goo blog サービス終了のお知らせ 

ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ダーク・シャドウ

2012-05-16 22:28:50 | た行

ジョニー・デップ×ティム・バートン監督と言われて
期待しない人がいるであろうか。(いや、いない)

「ダーク・シャドウ」69点★★★★


****************************

18世紀半ばの米・メイン州。
コリンズ家の御曹司バーナバス(ジョニー・デップ)は、
遊びで手を出したアンジェリーク(エヴァ・グリーン)の恨みを買い、

恋人(ベラ・ヒースコート)を亡くし、
自らもヴァンパイヤにされ、棺に閉じ込められてしまう。

そう、実はアンジェリークは
呪いを操る恐ろしい魔女だったのだ――。

そして1972年。

ひょんなことから200年の眠りから覚め、現代に蘇ったバーナバスは
子孫であるコリンズ家の当主(ミシェル・ファイファー)や
その娘(クロエ・グレース・モレッツ)らと出会い――?!

****************************


1966年から71年に全米で放映され
カルト的な人気を誇ったTVシリーズを映画化したそうです。

ドラマは見たことないんですが。

この映画のキモは
200年前から蘇ったゴシック調のジョニデが、
1970年代のサイケでヒッピーな文明に驚く
そのギャップ。


カーペンターズの平和でのんき~な音楽にのせて
文明に驚きまくるジョニデの挙動や
「おぬし…」的言葉使いがおかしかったり。

まあお侍さんが現代にタイムスリップしたり、
ローマ人がタイムスリップするのと構造は同じだけど(笑)
ネタとして、おもしろいですよね。

特にティーンエイジャーの娘(クロエ)との
噛み合わないやりとりは笑えます。

笑えるんだけど、
すごく正直に言いますと、
期待値ほどの笑いはなかった。

せめて笑いが
もう7割増しだったらよかったのになー。

ディズニーのホーンテッドマンションを
イメージさせるシーンなど

かなり大衆的な大がかりっ気がある分、
ダーク&ビターっぽい感覚がないというか。

話のほうも
ちょい風呂敷を畳むのに苦労した感がありました。


ただ驚いたのは、ミシェル・ファイファー。

めちゃくちゃティム的ゴシック世界にハマっていて
よかったです。

常連ヘレナ・ボナム=カーターも顔負けなほどでしたよ、ハイ。


★5/19(土)から全国で公開。

「ダーク・シャドウ」公式サイト
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ファミリー・ツリー

2012-05-14 23:44:34 | は行

アカデミー賞5部門ノミネートで
脚色賞受賞の話題作です。

「ファミリー・ツリー」75点★★★★

*******************************

ハワイ・オアフ島に暮らす
弁護士のマット(ジョージ・クルーニー)。

人もうらやむ楽園暮らしをしているかといえば、
ちょっとシビアな状況にいた。

妻が海の事故に遭い、昏睡状態。

いままで家庭を顧みなかった彼は、
高校生の娘(シャイリーン・ウッォリー)と
10歳のスコッティ(アマラ・ミラー)に
どう接したらよいかもわからない。

さらに先祖代々から受け継いだ土地を
売却するかどうかの、重大な決定を迫られてもいた。

そんななか、妻のある秘密があきらかになり――?!

********************************


飛び抜けて良作というわけではないですが、
気持ちがゆったり、気分よくなるような感覚。

それが
「サイドウェイ」(04年)でもやはりアカデミー賞脚色賞に輝いた
アレクサンダー・ペイン監督の持ち味というか。

この監督はどうも
ストーリーにものすごく“舞台”が重要なタイプらしい。
(前作では、ナパ・バレーとかね)

で、中身のほうは一定以上のクオリティがあるんだけど、
悪く言えばあっさりしすぎ

よく言えば大げさでない、
平坦な多幸感をいつも描くんですよね。


本作は
素材はありがちな家族再生物語なんだけど、
舞台がハワイだということは大きく、

重苦しくシリアスな問題にも
どこか慌てず騒がず、のんびりしたゆったり感と
おおらかさやユーモアがあって、そこがいい。

ジョージ・クルーニーも、
かなり弛んだ“人のよいおやじさん”を
ゆとりを持って演じていました。

走り方がなんかコミカルでおかしかったり、
ああ、らしいなあと。

どこか冷めた高校生の娘がいいキャラだしね。

楽園暮らしもラクじゃない。
けれど、豊かな自然の悠久の時のなかで、
確実に代々受け継がれていくものってあるんだなあと
感じさせてくれました。


★5/18(金)から全国で公開。

「ファミリー・ツリー」公式サイト
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

隣る人

2012-05-13 22:35:15 | た行

隣(とな)る、と読みます。

「隣る人」60点★★★


埼玉にある児童養護施設に
8年間、カメラを向けたドキュメンタリー。

施設には親と暮らせない事情を持つ
約40人の子どもたちと
彼らの親代りであるスタッフ約20人が住んでいる。

スタッフは毎朝、大勢のためのごはんを作り、
学校に送り出し、放課後は宿題をみてやり、
また夕ごはんを作る。

こういう施設内部の日常生活は
普段、我々がほとんど見る機会のないものであり、
珍しく、興味深いものです。

さらに
カメラは数人の子と、その担当者に寄っていき、
子どもたちの事情や背景が少しだけ語られたりもする。

異動になる担当者との別れを嫌がり
「もう捨てられたくない」とばかりに慟哭する子の姿には、
その心をおもんばかり、
あるいは深読みをし、心を痛めてしまいます。


しかし実際のところ
「もう捨てられたくないとばかりに」とは
あくまでもこちらの想像にすぎず、

そこまで映画では、
突っ込んで語られることはない。

全編、静かに状況を映すのみなので、
過剰な演出やドラマチックは存在しないのです。


それはいいんだけど、
見ながらちょっと違和感があったのは

あまりに事情が語られないと、
内部で事情を分かっている人たちだけの
「内輪ウケ」感が否めないという点。


8年間もの取材のなかで
監督が施設や子どもたちに寄り添い、
まさに「隣る人」になったのかなあと感じてしまいました。


さらに85分はあまりに短すぎて、
「え?これで終わり?」(苦笑)

例えばダルデンヌ兄弟の「少年と自転車」で
少年を受け入れる女性サマンサも
こうした“隣る人”であるわけで、


非常に意義あるテーマだっただけに、
あえて辛い評になったのもありますが、

一般公開映画とするには
もう少し精度を高めるべきではと思いました。


★5/12からポレポレ東中野ほか全国順次公開。

「隣る人」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

さあ帰ろう、ペダルをこいで

2012-05-12 15:06:51 | さ行

年間映画制作数7~8本という
ブルガリア発の映画です。

「さあ帰ろう、ペダルをこいで」68点★★★☆

*************************

両親とブルガリアからドイツに亡命した
青年アレックス(カルロ・リューベック)は、
ドイツで事故に遭い、記憶を失ってしまう。

ブルガリアに住む祖父
バイ・ダン(ミキ・マノイロヴィッチ)は、
アレックスを見舞いにやってくる。

数十年ぶりに会う孫が、事故とは関係なく
どうにも無気力さを漂わせていることを懸念したバイ・ダンは

孫を連れて自転車で、ブルガリアに帰ることにする。

そしてアレックスの
記憶と自分を取り戻す長い旅が始まった――。

*************************


正統派といえばそうで、
しかし不思議なリズムも併せ持つ作品でした。

宣伝素材は明るい印象だけど
映画はそれほど「まっ晴れ」じゃなくて
常にどこかに哀愁を感じさせる。

アレックスの記憶の旅とともに、
観客は彼の祖父や父が苦しめられた、
共産党政権下のブルガリアを知ることになり、

物悲しさの理由は、
そのつらい歴史背景にあるのだと
見ているうちにわかってきます。

見終わった後、ブルガリアについて
ちょっと勉強したくなるかも。


そしてこの映画のみどころは
魅力的な祖父バイ・ダン。

どこか受け身で曖昧な主人公と対照的に、
彼は徹底的に「体制然」としたものに対し懐疑的で
その反骨精神がカッコイイ(笑)

孫の病院の医師にも反発しちゃうしね。
映画の重要な小道具であるバックギャモンの名人でもあり。

彼の吸引力が結局、無気力な孫をも動かしていくんですが
その原動力もまた、歴史背景に
深く根ざしていることがわかってくるわけです。

と、まあ
なかなか魅力ある映画なんですが、

回想シーンがけっこう細かく挟まって、
見ずらいほどではないけど、構成がやや単調。

記憶を無くす前の過去の回想シーンは
オレンジ色のトーンで(これがなかなか美しい)、
現在の描写はブルーと色みで分かれているんですけどね。

そういう技や、小道具に走っている感があるので
もうちょっとシンプルに
メッセージを伝えてもよいんじゃなかろうかと思いました。


★5/12(金)からシネマート新宿ほか全国順次公開

「さあ帰ろう、ペダルをこいで」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

この空の花 ―長岡花火物語

2012-05-11 23:53:59 | か行

160分の長尺だけど、やられたなあと感服。

「この空の花 ―長岡花火物語」71点★★★★


74歳の大林宣彦監督、久々の新作です。

*************************

2011年、夏。

天草の地方記者・玲子(松雪泰子)は
昔の恋人で高校教師の片山(高嶋政宏)から手紙をもらい
一人、新潟県長岡市にやってくる。

手紙には
教え子の花(猪股南)が書いた
「まだ戦争には間に合う」という芝居と、
長岡の花火を見に来て欲しいと書いてあった。


その花火はかつて長岡を焼き尽くした空襲で亡くなった人々を
追悼する鎮魂の花火でもあった。

そして玲子は長岡で
伝説の花火師(柄本明)や、
戦争体験を語り継ぐ老婦人(富司純子)などと出会い、

また時空を超えて
生々しい空襲の風景に触れることになる――。

*************************


長岡市の花火を軸に、
震災と戦争をつなげる壮大な構想の160分。

最初はやたらセリフが早口で、
妙に説明的でテンポの速い、謎のワールドに戸惑ったけど、

現在と過去、現実と仮想を行き来する構成には
ファンタジーほど儚くない、独特の幻想性があって、
次第に引き込まれていく。

ラストは疲労感でなく
清々しい気持ちが花火の残像のようにしんなり広がりました。


激しい空襲で被害を受け、
さらに中越地震、そして3.11を経験した長岡市の
壮大な郷土史であり、
退屈させない戦争話であり、

ひとつの市をクローズアップした
究極のご当地映画でありながら、

しかし日本全体のムードである「復興」につながる答えを探す
映像作品として立脚している。


よくこれだけのものを組み立て、映画に構築したなあと
感服いたしました。


疾走する一輪車のイメージが
目に焼きつくんだよなあ。


★5/12(土)から全国で公開(新潟県内では4/7から公開中)

「この空の花 ―長岡花火物語」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする