それぞれの答え
さつきからは、料理以上のプラスアルファを学んでくるように、との指令が出ている。
ただし蒼太は、自分が料理人としてどのような道を目指すべきかを探し求めるべく、これまで料理の修業などでお世話になった店や人々を訪ね、東京だけでなく旭川、静内、函館、滋賀などを彷徨する。
そしてついに、自分の本当に目指していたものが、北海道の味を伝える自分の店を持つことだったことに気付き、親方に暇を出してほしいと申し出る。
数年後。
以前(2013/2/24)の記事でも書いたように、蒼太は大泉学園の住宅街に「富み久 カムイ」というささやかな居酒屋を構えることになる。さつきの経営する「富み久」が新店舗になる際、解体工事のときに外回りを取っておいてもらい、ほぼ元のままを再現したような外観である。
これより以前、蒼太は雅美と共に全国各地でしばらく料理の修業を重ね、ついにかねてから望んでいた自分の店を持つことになったのだった。
蒼太は当初、「富み久」で修業して故郷に錦を飾るつもりでいたが、修業の最中に、北海道・静内にいた唯一の肉親の父を亡くした。その後、雅美が蒼太の夢が失われたことを心配したときに、蒼太は将来、第二の故郷である東京で、自分の店を開くことをこれからの自分の目標にするという決意を語ったのだった。雅美は、大切な夢を最初に自分に打ち明けてくれた蒼太に心を打たれ、その時以来、自分がいつか蒼太の夢の支えになれたらと願い続けてきた。
「私は、蒼太さんと一緒にいられれば、それでいい。」
雅美は常にそう心に言い聞かせながら、「富み久」の厨房という、蒼太のもっとも身近な場所で、彼を見守り、それとなく支え続けてきた。
蒼太と雅美、それぞれの夢が重なるかたちで、「カムイ」が誕生したことに、(大泉学園という場所は意外だったが)今回読み返して改めてうれしい思いになった。
一方、さつきは、須貝を板長に据えた新「富み久」の積極的な営業戦略が当たり、新店舗ビルも1年前に完成して、経営も軌道に乗っている。
ただ、「富み久」をビジネスとして成功させるというさつきの望みは叶ったのだろうが、親方や大女将の気持ちは別だろう。店は大きくなり料理人も増えたが、おそらく須貝が「なのは」から何人か引っ張ってきていると思われ、料亭としては嵐田軍団の傘下になったようなものではないのか、という疑問を禁じ得ない。
今号の雅美
さて、雅美推しの私が、今号でいちばん印象に残ったのは、やはりこの場面。
さつきから外で勉強するように言い渡され、各地を放浪した蒼太が東京に帰って来ると、「みなと」の隣にあるアパートの前で雅美が待っていた。
雅美は、「富み久」から休みをもらっていた間、両親の田舎の岡山で備前焼を習い、料理を離れて自分を見つめ直す時間に当てていた。
そして、彼女が出した答えは…。
雅美は、「神かわ」で初めて蒼太に出会って素晴らしい人だと思い、蒼太が「富み久」に戻った後で、「神かわ」の親方に強く頼んで店を移らせてもらったことを打ち明ける。
もっと一緒に仕事をして、よく知りたいと思ったと。
「だから、これからも一緒にいさせてください。…蒼太さんはわたしが支えます。どこまでも連れて行ってください。」
偉いぞ雅美、よく言った!
蒼太は料理人としては一流でも、どこか頼りないところがあるから、雅美のような人がそばについていないとだめだろう。
雅美もまた、女料理人として相当の腕を持っているはずなのに、それを表に出すよりは、人を立てて生かすことに喜びを見出すようなタイプなので、やはりこの二人が結ばれて(まだ結婚にはいたらないが)よかったのだと思う。
そういえば、この場面で、雅美が蒼太に備前焼の大皿を贈ったのもかなり象徴的で、備前焼は雅美の人柄をよく表していると思う。
その大皿を見た蒼太が、
「備前焼は好きだよ、ホッとするんだよね。派手さはないけど飽きないんだよ。」
とか、
「…とくにこの皿はいいよ。そばに置いときたいくらいだよ。…大切にしないとね。使い込むほどに味が出てくるよ。」
と言ったのは、雅美には自分の分身への評価を通して、自分自身を褒められたように感じたに違いない。
だからこそ、その後の蒼太への告白につながったのだと思うが、この作品は登場人物の奥行きまでしっかり表現している。
読者を飽きさせないストーリーだけでなく、このような魅力的な人物たちを描いてくれた原作:末田雄一郎・画:本庄敬の両氏には、心から感謝の意を表したい。
巻末の「あとがき」を見ると、10年間連載の続いた『蒼太の包丁』は今号をもって最終刊とはなったが、両氏ともに続編の可能性をにおわせている(ように読める)。確かに、蒼太と雅美のこれからや、「富み久」に関わった人々のその後を知りたい読者も多いだろうと思う。何年かかってもいいから、ぜひこの物語の続きを描いてほしいと願う。
さつきからは、料理以上のプラスアルファを学んでくるように、との指令が出ている。
ただし蒼太は、自分が料理人としてどのような道を目指すべきかを探し求めるべく、これまで料理の修業などでお世話になった店や人々を訪ね、東京だけでなく旭川、静内、函館、滋賀などを彷徨する。
そしてついに、自分の本当に目指していたものが、北海道の味を伝える自分の店を持つことだったことに気付き、親方に暇を出してほしいと申し出る。
数年後。
以前(2013/2/24)の記事でも書いたように、蒼太は大泉学園の住宅街に「富み久 カムイ」というささやかな居酒屋を構えることになる。さつきの経営する「富み久」が新店舗になる際、解体工事のときに外回りを取っておいてもらい、ほぼ元のままを再現したような外観である。
これより以前、蒼太は雅美と共に全国各地でしばらく料理の修業を重ね、ついにかねてから望んでいた自分の店を持つことになったのだった。
蒼太は当初、「富み久」で修業して故郷に錦を飾るつもりでいたが、修業の最中に、北海道・静内にいた唯一の肉親の父を亡くした。その後、雅美が蒼太の夢が失われたことを心配したときに、蒼太は将来、第二の故郷である東京で、自分の店を開くことをこれからの自分の目標にするという決意を語ったのだった。雅美は、大切な夢を最初に自分に打ち明けてくれた蒼太に心を打たれ、その時以来、自分がいつか蒼太の夢の支えになれたらと願い続けてきた。
「私は、蒼太さんと一緒にいられれば、それでいい。」
雅美は常にそう心に言い聞かせながら、「富み久」の厨房という、蒼太のもっとも身近な場所で、彼を見守り、それとなく支え続けてきた。
蒼太と雅美、それぞれの夢が重なるかたちで、「カムイ」が誕生したことに、(大泉学園という場所は意外だったが)今回読み返して改めてうれしい思いになった。
一方、さつきは、須貝を板長に据えた新「富み久」の積極的な営業戦略が当たり、新店舗ビルも1年前に完成して、経営も軌道に乗っている。
ただ、「富み久」をビジネスとして成功させるというさつきの望みは叶ったのだろうが、親方や大女将の気持ちは別だろう。店は大きくなり料理人も増えたが、おそらく須貝が「なのは」から何人か引っ張ってきていると思われ、料亭としては嵐田軍団の傘下になったようなものではないのか、という疑問を禁じ得ない。
今号の雅美
さて、雅美推しの私が、今号でいちばん印象に残ったのは、やはりこの場面。
さつきから外で勉強するように言い渡され、各地を放浪した蒼太が東京に帰って来ると、「みなと」の隣にあるアパートの前で雅美が待っていた。
雅美は、「富み久」から休みをもらっていた間、両親の田舎の岡山で備前焼を習い、料理を離れて自分を見つめ直す時間に当てていた。
そして、彼女が出した答えは…。
雅美は、「神かわ」で初めて蒼太に出会って素晴らしい人だと思い、蒼太が「富み久」に戻った後で、「神かわ」の親方に強く頼んで店を移らせてもらったことを打ち明ける。
もっと一緒に仕事をして、よく知りたいと思ったと。
「だから、これからも一緒にいさせてください。…蒼太さんはわたしが支えます。どこまでも連れて行ってください。」
偉いぞ雅美、よく言った!
蒼太は料理人としては一流でも、どこか頼りないところがあるから、雅美のような人がそばについていないとだめだろう。
雅美もまた、女料理人として相当の腕を持っているはずなのに、それを表に出すよりは、人を立てて生かすことに喜びを見出すようなタイプなので、やはりこの二人が結ばれて(まだ結婚にはいたらないが)よかったのだと思う。
そういえば、この場面で、雅美が蒼太に備前焼の大皿を贈ったのもかなり象徴的で、備前焼は雅美の人柄をよく表していると思う。
その大皿を見た蒼太が、
「備前焼は好きだよ、ホッとするんだよね。派手さはないけど飽きないんだよ。」
とか、
「…とくにこの皿はいいよ。そばに置いときたいくらいだよ。…大切にしないとね。使い込むほどに味が出てくるよ。」
と言ったのは、雅美には自分の分身への評価を通して、自分自身を褒められたように感じたに違いない。
だからこそ、その後の蒼太への告白につながったのだと思うが、この作品は登場人物の奥行きまでしっかり表現している。
読者を飽きさせないストーリーだけでなく、このような魅力的な人物たちを描いてくれた原作:末田雄一郎・画:本庄敬の両氏には、心から感謝の意を表したい。
巻末の「あとがき」を見ると、10年間連載の続いた『蒼太の包丁』は今号をもって最終刊とはなったが、両氏ともに続編の可能性をにおわせている(ように読める)。確かに、蒼太と雅美のこれからや、「富み久」に関わった人々のその後を知りたい読者も多いだろうと思う。何年かかってもいいから、ぜひこの物語の続きを描いてほしいと願う。
私も、こんなに共感したり、教えられたりする作品は他になかったので、続編求む!! 気持ちでいっぱいです。
また、原作者と作画のお二人が、時が満ちたと判断されたときに、続きの物語を書いていただきたいです。
あと、ドラマや映画化(実写版)されることも秘かに期待しています。誰が蒼太や雅美の役をやったらぴったりかなど、考えるだけでも楽しい。
ありがとうございました。
やはりいいですね、ただただ蒼太は
はぁ、雅美は求めているのになぁ、
でも多分思い通りになるよね、きっと