低温研に赴任して半年くらい経った頃でしょうか、共同研究を行ったことのある研究者の一人から「低温研の思い出」と題するメールをいただきました。
そのH先生、学生時代に北海道旅行をなさったとのこと(1965年夏)。中谷宇吉郎博士の雪の研究に魅せられて、ぶらっと低温研に入り込みました。所内をふらふらしていたら、吉田と言う研究者に見つかったと言うのです。事情を彼に説明すると、マイナス26℃低温室に案内してくれたとのこと。たまたま防寒具がなく、ぼろシャツのまま低温室にはいると、一瞬にして体が冷凍状態になったとメールには記されています。さらに、幸運にも雪の結晶形成の簡単な実験をデモしてもらったとのことです。凍えながら顕微鏡を覗いているH先生の感激した姿を想像すると、何だか微笑ましくなります。
H先生にとっては、憧れの人工雪実験装置を低温室で実際に見たと言う記憶が今でも鮮明に残っているとのことです。今日東京で、再びH先生にお会いして、共同研究の今後の展開を議論している最中にも、この話題が出ました。そのH先生、この3月に現在勤務している大学を去るとのことです。
そういえば、低温研に赴任したばかりの最初の日曜日のこと。モデルバーンにそった低温研への白樺並木を歩いていると、70歳を過ぎたおばあさんが4歳くらいのお孫さんを引き連れて散歩しておられました。そのおばあさんが、『低温科学研究所』の看板を見ると、「○○ちゃん、中谷博士の低温室だよ。ちょっと見て行こうかねえ。」と。
ふらっと研究所に訪問してくれる一般の方にも、できるだけ丁寧に対応したいと思う、この頃です(ただし、低温室の見学にはあらかじめ予約が必要ですので、注意してください)。
さて、H先生を案内した、吉田と言う研究者は、岩波新書『零の発見』の著者である吉田洋一氏のご兄弟ご子息とのことです。『零の発見』は戦前に初版が出版され、今でも書店に並んでいます。私も高校1年のときに読みました。この本の扉を開き、「はじめに」を読むと、中谷博士に勧められて執筆したと記されています。その最後に、「札幌にて 吉田洋一」とありますので、北大と縁があるのでしょうか。いつか調べてみたいと思います。
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