ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

LION/ライオン ~25年目のただいま~

2017-04-04 23:45:20 | ら行

これが実話だってのがスゴイ!


「LION/ライオン ~25年目のただいま~」78点★★★★


*****************************


1986年のインド。

5歳のサルー(サニー・パワール)はわんぱくざかりの少年。

ある夜、働きに行く兄にくっついて駅に行ったサルーは
睡魔にあらがえず
止まっていた列車のなかで寝てしまう。

が、サルーが目覚めたとき
列車は動き出していた。

しかも列車は回送列車で誰も乗っていない。

「兄ちゃーん!!助けて!」――
叫びもむなしく
サルーは遠く、知らない土地まで運ばれてしまう・・・。


*****************************


5歳のときにインドで迷子になり、
その後、オーストラリア人の夫妻の養子となった主人公サルーが
あのグーグルアースで
25年ぶりに自分の生まれた家を探し出した――!という
驚きの実話を映画化した作品。

アカデミー賞6部門ノミネートでも話題になりましたが
いやあ、いい映画です。
すがすがしく泣きました(笑)
かわいそう、とかでなく、主人公をめぐる人々の善意の清らかさに泣けた。


このドラマが実話というのもすごいんですが
映画としても彼が迷子になる、子ども時代の描写が分厚いのがとてもいい。

夜の無人駅でひとりぼっちになってしまったときの心細さ。

兄を探して名を呼び続け、街をさまよう様子は
まるっきり置きざれにされた子猫のようで
ハラハラするし、胸がギュッと掴まれます。


子どもの目線からの世界の見え方や
冒頭、汽車がトンネルを抜けるシーンなど
情感たっぷりの映像も見事。


彼が成人し、グーグルアースで家を探し出すまでが
かなり長いけど
いやあ、そうそう簡単にはいかなかったんだな、とも思う。

養子先の夫妻が、もう一人、彼の兄となる養子をもらい、
その兄がおそらく発達障害であろう――という難しい子どもだということも
ストーリーに厚みを出している。

「善意」を実行する夫妻の美学と現実のはざまに
グッときました。

エンドロールで明かされる事実にもびっくり。
運命は驚きに満ちて、ときに残酷です。


今週発売の「週刊朝日」
原作者でこの奇跡を体験したサル―・ブライアリー氏と
日本文学研究者のロバート・キャンベルさんの対談記事を書きました。

キャンベルさんは映画をみて、ものす~ごくサルー氏に会いたかったのだそう。
それはなぜか?驚きの事実が明らかに?!
ぜひご一読ください~

★4/7(金)から全国で公開。

「LION/ライオン ~25年目のただいま~」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ゴースト・イン・ザ・シェル

2017-04-03 23:26:48 | か行

80年代の「電脳」な雰囲気、バリバリ。


「ゴースト・イン・ザ・シェル」68点★★★☆


*********************************


近未来。

事故に遭い、脳以外は全身義体となった
少佐(スカーレット・ヨハンソン)は
公安9課に所属し、サーバー犯罪を取り締まっていた。

彼女が追うのは
他人の脳にハッキングして
自在に操作する謎のサイバーテロリスト。

だが、捜査を進めるうちに彼女は
自分の意識に、記憶にはない「バグ」が起こることを発見する。

自分の記憶は、本当に正しいのだろうか――?

迷いを感じ始めた彼女は
ある人物に出会う――。


*********************************


「攻殻機動隊」の実写版。

スカヨハ好きとして
まず彼女を見られるだけで満足。

そして
猥雑でジャンクで
けばけばしいネオンサイン溢れる街や
あの歌も踏襲され


ムードも世界観も
サイバーパンクのあの時代へ呼び戻されたような
最新映像なのに、どこか懐かしさを感じる不思議。

製作者たちの元ネタへの
並々ならぬリスペクトを感じます。


CGの見せ場は多いんですが
ただ話は監督自身が
「シンプルにした」というとおりで
ちょっと別のものかな、という感じ。


「攻殻~」を知っていても知らなくても
単品のSFとして
主人公の動機や、敵対関係などに
ちょっと物足りなさがあるんだなー。惜しい。


それに
スカヨハもここまでハダカでなくても・・・と
嬉しいんだか、困るんだか(笑)


でもバトーがとても雰囲気似てて
いい感じでした。

これだけで「イノセンス」も作れそう・・・とか
楽しみにしちゃうところもあり。結局、楽しいんですかね。


★4/7(金)から全国で公開。

「ゴースト・イン・ザ・シェル」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

はじまりへの旅

2017-04-01 15:19:11 | は行


ヴィゴ・モーテンセン、本作で
アカデミー賞主演男優賞ノミネート。


「はじまりへの旅」69点★★★☆


************************


アメリカ北西部の山の中。


哲学者ノーム・チョムスキーを信奉する
ベン(ヴィゴ・モーテンセン)は

現代文明に背を向け、
6人の子どもたちと自給自足の生活をしていた。

そんなある日、
街の病院に入院していたベンの妻が
亡くなったという知らせが入る。

ベンは山を下り、子どもたちを
葬儀に参列させようとするが――?!


************************


うわーこれは鑑賞後感が複雑。

ちょっとウェス・アンダーソンふうの
ユーモラスな雰囲気のポスターだけど、
いや全然、マジなんですよ(笑)


ヴィゴ・モーテンセン演じる父親は
山の中で子どもたちとコミューンを築いている。

そこでは彼が王であり、絶対のルール。
子どもたちは彼に獲物の仕留め方を教わり、体を鍛え、

古典文学や哲学を学び、
6カ国語をマスターしている。

そんな彼らが“世俗にまみれた”下界に降りてきて
ホットドッグに驚き、巨大スーパーに驚き
ブヨブヨな現代人を「この人たち、病気???」と本気で心配する(笑)

そんなギャップが生み出すの笑いや
ユーモラスも諸処あるんだけど

どうも
根っこにあるものマジさに、ちょっと考え込んでしまうですよね。

ワシはこの父親の志に、十分共感するほうだけど
やっぱりここまでくると「狂信的」と言わざるを得ない。

特殊な環境で育てられた子どもたちは
社会に適応できるのか?

大人になって生き方を選ぶのは勝手だけど、
子どもにそれしていいんだろうか?

マジメに考えてしまうし
たぶん、監督もそれをさせたいんだと思う。
決して「おちゃらけた」(っていうのもヘンか)話じゃないっていうか。


その人が信じるものを、誰が正しいと計るのか。
見る人を気持ちを動揺させるんです。


まあ
正しい、正しくない以前に
「人の価値観を押し付けるのはダメ」って
この父親も学んでいくんですけどね。

シャマラン監督の
「ヴィレッジ」をマジ方向に掘り下げるとこうなる、
みたいな気もしました。


★4/1(土)から公開中。

「はじまりへの旅」公式サイト
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする