“夕食休憩を挟んでの長考はロクなことがない”
羽生九段の将棋を観戦していて、常々感じる実感である。
中盤の入り口で、羽生九段の4七の“と金”が残る展開となり、羽生九段が優勢となった。見た目的に“と金”の存在が大きく、《これはいけそう》《楽勝か?》とウキウキ状態だった。
その後も羽生九段優勢で推移し、午後5時16分に千田九段の39手目▲8二歩が指された。桂取りだが、この手を放置して攻め合う手や△8二同飛と応じる手など4手ぐらい候補手があったが、どれも羽生九段に利がありそう。
夕食休憩まで44分で、羽生九段の残り時間は3時間5分あり(千田七段は2時間20分)、候補手も多いことから、夕休までは指さないだろうと思った。普通は腰を落として勝利に近づく一着を読み切る……となるのだが、私は嫌な予感しかしなかった。これまで、形勢嘉の局面から夕食休憩を挟んでの長考後の一着は、疑問手や悪手が多く、形勢をおかしくして、敗局というパターンを何度も観てきたからだ。
休憩再開後もしばらく考えるかなと思ったが、再開直後、△8二同銀。“ない手”ではないが、玉の守りに利いていた銀をソッポに行かせる手で、所謂(いわゆる)“利かされた手”だ。正直、《この手はないだろう》と思っていた手だ。実際、形勢は互角になったようだ。
△8二同銀に▲5五飛とされ、居玉の後手玉に対し、”5三の成桂+5五の飛車”が大きな脅威となった。飛車の利きを緩和する△5二歩に対し、千田七段は▲7二角!…タダだが、△7二同金と取ると▲5二成桂の一手詰。総攻撃を受け、一気に危機の後手玉(形勢は互角)。
▲5五飛と指されて、羽生九段は△5二歩に20分考えている。▲5五飛は自然の指し手なので、ここで改めて20分考えるのはおかしい。夕食休憩前の44分+休憩時間(夕食を摂るとは言え40分の間がある)なら、▲5五飛は想定していたはず。何か、誤算があったのだろうか?
ここで20分考えるのなら、《対局再開後も読みを入れろよ》と勝手なことを考えていた。
この後も難解な攻防が続いたが、午後11時5分、羽生九段の投了となった。
残念だったのは、終盤▲6二金と打たれた局面。(部分図です)
△6二同玉は▲6二同龍の一手詰なので、△8二玉か△8三玉しかなく、選択か難しい。
『△8二玉は▲7一金から▲6二竜の王手が生じる。△8三玉は▲7一金から▲6四竜が詰めろ(△6四同歩に▲8四飛△9二玉▲8一飛成まで)』【名人戦棋譜速報・解説より】
羽生九段、△8三玉。
第一感は△8三玉だが、この手で敗勢に。
△8三玉に▲7一金と進む。この局面は後手玉に詰めろは掛かっていないが、▲6四竜(←王手ではない)△同歩▲8四飛△9二玉▲8一飛成の詰みがある。肝心なのは、《銀を使わなくとも後手玉が詰む》こと。なので、後手からの△3六角などの攻めに対して、銀を使って受けることができる。
対して、△8二玉なら後手玉を詰ますには銀が必要で、△3六角とされた時に銀を使ってしまうと、後手玉を詰ますのが遠くなってしまう。
おそらく、△8二玉でも少し後手が苦しい気がするが、2分で△8三玉と指したのは浅慮と言わざるを得ない(54分残っていた)。
これで、順位戦は4勝6敗となった。ランキングが1位なので、成績は8位。下位には4勝6敗の屋敷九段(ランク4位)、横山七段(8位)、久保九段(10位)、3勝8敗の丸山九段(13位)、2勝8敗の郷田九段(7位)がいる。(丸山九段の降級は決定、ランク7位の郷田九段は残り2局に勝てば、横山七段(8位)、久保九段(10位)が連敗した場合、二人の上位になる)
とは言え、勝ち星1つですぐ逆転してしまうので、“首筋が涼しい”状況。次戦の横山七段に勝てば残留が決定するが、負けるとかなり“寒く”なる。残り2局に連敗しても残留の目はあるが、次局に敗れた場合、最終局は勝たないと陥落してしまう可能性が高い。
最終局云々より、次局に勝利して安心したい。
温泉気分だったのに……夕食休憩を挟んでの長考(夕食前の長考)はロクなことがない……
羽生九段の将棋を観戦していて、常々感じる実感である。
中盤の入り口で、羽生九段の4七の“と金”が残る展開となり、羽生九段が優勢となった。見た目的に“と金”の存在が大きく、《これはいけそう》《楽勝か?》とウキウキ状態だった。
その後も羽生九段優勢で推移し、午後5時16分に千田九段の39手目▲8二歩が指された。桂取りだが、この手を放置して攻め合う手や△8二同飛と応じる手など4手ぐらい候補手があったが、どれも羽生九段に利がありそう。
夕食休憩まで44分で、羽生九段の残り時間は3時間5分あり(千田七段は2時間20分)、候補手も多いことから、夕休までは指さないだろうと思った。普通は腰を落として勝利に近づく一着を読み切る……となるのだが、私は嫌な予感しかしなかった。これまで、形勢嘉の局面から夕食休憩を挟んでの長考後の一着は、疑問手や悪手が多く、形勢をおかしくして、敗局というパターンを何度も観てきたからだ。
休憩再開後もしばらく考えるかなと思ったが、再開直後、△8二同銀。“ない手”ではないが、玉の守りに利いていた銀をソッポに行かせる手で、所謂(いわゆる)“利かされた手”だ。正直、《この手はないだろう》と思っていた手だ。実際、形勢は互角になったようだ。
△8二同銀に▲5五飛とされ、居玉の後手玉に対し、”5三の成桂+5五の飛車”が大きな脅威となった。飛車の利きを緩和する△5二歩に対し、千田七段は▲7二角!…タダだが、△7二同金と取ると▲5二成桂の一手詰。総攻撃を受け、一気に危機の後手玉(形勢は互角)。
▲5五飛と指されて、羽生九段は△5二歩に20分考えている。▲5五飛は自然の指し手なので、ここで改めて20分考えるのはおかしい。夕食休憩前の44分+休憩時間(夕食を摂るとは言え40分の間がある)なら、▲5五飛は想定していたはず。何か、誤算があったのだろうか?
ここで20分考えるのなら、《対局再開後も読みを入れろよ》と勝手なことを考えていた。
この後も難解な攻防が続いたが、午後11時5分、羽生九段の投了となった。
残念だったのは、終盤▲6二金と打たれた局面。(部分図です)
△6二同玉は▲6二同龍の一手詰なので、△8二玉か△8三玉しかなく、選択か難しい。
『△8二玉は▲7一金から▲6二竜の王手が生じる。△8三玉は▲7一金から▲6四竜が詰めろ(△6四同歩に▲8四飛△9二玉▲8一飛成まで)』【名人戦棋譜速報・解説より】
羽生九段、△8三玉。
第一感は△8三玉だが、この手で敗勢に。
△8三玉に▲7一金と進む。この局面は後手玉に詰めろは掛かっていないが、▲6四竜(←王手ではない)△同歩▲8四飛△9二玉▲8一飛成の詰みがある。肝心なのは、《銀を使わなくとも後手玉が詰む》こと。なので、後手からの△3六角などの攻めに対して、銀を使って受けることができる。
対して、△8二玉なら後手玉を詰ますには銀が必要で、△3六角とされた時に銀を使ってしまうと、後手玉を詰ますのが遠くなってしまう。
おそらく、△8二玉でも少し後手が苦しい気がするが、2分で△8三玉と指したのは浅慮と言わざるを得ない(54分残っていた)。
これで、順位戦は4勝6敗となった。ランキングが1位なので、成績は8位。下位には4勝6敗の屋敷九段(ランク4位)、横山七段(8位)、久保九段(10位)、3勝8敗の丸山九段(13位)、2勝8敗の郷田九段(7位)がいる。(丸山九段の降級は決定、ランク7位の郷田九段は残り2局に勝てば、横山七段(8位)、久保九段(10位)が連敗した場合、二人の上位になる)
とは言え、勝ち星1つですぐ逆転してしまうので、“首筋が涼しい”状況。次戦の横山七段に勝てば残留が決定するが、負けるとかなり“寒く”なる。残り2局に連敗しても残留の目はあるが、次局に敗れた場合、最終局は勝たないと陥落してしまう可能性が高い。
最終局云々より、次局に勝利して安心したい。
温泉気分だったのに……夕食休憩を挟んでの長考(夕食前の長考)はロクなことがない……
▲8二歩に対しては、△8二同飛や△4四角や△5七とや△5二歩などがあり、悩ましいところでした。実際、この4手なら優勢を維持できたはずです。
>飛車で取ると何かマズいことがあったのでしょうか?
△8二同飛には▲6五角と打つ筋が嫌味に見えたのでしょう。手順の組み立ては難しいのですが、▲8三歩△同飛▲6五角や単に△6五角や、▲6五角を含みに▲6三ととしておく手もあります。ただ、
▲6五角と打つ手には△7四角と打ち返す手があって、後手が良いと思っていました。
>銀で歩を取った手は、ヘボの私には"遊び心"ではなく"衰え"にしか思われませんでした。
衰えと言うか、大局観、将棋の方向感覚がズレてきているように感じています。AI将棋による自身の指し手に自信が持てず、揺らいでしまっている気がします。(本当は、ブログの記事「羽生将棋事情」で書こうと思っていた事項ですが)
>テレ朝系の"報道ステーション"という番組で羽生さんとキャスターとの対談がありました。
>勝負にこだわるならAIの示す手をとにかく覚えればよいのかも。でも、それでは自分の思考力で描く世界(宇宙)ではないので、納得できないのでしょうね。
これ、途中から観ました。(聞き手のキャスターは、羽生九段の言うことの3割ぐらいしか理解していないと感じました。まあ、私も8割ぐらいしか理解できていないのでしょうけれど←“8割も理解しているのか”という突っ込みはなしね)
AIに教えられた手を指すは、「将棋を指す」とは言えませんよね。
>でも、それでは勝てない。羽生さんは衰えるし、若手はAIを活用して勝てる手を研究しているから。
現在の羽生九段が衰えもあるかもしれませんが、方向感覚が狂っている要因のほうが大きいので、これを修正すべきだと思います。
実際、王将リーグは強かったですし。
最後にひとつだけ
夕食休憩前の(夕休を挟んでの)長考は控えていただきたいです。
私は、(程度は難しいのですが)AIを活用しつつ、羽生九段の将棋を貫けばいいと思っています。
今は、AIの力を借りて羽生九段に勝っている棋士も、AIに依存していると、自力での思考力が低下して、結果的に弱くなると考えます。
私も見てましたよ。私の場合、将棋は初級者ですし、ほぼ"見る将"なので、指し手に関する難しいことは分かりません。解説者やAIの候補手を見ながら勝手なことを言うだけですが、あの場面、歩を取るなら"飛車で取る"としか思いませんでした。銀で取ったときは、まさに"えっ!"っと驚きました。歩を取るとして、飛車で取ると何かマズいことがあったのでしょうか?シロウト考えですが、飛車で取る方が、銀の守りの利きも維持できるし、飛車も8筋の攻めも維持しながら2段目の守りにも効くし、でマズいとは思われないのですが、、、。
ここからは戯言です。全盛期の羽生さんは"勝ち負け"というより、よく言えば"探求心"、悪く言うと"遊び心"で指し手を選ぶような感じを受けていました。「勝つだけなら、こう指せば勝てるんだけど、負けてもいいから、こっちの手を指してみようかな」というような感じです。でも、銀で歩を取った手は、ヘボの私には"遊び心"ではなく"衰え"にしか思われませんでした。
きっと英さんもご覧になったと思いますが、テレ朝系の"報道ステーション"という番組で羽生さんとキャスターとの対談がありました。その中で、あくまで私の受け取り方ですが、羽生さんがAIの活用について語っていた内容は「らしいな」と思いました。勝負にこだわるならAIの示す手をとにかく覚えればよいのかも。でも、それでは自分の思考力で描く世界(宇宙)ではないので、納得できないのでしょうね。でも、それでは勝てない。羽生さんは衰えるし、若手はAIを活用して勝てる手を研究しているから。
羽生さんは今でも十分強いです。でも、もっと凄かった時代を知っているから、"タイトル通算100期"などと期待しすぎてしまうのでしょう。羽生ファンなら、羽生さんが思うように指すのを見守り、勝とうが負けようが応援しないといけませんね。