ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

マイ ビューティフル ガーデン

2017-04-09 21:29:11 | ま行

イングリッシュガーデンは
美しくて気持ちいいですねえ。


「マイ ビューティフル ガーデン」68点★★★★

******************************


ちょっと変わった女の子ベラ(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)は
その生い立ちから
予測不可能な出来事や、植物が苦手になってしまった。

規則正しく生活し、図書館でマジメに働いているが
アパートの庭は荒れ放題。

アパートの隣人アルフィー(トム・ウィルキンソン)は
そのことを苦々しく思っていた。

あるとき、ベラは家主から
「1ヶ月で庭を元通りにできなければ、退去」との通知を受ける。

困り果てたベラに、隣人アルフィーが手を差し伸べるが――?


******************************


「ダウントン・アビー」の人気女優が主演。
「ダウントン~」は見ていないのですが、
なーるほど、スカヨハとキーラ・ナイトレイをかけたような、いい顔ですね。

そしてやはり、庭の映像が美しいので
ガーデン好きはぜひ。

ただ
話としてはちょっと散漫で、深みに足りないかな。

実際はそこまで「ガーデニング」推しでもなく、
想像していた「老人と若者」というわけでもなく
風変わりなヒロインの、恋愛と成長のラブストーリーなんですよ。


ヒロイン・ベラが勤務先の図書館で
机を食べかすだらけにしながら
賢明に本を読んでいる青年に恋心を寄せ
しかし同時に、隣人の料理人である男も存在感を増し・・・?!という展開。

ベラには
お皿の上のニンジンの配置にこだわりがあったり、
規則正しい毎日を送り、予測不可能なことが苦手で、植物に触れない――とか
あきらかに自閉症を思わせる点があるんだけど

意外と簡単にマイルール破りができたり、
他人を簡単に受け入れられたりする面があって
ちょっと設定が中途半端かなと。

昔だったらこういうキャラは
「ちょっと変わった女の子」で済んだかもしれないけど
いまの時代、
あまり、このへんをあいまいに描かない方がいいんじゃないかなー、とか
あえて、厳しいことを言ってしまいます。

まあ単に、ラブストーリーだったのが
拍子抜けだったのかな(笑)

ただ、庭“マスター”な隣人がベラに教える
「土の中の根っこは取り除かないと、植物が育たない」っていうのは
すごーく勉強になった。
あれ以来、ベランダガーデニングでもそうさせていただいてます。


★4/8(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「マイ ビューティフル ガーデン」公式サイト


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ねこあつめの家

2017-04-08 22:45:52 | な行

あのアプリを
よくお話にしたなあと。


「ねこあつめの家」70点★★★★


***************************


佐久本(伊藤淳史)は
スランプ中の小説家。

担当編集者ミチル(忽那汐里)は
佐久本をやる気にさせようとするが
なかなかうまく行かない。

あるとき
佐久本は田舎の一軒家を借りて、創作活動に励むことにする。

すると、家の庭に
猫がやってきて――?!


***************************


まずは
ねこ、てんこ盛り!(笑)

「先生と迷い猫」のドロップさんとか
「世界から猫が消えたなら」の子猫役をしたキャベツさんとか
CHOYA梅酒のCMのシナモンさんとか

総勢18匹が見られる!ってことで
★も加点ですがな(笑)


伊藤淳史氏演じる小説家のスランプ描写が
やや長い気もするんですが、
猫によって人が何かに気づき、再生するストーリーに無理がなく
よく、あのアプリをこんなお話にしたなあと思う。


猫映画は、猫好きにとって
「どれだけ猫が出てくるか」も大事だけど
やはり「それが猫でなきゃならなかった」必然性の自然さが大事ですからね。

その点、猫ビギナーの佐久本と猫との共演は
なかなかうまい感じでした。


さらに、随所に“猫好き”を納得させる
細かい配慮がされている点がスゴイ。


まずは忽那汐里氏演じる編集者が
鏡を使って、猫を光で遊ばせるという
なかなか高度な技を披露したり(笑)、

近所のペットショップ店員(木村多江)のアドバイスが、また的確で
「ああ、よくわかってらっしゃる・・・」と、うなずくことしきり。

佐久本が彼女のアドバイスで
「猫のきもち」わかり度をあげていくにつれ、
どんどん庭に猫が集まってくる・・・という。

庭に集まってくるのは、つまり外猫なわけですから
近所の苦情が出ないように
食べ終わったごはんは出しっ放しにしないとか
庭はいつでも、きれいにしてあるし
(夢がない?いや、実写化というのはそういうものですよ。笑

猫度を上げていく佐久本がペットショップでアルバイトをし
「あ、子猫にミルクはあげちゃだめですよ」とか
お客さんにアドバイスするのもハハハ(笑)。


昨年末に発売されたAERA別冊「ニャエラ」で
この映画について取材をさせていただきましたが
一番驚いたのが、制作側の「猫好きを納得させるための気遣い」。

猫好きならすぐに
「え~。こんなことないよ」「ダメだよ」と気づいてしまうようなことを
絶対にしない、が大事なんだそうです。

さらに
「絶対に“かわいそう”なことにしないこと」。

ほらほら
ワシが常日頃言ってるじゃないですか(笑)
そういうのは見たくないんですよ、って。

そんな苦心と配慮で作られた映画なので
猫好きに安心して進められる「猫映画」ですな。


★4/8(土)から新宿武蔵野館ほか全国で公開。

「ねこあつめの家」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

T2 トレインスポッティング

2017-04-07 23:46:28 | た行

うわぁホントに20年前ぶりの続編だ(笑)


「T2 トレインスポッティング」66点★★★


**********************************


スコットランド・エディンバラに
20年ぶりにレントン(ユアン・マクレガー)が帰ってくる。

レントンはかつてヤク取引に成功し、
仲間と大金をゲットしていたが

山分けするはずだった大金を持ち逃げし
姿をくらましていた。

だがどうやら、逃亡先での生活に行き詰まったらしい。

故郷に戻ったレントンはかつての仲間たちを訪ねるが
みな一様に問題を抱えていた――。


**********************************


96年に公開された
「トレインスポッティング」の20年後。

ダニー・ボイル監督×ユアン・マクレガー主演に加え
仲間たちのキャスティングもそのままで
ファンには嬉しい!のかもしれない。

前作をあんまり憶えてなくても(知らなくても)
映画のあちこちに、前作のシーンが挟まれるし、問題ないと思います。


しかし。
マジでガチに20年前の話を引きずってるというか
20年ぶりにスルッと続きがはじまって
こっちがびっくりしたというか(笑)

しかも
「20年経っても、アンタたち・・・」っていう
あまりにどうしようもない「続き」なんで
若干、どん引き(笑)。

あの疾走感を、時代のアイコンとして
確かに記憶していますけどねえ。


どこに引いたかというと
レントンにも、シック・ボーイことサイモンにも
スパッドにも、ベグビーにも
みんなに一応は子どもがいて

なんとなく流れが
「ダメなまま中年でも、種(子ども)を遺して、あとは未来へ繋ぐぜ!」的な
「いい感じな」ことになっているから(苦笑)。


これには
うーん、どうしても共感できんのよ(笑)。

だって
みんなまともな結婚生活をしてるわけでもなく
子どもは、女に勝手に産ませて育てさせてる、って状況なんだもん。
なのに「それが免罪符」なんて、まあ都合のいい話ですよ。

単に見ながら
そりゃあ自分も年を取ったよなあ、と
イヤんなるほど思わされるのがキツいのかも。

ユアン・マクレガーだって
歳にしてはスリムな体型を保ってるけど
隣に20年前の映像を並べられたら
あのペッタンコで貧素で、しかしエネルギーだけはあったあのころとは
全然違うでしょ!って(笑)

作りの単純さもきになった。

かつて「ダメ」でいまも「ダメ」な同じ人間として
もうちょっと違う「希望」を
ワシは見たかったんだと思います。


★4/8(土)から丸の内ピカデリーほか全国で公開。

「T2 トレインスポッティング」公式サイト
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

午後8時の訪問者

2017-04-06 23:52:03 | か行

ダルデンヌ兄弟の新作は、サスペンス!


「午後8時の訪問者」71点★★★★


******************************


若き女医ジェニー(アデル・エネル)は
知人の医師の代理で
郊外の診療所で、診察にあたっている。

小さな診療所には患者が絶えず、
ハードワークが続いていた。

そんなある夜、
診療時間を過ぎた午後8時にドアベルが鳴り
ジェニーはそれに答えなかった。

が、あくる朝、警察がジェニーのもとを訪れる。

診療所の近くで身元不明の
少女の遺体が発見されたというのだ――。


******************************


カンヌ国際映画祭7作品連続出品の
ダルデンヌ兄弟の新作。

強い印象を残す登場人物を描き、
その息遣いをリアルに感じさせながら
そこに現実社会の問題を映しこむ名匠で

「ロルナの祈り」(08年)とか「少年と自転車」(11年)とか
忘れられません。


毎回、根底には同じものがあっても
ちょっとずつ
「あ、今回は違うな」を思わせる監督でもあるんですが

本作の「あ、ちょっと違う」感は
いつもより大きかった。

背景には移民問題や貧困などがあるんだけれど
作りはけっこう、サスペンスなんですよね。


診療時間過ぎの午後8時過ぎにドアを叩いた少女を
入れなかった若い女医。


その後、少女が死んだと知った女医は、
「あのとき、ドアを開けていれば――」と
少女の名前と、その死の真相を知るために動き出すんです。

それまでは
医師としての姿勢はまっすぐでも
まあフツ―に大病院に就職して、いい給料をもらおうと
思っていたのに

なにが女医をそこまで駆り立てるのか。
罪悪感か? 残機の念か?


常に感情を抑えている女医の心を
とらえようとするのは、なかなか難しいんですが

でも、彼女が“医師として”というよりも
“人間として”の義務感や責任を、行動で表そうとしている、というのは
よ~くわかる。

そして、そんな彼女の姿は
凛として、とても美しいのです。


★4/8(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「午後8時の訪問者」公式サイト
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ぼくと魔法の言葉たち

2017-04-05 23:40:39 | は行

これもまた
事実は小説よりドラマチック、というか。


****************************


「ぼくと魔法の言葉たち」71点★★★★


****************************


2歳のときに自閉症を発症し
言葉を失い、周囲とのコミュニケーションが
できなくなってしまったオーウェン。

そんな彼が、言葉を取り戻したのは
なんと
ディズニーのアニメ―ションによってだった――!という
驚きの実話のドキュメンタリー。

アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にも
ノミネートされた作品です。

劇中にディズニーアニメも多く使われ、
音楽使いなど“盛り上げ”感が
ややディズニーっぽいかなあとも思いますが(笑)

いや、なんといっても
自閉症と、その家族や周囲の理解のために
貴重な記録&ケーススタディになるのでは、と思います。


オーウェンは撮影スタート時には、もう23歳で
大学を卒業して、社会に出ようというタイミング。

でも
映画には幼い頃の彼を映したホームムービーも使われていて
彼が、どういう経過を辿ったのかが、
よーくわかるようになっている。

それは、オーウェンのお父さんが
ピューリッツァー賞受賞のジャーナリストだった、ということが大きい。
息子に起こった事件を、賢明に捉えようとしたんだと思います。


で、小さいころから
ディズニーアニメ好きだったオーウェンが
なぜ、言葉を取り戻せたのか?

その秘密が映画に描かれていくんです。


自閉症の親御さんや、特別支援教室の取材をした経験からも
自閉症の子どもたちにとって「理解しにくい」部分を
ディズニーアニメが補ってくれるのだ、という解説は
納得できるものでした。

医師のコメントもあるんだけど
もっと科学的に調べれば、より「使える」手段になるだろうなとも思う。


まあこの映画の醍醐味はそこだけでなく
青年オーウェンの成長、自立や初恋
そして彼をめぐる家族ドラマがあったかい、ってところです。

ラスト、オーウェンのスピーチにも
グッときました。


先日来日した
ロジャー・ロス・ウィリアムズ監督に
インタビューをさせていただきました。

オーウェンになぜ、ディズニーのアニメーションが有効だったのか?
彼をどうやって自然に撮影したのか?

現在アップされている
通販生活web「今週の読み物」で読めますので
ぜひ映画と合わせてご一読ください~。


★4/8(土)からシネスイッチ銀座で公開。ほか全国順次公開。

「ぼくと魔法の言葉たち」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする