波で、家に帰れなくなってしまう。

しかたなくバンドのメンバーと
アルジェ・モーテルに泊まることにしたラリーだが

そこである黒人男性が
ふざけて銃声に似た発砲音を起こす。

それがここまで凄惨な事件を引き起こすとは
誰も想像していなかった――。


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「ハート・ロッカー」(10年)

「ゼロ・ダーク・サーティー」(13年)のキャスリン・ビグロー監督が
暴動が勃発する1967年のデトロイトで
実際に起きた事件を描いた作品。

騒乱の
その現場に投げ込まれる、半端ない臨場感。
ノンストップの緊張と恐怖。

「ハート・ロッカー」「ゼロ・ダーク」でもコンビを組み
「告発のとき」(07年、いい映画!)の脚本も書いている
元事件記者、マーク・ボール氏の脚本の力もすごいんでしょうね。



こんなことが起きていたなんて……まるで戦場じゃないか!という驚き。

そしていまも変わらない
レイシズムが引き起こす事件。

その生々しさを目の当たりにして
もう、怒りで歯茎から血が出そうになります(怒)。

この凄惨な一夜を生き延びても
決して、もとの自分には戻れない。
特に若者に負わせた傷は深い――と考えさせられました。

騒乱のなかで、冷静に
その場をまとめようとする警備員の男に
「スター・ウォーズ」のジョン・ボイエガ。

差別主義から常軌を逸していく若き警官を演じるのは
「リトル・ランボーズ」(10年、これもいい映画!)でデビューした
ウィル・ポールター。

ビグロー監督は半即興的なドキュメンタリーふうの手法を取り入れ、
俳優たちは精神的にかなり追い詰められたらしい。

とくにウィルはかなりきつかったらしく
そりゃ、過酷だったよね、これ演じるの……。


それに、唸ったのは
監督の徹底したフェアネスの姿勢。

黒人たちの差別や格差への不満はもっともだけど
その怒りをエネルギーに、
略奪など無軌道な行動に出た人々がいたことも事実。


その行動が
「怖い」「この人たち危険」という感覚を植え付け
さらに悪い連鎖となってしまう。

そこを平等に描くために
最初の1時間近くを費やしてる。

その鋼鉄の意志に感服しました。


★1/26(金)から全国で公開。

「デトロイト」公式サイト
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ルイの9番目の人生

2018-01-19 23:03:52 | ら行

これは意外に意外な作品でした。


「ルイの9番目の人生」71点★★★★


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天使のように愛くるしい少年ルイ(エイダン・ロングワース)。

しかしその人生は
まるで何かに呪われているようだった。

8歳までに8回も死にかけ
美しいママ(サラ・ガドン)をハラハラさせてきたのだ。

そして9歳の誕生日。
ルイはまたしても大事故に巻き込まれてしまう。

いったい、なぜなのか?

ルイの担当医となったパスカルは(ジェイミー・ドーナン)は
その数奇な運命を謎を
解き明かそうとするのだが――?!


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あの
アンソニー・ミンゲラ監督が(08年、54歳で没。
生前に映画化を熱望したという
サスペンス小説がもとです。

たしかに、これは魅力的な話。


9年間で9回も死にかけた少年の
数奇な運命の謎は――?と聞いて

最初はSFを思い浮かべたんです。
時空ループ系の。


で、映画は
9歳のボクのハートウォーミングふうに始まる。

しかし進むうちに
けっこうサスペンス&ミステリーで

いや、そのうちにダークファンタジーの様相になり、
そして、え?サイコ・ホラー?!――という

一粒で百味のお得さ。


まあ、途中でうっすらと
謎の解に気づきはするんですが
けっこう情けなく、ダマされてもしまいました。


タネを知ってしまうと
ガラリと映画の印象が変わるのも
おもしろさではあります。

予備知識ナシで、ぜひ!


★1/20(土)から新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。

「ルイの9番目の人生」公式サイト
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