どこに行っても、どこで撮っても
岩井俊二は岩井俊二。
ある意味、さすがだ。
「ヴァンパイア」69点★★★★
************************
舞台はカナダ。
男(ケヴィン・セガーズ)が、
初対面の女性(ケイシャ・キャッスル=ヒューズ)と待ち合わせをしている。
二人はネット上で知り合い、
ともに死ぬ場所を探しているらしい。
見栄え悪く死にたくない、と言う女性に
男は静かに提案する。
「全身の血を抜くという方法があるよ」――。
そして、女性は死に、
男だけが生き残る。
ビンに溜まった大量の血液とともに――。
************************
岩井俊二監督、なんと8年ぶりの長編劇映画。
カナダを舞台に、全編英語で、
外国人俳優を使って撮っています。
お話は
インターネットの自殺サイトで自殺志願者を募り、
彼らから血を頂いて生きながらえている
現代のヴァンパイアの悲哀
そして死を望む若者たちの悲哀を描いているんですが、
まあ全編を覆うこの刹那、このリリシズム!
完璧に切り取られた構図、
柔らかい映像、優しいピアノ曲。
死に憧れる少女たちの最期まで完璧に白く“純潔”なイメージ・・・と、
場所が変わっても、言語が変わっても
その一貫性が揺るがない、というのがすごいなあと思いました。
言ってみれば少女小説のようなものなんですよね。
例えば若い時代の自分に
「スワロウテイル」がガツンとヒットしたように
この映画も若い世代の心には、かなりヒットしそう。
しかし、もう私には青々としすぎました(笑)
もう遠くなってしまった、
昔の自分の“欠片”を見るような
そんな気持ちになった(笑)
わかるんだけど、自分にはハマらない、というのかな。
雰囲気に流されてずーっときて、
ようやくある女性(ミシェル・ウィリアムズふうの可愛い娘)の
死にたい動機が明らかになる後半で、
やっと物語が立ち上がって来て、いい感じになってくる、という。
なんにせよ
死のうとする人々にとって
死の前の一瞬の出会いとか、
死ぬ前に処理するべき些末な日常――
コーヒーや食事をどうしようとか、
飼っていた鳥をどうするかとか、
そういったものすべてに
現在進行形の“生”のリアリティがあるのに、
それらはしかし容易に
未来の“生”につながることはないんだなあと
切なさは残りました。
★9/15(土)からシネマライズほか全国順次公開。
「ヴァンパイア」公式サイト