「藤井-豊島戦を観て、感じたこと その1」
「藤井-豊島戦を観て、感じたこと その2」
の続き
王位戦第2局(藤井王位の逆転勝ち)以後、王位戦第2局、叡王戦第1局も藤井王位・棋聖が競り勝った。豊島竜王・叡王が有望な局面もあったが、中盤(終盤の入り口)以降は徐々に優勢を拡大していった。大雑把に見ると藤井二冠の快勝と言える。このまま、藤井二冠が圧倒するのか、豊島竜王(叡王)が踏みとどまるのか?……状況
叡王戦 第2局
本局を迎えた時点で、対戦成績は豊島7勝、藤井4勝。
後手の藤井二冠が飛車を4筋に転回したのに対し、豊島叡王が好所の角打ちで対抗。形勢は拮抗。第1図では先手の左銀が押し込まれ壁銀になっており、図の△5五銀左も迫力十分で大丈夫かと思ったが、以下▲5五同銀△同銀▲4七歩と収まってみると、後手も5三の薄みが気になる。居玉に4二飛の接近形だ。
ところが、金で馬を押し返そうとした手に対し(第2図)、▲6五馬と馬角交換を甘受した手が良くなかったようで、形勢は藤井二冠に傾いた。豊島叡王はその後の5三に狙いをつける▲2六角に期待したのかもしれないが、第3図の△2七金で取られる(角金交換)ことになってしまった。
その後、苦しい形勢が続いたが、第4図の▲5四銀が渾身の勝負手。
「ちょっとダメかなと思ったんですけど、ほかにやりようがない」と豊島叡王の局後の言葉だったが、その数手後、藤井二冠が△8八と▲5五飛と銀を取り合ったのが急ぎ過ぎ、さらに、第5図の△6九銀も追い過ぎで、形勢が接近した。勝負手が奏功した。
とは言え、まだ藤井二冠が若干リードを保ち、最終盤に。
第6図、5五で龍飛の交換が行われ、手番は藤井二冠。
ここで金を取った△7八とが当然に見えて、疑問手。金ではなく桂を取るべきだった(らしい)。
本譜の△7八とも△8九とも、以下▲4三歩△同金▲2二飛(第7図)と進むが、▲2二飛が後手玉への詰めろになっていない(と言う)。
【以下、中継棋譜解説より引用】
藤井が「これが詰めろじゃないってことですか」と目を丸くしながら☖2六桂と打つ。以下☗2七玉☖3八桂成のときに☗3二銀から危ないが、☖5二玉☗4三銀成☖6一玉☗5二成銀☖7二玉で上に抜けている。【引用終】
(第7図は実戦の局面だが、上記の藤井君の“これ”の局面は《△7八とに替えて△8九と》、《持駒が金→桂》)
実戦は7図以下、△3二角▲5二銀△3一玉▲3二飛成△同玉▲4一角△4二玉▲4三銀不成△同玉▲4四歩△4二玉▲5二金△3一玉▲4三歩成で後手玉は受けなしとなった。
評価値は「先手勝勢」……「勝ち」と断言できるほどの数値を示しており、先手玉には詰みはない。
と言っても、それはAIが言っているだけ。
………これ、評価値表示がなかったら、一体どれだけの人間が「後手勝勢」と判断できるのだろうか?
………評価値表示がなかったら、多くの観戦者は、ハラハラドキドキして観ていたのではないだろうか?
実際、▲4三歩成以下、△1六飛▲2八玉△2六飛打▲2七歩△3七銀(第8図)と迫られ、相当危険な匂いが……以下、図面のみ(手順省略)。
豊島叡王の勝負手が奏功し、何とか踏みとどまった。
叡王戦 第4局
上記の叡王戦第2局以降は、藤井二冠が叡王戦第3局、王位戦第4局と連勝。
本局を迎えた時点で、対戦成績は豊島8勝、藤井6勝。
図は後手の藤井二冠が△9三桂と端に桂馬を跳ねた局面。
最近では珍しくなくなった端桂だが、本局に関しては良くなかったようだ。(△3五歩と指すべきだったらしい)
△9三桂に対し、豊島叡王は▲8六歩と桂跳ねを拒否。ならばと、藤井二冠は△8五歩と歩を合わせる。
ここで、▲7九金が用意周到の手。
△9三桂は▲8五歩△同桂▲8六飛と進んだ時に△7七桂成と大捌きをするのが狙いで、部分的手筋と言って良い。△7七桂成には、▲8四飛と飛車を抜かれる手があるが、△7八成桂で2枚替えとなり、後手が良い。▲7九金はこの変化の時、金を取られなくしている。
豊島叡王はこの▲7九金に3分しか消費していない。この手を含めて、通計21分なので、研究範囲なのだろう。まさに、用意周到の一着だ。
この手に対し、藤井二冠は24分考えて△8六歩。そして、▲8五歩(第13図)に
△4四飛と辛抱。以下▲8六飛に△7一金と更なる辛抱。▲8二角を防いだ手だが、辛い手だ。
以下は豊島叡王の完勝となった。
印象に残ったのは、第14図の▲8八角。
直前の△7六桂(6八の金取りと▲8八龍の飛車取りを防いでいる)に対し、その桂の利きに角を打ったのだ。
通常は5五や7七から飛車取りに角を打つところだろう。何もわざわざ桂の利きに打たなくてもと思うのだが、△7九飛成と切られた時に▲同玉で下段に落とされる形を嫌ったという。
藤井二冠も角を取らず△6八桂成と銀を取る。角を取ると▲8八同龍で後手の飛車が助からない(後手玉は飛車には弱い)。
△6八桂成に▲同玉で、結局、後手の飛車は△7九飛成と切ることとなり、先手は▲7九同角で下段玉を避けて飛車を手にすることができた。
王位戦(豊島の1勝3敗)、叡王戦(2勝2敗)と番勝負の流れは藤井二冠にあるが、この完勝は大きいかもしれないと思ったが……
「その4」に続く
「藤井-豊島戦を観て、感じたこと その2」
の続き
王位戦第2局(藤井王位の逆転勝ち)以後、王位戦第2局、叡王戦第1局も藤井王位・棋聖が競り勝った。豊島竜王・叡王が有望な局面もあったが、中盤(終盤の入り口)以降は徐々に優勢を拡大していった。大雑把に見ると藤井二冠の快勝と言える。このまま、藤井二冠が圧倒するのか、豊島竜王(叡王)が踏みとどまるのか?……状況
叡王戦 第2局
本局を迎えた時点で、対戦成績は豊島7勝、藤井4勝。
後手の藤井二冠が飛車を4筋に転回したのに対し、豊島叡王が好所の角打ちで対抗。形勢は拮抗。第1図では先手の左銀が押し込まれ壁銀になっており、図の△5五銀左も迫力十分で大丈夫かと思ったが、以下▲5五同銀△同銀▲4七歩と収まってみると、後手も5三の薄みが気になる。居玉に4二飛の接近形だ。
ところが、金で馬を押し返そうとした手に対し(第2図)、▲6五馬と馬角交換を甘受した手が良くなかったようで、形勢は藤井二冠に傾いた。豊島叡王はその後の5三に狙いをつける▲2六角に期待したのかもしれないが、第3図の△2七金で取られる(角金交換)ことになってしまった。
その後、苦しい形勢が続いたが、第4図の▲5四銀が渾身の勝負手。
「ちょっとダメかなと思ったんですけど、ほかにやりようがない」と豊島叡王の局後の言葉だったが、その数手後、藤井二冠が△8八と▲5五飛と銀を取り合ったのが急ぎ過ぎ、さらに、第5図の△6九銀も追い過ぎで、形勢が接近した。勝負手が奏功した。
とは言え、まだ藤井二冠が若干リードを保ち、最終盤に。
第6図、5五で龍飛の交換が行われ、手番は藤井二冠。
ここで金を取った△7八とが当然に見えて、疑問手。金ではなく桂を取るべきだった(らしい)。
本譜の△7八とも△8九とも、以下▲4三歩△同金▲2二飛(第7図)と進むが、▲2二飛が後手玉への詰めろになっていない(と言う)。
【以下、中継棋譜解説より引用】
藤井が「これが詰めろじゃないってことですか」と目を丸くしながら☖2六桂と打つ。以下☗2七玉☖3八桂成のときに☗3二銀から危ないが、☖5二玉☗4三銀成☖6一玉☗5二成銀☖7二玉で上に抜けている。【引用終】
(第7図は実戦の局面だが、上記の藤井君の“これ”の局面は《△7八とに替えて△8九と》、《持駒が金→桂》)
実戦は7図以下、△3二角▲5二銀△3一玉▲3二飛成△同玉▲4一角△4二玉▲4三銀不成△同玉▲4四歩△4二玉▲5二金△3一玉▲4三歩成で後手玉は受けなしとなった。
評価値は「先手勝勢」……「勝ち」と断言できるほどの数値を示しており、先手玉には詰みはない。
と言っても、それはAIが言っているだけ。
………これ、評価値表示がなかったら、一体どれだけの人間が「後手勝勢」と判断できるのだろうか?
………評価値表示がなかったら、多くの観戦者は、ハラハラドキドキして観ていたのではないだろうか?
実際、▲4三歩成以下、△1六飛▲2八玉△2六飛打▲2七歩△3七銀(第8図)と迫られ、相当危険な匂いが……以下、図面のみ(手順省略)。
豊島叡王の勝負手が奏功し、何とか踏みとどまった。
叡王戦 第4局
上記の叡王戦第2局以降は、藤井二冠が叡王戦第3局、王位戦第4局と連勝。
本局を迎えた時点で、対戦成績は豊島8勝、藤井6勝。
図は後手の藤井二冠が△9三桂と端に桂馬を跳ねた局面。
最近では珍しくなくなった端桂だが、本局に関しては良くなかったようだ。(△3五歩と指すべきだったらしい)
△9三桂に対し、豊島叡王は▲8六歩と桂跳ねを拒否。ならばと、藤井二冠は△8五歩と歩を合わせる。
ここで、▲7九金が用意周到の手。
△9三桂は▲8五歩△同桂▲8六飛と進んだ時に△7七桂成と大捌きをするのが狙いで、部分的手筋と言って良い。△7七桂成には、▲8四飛と飛車を抜かれる手があるが、△7八成桂で2枚替えとなり、後手が良い。▲7九金はこの変化の時、金を取られなくしている。
豊島叡王はこの▲7九金に3分しか消費していない。この手を含めて、通計21分なので、研究範囲なのだろう。まさに、用意周到の一着だ。
この手に対し、藤井二冠は24分考えて△8六歩。そして、▲8五歩(第13図)に
△4四飛と辛抱。以下▲8六飛に△7一金と更なる辛抱。▲8二角を防いだ手だが、辛い手だ。
以下は豊島叡王の完勝となった。
印象に残ったのは、第14図の▲8八角。
直前の△7六桂(6八の金取りと▲8八龍の飛車取りを防いでいる)に対し、その桂の利きに角を打ったのだ。
通常は5五や7七から飛車取りに角を打つところだろう。何もわざわざ桂の利きに打たなくてもと思うのだが、△7九飛成と切られた時に▲同玉で下段に落とされる形を嫌ったという。
藤井二冠も角を取らず△6八桂成と銀を取る。角を取ると▲8八同龍で後手の飛車が助からない(後手玉は飛車には弱い)。
△6八桂成に▲同玉で、結局、後手の飛車は△7九飛成と切ることとなり、先手は▲7九同角で下段玉を避けて飛車を手にすることができた。
王位戦(豊島の1勝3敗)、叡王戦(2勝2敗)と番勝負の流れは藤井二冠にあるが、この完勝は大きいかもしれないと思ったが……
「その4」に続く
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